薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「ヴォォァアアアッ!!!」
ゲンジは叫びながら乱暴に武器を振るい、次々と的を破壊していく。その姿にヒノエ達も違和感を持ち始めていた。
それはトゥーク達も同じだ。いつもの狩猟前での冷静な彼がどこにもいない。今の彼は獲物に喰らい付くモンスターの様であった。
それから訓練が終えると辺りは日が沈み、月が浮かび上がる夜となった。だが、夜となっても警戒を緩めることは自殺行為である。百竜夜行は突然と起こる。それが真夜中、丑の刻、はたまた神秘的な景色である日の出でもだ。故に見張りは交代で行う。
皆は灯りのランプが灯された拠点へと戻り、各自で夕食を取る。いつ起きても即座に動きスタミナ切れを起こさない為に皆は緊張に包まれながら食事をしていた。
そんな中、大量に支給された食料を、フゲン、ヒノエ、ゲンジは次々と平らげていた。
その様子を見ていたトゥークは驚きのあまり食べる手が止まっていた。いや、それは他のユクモ村の面々も同じだ。全員がその大食いぶりに驚き食べる手を止めていた。
「えぇと…あの3人っていつもそうなのか…?」
「うん。里長もヒノエさんもゲンジさんもあれぐらいは食べちゃうよ」
唖然としていたトゥークの質問に隣でおにぎりを食べていたヨモギは頷いて答える。
ヒノエはウサ団子を大量に食べていたから分かるだろう。フゲンも体格からして想像がつく。だが、ゲンジに関しては完全に予想外であった。それに見ると今の彼は昼間とは全く比較にならない程まで落ち着いていた。
「ふぅ…食った食った…」
すると、ゲンジの食べ進める手が突然と止まってしまった。
「…ん?もぅいいのか?」
「あぁ。今日は疲れたからもう寝る」
トゥークの隣で口にファンゴの丸焼きの脚の部分を咥えたフゲンは問いかけるもゲンジは頷きその場から立ち去りソソクサと寝床へと行ってしまった。
「この短時間でこんなに食ったのか…?」
ヒノエとミノトに挟まれたゲンジが座っていた場所にトゥークは目を向ける。そこにはいくつも綺麗に食い散らかされた食事の跡があった。肉は骨以外が残っておらず、サシミウオに至っては内臓までもが全て食い尽くされていた。
その量は目測だけでも体格が標準より大きいトゥーク自身の量を上回っていた。
「ゲンは筋肉の量が違うから。保つために一度の食事の量が多いんだよ」
ミノトの横でおにぎりを口にしているシャーラの補足に納得はするものの、それでも多すぎる量にトゥークは唖然としていた。
「さて…」
ゲンジがいなくなった事を確認したフゲンの目つきが変わった。
「…少し聞きたい。昼間のゲンジはどうだった?何か体調に異常はなかったか?」
フゲンはゲンジと共に訓練していたトゥークやミノト達に目を向けると、昼間の様子を尋ねた。フゲン自身は昼間はゲンジ達とは別の場所で訓練していた為に彼の事を把握しきれていないのだ。
それに対して昼間のゲンジの姿を見ていたトゥークは答えた。
「えぇと…いつもの調子なのか分からなかったが…的を攻撃する力が強かったな…。まるで何かに腹を立てているみたいに」
「ふむ…何かに腹を立てている…か。他に何かあったか?」
フゲンは皆へと目を向ける。トゥークの意見とフルガやセルエ、そして皆も同じだったのか、報告する者はいなかった。その中でミノトが手をあげる。
「あの…昼間…彼はお手洗いに行くと言って長時間場所を外していました。不振に思い私が探し、見つけた時は拠点の奥の薄暗い武器庫に座っていました」
その話にフゲンは驚き眉を狭める。
「…どういう状態だった?」
「私が見つけて声を掛けた時にこちらへと向けられた目が酷く震えていました。まるで何かに怯えているように…。
何があったのか分かりませんが…私が見つける前に良からぬ事があったのは間違い無いかと思います」
「ふむ…」
ミノトの報告にフゲンは顎に手を当てて考える。ゲンジの中にいる恐暴竜の思念は古龍を見つけた時にのみ、現れる。だとすれば、ゲンジの精神力が弱まり、抑え込まれていた恐暴竜の鎖が緩み遂に日常生活の中でも思念が目覚めようとしているのかもしれない。
「ゲンジの精神が弱まっているかもしれんな…。そうなればイブシマキヒコを見た時…確実に意識を持っていかれるだろう…」
フゲンの見解に皆は生唾を飲み込む。彼が完全に意識を乗っ取られた姿は見た事がない。だが、【ヌシ リオレウス】との交戦時に自我を保ちながらもその力を解放した彼の姿を想像すれば自我を完全に乗っ取られた姿を想像する事は容易かった。
目がドス黒く染まりあがり、膨大な力を持つヌシを瞬殺する力を縦横無尽に敵味方関係なく振るうのだ。
何とも恐ろしいものだろう。
「ゲンジ…」
そんな中 ヒノエの食事をする手が止まってしまった。古龍がゲンジを狙っている事は分かっている。だが、ゲンジは自身のためにも身を削ろうとしているのだ。朝の言葉を思い出したヒノエは少しながらも自身を責めてしまう。
それをフゲンは見逃さなかった。ヒノエが俯く姿を見たフゲンは即座に指摘する。
「ヒノエ、己を責めるな。責めればお主だけではない。ゲンジの覚悟も無駄になってしまうぞ」
その言葉にヒノエはゲンジの言葉を思い出し、顔を上げると頷いた。
「エスラよ。もしゲンジが暴走してしまったら前のように麻酔弾を頼めるか?」
「あぁ。あまり弟に銃口を向けたくないが…仕方がないね。暴れ回っていたらフゲン殿達には数秒でもいいから拘束を頼むよ?」
「あぁ」
フゲンは最悪の場合の解決時の行動をヒノエの隣に座っているエスラに任せる。任命されたエスラは気が滅入りながらも頷く。この場にゲンジを止める事ができるのは自身だけなのだから。
その後、皆は食事を終えると、男女別れ、それぞれの就寝場所へと向かっていった。