薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
暗闇の中で俺はずっと地面に座り込んでいた。
「…」
ずっと広がる闇の中で俺はただ終わる時を待っていた。自身の肉体の所有権を自身から譲渡した以上、大人しく待つしかなかった。
そんな時だった。辺りから声が聞こえて来た。
__頼む…やめろ!やめてくれ!殺さないでくれ!!
それは簡単に言えば悲痛を訴える女の声だった。だが、その声を聞いても何も感じる事はなかった。
悲鳴が聞こえていたのはほんの数十秒程度であった。少し時間が経てばその声は次第に遠のいていき遂には聞こえなくなっていった。
「(…終わった…のか…?)」
そう思っていると目の前の空間が突然 純白にに染まると目の前にはイビルジョー が立っていた。
『…』
突然と現れた奴は俺を見つめるだけで何も喋らなかった。ここに奴がいるという事はナルハタタヒメも現れた謎の古龍も喰い終わったという訳だろう。
「…別に礼は言わねぇぞ?」
「…」
そう声を掛けてみるも奴は答えなかった。ただ俺だけをじっと見つめるとそのままその場に倒れ込みいびきを掻きながら眠りについた。
その時だった。
「…!?」
奴が眠りについたと同時に辺りは暗闇に包まれ、奴の身体が溶ける様にして消えていき俺の意識も一瞬で途絶えた。
◇◇◇◇◇◇
意識が途絶え 次に目覚めた時に目の前にあったのは自身を見下ろすエスラの顔だった。
「ね…え…さん…?」
「ゲンジ…!」
その金色の瞳と目が合うとエスラの目からは涙が零れ落ちてきた。
「良かった…目が覚めたんだな…!」
頬に温かい感触が伝わる。見れば海から太陽が昇り始めており、自身とエスラをその輝かしい陽光が照らしていた。
「俺は…」
状況を確認するべく一度、目を閉じながら状態を起こし再び目を開けるとエスラに向けた。
すると
「ゲンジ…お前その目…!」
自身と目が合ったエスラは突然とその言葉を驚きながら呟き固まっていた。
「…え?」
驚くエスラに首を傾げながらゲンジは手を当てる。
「何が…俺の目がどうなってるんだ…?んぉ!?」
触ってみても特に何も感じなかった。疑問に思ったゲンジはエスラに詳細を尋ねようとする。
すると エスラは満面の笑みを浮かべながら手を広げて抱きついてきた。
「お前の目が元に戻ったんだ!元の綺麗な目にな!」
「…え!?」
その言葉にゲンジは驚くと共にようやく意味を理解した。今まで不気味な黒色に染まっていた目玉が純白な色へと戻り元の蒼く水晶の様に輝く瞳へと戻ったのだ。
「本当…に…戻ってるのか…?」
「あぁ!」
その言葉を聞いたゲンジの目からは涙が溢れ出て来た。
「俺…ようやく人間に…戻れたんだ…!!」
「うん…!うんうん…!」
失われた人間としての部分が再び戻った事でゲンジは涙を流す。もう自身の無力感への怒りは消え去っていた。ただ人間としての目を取り戻せた事が喜ばずにはいられなかったのだ。
そしてエスラも頷きながらゲンジの頭を撫でていった。
それからゲンジとエスラは共に朝日が昇る光を浴びるとゆっくりと立ち上がった。
「さぁ帰ろう!皆の元に!」
「…あぁ…!」
ゲンジとエスラは手を繋ぐと朝日が照らす道を歩き途中で応援に来たトゥーク達と合流すると、飛行艇に乗り込み決戦の地である龍宮砦を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ナルハタタヒメと乱入した古竜バルファルクの討伐報告は既にカムラの里へと届いていた。
フカシギによってその知らせは瞬く間に里中に知れ渡り、眠っていた里の皆は飛び起きるとすぐさま迎えるべく里の入り口にて待っていた。
だが、幾人かの里の者は不安を感じていた。
「ゲンジさん…またモンスターになっちまったみたいだぜ…?」
「大丈夫かな…」
喜ばしい情報とは別にゲンジがモンスター化してしまった事も知らされており里の皆はそれについて気に掛けていた。
それはヒノエとミノトも同じだ。モンスターへと変貌したとなると身体に広がる痣が更に広がり禍々しい風貌へと変わってしまうだろう。だが、たとえどんな姿で帰ってこようとも自身らは受け入れる覚悟はできていた。
その時だった。
「あ!帰って来たよ!!」
ヨモギの声に皆は反応すると目の前にある橋に目を向けた。
すると
コツ__コツ___コツ___
橋を渡りながらこちらに向かってくる足音が次々と聞こえてくる。
『…!!』
その姿はハッキリと見えて来た。橋の向こうからゆっくりと歩いてくるその姿を見たヒノエとミノトは涙を流した。
現れたのはエスラとシャーラ。その二人に挟まれる様に手を繋ぐゲンジであった。
更にその後ろからはトゥーク達ユクモ村のハンターも続いていた。
ヒノエとミノトはゲンジの姿を見つけるとその場から駆け出した。
「ヒノエ姉さん…!ミノト姉さん…!」
二人の姿を見つけたゲンジも彼女達へと駆け寄りながらその蒼く水晶のように輝く瞳を向けた。
その時にゲンジの脚がふらつきその場に崩れてしまった。それを咄嗟に二人は支えるようにして受け止めた。
「大丈夫ですか…!?」
「あ…あぁ…」
そんな中だった。ヒノエとミノトはゲンジの目が元の美しい青色に戻っている事に気づく。
「…あら?貴方…目が元に!」
「あ、これはな…」
それに対してゲンジは軽く笑みを浮かべながら答えた。
「起きたら戻ってたんだ…。身体に異常はねぇから大丈夫だよ。心配かけてすまなかったな」
ゲンジは二人に心配を掛けた事について謝罪すると二人の手をそれぞれの手で握り満面の笑みを向けた。
「でも二人が無事で本当に良かった…!」
「「…!!」」
その笑みは今まで見せたことがない程まで輝いていた。まるで無邪気に笑う少年のように。
その笑顔を見た二人は顔を真っ赤に染めながらもゲンジの身体に手を回し抱き締めた。二人の温かい身体に包み込まれたゲンジは嫌がる素振りを見せず、二人の身体に手を回すと抱き締め返した。
「「お帰りなさいませ…旦那様…!!」
「ただいま…!」
ヒノエは出会った時の事を思い出しながら頷き大粒の涙を流しながらゲンジの肩に顔を埋めた。
そんな時だ。
「ゲンジ!そしてエスラよ!」
「フゲンさん…!」
力強い声と共に人混みを掻き分けながらフゲンが姿を現した。現れたフゲンは熱く燃える猛々しい瞳を向けながら風神龍と雷神龍の討伐に成功したゲンジとエスラに手を差し出した。
「よくぞ災厄の根源を断ち里を救ってくれた。見事だ…そしてありがとう…!!」
フゲンの心の底からの感謝の意が込められた言葉と共に差し出されたその手をヒノエとミノトから肩を支えられながら立ち上がったゲンジとエスラは力強く握り締めた。
「あぁ」
「当然の事をしたまでさ」
二人の言葉にフゲンは頷くとトゥーク達へも目を向けた。
「そしてトゥーク達ユクモ村のハンター諸君。主らにも礼を言わせてくれ!よくぞ古龍達を撃退してくれた!本当に感謝する!」
ゲンジとエスラだけでなく、トゥーク達にも届いた感謝の言葉にトゥーク達は頷いた。
すると
「里長!」
背後にある集会所の屋根から大社跡の調査に向かっていたウツシが現れ、駆け寄ってきた。
「おぉウツシよ!調査任務ご苦労であった!どうだ?霞龍の方は」
「はい!大社跡に現れたオオナズチは遠くの地へと飛び去っていった模様!それに加えて辺境の地に現れたモンスター達も次々と元の住処へと戻っていく姿が確認されました…!!」
「おぉ…!!」
その報告を聞いたフゲンは驚くと皆に向けて叫んだ。
「喜べ皆の衆よ!!ゲンジ達の活躍により数百年続く百竜夜行が遂に収束へと向かい始めたぞぉぉお!!!!」
『『『『『『うぉおおおおおお!!!!』』』』』』
その瞬間 里の皆は大歓声を上げた。数百年と続いてきた百竜夜行の収束を耳にした皆は歓喜し、遂に訪れた平和にそれぞれ抱き合い、涙を流しながら喜び合った。
もう百竜夜行という恐ろしい災害に怯える事はない。災害が去った今 喜ぶ以外に何もないだろう。
平和が訪れた里を祝福するかの様に雲一つない限りなく続く青空に輝く太陽の温かい光が照らしていた。
そんな時であった。
「ではではではでは…役者も揃ったところで…」
フゲンの背後からゴコクが現れ、皆に目を向けると大きく両手を掲げた。
「ゲンジの処分が適用される前に準備に取り掛かるでゲコ〜!!」
「「「おおおお!!!」」」
「え…!?なに!?どういうこと!?」
フゲンの背後から現れたゴコクの杖を掲げながら放たれた一声が響き渡りそれによって里の皆は手を上げながら答えた。
突然と自身の名前を出された事でゲンジは戸惑ってしまう。
「ほんじゃハンターさん達は装備を脱いでいつもの和服に着替えて休んでてくれ!」
「「「「うぇ!?」」」」
そう言い複数の里の人々がトゥーク達ユクモ組を旅館へと連れて行った。
「エスラさんとシャーラさんも!ほらほら早く!」
「私達もか!?」
「ん!?」
一方でヒノエとミノトは里の女性達に背中を押されていった。
「はいはい!主役はこっちこっち!!」
「晴れ舞台だからね!」
背中を押されながら連行されていく二人の顔は幸せそうな笑みに満ちていた。
連行されていくのはゲンジも同じである。ハモンの弟子であるナカゴやイオリに加えてその他の里の男達に担がれながら集会所の近くにあるテントへと運ばれていった。
「お…おい!?何する気だよ!?」
「決まってるでしょゲンジさん!貴方とヒノエさんとミノトさんとの結婚式ですよ!」
「ええええ!?なんで知ってるんだ!?」
その場にゲンジの巨大な驚く声が響き渡った。