薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
おいでおいでと水の中 獲物が来たらばはっけよい 大一番
尻子玉では済まされぬ 土俵を割れば奈落の底ぞ____。
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「さて…一気に片付けるか」
大社跡へと着いたゲンジは腕や腰、首を回して身体をほぐす。
今回のターゲットとなるモンスターは『ドスフロギィ』『ヨツミワドウ』『リオレイア』『クルルヤック』『ビシュテンゴ』『ロアルドロス』という怒涛の6体だった。
リオレイア、ロアルドロス、ドスフロギィは狩猟経験があるが、他の3体は初めてである。現在、この広大な狩場に上記の6頭が闊歩している。ゲンジは胸を高鳴らせると、ハチに跨る。
最初にゲンジが攻めるのは水辺に凄むと言われているヨツミワドウだ。
「ハチ。ここに頼む」
「ワン!」
ゲンジは気になるエリアをハチへ向けて教えると、吠えながら走り出した。
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「……あれか!?」
水辺付近に緑色の巨大な物体を発見する。それは平たく大きな嘴に太い前足、そして、小さな後脚というなんともアンバランスな体型をしたモンスターであった。
タンジアの港では見なかった新種のモンスターだ。その姿は依頼書に描かれていた浮世絵と似ている。即ち、このモンスターこそ『ヨツミワドウ』なのだろう。そのモンスターは足元に浸る水に嘴を突き立てると、スコップのようにして、中に住む魚を掘り出すと、砂ごと口の中に放り込んだ。
「ハチ 今回は手を出すな。嫌というほど走るからな」
「ワン!」
ゲンジは翔蟲を飛ばし、段差から飛び出すと、空中で双剣を構え、ゆっくりと持ち手を変える。
「ふぅ…」
ヨツミワドウは修練場にあるカラクリのモデルだ。ゲンジは息を整えると、修練場での訓練を思い出す。
「…!!!」
その瞬間 ゲンジの身体がヨツミワドウに触れた瞬間 ゲンジの突き刺された刃を軸に身体が回転し、輝く輪のあるコマへと変化する。
「ヴォアアアアア!!!」
そして、獣のような雄叫びをあげると、そのままヨツミワドウの背骨に沿うように刃を斬りつけた。
「ギャォォォォォ!!!」
突然と脊髄からくる痛みにヨツミワドウは驚きと苦痛を混じらせた声をあげる。ゲンジは、回転斬りを放ち終えると、空中で逆方向に錐揉み回転し、感覚を安定させる。
そして、地面へと着地すると、ヨツミワドウは自身に痛みを与えた人物に向けてその巨体を見せる。
「へぇ…デカイな…」
その大きさはウルクススの1.5倍。膨れた腹に小さいながらも発達した脚。そして、腰に手をあて、四股を踏むかのような姿勢。正に『相撲』のような風貌であった。
「悪いが…後が使えている。テメェはアッサリと狩らせてもらうぞ」
ゲンジは双剣を構えると交差し、鬼人化する。そして、修練場で得た新たなる双剣の技を放つために構える。
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それは 狩りの前日だった。
「鬼人空舞?」
「そうさ。双剣ならではの身体の身軽さを応用した技でね。身体を回転させると同時にモンスターに剣を当てながら空中へと飛び立つ技さ。そして、うまく体制を維持できれば君が使っていた空中での乱舞にも繋げる事ができる」
そう言いウツシはカラクリを用いて手本を見せる。
「空中回転乱舞ができる君なら簡単だと思う。修得すれば君は更に強くなるだろう」
ゲンジは双剣を握り締める。
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ゲンジはゆっくりと双剣を握り締めると、一気に駆け出し、ヨツミワドウ目掛けて高く飛ぶ。
「ゔぅぉおおお!!!!」
対するヨツミワドウも四股を踏むと、片手でもゲンジを包み込むほどの腕を両方開き、ハエを叩くかの如く迫り来る。ヨツミワドウの最大の武器はその巨大な手による張り手や掴み取りだ。握力は片腕だけでも軽く100kgを超える。もしその手に掴まれれば人ならば全身の骨を木っ端微塵にされるだろう。
その巨大な両腕の掴み取りが放たれ、目の前にあるもの全てをまとめて掴もうとした時だった。
「ぐぅぉおおおおお!!!!」
僅かに触れる寸前にゲンジの双剣がその手に振り下ろされ、それと同時にゲンジの身体が空中へと飛び出した。
その直後にヨツミワドウの掴み取りが放たれ、ゲンジはそれを回避したのだ。
更に、空中へと飛び出したゲンジはそのまま刃を真下にいるヨツミワドウ目掛けて振り回す。
それは修練場で見せた相手の身体の線を沿うようにして削る回転斬りではない。ただ自身の身体を回転させて放つ斬りつけだった。
だが、それでもヨツミワドウへ絶大なダメージを与えており、それと同時に爆破の粘菌が活性化し、爆発してヨツミワドウに更なる苦痛を与える。
「ゲォオオオ…!!」
ヨツミワドウの苦痛の叫びはゲンジのハンターとしての狩猟本能を更に湧き上がらせる。空中から着地したゲンジは双剣を再び構えると、ヨツミワドウの顔に向けて次々と乱舞を放つ。
「ウララララァッ!!!!」
ゲンジはその攻撃を止める事は無かった。怯むヨツミワドウに次々と刃をねじ込み、爆破させていく。反撃しようとするも、ヨツミワドウはその痛みに耐え切る事ができず、防戦一方…いや、防戦もできずにいた。
一方で、ゲンジは双剣を振るい、次々とダメージを与える。少しでも早くしとめるために。
「ゲォオオオオ!!!」
その時だ。突然 ヨツミワドウが声を荒げると、自身に向けて張り手を放ってきた。
「お!?」
なんとかゲンジは身体を横に逸らす形で避ける。すると、ヨツミワドウはゲンジから逃げるように走り出した。その動きが妙に不自然だ。
ゲンジの絶えることのない怒涛の連続攻撃にヨツミワドウは体力がほぼ完全に削られてしまったのか、脚を引きずっていたのだ。
「もう脚を引きずってるのか。ハチ!」
「ワン!」
ゲンジの呼び掛けに今まで座っていたハチは吠えると、すぐさまゲンジを乗せて走り出した。
「…!」
その時 逃げ去ろうとするヨツミワドウの行き先に巨大な影が見えた。
体表には黄色とオレンジ色が混濁した様な色をした淡々とした縞模様。蛇のように鋭い瞳孔に筋肉が積まれた身体。そして、喉には妖しい紫色のした袋を弛ませていた。
「…!」
ゲンジは水没林での狩りを思い出した。毒を吐き、獲物をゆっくりと苦しめ、仕留める狡猾な鳥竜種モンスター。そのモンスターは『ドスフロギィ』だった。
まさかの2体同時の出現にゲンジは胸を高鳴らせる。本来、2頭同時に遭遇した場合、ハンターは同時に相手取らなければならない。それはハンターにとっては苦痛だった。モンスターにもよるが、2頭となった時はその攻撃を掻い潜らなければならない。それは上位ハンターでも困難とされている。
だが、その経験をゲンジは死の淵から何度も何度も甦る形で経験していた。
『リオレウス亜種とリオレイア亜種の狩猟』『ジンオウガ2頭の狩猟』『アグナコトルとウラガンキンの狩猟』など、幾多もの同時狩猟を経験し、いつしかその地獄と呼ぶに相応しい経験は自身にとって興奮の種となった。
“まとめて叩き潰す”
その考えが根付き、ゲンジはその状況となればこやし玉を扱う事なく、2匹の攻撃を利用して、同士討ちの形に追い込みながら徐々に追い詰め自身の武器で一網打尽にする戦法を取るようになった。
今は正にこの時だった。
ゲンジは対峙したヨツミワドウとドスフロギィがどうなるのか観察する。
すると、会敵した両者は睨み合った。鋭い目を向けドスフロギィを睨むヨツミワドウの周りを十数匹のフロギィが囲み、挑発するかのように吠えていた。
「…」
「…」
だが、両者は争う事なく、そのまま素通りをしていく。何も起こらなかった故にゲンジは落胆するも、すぐに意識を切り替え、瀕死のヨツミワドウに目を向ける。
「ゲンジ…どうするニャ?」
「先にヨツミワドウだ。ドスフロギィは後でいい」
ゲンジはハチにまたがり、今もなお、脚を引きずるヨツミワドウを追い、エリア6へと向かった。
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エリア6は、ヨツミワドウを見つけたエリア2と同じく水で満たされた場所だ。両生類のヨツミワドウにとっては絶好の場所だろう。故にヨツミワドウはここで休息を取る。
本来、ハンターならば、モンスターが瀕死になると、寝るまで物陰に隠れ、眠りについた瞬間に爆弾を置き一気に仕留める戦法を取る者が多い。だが、今回はまだランクが低いクエストなので、ゲンジはそのまま眠りにつこうとするヨツミワドウに向けて走り出した。
「…!」
眠りにつく寸前のヨツミワドウの最後の視界に映ったのは自身に向けて武器を振り下ろすゲンジの姿だった。
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ヨツミワドウの討伐に成功した事で、依頼は一枚達成された。残りは5枚だ。幸いにも近くにドスフロギィがいるので、すぐに2枚目も片付くだろう。
「よし、いくか」