薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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洗脳された薄明

「俺は…ここに残る。お前と結婚する…」

 

静かに言い放たれたその言葉にヒノエとミノトは驚きのあまり言葉を発する事ができなかった。

その一方で、その言葉を聞いたモモカは笑みを浮かべると酒の入った茶碗を差し出した。

 

「あらあら。ようやくその気になってくれたのですね。モモカは嬉しゅうございます♪」

 

差し出された酒をゲンジは受け取ると苦手であるにも関わらず口内に流し込んだ。

 

「ちょっと待ってください…」

その様子を見たミノトは眉間に皺を寄せながら立ち上がった。

 

「貴方…ゲンジの料理に何を混ぜたのですか!?」

 

鋭い琥珀色の瞳をモモカへと向けるとモモカは口元に手を当てながら笑みを浮かべた。

 

「何も入れてなどございませんよ?」

 

「嘘をつかないでください…!!ゲンジの様子が明らかにおかしいじゃないですかッ!!」

 

ミノトは憤慨しながら立ち上がるとゲンジの頬を掴むと目を合わせた。

 

「ゲンジ!!私を見てください!!」

 

「…」

蒼く輝く瞳に向けてミノトは自身の瞳を向けると必死に呼びかけた。

だが、その声を聞いてもゲンジは口を開き返事をする事も答える事も無かった。

 

「ゲンジ!ゲンジ!!」

 

「やめてくださいまし。私のゲンジ様に何をするのですか?」

 

ミノトが必死に呼び掛けていると、モモカがその手からゲンジを取り上げる。

 

「貴方のゲンジ…だと…!?」

 

「えぇそうですよ。だってこの方本人が仰ったじゃありませんか。『私と結婚する』…と。それに…」

 

モモカの桃色に染まった目が向けられた。その目はゲンジとの関係性を調べんかの様に全身を隈なく見つめていた。

 

「貴方は先程からヤケにゲンジ様に突っかかってきますが、貴方方とゲンジ様は何か特別なご関係でもあるのですか?」

 

「…!!」

問われたミノトは怒りを募らせながら答えようとした。自身らはゲンジと婚約者であると。

 

 

「私達は…ゲンジの…!!___「ミノト」

 

その時だった。ヒノエの手が静かに肩に置かれた。ミノトは即座に答える事を止めると後ろを振り向く。見るとヒノエは悲しい表情を浮かべながら首を横に振っていた。

 

「姉様…」

 

「…気持ちは分かりますが…抑えて」

 

ヒノエのその表情と言葉からミノトは気持ちを抑え込み冷静になると、ゲンジから言われた事を思い出した。

 

“絶対に関係を口にするな”

 

狩りに向かう中ゲンジから言われた言葉だ。もしも今ここで婚約者だと言えば自身らも無事では済まないだろう。そうなればゲンジの注意が無駄になる上に、ゲンジも人質にされる可能性がある。

 

「…」

ミノトはヒノエの言葉に従うと必死に気持ちを抑え込み答えた。

 

「ただの友達です…」

 

「あらそうなのですか。申し訳ありませんね」

 

ミノトの答えに納得するとモモカはゲンジの手を取り立ち上がる。

 

「ではお食事の後は別の部屋でお話を。お父様。お二人を宿に案内してあげてください」

 

それだけ言い残すとモモカはゲンジを連れて出て行ってしまった。

ミノトは後を追いたい気持ちに駆られてしまうが必死になって押さえ込んだ。

 

「ミノト…辛いけど我慢よ…」

 

「…はい…」

 

ミノトは頷く。ミノト自身も理解していたのだ。辛いのは自分だけではなくヒノエもだ__と。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ゲンジを連れたモモカは村長宅とは別の家屋の中にゲンジを招き入れると、中にある椅子に腰を掛け、向かい合うようにして座った。

 

「貴方は私の婚約者。この村に帰ってきたハンター。あの二人は友達ではなくただの他人__」

 

目の前に座るゲンジの両頬を両手で挟みながら次々と言葉を掛けていく。それに続く様にゲンジはその言葉を繰り返した。

 

「俺は_貴方の婚約者…帰ってきたハンター…あの二人はただの他人…」

 

「そう…よく言えました__♡」

 

 

その瞬間

 

 

ゲンジの頬が歪むと共に床に倒れた。

 

「ご褒美にたくさんお仕置きしてあげる♪」

 

その様子を見ながら笑みを浮かべたモモカは無理やり髪の毛を掴み倒れているゲンジの顔を起き上がらせると、何度も何度もその顔へ向けて拳を放った。

 

「アハハ凄い凄い♪全然反撃してくる様子もない!これが“センノウカ”の効果なのね♪」

 

誰もいない部屋の中で次々と鈍い音が響き、遂にはその顔面は鼻から滲みでた鼻血に塗れてしまった。

 

「う〜わ。汚な」

自身の手に付着したゲンジの血を見るとモモカは気味悪がる様に、掴んでいた髪を離し付着した血を辺りに塗りつける様にして拭き取る。

 

 

「じゃあね。明日、あの二人が帰った後…もっとお仕置きしてあげるからね?“モンスター”」

それだけ言い残すと血のついた手を拭き取ったモモカは床に倒れるゲンジを残したまま、その家を出て行った。

 

ドアの閉まる音と共に灯りも家具もない。ただ埃まみれの家の中にただ一人ゲンジは取り残された。倒れてもなおその瞳は蒼く輝いていた。

 

 

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