薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
長い長い夜が明け少しずつ明るくなり始めていく薄明の空。
里の受付場に腰を掛けながら皆の無事を祈っていたヒノエとミノトは自身らの夫であるゲンジの異名となったその空を見つめていた。
「…もうすぐ朝が来てしまいますね…ミノト」
「はい…」
今起きているのは彼女達やフゲン、ウツシだけである、他の皆はやはり夜通し起きているのが辛い故に眠ってしまっている様だ。
ヒノエはもうイブシマキヒコの気配を感じていなかった。それは即ちイブシマキヒコが討伐されたようなモノである。
だが、ミノトの感じる気配が今も尚 途切れる事はなかった。テオテスカトルやクシャルダオラの撃退報告は届いているもののナルハタタヒメの討伐報告は未だに来ていない。
それだけがとても気掛かりであった。
その時だった。
「う…!?」
突然 ミノトを頭痛が襲いその痛みによって彼女は頭を押さえ始めた。
「ミノト!?」
すると
「__助けて」
それだけ呟くとミノトの頭を抑えていた手がゆっくりと解かれていき、俯いていた顔を上げた。
「ミノト…大丈夫ですか…?」
ミノトの肩に手を添えてヒノエは安否を確かめるべく静かに声を掛ける。それに対して顔をあげたミノトはゆっくりと頷いた。今の様子は『共鳴』だろう。
だが、前とは異なり額からは汗などは出ていなかった。
「身体に異常はありませんか…?」
「はい…。ただ…声だけが聞こえてきました」
「声…?」
「___助けて。死にたくない。死にたくない…と」
「…え?」
ミノトの頭の中に響いた言葉。それは助けを請う声であった。その意味が分からずヒノエは首を傾げてしまう。
その時 集会所にて龍宮砦から新たな知らせが入りゲンジが再びモンスターへと変貌した事が知らされた。
◇◇◇◇◇
「グルル…!!」
崖から飛び降りたイビルジョーは立ち上がろうとするナルハタタヒメの背中を踏みつけると地面に押し付け、牙が生え揃った口を開けると決して逃がさない為に発達した両腕の内、右腕を咥えると脚で身体を押さえつけながら引っ張り出す。
「ギャォォォォォ…!!」
辺りに肉の細かい繊維が一本一本引き千切られていく音が響く共にナルハタタヒメの苦しむ悲鳴が響き渡る。
そして 強靭な右前脚が胴体から無理やり切り離された。
「__!!!」
一本 腕が引き千切られた瞬間 大量の血液が溢れ出しナルハタタヒメの巨大な悲鳴が響き渡った。
その悲鳴を聞いたイビルジョー はまるで喜ぶかの様にもう一方の前脚を咥えると更に引き千切った。
先程まであった両前脚の感覚が突然と途絶えると共に襲ってくる痛みと恐怖によってその不気味な目からはいつのまにか涙が溢れ出ていた。
子供を守れない無力な自分に対してなのか?いや、違う。ナルハタタヒメはどうしても逃れることのできない恐怖により涙を流していたのだ。
もう子供の事など頭の中には残っていなかった。あるのは少しでも生き長らえたいという生への願望だけである。
__やめろ!やめてくれ…!!殺さないでくれ…!!!
ナルハタタヒメは必死に訴える。だがそれは叶わなかった。
「グルル…!!!」
背後には涙を流すその頭部へ向けて首を持ち上げるイビルジョー の姿があった。口内から露出した鋭い牙が向けられその間から滴る涎が次々と降りかかってくる。
そして その首が振り下ろされた瞬間___
___百竜の淵源と成ったナルハタタヒメの命の灯が最大限に高まった恐怖心と共に消えた。
◇◇◇◇◇◇
その後 イビルジョー は動かなくなったナルハタタヒメを捕食する。ゴム質の皮を剥がしさらけ出された身を骨ごと喰らうと、その近くで気絶していたバルファルクの頭も踏み潰し命を断ち切ると捕食した。
その様子をイビルジョー を追いかけて来たエスラは見つめていた。
「…哀れ…としか言えないな…」
ようやく会えた対と長くは共にいられなかった上に吸収した力で守ろうとした子供も産めない。
たとえ百竜夜行の原因であったとしてもその不幸な運命には同情してしまった。
その時だった。その光景を見つめていたエスラの頬に温かい風が触る。それに気づいたエスラは海へ目を向けた。
「…もう朝が来たのか…」
そこから見える海の向こう側から朝日がゆっくりと昇り始め温かな陽光を放ちながら龍宮砦を照らす。空を見れば覆っていた暗雲も晴れていき、鮮やかな空が顔を出し始めていた。
辺りに吹き荒れていた激しい風もその勢いを収め温かく穏やかな風へと変わっていった。
ナルハタタヒメの存在の象徴が次々と消え去っていったのだ。
その一方で、腹が満たされたのか ナルハタタヒメとバルファルクの身を食い尽くしたイビルジョー はその身体を大地に預けるかの様にゆっくりと倒す。倒された身体からはあの日と同じく白い煙が沸き立ちその身を包んでいった。
「ゲンジ…!」
エスラはそこから飛び降りると、ゆっくりと白い煙に包まれていくイビルジョー に近づいていった。
沸き立ちその身を包み込んだ煙は次第に勢いを収めていきゆっくりと空気に溶ける様にして消えていった。
そして煙が晴れていき、その中心部には装備を纏いながらもその身を仰向けに倒しながら眠っているゲンジの姿があった。
「ゲンジ…」
煙が晴れていきゲンジの姿が顕となるとエスラはしゃがみ込み彼の胸に耳を当て鼓動を確かめる。
__ドクン
すると力強い鼓動が聞こえてきた。
「…よかった…」
ハッキリと聞こえた鼓動にエスラは安堵の息をつくと、その場に座り頭の装備を外し顕になった彼の頭を膝にのせた。
「ゲンジ…全て…終わったぞ…」
エスラは蒼い髪を撫でながら数百年続いた災害の根源を絶った事を伝える。眠る彼と自身の顔を朝日が照らし出しそれと共に温かい風がその身を包み込んだ。
「ほらゲンジ…見ろ。朝日だ」
そう声を掛けながら眠る彼の顔を撫でていく。けれども彼は目覚める事はないだろう。鼓動が聞こえたとしても前のように彼が目覚めるのは翌日か2日後になる。
「お前やシャーラと一緒に見れないのが悲しいよ…」
涙を溢しながらそう言葉を漏らした時だった。
「…んん…」
「!?」
突然 聞こえた唸り声と共に閉じられていたゲンジの瞼が震えるとゆっくりと開かれ目を覚ました。
「ね…え…さん…?」
「ゲンジ!よかった目が覚め……うぇ!?」
前とは違いすぐに目覚めた事にエスラは驚くが、開かれ向けられた瞳を見た瞬間 エスラは声を上げながら更に驚いてしまった。
「お前…目が…!」
朝日に照らされたゲンジの瞳は“蒼く輝いていた”のだった。