薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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星に降り注ぐ赫き凶星

 恐れ見よ 奇しき赫耀の兇星を__。

 

 ___星芒 大地を灰燼と為し_

 

     __天上を裂いて 常闇を招かん__。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ゲンジ…そんな…!!」

 

助けられなかったゲンジは再びモンスターへと変貌してしまった。再び目の当たりにするその悲しき姿にエスラは自身の無力さを嘆き涙を流す。

 

「…いや…諦めるのはまだ早い…!!」

 

咄嗟に涙を拭ったエスラはボウガンに特製の痺れ弾を装填し、争いが終わり隙が生まれるまで岩陰に隠れる事に決め身を潜めた。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

そのモンスターに理性などは存在しなかった。

 

あるのはただ純粋なる 『捕食本能』のみ。

 

光と共に現れたドス黒いモンスター『イビルジョー 』はその血の色の如く血走る狂気の目をバルファルクへと向ける。

 

その瞬間

 

「グロォオオオオオオオ!!!!」

 

何の前触れもなく、イビルジョーは巨体を支える強靭な脚を踏み締めるとバルファルクに向けて駆け出し、翼に向けて幾重にも生えそろった極悪な牙を剥いた。

 

向けられたその牙は一瞬にして距離を詰めるとバルファルクの龍気が溜め込まれている翼に牙を突き立てた。

 

「グルル…!!!」

 

だが、突き刺した牙は貫通することはなかった。音速に耐え得るほどまでに身体の甲殻がより硬度に進化している。それは翼も例外ではない。いや…むしろ、翼が最も硬く発達していると見ていいだろう。

 

「ギャァオオオ…!!!」

 

その鋼鉄な感触に戸惑っている隙をつき、バルファルクは喉を唸らせながらもう一方の翼を変形させるとガラ空きとなった脇腹に向けて翼の先端を突き刺そうとする。

 

 

だが、イビルジョーは既にその先の行動へと移っていた。

 

 

「…ッ!!!」

 

溢れ出る龍属性エネルギーの中から怪しく光る赤い目が更に輝くと、一瞬にしてバルファルクの翼を咥える首を横に振り下ろし、腕相撲の如くバルファルクを地面へと叩きつけた。

 

「ギェェエエエ…!!」

 

巨大な砂埃を巻き上げながら地面へと叩きつけられたバルファルク。その叩きつけはいくら硬い甲殻であろうとも完全に無効化する事は叶わず、肉体へダメージを受けてしまった。

 

それだけでは終わらない。

 

「ゴルル…!!」

口内から龍属性エネルギーが煙の如く溢れ出ると共に聞くものを畏怖させるかの様な唸り声をあげると、今度は倒れるバルファルクの脇腹へ牙を剥き喰らい付いた。

 

「ギャォォォォォ…!!!」

 

バルファルクの苦痛なる悲鳴が響く。腹は甲殻があまり発達していない箇所の一つ。即ち弱点である為に、幾重にも生えそろった牙が突き刺さり肉を食い破った。

 

そしてイビルジョー は反撃する余地を与えないかの様に、首を持ち上げると、バルファルクの巨大な身体を小型モンスターの如く持ち上げ、辺りへと叩きつけていった。

 

 

地面 壁 地面 地面 壁

 

順序などない。次々と首を振り回しバルファルクの息の根が止まるまで辺りへとその身体を叩きつけていった。すると、バルファルクの身体を覆っていた甲殻が外の衝撃かつイビルジョー の脅威的な顎の力によって所々がガラスの如く砕け散っていった。

 

それによりバルファルクの身体を守備する役割が失われ、更なるダメージを負っていった。

 

 

「グロォオオオオオオオ!!!!」

 

その叩きつけが遂に20回へと達した時だった。 イビルジョー は巨大な咆哮をあげると共にバルファルクを咥えていた首を大きく振りかぶると、その首を振り回した。

 

「ギャァオオオ…!!」

振り回しと共にイビルジョー の口からはバルファルクの身体が引き剥がされ、その巨大な翼や鋼の甲殻を纏う身体がまるでボールの如く地面を跳ね転げながら吹き飛ばされていった。

 

「ギャァ……」

投げ飛ばされたバルファルクは弱々しい声と共に吹き飛ばされながらも、咄嗟に四肢に力を込め、空中にて体勢を立て直すと地面を抉りながらもその姿勢を保つ。

 

 

「ゴルル…!!」

バルファルクは全身を硬らせた。

自身をここまで追い詰めた相手は久方ぶりと言ってもいい。それにより、バルファルクの闘争心が湧き上がり気分を高揚させていったのだ。

 

“面白い…!!!”

 

久方ぶりに闘いへの楽しさに目覚めたバルファルクは地面に向けていた己の首を持ち上げ、こちらへと見つめるイビルジョーに目を向けた。

 

 

「__!!!」

 

だが、その瞳を直視した瞬間バルファルクの闘争心が一瞬にして大量に失せると共に一歩だが後ろへと後退する。

 

今まで幾千ものモンスターと会敵してきたバルファルク。中でもこの個体は歴戦を勝ち抜いてきた強者だ。そんな個体でも今回初めて会敵したイビルジョーの目を見た瞬間、闘争心に陥っていた自身を我に返らせる程の強い感情が湧き上がった。

 

 

それは___“恐怖”

 

イビルジョー の目は自身を“食物”としてしか見ていなかった。故に今まで感じた事もない“死”への恐怖が増幅し、それが自身の心をへし折り闘争心さえも失わせようとしていたのだ。

 

 

“逃げるべきなのだろうか…”

 

___否ッ!!!

 

ふと心の中で零した弱音。だが、天を統べる天彗龍としての己のプライドが許さなかった。

 

“邪魔する者は全て消せ”…!!!

 

脳内に浮かび上がるその言葉が自身の生み出した恐怖を打ち消し、失われた闘争心を掻き立てていった。

 

「ゴルル…!!!」

 

喉を唸らせると共に身体に赫いエネルギー“龍気”が駆け巡りバルファルクの自我を保つ役割を担う理性を全て闘争心へと変換していった。

 

 

発達した四肢、頭部、そして翼の先端部分に掛けて龍気が太いラインを形成しながら駆け巡り、体内から溢れ始める。

 

それにより、バルファルクの脳内からは恐怖が消え去った。

 

だが、それと引き換えにバルファルクは生物の正気を保つ心即ち“理性”というモノを失ってしまった。

 

すると、バルファルクの体勢が突然低くなり三叉に分かれた翼の先端部分にある龍気を発する噴気孔が全て前方に立つイビルジョー の方向へと向けられた。

 

今のバルファルクの頭の中にあるのは目の前のモンスターを“完全に殺す”という殺意だけである。それは恐怖心を全て飲み込む程まで増大していった。

 

“殺す…!殺す殺す殺す殺す殺す”…ッ!!!!

 

 

先程まで理性の残っていた鋭い瞳はまるで溢れ出る龍気に犯されるかのように目玉ごと赫く染め上がる。それと共に牙を軋ませながらバルファルクの全身から翼に向けて空気が擦れる甲高い音と共に龍気が溜め込まれていった。

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

「ギィィイイイオオオオッ!!!!」

 

巨大な咆哮と翼の先端部分に集められた龍気が輝くと共に空間を突き破る程の極太のエネルギー波が放たれた。

 

 

「…!!」

 

それを見たイビルジョーは即座に横に避ける。

 

すると、 放たれた高密度の龍属性エネルギー波はイビルジョー の身体スレスレを通り抜け、背後にて龍宮砦から脱出しようとしたナルハタタヒメに向かっていき、直撃し大爆発を起こした。

 

それだけでは終わらなかった。

 

イビルジョー に直撃した手応えが感じられないと判断したバルファルクは即座に龍属性エネルギーの放出を一時的に止め、イビルジョー へ向けていた翼を再び後ろへと回し元に戻すと、放出寸前であった莫大なエネルギーを一気に放出した。

 

 

 

 

キィイインッ!!!

 

空気が擦れる甲高い音と共に放出されたエネルギーが推進力となり、バルファルクの身体は斜め上へと上昇し一瞬にして大空へ向かって飛び立っていった。

 

 

短時間で超高空域へと到達したバルファルクは そこから龍気を弱め龍宮砦を旋回し始めた。その旋回する様子はナルハタタヒメとゲンジを襲撃した時と同じく赫い軌跡を残す彗星であった。

 

「グルル…」

龍宮砦を旋回する赫い彗星にイビルジョー は警戒し、構えを解く事はなかった。

 

 

その一方で 上空を旋回していたバルファルクは飛行する中 イビルジョー の身体の隙を捉えるべく一定の推進力で速度を保ちながら狙いを定めていた。

 

そこから見渡せるは広大な龍宮砦。そのフィールドにはこちらへと目を向けるイビルジョー 。そしてそのフィールドから海へと続く陸地には先程の放った龍属性エネルギーにより倒れているナルハタタヒメ。

 

バルファルクにとって、ナルハタタヒメの事などもはやどうでもよかった。ただ確実にイビルジョー を“葬るだけ”である。

 

旋回して、龍宮砦を一周したバルファルク。空を駆ける彗星は遂に地上に向けて軌道を変更する。

 

「…!!!」

 

開いていた目玉が一瞬だけギョロと音を立てると赫い目玉が一瞬だけ輝くと共にバルファルクは旋回していた軌道を変更し、イビルジョー へと向ける。

 

 

そして

 

 

 

大気を突き抜ける程の脅威的なスピードで一気にダイブした。その狙いはイビルジョー一点であった。

 

こちらに目を向けている。だが、急降下した時点で目が合っている様ではもう遅い。

 

バルファルクの急降下は龍気の一斉噴出だけでなく重力加速度も纏っている為に一時的ではあるものの、急降下するその速度は下手をすれば“音速”へと達する。

 

その音速による撃墜によって今まで会敵してきたありとあらゆる大型モンスターの命を刈り取ってきた。

 

故に人間の間でその彗星の如きダイブはこう名付けられた。

 

 

______赫耀彗星【星亡】

 

音速に近い速度から放たれる激突はモンスターに対して硬い甲殻による体当たりだけではない。着地したと同時に龍気を爆発させ相手に更なるダメージを背負わせる。

 

たとえ大型モンスターであろうと、これを喰らえば大抵は必ず重傷を負うだろう。

 

会敵した相手『イビルジョー 』は甲殻一つ纏わない『丸出し』の身だ。そのダメージは計り知れないモノとなる筈だ。少なくとも脚の一本はへし折れるだろう。

 

バルファルクは更に速度を上げていく。空気をつけ抜け、速度は更に増していった。

 

 

イビルジョー が何やら上半身を上げ首も持ち上がらせる体勢を取っているが関係ない。バルファルクは目を鋭くさせイビルジョー を見据える。

 

 

次々と空気の層を突き抜け加速していくバルファルク。それが遂に最高速度に達した時にはイビルジョー の目前まで迫っていた。

 

バルファルクの赫い目が怪しく輝く。

 

 

 

 

 

____終わりだ…ッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間 赫く巨大な爆炎が巻き起こりイビルジョー と激突したバルファルクを包み込んだ。

 

 

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