薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「ハァ…ハァ…ハァ…!!」
モモカを殴り飛ばした右手を震わせているミノトは荒い息を吐くと共に怒りに満ちた琥珀色の瞳を倒れ臥すモモカへ向けていた。
「ひ…ヒィ…!?」
ミノトのその鋭い視線に殴り飛ばされたモモカはもちろん、辺りの村の皆も恐ろしさのあまり、一歩後ろへと下がった。
だが、ミノトはそれを逃さなかった。
「貴様…ゲンジが紛い物だと…?」
モモカを睨むミノトの目からは怒りと共に涙が溢れていた。ミノトの脳裏には不器用ながらも優しく、身を犠牲にしながらも里を何度も救った救った姿と過去のトラウマを思い出し身を震わせる姿が浮かび上がる。
「くぅ…!!ふざけるなッ!!!」
「ガハァ…!?」
ミノトは背負っていたランスを地面に下ろすと倒れるモモカの首を掴み、叫びながら再び拳をモモカの顔面へと放つ。鈍い音と共にモモカの顔面に拳が撃ち込まれると鼻血が飛び散り、辺りにはその際に折れた歯が散らばっていった。
「彼は紛い物ではない!!人間だ!!そして何度も何度も私達や里を救ってくれた英雄だッ!!何も見ていない貴様が知った様な口を聞くなッ!!!」
ミノトは涙を流すと共に次々と訴えながら拳をモモカへと打ち込んだいく。拳が打ち込まれていくモモカの顔は次々とと歪んでいき、端正な鼻は折れ、歯は砕け散っていった。
「や…やめてくれ…わしの娘を…!!おい!誰か止めてくれ!」
村長の声は皆に届こうとも、ミノトの激昂した姿に気圧され誰一人として動く事はなかった。
◇◇◇◇◇◇
その様子を見ていたゲンジは驚き、一瞬ながらも身体を震わせていた。いつもは物静かなミノトがあれ程まで激昂した姿は見た事がなかったのだ。その姿は正に凶暴化したモンスターそのものであり、一心不乱にモモカを殴りつけていた。
拳が打ち付けられているモモカからは次々と悲痛な声が聞こえてくる。
「ミノト姉さん…!だめだ!」
ゲンジは即座に立ち上がり、ミノトを止めるべく向かおうと脚を進めた。
「待ってください」
すると、ヒノエがゲンジの肩を掴む様にしてその動きを止めた。
「ミノトだって加減くらいは分かっています。だから見守りましょう」
「…」
ヒノエに制されたゲンジは見た事がない程まで激昂し、モモカを殴りつけるミノトの姿をただ見つめていた。
そして それを見つめるヒノエの頬にもミノトと同じく血管が浮き出ていた。
◇◇◇◇◇◇
ミノトの拳は遂に彼女の鼻血や口血に染まっていた。その拳を打ち付けられているモモカの顔も先程まであった中性的な面影はどこにもない程まで歪んでおり、まるで心を具現化したかの様な有り様となった。
「ふぅ…!ふぅ…!ふぅ…!」
ミノトはその顔を見つめながら打ち付けようとした拳を止めた。
すると
「お…おい!!もうやめてくれよ!!」
先程まで立ち尽くしていた村の一人が声を上げる。それに続く様に次々と声が上がってきた。
「これ以上やったら死んじまう!!」
「そうだよ!何もそこまでする必要ないだろ!?」
村人達の止める事を願う声が聞こえた瞬間__。
___「黙れッ!!!」
ミノトの叫び声が響き渡る。モモカを殴る手を止め、馬乗りから立ち上がると鋭い目を村人達へと向けた。
「別に殺める気など毛頭無いので御安心を…。それよりも自分達が何をしたか分かっていないのですか…?貴方達の為に身を削ったゲンジに対し…誰一人として御礼を言わない上に彼を騙し…毒を持ったのですよ…?おかしいと思わないのですかッ!!」
「そ…それは…」
「うぅ…」
「…ぐぅ…」
ミノトの怒りの問い掛けに村人達はそう思っていたのか、何も言えずに黙り込んだ。そしてミノトは更に続ける。
「それにゲンジから聞きました。幼い頃からゲンジと共にいた貴方達は彼の身体が変わった途端に蔑み始めたと…。先程からゲンジを罵るこの女性の口振りからして完全なる真実の様ですね…!」
それに対して皆は思い当たる節があるのか、口元を震わせていた。黙り込む彼らを見たミノトは額に青筋を浮かべながら問い掛けた。
「何故…誰も事情を聞かなかったのですか…?何故…誰も話を聞いてあげなかったのですか…?一人一人が“堅い絆で結ばれた家族”ではなかったのですか…?」
「「「「…」」」」
その問いかけに対し辺りの村の人々は冷や汗を流しながら答える様子はなく、還暦を過ぎている者達は目を逸らしていった。
その中で、ゲンジと交流があった者達は思い当たる節があるのか、言い訳の様な言葉を細々と溢していった。
「そ…それは…」
「俺たち…子供だったから…」
「確かに子供ならば奇妙な物を見て恐れるのは無理もないでしょう…。では…なぜ誰一人として今のゲンジに謝罪の言葉はないのですか…?この村に入ってから聞こえてくるのは『昔のよしみ』『友達』『家族』……どれも都合の良い物ばかり…ッ!!挙句の果てに料理に毒物を盛り付け彼を洗脳しようと画策…」
ミノトは再び怒りの目を辺りの者へと向けると自身の心の思いを叫ぶ。
「ハッキリと言わせてもらいます…。貴様らは“腐っている”ッ!!!貴様らの所為でゲンジがどれ程苦しめられてきたのか分かっているのですか!?」
『『『…!』』』
ミノトの叫んだその思いは再び村中へと響き渡り、先程まで細々と声を上げていた村人達は驚きながら静まり返った。
その様子を見ていたミノトは遂に怒りが口調にも浸透し荒々しいモノへと変貌する。
「身体の形が少し違うだけで一人の小さな子供を多人数で蔑み…罵倒した挙句、追い詰める__。たとえエスラさんやシャーラがいたとしても…下手をすればこの子は自ら命を絶っていたかもしれないんですよ…!?」
そして ミノトは腹に力を込めながら心の奥底にある思いを叫んだ。
「小さい頃から誰も寄り添わず蔑むことしかできなかった上に謝罪もできない貴様らが……今さら彼の『友達』を名乗るなッ!!絆を語るなッ!!_____
_________『家族』を名乗るなッ!!!」
『『『…ッ!!』』』
ミノトの心の底から思いを訴えるその叫び声は村全体に響き渡ると共に背後にある森の木々を揺らしていった。
その叫び声に村の皆は驚きのあまり何も言い返す事ができなくなると共に硬直してしまった。
「ミノト姉さん…」
ミノトの言葉を後ろで聞いていたゲンジは涙を流していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
辺りが鎮まり返る中、思いを心の底から叫んだミノトは連続して叫んだ為に息を切らし始めた。
それを見ていたヒノエはゲンジの横を通り過ぎるとミノトの元に向かい息をつく肩に手を置いた。
「……ミノトお疲れ様です。もういいでしょう」
「はい…姉様。ですが、最後に一つだけ…」
ヒノエの指示にミノトは頷きながらも、立て掛けてあるランスを再び背中に背負う前にヒノエの横に立ちすくむゲンジに目を向けた。
「…」
「…え…?んぐ!?」
するとミノトは突然ゲンジの身体を胸に抱き寄せた。何の前触れもなく抱きしめられた事でゲンジは驚きのあまり固まってしまう。
その一方で、ミノトはゲンジを抱き締めながら硬直している村の人々へと目を向けた。
「ゲンジはもう貴様らの家族ではない。私達の家族だッ!!二度と彼に近寄るなッ!!!」
ミノトの叫び声が再び村全体に響き渡る。その叫びを聞いた村の皆はもう言い返す言葉がないのか、黙り込み、モモカを介抱しながら俯いていった。
「ふぅ…」
最後の言葉を叫んだミノトは息を吐くと、抱き締めていたゲンジとヒノエに振り返る。
「スッキリしました。では帰りましょう。ゲンジ、姉様」
「えぇ」
ミノトは抱き締めていたゲンジを離すと満面な笑みを浮かべたヒノエと共にそれぞれゲンジの手を握る。
「さぁゲンジ」
「行きましょう」
手を握る二人の笑みにゲンジは流れる涙を拭い、笑みを浮かべると頷いた。
「…あぁ!」
ヒノエとミノトと共に手を繋ぎながらゲンジは共に歩み出し、過去を振り切るかの様に村の皆へと背を向けながら入り口へと歩き始めた。
その時だ。
「お…おいお前!」
突然後ろからテイラの呼び止める声が聞こえてきた。だが、3人はそれに対して振り向く様な事はしなかった。ゲンジが振り向こうとしてもミノトやヒノエがさせなかった。
それでも尚も彼の呼び止める声が聞こえてきた。
「待てよおい!モモカをこんな姿にした責任はどう取るっていんだよぉ!?」
そう言いテイラはゲンジ達の後を追いかけてくる。が、それでも3人は止まる様子はなかった。
「おい!聞いてんのか!?」
とうとう追いついたテイラはモモカを殴り飛ばしたミノトの肩に手を置いた。
その瞬間__。
「ボボゲェ!?」
テイラの身体が突然、脆い音と共に後ろへと吹き飛んだ。その姿を見ていた村の人々は突然とテイラが吹き飛んできた事により驚きを隠さなかった。
地面に叩きつけられる様に数回バウンドしながら倒れたその顔は深く歪み、口内からは血と共に折れた歯がこぼれ落ちていた。
「お…おいテイラ!」
「しっかりしろ!!」
「お…おいおい!顔が変形しちまってるぞ!?」
皆は吹き飛ばされたテイラを揺さぶる。意識はあり、命に別状はないものの、歯が砕けている上に顎も若干ながらズレていた。
「私の可愛い妹に触らないでくれますか?」
その声が聞こえてきた方向へと皆は目を向ける。
そこには右拳を握り締めながら全身からオーラを放つヒノエの姿があった。テイラを吹き飛ばしたのはヒノエの拳から放たれたストレートパンチであった。
「貴方の事も全てゲンジから聞きましたよ。それに、モモカさんと共謀していた事も。これほど腹が立った事はありません」
ヒノエは丁寧な口調で拳を収めると、先程の優しい表情から一変し、まるで“ゴミ”を見るかの様な冷徹な眼差しをテイラ達に向け静かに言い放った。
「いいですか?もしまた私のゲンジだけでなく…ミノトに触れでもしたら…
____その手足へし折りますからね」
『『『『…!!』』』』
テイラを介抱した村人全員の背筋が凍りついた。ヒノエの身体からは先程のミノトよりも比べ物にならない程の強大な殺気が溢れていたのだ。
「では、失礼します」
誰も言い返してくる様子がなく、辺りが沈黙に包まれるとヒノエは再び笑みを浮かべ、辺りに撒き散らした殺気を身に収めるとそれだけ言い捨てた。
その軽い一礼と共にヒノエは再び村へと背を向けるとゲンジの手を取り、村の入り口へと歩いていった。
後ろに残り、二人を介抱していた村の皆はその姿を追いかける事ができず、ただ見つめる事しか出来なかった。