薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
ゲンジは全てを吐き出した。意識を失った時にずっと見ていた地獄を__。
◇◇◇◇◇◇
イビルジョーに意識を乗っ取られたあの日から頭の中に一つの光景が映り込んできた。
それはゲンジが里の広場に立っていた時、辺りにいる里の皆から軽蔑の目を向けられるというものだった。
「何だよ…その目…」
何を尋ねても皆は何も返答してこなかった。自身に明るく接してきてくれる子供達も、気に掛けてくれていたフゲンやゴコク達も。皆向けてくるのは真っ黒な虚の目ばかりであった。
どこを歩いてもそうだった。向けられるのは同じ目線だけ。
そして、ようやく一人の声が聞こえてきた。
「…モンスターが何しに来やがったんだよ」
その声はとても憎悪に満ち溢れていた。それが聞こえると共に辺りから次々と同じような声が聞こえてきた。
「化け物が帰ってきやがったぞ…!」
「アイツを受け入れたと思うとゾッとするぜ…早く出て行ってくれねぇかな…」
「モンスターになれるなんて気持ちの悪い…!」
聞こえてくるのは軽蔑の声だけだった。その声を聞くたびに心臓が縛り付けられる感覚とクッキリとした孤独感に見舞われた。
目を向ければ辺りから次々と人が遠のいていき、自身が近づけば逃げるように離れて行った。
「ふむ…お主を受け入れた俺達がどうやら間違っていたようだ」
「全く…ギルドもなんでこんな紛い者を専属ハンターに任命したんでゲコ」
同じ目を向けているフゲンとゴコクがそう言い捨てながら集会所へと去って行った。
__何で…何で俺がこんな…!!!
不思議で仕方がなかった。何もしていないのになぜ自身がこんな仕打ちを。何故だ?理由がある筈だ。誰か教えてほしい。
「ゲンジ」
「…!」
その時だった。背後からいつも自身を励まし寄り添ってくれているヒノエの声が聞こえた。その声を聞いた途端に安心感に満ち溢れ、ゆっくりと振り向く。彼女なら何か知っている筈だ。
そう思っていた。
「…え…」
振り向いた途端 言葉を失ってしまった。そこに立っていたのは皆と変わらず黒く蔑みの瞳を向けるヒノエだった。
「貴方がモンスターだったとは…あの時助けなければ良かったですね」
「全くです。ヒノエ姉様」
その言葉に続くようにミノトが現れ、ヒノエの隣に立ちながら自身に同じ瞳を向ける。
「貴方を信用した私がバカでした」
___やめて…
更に姿が見えなかったエスラ、シャーラも現れ、同じ瞳を向けてきた。
「お前のような弟を持ってしまった事を酷く悔やんでいるよ」
「ゲン…近づかないで」
__やめてくれ…!!!
次々に自身に投げかけられる言葉に段々と心が縛り付けられると共に恐怖心が根付き身体が震えてきた。
__やめろ…やめろ…!!そんな目で見るな…!!
心の中ではこれは幻だと分かっていた。皆がそんな事を言う筈がない_と。だが、向けられるその目が頭の中に縛り付けられ、忘れる事ができなかった。
__お願いだ…そんな目を向けないでくれ…頼む…
何度も何度も願った。だが、皆から向けられる目線は変わらなかった。
その後、景色は溶けるように消え、あとはずっと暗闇の中だった。だが、暗闇の中でもその瞳は頭から離れる事はなかった。目を瞑る度に頭の中に浮き出て恐怖心が湧き上がってくる。
_なんで…俺が…
ずっと疑問で仕方がなかった。どうして自身がこんな目に遭わなければならないんだ。
そして目が覚めてから自身の身体を見た時にようやく理解した。自身が異形の生物に変貌している事を。
◇◇◇◇◇◇
全てを話し終えた時にはゲンジの目は震えており、酷く怯えているかの様であった。
「皆がそんな事を言う筈がない…そんな事は分かってた…。だけど…それが頭から離れないし…起きたら…こんな姿に…。それを見てから何もかもが怖く…不安になった…。それに何度も何度も頭の中に入り込んでくるんだ…!!俺はもう人間じゃない…追い出されるかもしれない…。暴走して傷つけてしまうかもしれない………もう何もかもが嫌になったんだ…」
そして ゲンジはもはや耐えられないかの様な震えた声で心からの思いを口にした。
「もう嫌だッ!!俺は____
____死にたいよ…!!」
次々と吐き出されるゲンジの思い。それは遂に死を求める程まで追い詰められていた。
その思いは屋根に激しく打ち付けられる雨の音の鳴る部屋中に響き渡る。
「もう嫌だ…もう…嫌だ…!!」
叫んだゲンジはそのまま顔を俯かせながら声を震わせた。
こんな姿をしているから言われてしまうのは仕方がない。認めたくないものの納得してしまうのだ。
それだけではない。人間としての自身を完全に失った上にそのキッカケが父親の打った恐暴竜の血である事を理解し父親は自身を人体実験の道具としてしか思っていなかった故に絶望してしまった。
すると
「…落ち着いてください」
話を最後まで聞いたヒノエは、声を震わせながら俯くゲンジの肩に手を置き落ち着かせる様にその身体を抱き締めた。
「よく話してくれましたね…それは凄く辛かったでしょう…」
そう言いヒノエは何度も何度も落ち着かせるかの様に頭を撫でた。彼の身体から感じるのは不安と恐れ。今までなんど彼はこの重い苦しみに悩まされて生きてきたのだろうか。これ程の心の傷はどんな者であろうとも耐えられるものではない上に口にもできないだろう。
故にヒノエは尚も震える彼の身体を抱き締めながら背中を撫でた。腹の中に溜まっている不安を全て吐き出させるかのように。
「安心してください…何があろうと私達は絶対に貴方を蔑むような事はしません。ね?ミノト」
「はい」
ヒノエの言葉にミノトは頷くと、震えるゲンジの背中を撫でた。
「ずっとお側にいます。たとえ貴方がどんな姿になろうと…決して離れません。ずっと一緒ですよ」
その温かい言葉を耳にしたゲンジの目からは再び涙が溢れ出てくる。まだ溜め込まれている思いを全て吐き出させるようにヒノエは頭を撫でる。
「辛いなら泣いていいんですよ。外は雨が降っていますから私達以外には聞こえません。だから…安心して泣いてください」
その言葉によって彼の心の傷を押さえ込む鎖が一気に解かれ、ゲンジは大粒の涙を流した。
「____!!!!」
その後 雨音の響く家の中でゲンジは子供のように声を上げながら涙を流した。人間としての自身を完全に失ってしまった事への絶望感。それを見た皆から蔑んだ目を向けられるかもしれないという恐怖感。
そして 父親から完全に愛されていなかったという悲しみ。
心の奥底に溜まった感情を全て吐き出すように。
泣き叫ぶゲンジをヒノエは強く抱き締め、ミノトは何も残らせないように背中をさすった。
彼の泣き叫ぶ声は雨に掻き消され同じ空間の中にいる二人以外には聞こえる事はなかった。
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ーーーーー
ーーー
ー
未だに雨が降り止まず屋根に強く音を立てる中。
涙が枯れたゲンジは身体の力を抜き、敷いた布団の上でヒノエの身に身体を預けていた。
「落ち着きましたか?」
「うん…悪い…」
「いいえ。誰にだって一度は泣きたい時もありますから」
そう言いヒノエは肩に置かれたゲンジの頭を撫でた。
それから落ち着いたゲンジはナルハタタヒメの行方について尋ねた。
「俺がいない間…事態はどうなってる…?」
「……実を言うと、ナルハタタヒメはまだ生きています」
ヒノエは話す事が気まずそうにしながらもまだ生存し自身らが共鳴してしまった事と今もなおゲンジを狙っている事を話した。
「それと、私も姉様と同じく共鳴をしました」
「ミノト姉さんまでもか…。なら、早いところ見つけて討たないとな…」
「それよりも今は休む事だけを考えてください。ずっと貴方は闘っていたのですから」
ミノトの言葉と共に頬に彼女の柔かな白い手が置かれ髪を撫でた。
そんな中、先程の話についてミノトは尋ねた。
「身体が震えているようですが…先程の夢の景色が今も頭に思い浮かんでしまうのですか?」
「…あぁ…」
それについてゲンジは頷く。二人が夢の話のようにはなる筈がない。そう思ったとしても頭の中に思い浮かんできてしまうのだ。
それに対してミノトはヒノエに耳打ちをする。
「姉様…」
「…えぇ」
自身を励まそうとしてくれているのだろうか。エスラ、シャーラだけでなくこの姉妹にも感謝の言葉しかなかった。
「(ありがとな…二人とも…)」
そう思っていた直後
___「…え?」
突然 ミノトが前に立ち、自身の両肩に手が置かれると共にゆっくりと布団の上に押し倒された。
突然と押し倒されたゲンジは驚くと同時に涙が止まる。見上げると2人の澄んだ琥珀色の瞳が揺れながら自身を見つめていた。
「じっとしていてくださいね…」
「…え…!?」
その2人の顔は初心な乙女のように赤く染め上がっていた。それに対してゲンジは涙が引っ込むと同時に顔をリンゴのように真っ赤に染め上げた。
「ちょ…ちょっと待て!何をす__むぐ!?」
2人の誘いを即座に断ろうとするが、それを妨害するかのようにミノトの唇がゲンジの口へと押し入りそれを妨害する。
「〜!!」
必死に引き剥がそうとする。だが、ミノトの舌が口内へと侵入して自身の舌に巻きつき身体中の力を次々と奪って行った。
唇を押し付ける中、ミノトはゲンジの衣服に手を掛けヒノエと共に剥がしていき呪いの痣が広がる身体を顕にさせる。
「ぷはぁ…」
接吻を終えたミノトはゆっくりと唇を離す。透明な液体がほつれると、ヒノエと共に蕩けた琥珀色の瞳をゲンジに向け、纏っていた和服に手を掛けると着物を縛る紐を解いていった。
白装束を縛りつける暇が解かれていき、纏っていた装束も脱ぎ終えるとゲンジとは対照的に何も刻まれていない白く美しい肌を見せた。
「辛い事も嫌な事も全て忘れさせてあげます」
「今夜は…安心して私達に身を委ねてくださいね…」
「!?ま…待って…!!」
「「待ちません」」
止めようとしても二人は止まらなかった。2人の手が伸びゲンジの頭を掴むとその胸に抱き締めた。
その後
雨が降り屋根の音に打ち付けられる音がする暗い部屋の中で布一つ纏わず白く美しい全身の肌を見せたヒノエとミノトは幾つもの呪いを背負った彼の身体を恐れる事なく心の底から愛した。
人を殺めそうになった四肢を 侵食されてしまった顔を 血で濡れた身体を、そしてどれだけ呪いを背負おうとも里を救おうとした優しい心を。
全てを何一つ漏れる事なく2人は愛した。
「辛かったですよね…苦しかったですよね…」
「これからは私達が貴方を全力で支えます。…だから貴方も自分を見失わないでください」
そう言いながらヒノエとミノトは自身の胸に埋もれるゲンジの頭を撫でると更に力強く抱き締めた。
「ふ…ふたり…とも…苦し…やめて……」
ゲンジの止める声が胸元から聞こえても彼女達はその手を止める事はなかった。彼の頭の中にある恐怖と苦しみが消え去るまで二人は何度もゲンジの身体を愛し尽くした。
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それから数十分後
2人から次々と愛情を注がれたゲンジは口元から唾液を垂らしながら目を回していた。
そんな彼に両側から抱きついていたヒノエとミノトはゆっくりと起き上がると、目を回すゲンジに顔を近づけ優しい笑みを浮かべながらただ一言だけ囁いた。
「「お帰りなさい。旦那様」」
その後も二人はゲンジの身体を白い肌に包み込むと意識がなくなるまで彼の身体を愛した。
ゲンジの心の奥底に残る不安と恐怖が全て消え去るまで__。
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それからどれほど時間が経ったのかは分からない。だが、知らぬ間に意識は途切れ、目覚めたときには雨雲は去り朝日が里を照らしていた。
「…ん?」
窓から山紫水明の里へと差し込む陽の光に顔を照らされ目を覚ます。ゆっくりと目を開けると自身の両側には同じ布団、同じ毛布を被りながら眠るヒノエとミノトの姿があった。
自身の手を見てみると不気味な形の痣は消えていない。やはり夢では無かったようだ。
すると 自身が目覚めたと同時に彼女達の閉じられた目が震えると共に目を覚ました。
「ふわぁ…おはようミノト」
「おはようございますヒノエ姉様」
陽に照らされながら起き上がる二人の姿を見つめた途端 ゲンジは顔を真っ赤に染めてしまう。彼女達の布一つ纏われていない美しい身体が視界に入ると昨日の出来事が鮮明に浮かび上がってしまい目が合わせられない。
けれども、それによって自身は救われたのだ。顔を向けて頬を染めながらもただ口を開く。
「お…おはよう……」
するとヒノエとミノトの優しい笑みが向けられた。
「「おはようございます旦那様」」
1週間ぶりの里で迎える朝。それはとても心地の良いものであった。