薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
ヒノエ達が乗船した船はカムラの里の周辺地域を抜けて、2時間程、海を進んでいた。
すると、遂に決戦の場である龍宮砦が景色に映ってくる。
「見えました…!」
甲板に出ていたミノトの声に皆は指さす方向へと目を向ける。そこには海から隆起した跡が残る巨大な砦が島として存在していた。その証拠に周辺の岩場には歪な形をした珊瑚。更に城のような拠点がいくつも作られていた。
砦というよりも完全に城といえる。その砦の周辺の天候は荒れ狂っており、空に巨大な穴が空き、次々と雲が吸い込まれていた。
「あれが…龍宮砦…」
「うむ…。情報によると、古の兵器がまだ地上に埋まっているらしい」
トゥークにフゲンは答えながらギルドからの情報を口にする。ギルドによると、龍宮砦の設備力は他の砦とは一線を画しており、強力な兵器の宝庫であったらしい。中でも撃龍槍はキングサイズだとか。
その時だ。
__グロォオオオオオオオ!!!!
目の前に映る龍宮砦から巨大な咆哮が響いてきた。その声量は凄まじく、まだ数百メートルも離れているというのにハッキリと聞こえていた。
「この声は…!」
「まさか!」
その叫び声に反応するミノトとヒノエ。エスラ、シャーラも咆哮を耳にした瞬間に気を引き締めた。
「恐らくゲンジだ。もう始めているようだな」
エスラはライトボウガンへと特製の麻酔弾を装填する。この麻酔弾には通常の数倍の量の麻痺薬が塗り込まれており、通常のモンスターならば、1発で眠ってしまうだろう。
「ヒノエ、ミノト。しっかりと声掛けを頼むぞ。ゲンジを何度も救った君達が頼りなのだからな」
「「…」」
二人は頷く。
彼女らはエスラ達と比べればゲンジと共にいた時間は少ないだろう。けれども、エスラ達と同じ程の信頼を彼から寄せられている。それに彼女達は彼の妻だ。妻の呼び掛けを耳にすれば元には戻らなくても、彼の精神を呼び覚ます事はできるだろう。
「シャーラにトゥーク、そしてフゲン殿はもしも戦闘になった時は頼む。軽く足止め程度にな」
「うん」
「おぅ」
「うむ」
エスラの指示に3人は頷く。たとえ古龍を脅かすモンスターであろうと、疲労状態ならば、この3人+エスラでギリギリ足止めをする事は可能だろう。勿論、体調が優れていればヒノエ、ミノトにも協力を仰ぐつもりだ。
ナルハタタヒメを喰い殺し、その満足感に浸っているその瞬間こそが絶好のチャンスとなるだろう。
皆が気を引き締めている時だった。
『_!!』
一同は目を疑った。もうすぐ着くとされる龍宮砦が突然 閃光に包まれたのだ。
突然の現象にトゥークは冷や汗を流す。それ以外の皆も目を震わせながらその光景を見つめていた。
これは閃光玉なのか?いや、閃光玉のような輝きを放つ環境生物の仕業なのか?
否。これは強大な力を持つ者同士の力がぶつかり合った事で発生した異常反応であった。
その閃光が輝いた直後 龍宮砦のところどころにある岩が次々と崩れ落ちていった。
「な…なんだ!?何が起こってるんだ!?」
「分からない…だが、これは急いだ方が良さそうだ…!」
トゥークの驚きと共にエスラは嫌な予感を感じ取り、船を進めた。
◇◇◇◇◇
船はようやく龍宮砦の岸へと到達する。岸へと船を縛りつけると、ヒノエ達は翔蟲を扱い、そびえる壁を登り、先程の閃光が輝いた場所へと到達した。
そこに広がっていた光景はとてつもないものであった。
「…これは…!?」
その光景を目にしたヒノエの顔は驚愕に包まれてしまう。残りの皆もそうだ。見ると先程まで見えていた辺りの城のような遺物がいくつか粉々に倒壊しており、辺りには瓦礫の山ができていた。
「恐らくゲンジがナルハタタヒメと戦った時の衝撃で崩れたのだろう…激しい闘いだったのだな…」
足元に転がる石ころを拾いながらフゲンは分析する。
その一方で、ヒノエ達は辺りを見回し、イビルジョー へと変化したゲンジを探し始める。
「ゲンジ!どこですか!?」
「いるなら答えてください!!」
ヒノエとミノトは名前を叫びながら何度も呼びかけゲンジの姿を探す。だが、その声に応える者は現れなかった。
聞こえるのはただ辺りに響く風の音のみ_。
「そんな…まさかもうここには…!」
「諦めるなミノト。先程の閃光から時間は然程たっていない。近くにいるのは間違い無いだろう」
ゲンジが見つからない事に涙を流しそうになったミノトをフゲンは諭すと再び探し始める。
その時だ。
トゥークの近くから小石の転がる音が聞こえ、辺りにこだます。
「…ん?」
その音を聞き取ったミノトは聞こえた場所へと目を向ける。そこには他よりも多くの瓦礫が積み上がっていた。
「…!」
その瓦礫の山からミノトは気配を感じ取り、近くにいるトゥークへと呼びかける。
「トゥークさん!下がってください!」
「!?」
ミノトに呼び掛けられたトゥークはその声に反応し、身体が反射的に後ろに下がる。それと共に辺りを散策していた皆もその瓦礫の山へと目を向けた。すると、1箇所にある瓦礫の山が音を立てながら盛り上がり、積み上がった瓦礫が次々と転がり落ちていった。
近くにいたトゥークは驚くと共に更に後退する。盛り上がった瓦礫の山は次々と崩れていき、その隙間から金色の鱗を見せてくる。
その姿は次第に顕となり、6人を影で覆った。
「ぐぅ…!?」
「ミノト!」
それと共にミノトを突然の頭痛が襲い、咄嗟にヒノエはそれを介抱する。その一方で皆は武器を構え始める。
「コイツが…ナルハタタヒメか…!」
武器を構えたトゥークの言葉と共に瓦礫の山の中からイブシマキヒコと対となる存在『雷神龍 ナルハタタヒメ』が姿を現した。
四肢に羽衣のようなモノを纏うイブシマキヒコに対し、ナルハタタヒメは光る触手のようなモノを纏っていた。そして、やはり雌なのか、後脚の間。即ち下半身の股に位置する部位には卵塊のような袋が輝いていた。それだけではない。体躯がイブシマキヒコよりも一回り巨大であったのだ。その大きさは大砂漠を泳ぐジエン・モーラン程ではないが、それに近い大きさを持っていると言ってもいい。
_____グォオオオオ!!
岩場から現れ、宙に浮き始めたナルハタタヒメは自身の陣地に多種族である人間が踏み込んだことに激怒するかのように巨大な咆哮を上げた。その咆哮はイブシマキヒコと同様に後から続く金切音が空気を振動させる。
「取り敢えず…コイツをまずは撃退するしかなさそうだなフゲンさん…!」
「あぁ。ヒノエよ。ミノトを頼んだぞ」
フゲンはミノトの介抱をヒノエに託すとトゥークと共に前へと出て武器を構える。それに続くかのようにシャーラも双剣を、エスラは後方からライトボウガンを構えた。
一方で、その体制を完全に敵対と見なしたナルハタタヒメは口内に雷を溜め込み始める。
その時。
付近にあるもう一つの瓦礫の山が動きだした。
『…!?』
その瓦礫の山が動いた途端にナルハタタヒメの目がフゲン達から逸らされ、崩れる岩場へと向けられた。
その瓦礫の山は次々と盛り上がっていき、崩れていくと黒い皮膚を見せていく。
「トゥーク!下がれ!」
「!?」
フゲンに呼び掛けられたトゥークは咄嗟にヒノエ達のいる場所へ皆と共に後退する。
トゥーク達が後退したその直後。
_____グロォオオオオオオ!!!
巨大な咆哮と共に盛り上がった岩から全身に龍属性を纏ったイビルジョー が牙に覆い尽くされた顎を向けながらナルハタタヒメ目掛けて飛び出してきた。
「!?」
ナルハタタヒメは突然 現れた事で動揺し、充填していた動作を止めてしまった。
技を中断したナルハタタヒメの姿を見たイビルジョー は首に目掛けて牙を向けると、その首に牙を捻じ込ませるようにして喰らい付いた。
喉笛に幾重にも重なり合うようにして生えそろった牙が抉り込みナルハタタヒメに尋常では無い苦痛を与えた。
それだけでは終わらない。
なんとイビルジョー は長い首を動かし、自身よりも巨躯であるナルハタタヒメの身体を次々と辺りに叩きつけていったのだ。
「ギャァオオオオ!!!」
振り回されたナルハタタヒメの身体が地面へと叩きつけられ、脆い音が響く。
更に砦の瓦礫、壁、そして再び地面。次々と叩きつけられていき、ナルハタタヒメは苦痛の悲鳴をあげると共に身体の部位の一部である腕や背中の触覚のような部分が取れ始めていく。
ナルハタタヒメは何度も脱出するべく身体を動かしたが、イビルジョー の不規則に生えそろった牙が抉り込んでいる事でカエシとなり、抜け出す事ができなかったのだ。
卵塊のような部位から雷のような光線を。そして更に手から磁力を操作して象ったリング型の雷撃を放つも、全てイビルジョー の龍属性エネルギーに掻き消されていった。
イビルジョー は問答無用にナルハタタヒメを撲殺するかの如く、縦横無尽に振り回し、辺りの岩場へと叩きつけていった。その叩きつけによって、ナルハタタヒメの身体は更に傷つき、鮮血を撒き散らすと共に体力も次々と奪われていった。
「グロ…ォオォ…」
ナルハタタヒメは襲い来る痛みに悲鳴をあげていたが、その悲鳴は段々と力強さを失っていく。
そして イビルジョー はそれを感じ取っていたのか 最後の一押しとばかりにナルハタタヒメの身体を持ち上げると、龍宮砦のほぼど真ん中の位置に向けてその身体を噛む顎を振り下ろし、ナルハタタヒメの身体をその地点へと叩きつけた。
「ギェエォオオ……」
叩きつけられたナルハタタヒメは最後の振り絞った声であるかのように喉が切れているかのような弱々しい悲鳴をあげた。
◇◇◇◇◇◇
イビルジョー のその闘いぶりに岩場にて身を潜めていた皆は冷や汗を流していた。イブシマキヒコやディアブロス、そして、龍宮砦周辺にて凶暴化した数十体のモンスターに加えてナルハタタヒメを属性攻撃を用いず、また前の肉弾戦即ち『暴力』のみで羽虫の如く蹴散らしていくその姿はまさに『悪魔』であった。
流石は古龍を主食とするモンスターだ。実験によって力そのものが再現されているかのようだ。
更に恐ろしい事に、
「気のせいかな…全く疲れている様子が見えないんだが…」
「う…うん…」
トゥークの言葉にエスラは頷く。見れば自身よりも体重があるかもしれないナルハタタヒメの身体を何度も振り回しているにも関わらず、イビルジョー の振り回すスピードが落ちていなかった。
もはや悪魔というよりも完全なる『化け物』と呼んでも過言では無いだろう。
その一方で、ナルハタタヒメの弱々しい悲鳴も皆には聞こえていた。イビルジョー のタフさに驚いていたミノトはナルハタタヒメの気配が薄れていくことを感じ取る。
「ナルハタタヒメの気配が…段々と…薄れていきます…」
『!?』
ミノトの漏らした言葉に皆は驚く。見れば先程まで頭痛に襲われていたミノトの顔色がいつもの通りへと戻っていた。
そして皆は再び倒れ臥すナルハタタヒメをそれを見下すイビルジョー へと目を向ける。
見るとナルハタタヒメは地面に仰向けに倒れ、発達した前脚を力が抜けたかのように垂らしていた。もはや、その目には正気は宿っているとは言い難かった。
「ゴルル…!!」
瀕死であることを読んだイビルジョー は喉から唸り声を出すと、食い込ませていた牙を引き抜き、涎を垂らしながらナルハタタヒメの身体を見据えた。
「うむ…やはり古龍を喰うか…。しかし…喰らってゲンジの身体に異変がなければいいのだが…」
「た…確かに…」
フゲンの見解にトゥークはもちろん、エスラ、シャーラ達も苦い表情を浮かべながら頷く。
その時だ。
突然 ナルハタタヒメの倒れ臥す地面が揺れると共に亀裂が入り始めていく。
「!?」
それを咄嗟に感じ取ったイビルジョー は喰らい付く動作を中断すると、避難するべくナルハタタヒメから距離を取った。
すると、倒れ伏しているその地面の亀裂が音を立てながら砕け散り、巨大な大穴を出現させた。ナルハタタヒメの身体はその出現した暗く巨大な穴の中に吸い込まれるようにして叫び声を上げながら崩落と共に消えていった。
「これは…一体…」
ヒノエが言葉を溢した時だった。
「グル…ル…」
掠れそうな唸り声を上げながらその場に立っていたイビルジョー の身体が大地へと横になるようにして音を立てながら倒れた。
それと共に空を覆っていた禍々しい雷雲が消えていき、段々と空が晴れていった。
そして 青く広がる美しい空が顔を出し輝く温かい陽の光が龍宮砦を照らした。