薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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カムラの湯

ウサ団子を食べ終えると、ユクモ組の皆をヒノエは宿へと案内する。その宿とはヨモギの茶屋から歩いてたった1分程度の場所にあるカムラの里の中央広場に建てられたとても立派な木造建築物である。ユクモ村の宿屋よりも数倍の大きさはある。

すると、中から宿屋の主人らしき女性が顔を出して皆へとお辞儀をした。

 

「ようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ中へ」

 

ウツシと同じく親しみやすい態度で接してきた女主人に宿屋の主人に招かれユクモ組の皆は中へと入っていった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ほわぁぁ!!広いですね!」

 

中へと入り広がっていたのは一面が畳で覆われた一室だった。団体限定の宿であり、一室10人寝泊まりできる広さである。壁には筆で『ウサ団子』『姉様』『気炎万丈』『希少種』と激しい字体で書かれた不気味な掛け軸やゴコクの書いた芸術的なモンスターの絵などが吊るされていた。

事前にフゲンが話を通していたのか、既に布団が7セット用意され、畳の上に敷かれていた。いや、それだけではない。寝巻きである和服も用意されていた。

 

「では、どうぞごゆっくり。私は隣の家にいますので何かあれば遠慮なく声を掛けてください」

 

そう言い宿屋の主人は出ていった。後に残った皆は装備を脱ぐと、インナーの上から和服を纏う。柄はユクモ村の山吹色とは違い、カムラの里は炎を基調としているのか真っ赤に染められた絹に揺らめく炎の模様が織り込まれていた。

 

 

「あ〜…疲れた…」

 

「私も〜…」

今日の訓練の疲労が身体に現れたのか、セルエとティカルはそのまま布団へと倒れる様に横になる。

 

「まぁ無理もないな。あんな動きをしたんだから」

その様子にトゥークは納得しながら訓練を思い返す。いきなり空中へと飛び出す為の翔蟲の訓練に加えてそれを応用した鉄蟲糸技の練習。どれもこれも今まで見たこともないような動きであった。

それをたった数日で己のモノにしたゲンジはバケモノといっても過言ではないだろう。

そんな中、くつろぐトゥークにティカルは団子を食べていた時の事を思い出しながら話した。

 

「それにしてもさっきは驚きましたね。まさかゲンジさんがお嫁さんを2人ももらっていたなんて」

 

ティカルは団子を食べていたヒノエにゲンジとの関係を尋ねた際に初めて知ったらしい。その時のヒノエの表情はとてつもなく輝いていたようだ。

 

「そうだな…本当にいつ何が起きるのか分からん…。あれ?そう言えばアイツはどうしてるんだ?」

ゲンジの話となると、トゥークはふと彼らが気になった。すると入り口から物音が聞こえ、目を向けるとそこには和服を身に纏ったゲンジ、エスラ、シャーラが立っていた。

 

「おぅ3人も着替えたんだな」

見ると3人も自身らと同じ色の和服を纏っていた。エスラは身長が高く脚も長い上に身体の凹凸があるために、和服姿はとても美しかった。それに対してシャーラは凹凸はあるものの、身長のせいか、可愛らしさが目立つ。

 

「そうさ。ずっと装備では落ち着かないからな。君達も似合っているじゃないか。さてどうだろう。寝る前に温泉にでも入りに行かないか?」

 

「え!?」

温泉という単語を聞いたトゥークや皆は疲れが吹っ飛ぶかの如く顔を上げた。

 

「温泉があるのか?」

 

「あぁもちろん。里長曰くユクモ温泉程ではないが、それでも他よりも良い効能が期待できる様だぞ。私も何度か入ったが良い湯だった」

 

「うぉ!そりゃ楽しみだ!」

ユクモ組の皆は温泉好きであり、温泉という単語を聞いた瞬間に倒れたセルエもテンションが上がり、首だけを起こした。

その一方で、何故だかゲンジは恐れるかの様に身体を震わせると誰にも気付かれない様に出て行こうとした。

 

「あれ?ゲンジさんは行かないんですか?」

 

「!?」

その動作を不審に思ったリオが尋ねると、驚いたゲンジはビクッと身体を震わせる。

 

「い…いやその…うわ!?」

 

するとゲンジの身体がゆっくりと持ち上げられた。見るとゲンジの背後には同じく着物へと着替えたヒノエとミノトの姿があり、ゲンジを抱き上げたのはミノトであった。

エスラとの会話を偶然にも聞き、ヒノエも嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「いいですね。私達も今日はお仕事がございませんのでご一緒させていただきましょうか。ね?旦那様」

 

そう言いヒノエはミノトに抱き抱えられているゲンジの顔を覗き込む。覗き込むその瞳は若干ながら震えており、まるで2人から逃げようとした事を確認するかの様であった。

 

「いいや…俺はちょっと防具を磨き…ふが!?」

 

それに対してゲンジは拒否するべくでっち上げた理由を話す。するとヒノエの手がゲンジの開こうとした口を塞ぐべく顎ごと鷲掴みする。

それと同時に抱き上げるミノトの腕の力が強まり、更に締め付けられる。

 

「良いですよね?だ・ん・な・さ・ま・?」

 

表情は後ろから見ていたトゥーク達には分からないが、声色から見て怒っている事は間違いない。向けられたヒノエの目線と圧にゲンジは恐怖を感じ、震えながら頷いた。

 

「…は…い…」

 

2人の妻から詰め寄られる様子を見ていたトゥークはゲンジに哀れみの視線を向ける。

 

「ゲンジのやつ…幸せそうかと思っていたが案外 苦労もしてるんだな…」

 

「俗に言う“尻に敷かれる”というやつですね」

 

「お前もそうなのか?」

 

「私は違いますよ!ちゃぁんと立場は対等です!」

 

そう言いティカルは胸を張りながら言うが、彼女の性格上、あの夫婦と同じような景色しか見えなかった。

 

◇◇◇◇◇◇

それから皆は里の温泉へと向かった。温泉は集会所を抜けた先の場所にあり、そこから辺りを囲む海や山々を見渡すことができる。

 

「にゃ〜!団体様いらっしゃいませニャ!」

ここの温泉にはユクモ村と同じく番台役のアイルーがいる。ここで1人ずつゼニを払い、腰にタオルを巻いて入浴するというユクモ温泉と同じ仕組みになっている。

 

全員ゼニーを払うと男女分かれてそれぞれ着替え腰にタオルを巻きつけた。

 

「わぁ〜!!広いですね〜!!」

ティカルは感嘆の声を上げる。カムラの里の露天風呂はなんとユクモ温泉と同じく岩に囲まれていた。そのお湯は水面が透き通ると共に温かなや湯気を沸き上がらせていた。その湯気を挟んで空に輝く月と月明かりによって照らされる山々や辺りの海の景色はとても神秘的である。

 

「ユクモ温泉と似てるから親近感が湧くな〜!」

 

「はい…!」

 

カムラの里の温泉はユクモ温泉と同じく混浴である。男性陣のトゥークの発達した筋肉を直視したジリスは鼻を押さえていた。

 

「ユクモ温泉もこれと同じぐらいなのか?」

 

「そうだな…ってお前…スゲェナ」

 

「ん?」

ふとゲンジから出された質問にトゥークは振り向きながら答えると同時に驚きの表情を浮かべてしまった。それもその筈だ。普段は装備や着物で隠れて見えなかったゲンジの逞しい身体が露わとなっていた。その上、全身には過去のモンスターとの激戦の証なのか、幾つもの傷がついていた。

 

「俺も鍛えてるからな。ほら」

 

そう言いゲンジは可憐な顔には似合わない発達した右腕を曲げると盛り上がった上腕二頭筋の筋肉を見せた。腹筋もクッキリと六つに割れているために細身といえども長身で体格の良いトゥークと同じ筋肉量といって良い。

 

そんな中、トゥークはもう一つだけ気になっていたことがあった。

 

「お前…目を怪我してるのか?」

それはゲンジが左眼に付けている眼帯だ。プラスチック製の目当てを3方向に別れた皮のベルトの様なもので顔に縛り付けていた。

 

 

「…あぁ。そうだ。しばらくすれば取れる」

 

それについて聞かれたゲンジは真実を話さず、ただ誤魔化した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

それから皆は湯気が上がるカムラの湯へと身を浸した。

 

「ん〜!!気持ちいい〜!とても心が癒されていきますね〜!こんな温泉に毎日入れるなんて最高じゃないですか!」

 

「そうですねティカルさん。これもウサ団子と同じ名物なんですか?」

 

「はい。外から来た多くの方が毎日入られますよ」

 

「特に夕方は大人気ですよ」

温泉大好きのティカルは肩まで浸かると感嘆の声をあげた。その隣ではジリスの質問に頷くかの様にミノトとヒノエが並ぶ様に浸かっていた。

 

「そうなんです……ね…」

 

そんな中 ティカルはミノトとヒノエをじっと見つめ始める。それは丁度隣に来たジリスも同じだ。

 

「あ…あの。どうかなさいましたか?」

 

いきなり凝視されたミノトは恐る恐る尋ねる。すると2人はまるで不思議に思うかの様に目の前で揺れるミノトの胸を凝視しながら答えた。

 

「ヒノエさんとミノトさんの胸って…どうすればそんなに大きくなるんですか?」

 

「是非とも教えていただきたいです…」

ティカルに続く様にジリスも目を獣にしながらゆっくりと迫る。

 

「「お願いします…」」

 

「えぇ!?」

 

「あらあら。困りましたね〜♪」

その怒りでも悲しみでもない謎の気迫にミノトは戸惑い始める。ヒノエに至ってはその状況を楽しんでいるのか笑みを浮かべながら面白がっていた。

 

 

「何やってんだかあの2人は…ジリスってあぁいう性格だったか?」

 

「あはは…そちらこそティカルさんってあんな性格でしたっけ?」

 

「そもそも女子ってあぁいう話を男の前でもするのか…?」

 

一番弟子と妹が2人の竜人族の女性に詰め寄る奇妙な光景に師匠であるトゥークは苦い表情を浮かべており、兄であるリオは訳がわからず苦笑する事しかできなかった。その横ではセルエも訳が分からず苦笑も苦い表情も浮かべずただポカンとしていた。

 

「いやぁ、大勢で入る風呂はいいね。賑やかで」

 

「はぁ…俺は静かに入りたいよ…」

その様子をヒノエ達から少し離れた場所でゲンジを抱き抱えながら入浴し見物していたエスラは穏やかな笑みを浮かべていた。それに対して抱き抱えられているゲンジと隣で脚を抱えながら湯船に浸かるシャーラは呆れていた。

 

「それにいちいち抱き抱えられるから風呂は嫌なんだよ…」

 

「いいじゃないか♪姉弟なのだから!」

そう言いエスラは抱き締める力を強めると懐に収まったゲンジの頭に顎を乗せ、グリグリと押し付ける。

そんな中、エスラはある事を尋ねた。

 

「そうだゲンジ。トゥーク達に目の事は話すのか?恐暴竜の事も」

 

「…」

先程、トゥークから目の事について尋ねられていたゲンジを見ていたエスラは隠し通す事は難しいと思い、聞いたのだ。それに対してゲンジは表情を曇らせながらも頷く。

 

「…そうだな。いずれは話さなきゃならん。あと2人来たら全員に話すつもりだ」

 

「そうか」

ゲンジの答えにエスラは頷く。その声は少しながらも震えていた。すると、その答えを聞いていたシャーラは落ち着かせるかの様に頭を撫で始めた。

 

「大丈夫だよ。私達やヒノエさん達が付いてるから」

 

「あぁ。だから安心して話すといい」

 

その2人の言葉に少しながらもゲンジの表情から迷いが無くなり、少しながらも笑みを浮かべ始めていた。

 

「ありがとな」

 

それから3人は目の前に広がるティカルとジリスがヒノエの胸を凝視する姿を呆れながらトゥーク、セルエ、リオが見ている何ともシュールな光景を見ながら温泉を楽しんだ。

 

 

 




掛け軸を書いた人

『気炎万丈』→フゲン
『希少種』→ゲンジ
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