薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
村への出張
「出てけよこのバケモノ!!」
「ウチの妹に近づくな!!」
次々と向かってくる石や木の棒。それは全て自身に当たり傷を負わせてくる。
__なんで俺が………
「やめろッ!弟に手を出すと許さないぞ!!」
止めに入ろうとした金色の目をした少女と青色の目をした少女を村の少女達が手を引っ張るようにして抑える。
「エスラちゃんもシャーラちゃんもあんな奴に近づいちゃダメだよ!!」
「ふざけるな!ゲンジは大切な弟なんだぞ!!」
エスラの叫びが響いても村の子供達は止まらず次々と自身に向けて罵詈雑言を飛ばしてきた。
「このモンスター!」
「モンスター!!」
「モンスター!!!」
その言葉は自身の心と身体に傷を負わせていった。だが、何故か辺りの大人は誰一人として止めようとはしなかった。
そんな中 一人の桃色の長い髪を束ねた少女が倒れる少年の前へと歩いてきた。
「モ…モモカ…!!」
少年はその少女の名前を口にしながらゆっくりと手を伸ばす。
だが
「触らないで」
少女はその手を振り払う。自身を見下ろすその目はまるで自身を人として扱うことの無い“ゴミを見るような目”であった。
「それと気安く名前 呼ばないでよ。アンタのようなモンスターは生きてる価値なんてないんだからサッサと死んじゃえば?」
「…!!」
此方を見つめていた少女の放ったその言葉は少年の心に深い傷を負わせる。そして我慢の限界となった少年は涙を流し始める。
__何で…俺が…こんな事を…!!!
何故か分からない。なぜ何もしていない自身がこんな事をされなければならないのだろうか。なぜ、大人は止めてくれないのだろうか。
「うぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
その少年は涙を流しながら雲に覆われ灰色に染まった曇天に向けて叫んだ。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
「ゲンジ!!」
「…!」
咄嗟に響いたヒノエの声によってゲンジは現実へと引き戻された。目を開けると目の前には曇天の空ではなく、ヒノエの顔があった。
「大丈夫ですか…?酷い汗ですよ…」
ヒノエの言う通り頬を触ると何故か湿っていた。額から汗が流れており、それが知らぬ間に頬に伝っていたのだ。
「すまん……昔の事を思い出してた…」
ゲンジは深呼吸しながら汗を拭い意識を統一させると現状を整理する。
エスラ達に手紙が届いた事を報告したあの後、ゲンジは試着が終わったヒノエ達と共に自宅へと戻り手紙の事について相談していたのだ。
だが、その話に深く入り込むにつれて頭の中にあの日の景色が思い浮かびあがり、ついには引き込まれてしまうほど鮮明に思い出してしまったのだ。
「ッチ…こんな時に都合の良い手紙寄越すとは…本当に腐った村だ」
舌打ちしながらエスラは手紙の内容へと目を通す。手紙の内容は
『村ノ付近ニテ手強イ火竜 出現。至急ゴ帰還願ウ 村長ブロン』
と言うものだった。火竜ならば、専門の自身らに頼むのは確かだが、一般的な火竜ならばレウス、レイア問わず上位の中級実力者または駆け出しG級でも十分 対応できる筈だ。なのになぜ自身らなのか、エスラやゲンジ達はそれが不思議で仕方がなかった。
手紙の内容に目を通したエスラはゲンジに問い掛けた。
「どうするゲンジ?お前が行くなら私達も行くが、もし行かないのならば私も行かない」
それに対してゲンジはエスラから手紙を受け取ると、再び目を通す。その蒼い三白眼が動くとゲンジは口を開いた。
「…俺としてはここで依頼を受けて村と正式に縁を切るのも悪くねぇと思ってる。…けど」
答えを出したゲンジは自身の隣に座るヒノエとミノトに目を向けた。
「…行くとなったら…2人との約束をまた破っちまう…」
ここからゲルド村はまず近くの街『ドンドルマ』からアイルー荷車で約1日かけてアルコリス地方にあるココット村へ直接赴き、そこから再びアイルーの荷車に乗りおよそ1時間揺られなければならない。
ゴコクによると、行くとなれば午後には出発しなければ間に合わないとの事らしい。
もしも行くとればヒノエとミノトとの式の約束を破ってしまう事になるだろう。その上、依頼が完了し、帰還したとしても1ヶ月間の自宅謹慎が待っている。そうなれば更に先延ばしとなってしまうだろう。
「ぐぅ…!!」
この依頼を受けないと心に決めようとすると腹の中に何かが残ったかのような感覚に見舞われてしまう。
どうすればいいのか。自身では何も分からない。そう思いながら歯を食い縛る。
そんな時だった。
「!?」
突然と肩を引かれ、頭がボスッと音を立てながら柔らかい感触に包まれた。
見上げるとそこには優しい笑みを浮かべるヒノエの顔があった。それに続くかの様にミノトの顔も映り込んでくる。
「私は貴方の判断に任せますよ」
その言葉と共にヒノエの柔らかい4本の指が髪を撫でる。
「貴方が引き受けたいのならば私達は貴方の意思を尊重し式を見送ります。ムシャクシャしたまま式を開いても落ち着きませんからね」
ヒノエの言葉にミノトも同意するかの様にうんうんと頷いた。
「ヒノエ姉さん…ミノト姉さん…」
ゲンジは2人の言葉によって勇気と共に励まされるとようやく腹を決め、ヒノエとミノトの目に自身の瞳を向けた。
「俺の…我儘に付き合って欲しい…」
「えぇ」
「喜んで」
自身の答えにヒノエとミノトは笑顔で頷いてくれた。
「悪いな…」
「気になさらないでください。どんな我儘でも私達は付き合いますよ」
そう言いヒノエは膝に乗せたゲンジの額に顔を近づけると口付けをした。
◇◇◇◇◇◇
それからゲンジはゴコクの元に向かい行く事を伝えると準備を整えて里の入り口に止まっているドンドルマへ行く荷車へと向かう。
入り口には里の皆が見送りに来ていた。
「皆にも悪かったな。せっかく準備してくれたのに」
「なぁに気にするな。謹慎が解けたら挙げればいいだけの話でゲコ。それよりもお主 1人で行く気でゲコか?」
「あぁ。百竜夜行が収束してもモンスターが出てくる可能性があるからな。流石に姉さん達には残ってもらう」
そう言いながらゲンジは荷物を背負う。エスラ達も行くと言っていたのだが、百竜夜行が収束したとしてもモンスターが現れる可能性がゼロになったという訳ではない。トゥーク達もいつまでも滞在している訳でもない。彼らもユクモ村が心配な為に夜には帰ってしまうらしい。
もしも現れた際は対処出来ないために彼女達には残ってもらう様になったのだ。
「だが流石にお前1人じゃ危険すぎる。先のトラウマもあるからな。だから2人ほど付き添いを用意したぞ」
「…は?」
エスラはそう言いながら後ろに目を向ける。
すると
「お待たせしました〜」
「おぉ。丁度いいタイミングだな」
その軽快な声と共に人混みを掻き分けながら弓とランスを背負った2人の女性が現れた。それは何とヒノエとミノトであった。
「はぁぁ!?何で二人が!?」
「付き添いと言っただろ?お前1人だと村の奴らから何をされるか分からん。だからハンターではないギルド関係者かつ、腕の立つ2人に同行を頼んだのだ」
そう言いエスラはフンと鼻息を放つ。本来の彼女ならばヒノエとミノトを押し除けゲンジを独り占めするべく自身が立候補する筈だ。だが、エスラはここしばらく外に出ていないヒノエとミノトを気に掛け、これを良い機会と見て2人に同行を頼んだのだ。もちろん、ゲンジの身も案じてだ。
「義姉さん大好きです!」
「一生ついていきます!」
久しぶりの遠出に2人はウキウキとしておりエスラに抱き着いていた。
「いや…里と集会所の受付はどうするんだ!?」
「そこはゴコク殿が代わりに行うから心配するな」
そう言われたゴコクはピースサインを送る。まさかのヒノエとミノトの同行にゲンジは驚く上に納得がいかなかった。
「いくらなんでも…下手すれば野宿する可能性だって…」
「ご心配なさらずとも、狩猟の知識も心得ております。貴方には迷惑を掛けませんよ」
そう言いヒノエとミノトは瞳をキラキラさせながらグングン前に迫ってくる。
だが、それでもゲンジは2人の同行を許すことが出来なかった。
「だとしても俺1人でだいじょ__んぐ!?」
その瞬間
拒否の声をあげようとしたゲンジの口をニコニコと笑みを浮かべたヒノエの手が掴むようにして塞いだ。
「私達にまた寂しい思いをさせるつもりですか?」
「もしくは…私達とは一緒にいたくないと…?」
「いや…そう言うわけじゃ…」
ヒノエは相変わらずニコニコと笑っているがその目は笑っておらず、ミノトに至っては目を血走らせており露骨に怒りを見せていた。
そして2人はゲンジの返答を待つ事なくグイグイと顔を近づける。
「旦那様が旅先で妙な女性に誘われないか私達は心配なんですよ…?」
「それ全く関係ねぇだろ!?」
「別に私とミノトが行って何かご迷惑なことでもあるのですか?あるのですか?ねぇ___あ・る・の・で・す・か・?」
迫り来るヒノエの超強烈な圧に耐えきれず、押し負けてしまったゲンジはアッサリと首を横に振る。
「………ありません…」
「では決定ですね♪」
その様子を見ていた里の皆は爆笑しており、次々と『女房に負けてるぞ〜!』や『だらしねぇな!』という野次が飛んでくる。
その後、ヒノエ、ミノト、ゲンジは荷物を乗せてロックラック行きの荷車に乗り込んだ。
「では、行ってまいります」
「あぁ2人ともゲンジを頼んだぞ」
「悪い虫がつかないようにね」
「「はい!!」」
エスラとシャーラの言葉に2人は笑顔で声を揃えながら頷く。
「お前もしっかりとお嫁さんを守るんだぞ」
「分かってる!」
エスラに余計なお世話だ!と言いながらゲンジも頷いた。
「では出発しますニャ〜!」
その言葉とともにアイルーの手綱を引く音が鳴ると荷車を引くポポが声を上げた。
「いってらっしゃ〜い!!!」
ヨモギの軽快な声に加えて手を振る皆にヒノエとミノトも手を振り返した。
依頼を受ける為に一時的に生まれ故郷に戻るべくゲンジとヒノエ、ミノトの3人はカムラの里を発った。
「これ…新婚旅行じゃね?」
「「「「「「確かに」」」」」」
セイハクのふと漏らした言葉に皆は頷く。