薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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薄明の涙

里の外れにある湖畔にて湖を見つめていたゲンジ。振り向き月明かりに照らされたその顔…いや全身には歪な形の痣が刻まれ、双眼が黒色に染まっていた。

 

「…ヒノエ姉さん…」

 

風に乗りながら聞こえてくるその声はとても細く今にも途切れそうであった。

 

「気持ち悪いだろ…?これ…洗ってみても落ちないんだよ…」

 

全身に見える痣はまるで変貌したイビルジョーの古傷の様に見え、それが上半身と袴の隙間から見える下半身に広がっていた。それだけではない。両腕には手の甲から肩にかけてまるで蛇が巻き付いたかのような不気味な痣が浮かび上がっており、目元にはヒビ割れのような紋様が刻まれていた。

 

闇のように黒く染まった双眼に赤く輝く瞳。そして全身に浮かび上がる恐暴竜の傷口のような痣。その禍々しい風貌は人と呼べるものではなかった。

 

竜人族でもなく人間でもない。何の部類もされないただの異形な生物。モンスター化実験の成れの果てであった。

 

すると 暗い空から一筋の雨がその場に落ちる。

 

水飛沫の音。それに続くように一つ二つ三つ。暗い空を覆っていたのは薄暗い雨雲であった。その場に次々と雨が降り注ぎ、二人を濡らしていく。

雨に濡れてもその痣は落ちる事なく身体の一部であるかのように定着していた。

 

「は…ははは…!」

笑い声が聞こえてくる。それは壊れた人形のように何のリズムもない。何の面白さもない。喜びの欠片もない。顔を俯かせながら聞こえてくるその声はなんとも気味の悪い__嗤い声だった。

 

 

「眼球は黒い。目元にヒビのような紋様。腕や胴体には変な痣…そしてモンスターに変われる……もぅ…こんなの人間でも竜人族でもない…」

 

 

雨に打たれる中 その嗤い声はどんどん暗くなっていく。

地面に雨が落ちる中 その自身の決められた定めに対する怒りを訴える声が鮮明に聞こえてくる。

 

「これじゃ…本当に___

 

 

 

 

______ただの化け物だよ…」

 

「ゲンジ…」

 

雨音に包まれる中、俯むく彼から悲しみに満ちた声が聞こえ、心に響いてくる。自身の人間である部分が何一つ残されていない。

 

 

すると彼は突然顔を上げて感情を一変させるかのように時折見せる優しい笑みを浮かべた。

 

「けど、奴は古龍以外は興味ないらしい。だから人前でモンスターになる事はないから安心していい…」

 

彼はいつも無表情で狩猟の時以外は滅多に笑みを見せなかった。その笑みは輝きが少ないながらも今まで目にした里の皆を活気立たせていた。

 

「心配掛けて悪かった。今度は奴らを逃さずに殺して姉さんを助けるから」

 

そう言い優しく頼もしい言葉を掛けてきてくれる。

 

___だが、ヒノエの目に映るゲンジは笑っていなかった。真実を見抜くその琥珀色の瞳には大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ彼の姿が映っていた。

 

 

「ゲンジ…あまり溜め込むのは良くありませんよ…」

 

 

「…え?」

 

ヒノエは言葉を掛ける。それに対してゲンジは首を傾げる。

 

「何言ってるんだ?別に俺は何も…」

 

ゲンジは不思議そうにこちらを見つめていた。だが、ヒノエにとってはその動作自体が白々しい演技であり、感情を押し殺すのに必死な様子もお見通しであった。

 

その時だった。

 

「ゲンジ!!」

 

最初にヒノエが来た方向からピチャピチャと雨に濡れる地面の上を走り向かってくるミノトの姿があった。

 

「ミノト姉さ…んぐ!?」

 

その動作は一瞬だった。ゲンジを見つけたミノトは彼の言葉が言い終わる前に、速度も落とさず駆け寄ると雨に濡れる彼の身体を包み込むようにして抱き締めた。

 

「やっと…見つけた…」

 

その力はとても強く首を締め付けてしまいそうであった。腕にかけられる力にゲンジは息苦しそうにしながらも心配して探し回っていてくれたことを察したのか、ミノトの背中を優しく叩いた。

 

「すまん…心配かけたな。そろそろ家に戻るか。ここじゃ冷える」

 

「はい…」

ミノトは頷くと彼の首に回していた手を離し、顔を向ける。だが、ミノトは抱きつく際にゲンジの身体をよく見ていなかった為に、彼の身体に刻まれている痣や黒く染まった双眼を見て驚いた。

 

「その身体は…何があったのですか!?」

 

「これか?別に何でもない。大丈夫だよ」

 

それに対してゲンジは軽く流す。だが、その返しに違和感を覚えたミノトは鋭い目を向けていた。

 

 

「ミノト…耳を…」

ヒノエはミノトに歩み寄り、疑問に思いながら見つめていたミノトに耳打ちをする。

 

「…え!?」

 

耳元でゲンジに聞こえない声で話された話を聞いたミノトは驚くと共に目を震わせながら彼を見た。

 

「何を話してるんだ?」

 

彼は首を傾げながら尋ねてくる。それを意に介さず、ミノトはゲンジの身体を見て驚くと共に哀れみに満ちた目を向けた。

 

「…ミノト」

 

「はい。姉様」

 

ヒノエの声に頷いたミノトは2人と共に歩み寄ると彼の手を引いた。

 

「え!?」

 

突然と手を引かれたゲンジは驚き、すぐに止まろうとするが、2人は決して止まらせず、一心不乱に手を引き雨の降る道を進んだ。

 

「おい!どこに連れてく気だよ!?」

 

後ろから彼の声が聞こえてくるが、二人は決して応える事はなかった。

 

◇◇◇◇◇

 

ゲンジの手を引いた彼女達は湖畔から離れ、自身らが暮らしていた家へ戻ってくる。家の中は整頓されており、ヒノエの弓、ミノトのランスが置かれていた。二人はゲンジと共に中へと入ると扉の鍵を閉めると共に窓を全て閉めた。

 

そして雨音の聞こえる暗闇の中、2人はゲンジを挟み込む様にして抱き締めた。決して離さないように強く。

 

「…おい…苦しいから離せよ…」

 

その声は先程よりも低く細々としていた。まるで何かが溢れ出してしまう事を抑え込んでいるかのように。

それを聞いたヒノエとミノトは抱き締める力を強めた。雨に濡れた二人の身体が更に密着し彼の身体を隙間なく包み込んでいく。

 

「…貴方が抑え込んでいるものを吐き出さない限り…私達は絶対に離れません」

 

「このまま朝日を迎えてもです」

 

いつも明るく皆を元気付けるかのようなヒノエの声がミノトと共に相手を威圧するかのように低い声へと変わっていた。

 

「抑え込んでるって何だよ…」

 

「それは貴方が一番 分かっている筈です…」

 

ヒノエは彼に顔を向けずただ尋ねた。

 

「なぜそこまで我慢するのですか?大人としての意地ですか?ハンターとしてのプライドですか?」

 

「…違う…」

 

ゲンジの否定する声を遮るかのようにヒノエは続けた。

 

「くだらないプライドで押さえ込んでいては貴方の身が持ちませんよ…たとえ貴方が強くても心は皆同じ。前にも言いましたよね?」

 

「あぁ…だけど俺は…」

 

言葉を掛けていく度に彼の声は細くなると共に震え始めていった。ヒノエは安心させるかのように彼の頭を撫でる。

 

「いいんですよ。私とミノトが全て受け止めますから…」

 

「我慢せず全て吐き出してください」

 

二人から掛けられた言葉にもう彼から返ってくる言葉はなかった。すると、声だけでなく、抱き締めていた彼の身体が震え始める。

 

「俺は…俺は…」

 

二人の温かい言葉によって、ゲンジの心の中に抑え込まれていた父親から愛されていなかった事への絶望感と蔑みの目を里の皆から向けられるかもしれないという恐怖感が溢れ出ようとしていた。

 

「ヒノエ姉さん…ミノト姉さん……」

 

すると 抱き締めていたヒノエにしがみつくようにゲンジは自身の思いを二人に細々とした声でありながらも告白した。

 

「怖い…つらい…よ…!!!」

 

その顔からは大粒の涙が溢れ出ていた。

 

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