薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
幽明の際 番人気取りの 悪たれ坊
獲物めっけと 尾っぽを振って 柿を礫に 勝手次第
慢心の権化 不届き千万____。
『ビシュテンゴ』
それはカムラの里周辺に出没するようになった新種のモンスターである。ババコンガのような獣を思わせる顔つきに、飛竜のような翼幕を兼ね備えていると言うなんとも奇妙なモンスターだ。
「アイツが…ビシュテンゴか…!!」
遂に見つけた2匹目の新種。ゲンジは毒の影響を受けながらも回復薬を取り出し、一瓶を飲み干す。手に見えるあの翼膜は恐らく短時間ながらも飛行を可能とするだけの機能は備わっているだろう。
「ハチ!」
「ワン!」
ゲンジはすぐさまハチに跨り、此方を見下ろすビシュテンゴの元へと向かう。
すると、ビシュテンゴが何かを懐から取り出した。
「…!」
ゲンジはその動作から危険信号を感知し、武器を構える。ガルクも危険を察知したのか、速度を落としてしまう。だが、ゲンジはその心を落ち着かせるように頭を撫でる。
「ハチ!そのままいけ!」
ゲンジはハチにそう指示をだす。ハチもゲンジを信じると速度を戻した。揺られながらもゲンジは双剣を構える。
集中…集中…
神経を研ぎ澄まし、ゲンジは双剣の持ち手を変え、ナイフを扱うように持つ。
「…!!」
完全に察知したゲンジは双剣を振るう。
バン!
すると、何かが双剣の刃に当たり砕け散った。それは少し鼻を刺激する特有の香りがする果実だった。
「ふぅ…柿を投げてくるのか」
それは何と『柿』だった。ゲンジは刃にこびりついた汁を払う。
モンスターによっては、投げるものはたとえ果物だろうと、凶器と化す。それが柔らかい柿であっても、頭頂部に当たれば頭蓋骨にはヒビが走るだろう。
“面白い…!!!!”
だが、奇怪な行動自体がゲンジを刺激させてしまった。
「ゴロロロォォォ!!!」
対してビシュテンゴは防がれた事が気に入らないのか、次々と懐から柿を取り出すと、投げ出した。
投げられる柿一つ一つが礫となり、次々とハチに降り注ぐ。
だが、ハチは速度を落とさない。必ずゲンジが防ぐと信じている故に。
その信頼に応えるように、ゲンジは相対速度によって通常よりも速くなっているにも関わらず、向かってくる柿全てを双剣で捌いていた。
まるで軌道を全て把握し切っているかのように。
そして、遂にビシュテンゴが居座る鳥居の目前まで来た時、ゲンジは翔蟲を取り出した。
弾性力によって、とびあがり、一瞬で自身らに柿を投げつけていたビシュテンゴの目線の高さまで飛ぶ。
「…!!」
ビシュテンゴは驚きのあまり思考が停止し、動作も止まる。
そして
ゲンジはゆっくりと身体を曲げると、2つの剣を拳の如く振り下ろした。
その振り下ろされた刃はハンマーの如く静止するビシュテンゴの脳天に打ち込まれ、巨大な身体を地面に向けて叩き落とした。それと同時に地面が揺れ、鳥居も木っ端微塵となり、下へ落ちたビシュテンゴ目掛けて崩れ落ちる。
ゲンジは下へと着地すると、砂埃で見えなくなったその地点を見つめる。
もちろん 武器は構え警戒していた。これしきの技ではドスジャギィでさえも死なない。
すると、辺りに待っていた煙が突然響き渡った咆哮と共に消えると、瓦礫の山が吹き飛ばされ、怒りの形相を浮かべたビシュテンゴが姿を現した。
「ゴルルルル…!!!」
完全にトサカに来ていた。自身から仕掛けておきながら仕返しをされたら激怒する。正に荒法師ともいえる。
「ゴギャァァァァ!!!!」
「!?」
すると、ビシュテンゴは両手を広げて、辺りに不快な咆哮を響き渡らせた。
「ぐぅぅ…!」
迂闊だった。まさかバインドボイスを仕掛けてくるとは。
咆哮がやむと、ビシュテンゴは尻尾をゆっくりと上げる。その尻尾の先端部分はまるで腕のようになっており、5又の伸びる指が形成されていた。
ビシュテンゴは更に懐から柿を取り出すと、それを腕を模した尻尾で掴む。
「…?」
何をしてくる…?
ゲンジは様子を伺いながらも武器を構える。
すると、ビシュテンゴの発達した尻尾が自身目掛けて振り下ろされる。
「お!?」
なんとか紙一重で避ける。だが、尻尾は叩きつけるだけではなく、吐き気を催すガスを撒き散らした。
「こ…この匂い…毒か!?」
何と、叩きつけると同時に辺りに散布させたのは毒性を持つ程に腐り切った柿であった。叩きつけられた際にその汁も防具に付着し、不快な匂いが纏わりつく。
「う…!」
襲ってくる吐き気。少しずつ視界が安定を失っていき、焦点が合わなくなる。それを面白がるようにビシュテンゴはゲンジの周りでステップを踏む。
「この野郎…!!!」
ビシュテンゴの挑発するかのような動作に頭にきたゲンジは回復薬を取り出すと、体力を回復させ、自力で視界を安定させる。
そして、双剣を構えると、脚に力を込め、ビシュテンゴに目掛けて走り出した。
「ヴゥォラァ!!!」
ビシュテンゴの顔面に向けて双剣を振るう。だが、ビシュテンゴは飛び上がり、それを回避した。
だが、それがゲンジの作戦だった。
ゲンジは即座に武器をしまうと、一つの小さな玉を地面に叩きつけた。その瞬間 辺りが閃光に包まれる。
これは『閃光玉』といい、破裂すると辺りに激しい光を放ち、モンスターを目眩しさせる事ができるのだ。それは飛竜種などに効果を発揮して、飛んでいる時に放てば空から落とす事ができる。ゲンジは長年 飛竜種を狩り続けていたために、偶然ながらも一つだけ持ち合わせていたのだ。
閃光玉によって、ビシュテンゴの身体が降ってくる。
「…!」
ゲンジは腕に筋肉を集中させると、ビシュテンゴに目掛けてドスフロギィやヨツミワドウと同様に強烈な乱舞を放つ。
「ヴォオオオオオ!!!」
「ギャォォォォォ!!!!!」
雄叫びを上げながら放つ驚異的な乱舞。次々とビシュテンゴの全身の肉と体力を削ぎ、辺りに血を撒き散らせる。その痛みにビシュテンゴは悲鳴を上げた。
自慢の翼膜は破れ、トサカも崩れ、そして遂には自慢の尻尾さえも傷を負う。
それでもなお、ゲンジは手を止めない。
そして、ゲンジは最後に双剣を振り上げると,ビシュテンゴの顔目掛けて振り下ろした。
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「終わった…ようやく3体目か」
ゲンジは倒れ臥すビシュテンゴの死体から素材を剥ぎ取り終えると、近くの岩場に腰を下ろした。
まだ3体目だ。残り3体も残っている。気は抜けない。
だが、毒によって体力が限界まで削られていた。すぐに引くとは思っていたが、全く引く様子がない。
「ゲンジ!大丈夫かニャ!?」
ミケはゲンジに歩み寄るが、ゲンジはまったく回復する気配がない。
「はぁ…はぁ…大丈夫だ…」
ゲンジは回復薬を取り出し、一瓶を飲み干す。これで4本目だ。残り6本。
「ふぅ…少しは楽になったな。さぁ、次行くぞ」
症状を和らげたゲンジは立ち上がると、次のモンスターを探すためにハチに跨る。