薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「…は…!?全部演技!?」
「そうだ」
モモカの問いにゲンジは笑みを解き元の表情に戻ると真相を語り始めた。
「狩場で摘まれた跡を見つけてからどうもクサくてな。センノウカの効果が適用されるのは花粉を嗅ぐ、もしくは花や茎を摂取するこの二つのみ。だから俺は村に帰った時からずっと警戒していたのさ。特に食事の時はな。まぁ案の定、スープに染み込んでたな」
「な…!!」
実際にスープに染み込ませていたのか、それを聞いたモモカは更に驚く。
「ス…スープに入れたって…どうやって気づいたんだよ!?」
「言っただろ?嗅覚が発達してるからスープに入れた毒物の判別なんて簡単だと。センノウカの匂いは独特だからすぐに分かった」
「じゃ…じゃあ洗脳はどうやって切り抜けたんだよ!?お前全部ガブ飲みしてたじゃねぇか!」
「ハッ!!それについても簡単さ」
まるでエスラのような笑い声を上げながらゲンジはセンノウカの摂取時の状態についても語り出した。それは昔の地震の記憶と共に吐き出すかように。
「ハンターになってから死を覚悟する危機的状況に立たされ、俺は何度もパニックになった。その時に必ず俺は自分を落ち着かせる為に精神統一を行なっていた。もちろん“コイツ”を抑える時もな。それが日常動作になって鍛え上げられたからセンノウカの花粉や茎なんざ通用しねぇんだよ」
そう言いゲンジは人差し指で自身の頭をつついた。ヒノエとミノトは理解している一方で村の人々は何なのかは理解できていなかった。
そんな中、ゲンジに殴り飛ばされ、起き上がったテイラはある事を問い掛ける。
「じゃ…じゃあ何でお前…わざわざ洗脳された振りをしたんだよ…!?」
それは辺りで聞いていた者達も同じように思っているだろう。食事を出された時点で看破していればそのまま食べなくて良かったものの、なぜ、アッサリと食べ、朝まで持ち越したのか。彼には何の利益もない筈だ。
それについてもゲンジは答えた。
「俺には効かないと分かればお前らはこの二人に目をつけるだろ?流石の俺もこの二人が洗脳されれば簡単には動けない。かと言って村から出て行こうとしても夜は真っ暗で危険だ。そう簡単には出られん。だから俺は自分が洗脳されればこの二人にお前らの目が向けられなくなると考えた。二人のスープからはセンノウカの匂いはしなかったからお前らの目的は俺だと看破できたからな。だから俺はワザと掛かったのさ」
「「「…!!!」」」
最初から全て見破られていた事を知った村の皆はゲンジの咄嗟の起点にも驚き、何も口に出すことができなくなった。
「何でワザワザそこまで…まるで後ろの二人を守ってるみたいじゃない…その二人とどんな関係があるっての…?」
「別にただの同行者だよ。同行者の安全第一なのは当たり前だろ?」
モモカから二人の関係を問われたゲンジは淡々と答えていく。仮に二人にの食事にも混ぜ込まれていたら、ゲンジは自身を抑えきれなかっただろう。
「(まぁ、二人の飯に混ぜてたら速攻で殺していたけどな…)」
それだけ心に呟くとゲンジは見渡す様にして辺りにいる村の皆へと目を向けると溜め込んでいた自身の思いを吐き出す。
「それよりもよかったよ。最後まで救いようのねぇ奴らだと分かってな」
目を鋭くさせながら血のこびり付いた口元を親指で拭い、動揺しているモモカや村の人々に決別の思いを込めた目を向ける。
「これでもう情が湧かなくなる」
「く…!!」
『…』
対してゲンジの言葉を聞いたモモカは自身の作戦が全て最初から破綻し利用されていた事をようやく理解し歯を軋ませる。その他の村の皆も唇を噛みながらゲンジから目を逸らす。
その一方でゲンジはゆっくりと歩き出す。
「じゃあな。もう二度と俺に関わるな。そしてその顔を見せるな」
◇◇◇◇◇
ゲンジは立ち尽くすモモカに吐き捨てながら横を通り過ぎ、後ろに立っていたヒノエとミノトの元へと歩み寄ると頭を下げた。
「二人ともすまなかったな…心配掛けて」
「いえいえ」
ゲンジからの謝罪の言葉にヒノエとミノトは首を横に振ると頭を撫でた。
「ご無事で何よりです。戻ってきてくれて安心しました…ん?」
そんな中 ゲンジの頭を撫でていたヒノエはふと顔を見て撫でる手を止めた。
「…ゲンジ…その顔の傷は…?」
「誰にやられたのですか…?」
見ればゲンジの顔にはいくつもの痣が出来上がっていた。右目付近は晴れており、口元には唇が切れた際に流れたと思わしに血痕も付着していた。
その顔の傷を見た途端にヒノエとミノトは表情を一変させながらゲンジの両肩を掴み問いかけた。
「モモカにやられたよ…。洗脳できたかどうか試すつもりだったか知らねぇが、あの後、別の家屋に連れ込まれて何発か殴られた。まぁ痛くは無かったがな」
「…そうですか…」
ゲンジが答えるとヒノエは頷きミノトは肩を強く掴んだまま、目の前で立ちすくんでいるモモカへと目を向けた。
不審に思ったゲンジは即座に二人に尋ねる。
「何をする気だ?」
「少し制裁を…。彼女達は一度、痛い目を見るべきです」
そう言いながら目を鋭くさせているヒノエはいつもの温厚な姿が完全に消え去り、ミノトと共に頬から筋が湧き立たせながらモモカへと向かおうとしていた。
ゲンジは即座に二人の手を掴む。
「やめろ。俺は気にしてないと言ってるだろ。早く帰るぞ」
「ですが…」
「あれほど馬鹿にされればいくら私達でも…!!」
「いいんだ」
モモカへと向かおうとするヒノエとミノトにゲンジは頬を緩めながら軽い笑みを浮かべた。
「早く帰ろう。皆が待ってる」
「「……わかりました」」
二人は頷くとゲンジの手を取り、帰りのアイルー便の待つ村の入り口へと向かおうとした。
だが、モモカはそれを許さなかった。
「おい待てよ…!!」
「あ?」
その鋭く怒気の混じった声を聞いたゲンジは振り返ると二人の前に出る。
「お前私達を見捨てるのか!?」
それに続くようにしてテイラも前に出る。
「頼むよゲンジ!俺たちはここを離れる訳にはいかねぇんだよ!!だから残って俺達を助けてくれよ!な!?_
____俺達の仲だろ!?」
「…ッ!!!」
テイラの放った言葉を聞いた瞬間 ゲンジの頭の中に自身を罵る二人の姿が思い返され、怒りを募らせていく。こんな時にだけ『俺達の仲』という都合の良い御託を並べるテイラに対しゲンジはもう殺意すらも覚え始めていたのだ。
一方で、テイラに続き、辺りにいる村の皆も次々と声を上げてくる。
「そうだよゲンジ!昔 よく遊んだだろ!?」
「友達のよしみで頼むよ!」
「こっちはもうすぐ子供も産まれそうなんだよ!!」
村の人々はゲンジを引き止めようと次々と言葉を投げ掛けてくる。中には妊娠している妻を出してくる者もいた。次々と都合の良い言葉を投げ掛けてくる昔馴染みの村の人々にゲンジは更に腹を立てていく。
「…」
だが、それでもゲンジは怒りを表面化させる事はなかった。それは彼の心の中に僅かながら慈悲が残っていたからだ。彼や彼女がいなければ自身はずっと独りである事は間違いなかった。
故にゲンジは彼らに対する情が無くなった今、怒りをぶつけることはなくただ首を横に振った。
「ダメだ。俺はもうここの住人じゃねぇんだ。だから__」
その瞬間
「ゴハァ!?」
その場に鈍い音が響き渡ると共にゲンジの身体が頭からよろけながらヒノエとミノトのいる場所へと千鳥足で下がっていった。
「「ゲンジ!!」」
目の前にフラフラと倒れる様にしてよろけながら下がってきたゲンジをヒノエは即座に受け止める様にして支える。
「…!!」
見ると殴られたと思わしき頬は赤く染まっており、その拍子に口内を切ってしまったのか、口からは血が出ていた。
「ふざけんなよコラァ…!!」
その声が聞こえた方向にヒノエとミノトは目を向けた。そこには歯を軋ませながら拳を突き出しているモモカの姿があった。その顔はもう可憐とは言えるものではなくなっており、醜悪に満ちたモノへと歪み変化していた。
モモカはヒノエとミノトに支えられているゲンジへと目を向けた。
「モモカ…さすがにそこまで…」
「黙ってろテイラ。おいお前…誰のお陰で友達が作れたと思ってんだ!?」
その場にモモカのとてつもない怒声が響き渡った。
「故郷への“恩返し”として手と足になるのは当然の事だろうが!!テメェに居場所を作ってやろうとしてんのに何だよその態度は!!ふざけんじゃねぇぞ!この人間でも竜人族でもねぇ___
______『紛い者』がッ!!!」
「…!!」
その言葉が響き渡った瞬間 ヒノエに支えられていたゲンジの目が大きく開くと同時に心の中に雷の如く響き渡ると顔を俯かせた。
「紛い……者…」
自身に言い放たれたその言葉を口にしたゲンジ。その言葉は彼に自身の禍々しい姿へと変貌した時の容姿を思い返させていった。
一方でモモカは自暴自棄になりながら次々とゲンジを冒涜するかのような言葉を吐き出していった。
「テメェに裂いた私の時間を返せよ!ここまでの作戦の為にどれだけ時間使ったと思ってんだよ!テメェの汚らしい身体に触るのもどれだけ苦労したと思ってんだぁ!!!」
次々とモモカの口から吐き出されていく罵詈雑言。それはゲンジに容姿だけでなく忌まわしき少年時代の記憶さえも思い返させていった。
「…紛い物…汚らしい…」
俯きながら地面を見つめるその目からは涙が流れ出ていた。ゲンジにとってその言葉は自身の心の中にある傷跡を抉り開かせるのに十分であった。それによってゲンジの押さえ込まれていた怒りも外へと溢れ出そうとしていた。
「テメェ…」
遂に我慢の限界へと達し、怒りを表面化させたゲンジの声が静かに響き渡った。
その時だった。
_____「ガハァ…ッ!!!」
先程よりも巨大な鈍い音がモモカの声と共に響き渡る。見るとモモカの顔面に向けて拳が突き刺さり、そのままモモカの身体を後ろに吹き飛ばしていった。
ゲンジ達から2メートル程離れた場所へとバウンドしながら倒れたモモカ。鼻は折れ、歯も何本が砕けちり、夥しいほどの鼻血が流出していた。
目の前にはその醜悪に満ちた顔を拳を握り締めながら見下ろす影があった。
「いい加減にしろ…!!」
その場に鋭い女性の声が響き渡る。
それはゲンジにとってとても馴染みのある声であり、ヒノエに支えられながらその声を聞いたゲンジは驚いていた。
目の前に立つ影を見ながらゲンジはゆっくりと言葉を漏らした。
「ミノト…姉さん…」
そこに立っていたのは琥珀色の瞳を更に輝かせながらも頬から筋を隆起させ、全身に怒りのオーラを纏っているミノトだった。
ミノトは釣り上がっている目を更に細めると倒れているモモカや他の皆へとその鋭い目を向けた。
「先程から大人しく聞いていれば都合の良いことを次々と…挙句の果てに貴様らの為に身を削ったゲンジを殴るだと…!?もうこちらの我慢も限界だ…ッ!!!」