薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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戻りゆく身体

___百竜夜行の元凶もとい禍群の風神、雷神。天を泳ぎ叢雲を薙ぐ風、そして大地を喰らう雷は悪魔の纏う恐怖に呑み込まれた。風神は逃走。雷神は奈落の底へと消えた。圧倒的な力で古龍2体を捩じ伏せた化け物はヒッソリとその身体を休めるかのように大地に倒れた。

 

 

倒れた音が辺りに響き渡ると、ヒノエ達は岩場から出て駆け寄った。

ナルハタタヒメの事も気掛かりだが、それよりも重要なのはゲンジが無事であるかどうかだ。

 

「ゲンジ…待ってろ!今出してやるからな…!」

 

エスラは剥ぎ取り用のナイフを取り出すと、イビルジョー の首と背中の付け根部分の肉を削ぎ落とすべく刃を向ける。

 

すると

 

「うぉ!?」

 

突然倒れ伏したイビルジョー の身体から蒸気が湧き上がりはじめた。それに驚いたエスラ達は即座にイビルジョー から離れる。

 

「なんだこれは!?」

 

「分からん…」

 

不可思議な現象にフゲンとエスラが不思議に思っていると、その蒸気は次々とイビルジョーの身体から湧き上がっていき身体を包み込んだ。それと同時にイビルジョー の巨大な身体が吹き出した蒸気と共に空気に溶けていくかのように崩れていった。

血も骨も肉も関係ない。まるでハリボテのように全て空気へと溶けていたのだ。

 

「あ…あれは…!」

 

不意にエスラの声が聞こえると、皆は彼女の目線の先へと目を向ける。

ヒノエとミノト、そして皆は目を向けた先に蒸気の中に横たわる人影を見つけた。

 

蒸気はイビルジョー の身体が消えていくにつれて少しずつ薄れていき、それと共に中に見える人影も顕となっていく。

 

ゆっくりゆっくりと。包まれた繭を剥がしていくかのように。

 

そして 蒸気が消え失せると共にイビルジョー の身体が完全に消滅し、その人影の正体が鮮明となった。

 

 

「「…!!」」

その正体を見たヒノエとミノトは涙を流し始める。

 

 

 

 

____そこにはインナー姿で倒れているゲンジの姿があった。

 

◇◇◇◇◇

 

横たわるゲンジの小さな身体を駆け寄ったミノトは抱き上げた。姿が元に戻った彼の顔には特に異常は見当たらずいつものように可憐な寝顔を浮かべていた。

 

「ゲンジ!ゲンジ…!大丈夫ですか!?」

 

ヒノエとミノトは彼の意識を呼び覚ますべく何度も何度も声を掛けながら身体を揺する。

 

だが、何度も何度も身体を揺すっても彼は目覚める事も応える様子も見せなかった。

 

「お願いします…!目を開けてください…!!」

 

抱き抱えていたミノトは必死に身体を揺する。その目からは涙が溢れ出ていた。

 

「ゲンジ…お願いです…目を…」

 

溢れ出た涙が零れ落ちていき、目を閉じる彼の顔へと落ちていく。ミノトは今にも泣き出してしまいそうであった。それはシャーラも同じだ。

 

「ゲン…そんな…!!」

 

「嘘…だろ…?」

トゥークもその事実にショックのあまり目を震わせてしまう。だが、それを見ていたエスラは冷静に3人へと声を掛ける。

 

「まだ泣くには早いぞ3人とも。ヒノエ、胸に耳を当ててみてくれ」

 

「はい!」

エスラからの指示に頷いたヒノエはミノトにゲンジの身体を地面に下ろすように伝える。

 

「…」

ヒノエは横になったゲンジの胸板に耳を当てる。目を覚さずとも、鼓動が聞こえれば生きている証拠となる。故にヒノエは神経を研ぎ澄ましながらゲンジの鼓動を探る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____ドクン。

 

 

「…!!」

 

ハッキリと聞こえた力強い鼓動。自身の耳がその音を正確にキャッチした。その鼓動を耳にした瞬間 ヒノエは数日ぶりの笑みを見せ、皆へと知らせた。

 

「鼓動が聞こえました!息があります!」

 

『おぉ!!』

 

その知らせにトゥーク、フゲン、シャーラ、ミノトは喜びの声をあげ、エスラも笑みを浮かべる。

 

「すぐに里に戻って応急処置だ。ミノト、ナルハタタヒメの気配は?」

 

エスラはミノトに穴の中に消えたナルハタタヒメの現状を問う。ミノトは立ち上がり、穴に近づくと目を閉じながら意識を集中させる。

その姿を皆は後ろから見守っていた。

 

「……」

 

今まで感じ取れていた意識も声も今は何一つ感じ取る事は無かった。

 

「どうだ…?」

 

「気配は…完全に消えております」

 

その言葉に皆は安堵の息をつく。イブシマキヒコは瀕死、ナルハタタヒメは無事に死亡。これで百竜夜行は収束へと向かうだろう。

 

「よし。では里へ帰還するとしよう!」

 

ーーーーーーーー

 

その後ゲンジを無事に取り戻した皆は岸に繋げてある船へと向かった。

向かう中で、ヒノエはふとミノトの方へと目を向けた。見るとゲンジを抱き抱えていたミノトは彼の身体を力強く抱き締めていた。

表情はいつものような無表情だが、ゲンジが戻ってきた事が本当に嬉しいのだろう。その微笑ましい光景にヒノエは何も口を出さず、見守っていた。

 

その後 船へと乗り込んだ皆は龍宮砦を後にし、里へと帰還した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

里へと着いた時には既に夕日が沈みかけており、里の皆はそれぞれの我が家へと帰り始めていた。

 

すると帰還したフゲン達の姿を見つけたヨモギは大きな声をあげながら手を振った。

 

「あ!里長!それに皆〜!お〜い!!」

 

その声に反応した里の皆々は家へと帰る脚を止めると、ヨモギに続くように皆は集まり、帰還したフゲン達を出迎えた。

それだけでなく、ミノトに抱き抱えられているゲンジの姿も見つける。

 

「あ!ゲンジさん!良かった〜!!連れ戻せたんだね!」

 

「うむ。ハンター達よ。不在の間、里を守ってくれて感謝する。礼を言わせてくれ」

 

フゲンは皆や残ったハンター達に礼を言う。そして、フゲンはゴコクへ報告の為にエスラ達と別れ集会所へと向かっていった。

 

その傍らで、ヒノエ達はゲンジをゼンチの元へと運んでいた。たとえ傷がないにしろ、1週間は何も食べていないのだ、身体や呼吸音について調べてもらわなければならない。

 

◇◇◇◇◇◇

 

その後、ゼンチの元で治療を受け、無事に終えると、ヒノエ達はゲンジを自宅へと運び、布団の上に寝かせた。

診察の結果、鼓動も安定。呼吸音もよく聞こえる故に命に別状はない事を言い渡された。だが、1週間も何も口にしていない状態なので、必ず栄養剤を服用する事を言い渡された。

 

言われた通りにエスラは渡された栄養剤を水に溶かすと、横になったゲンジの上半身を抱き上げ、開いた口の中に少しずつ流し込んだ。流し込まれた栄養水は口元から少しずつ溢れでてしまうが、それでも大半の量は喉を通り越していった。

 

「これで少しは落ち着くだろう。良かった…本当に無事で……」

 

彼の顔を見つめるエスラの目は涙が出ようとしているのか、少し潤んでいた。彼女は人前で滅多に涙を見せる事はなかった。それは同居しているヒノエ、ミノトに対しても同じだ。

そんな彼女が涙を見せていると言う事は彼女もずっとゲンジの事が心配だったのだろう。

 

「さて、私達も休むとしよう」

 

エスラとシャーラは装備を外すと、いつもの日常生活に着用している和服を纏った。だが、ヒノエとミノトはいつものコーデを脱ごうとはしなかった。それを不審に思ったエスラは二人に目を向ける。

 

「二人も楽にしたらどうだ?この1週間ロクに休みを取らなかったから疲れているだろ?」

 

「いえ、私達はまだ書類の整理が残っていますので」

 

「ムム…そうか」

 

彼女達は武器を手に取り里の為に戦う里守でありながらも受付嬢でもある。仕事はどんな時でもこなさなければならない。故に仕事を溜めてしまうのは良くないようだ。

 

「なら、私も手伝おう。書類の整理だけならば一般の手を借りる事も許されるだろう」

 

「待って」

エスラは立ち上がり、ヒノエと共に集会所へと向かおうとする。すると、シャーラが立ち上がり向かおうとするエスラの着物の袖を掴んだ。

 

「姉さんの方がよっぽど疲れてる…。百竜夜行の後でもずっと動いてたでしょ…?」

 

そう言いシャーラは自身の目元をエスラの目元に見立てて両手でつつく。

 

「疲れてる証拠」

 

「ムム…」

それを言われた途端にいつも真剣みに包まれているエスラの顔が一変し、ダラダラとした雰囲気へと変わってしまった。

 

「さすが妹よ…。まぁ言われてしまえばそうだな…」

 

「無理はなさらなくていいのですよ?お婆ちゃん」

 

「誰がお婆ちゃんだ!?どちらかと言えばヒノエの方が……まぁいい。言われてしまえばそうだな…流石に今回ばかりは疲れた…」

 

エスラはまるで男のようにぐったりとその場に腰を下ろしてしまった。それもそうだ。皆がショックで落ち込む中、エスラも悲しみを必死に抑え込みながら調査隊と共にゲンジを捜索していたのだ。逆に疲れていて欲しいと思ってしまうくらいだ。

 

「代わりに私が行くから。姉さんはゲンと待ってて」

 

「ううむ…今回はシャーラに甘えるとしよう。頼んだぞ」

 

シャーラにキッパリと言われてしまったエスラはその言葉に甘え、ヒノエとミノトの手伝いをシャーラに託す。

 

◇◇◇◇◇

 

それから3人は集会所へと向かっていった。シャーラも何気に手際が良いので、すぐに終わってしまうだろう。3人を見送ったエスラはゲンジの横に布団を敷く。

 

「ふぅ…妹に言われているようじゃ…お姉ちゃんの立場がないな。なぁ?ゲンジ」

 

布団へと倒れ込むと、頬杖をつきながら目を覚まさないゲンジの横顔を見つめた。見つめるその金色の目は先程よりも段々と潤いが増していき瞳が震えていった。

 

「ゲンジ…お姉ちゃんだって…我慢の限界というもの…が…あるのだからな…」

 

溢れ出る涙が頬を伝い布団へと落ち染み込んでいく。声を震わせながらエスラは身を寄せるとまだ意識のないゲンジの身体を包み込むように抱き締めた。

 

「お前より…私とシャーラは先に死んでしまうんだ…。一緒にいられる時間は限られているんだ…だから…

 

 

__最後まで私達の元からいなくならないでくれ…!!

 

その涙はハンターとしての涙ではない。ゲンジの数少ないたった二人の姉としての_家族としての涙だった。彼女にとって、たとえ異母姉弟であろうと、ゲンジとシャーラは守るべき大切な家族。それを片方でも失ってしまえば自身には何も残らない。

エスラは家族を守る姉として成長していく二人の側から離れなかった。二人がいてくれたからこそ、自分も強くなれた。

 

「お前やシャーラがいてくれから…今の私があるのだからな…」

 

エスラはゲンジの前髪をそっとあげると額に口付けをし、眠りについた。

 

 

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