薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
ある冬の日。
その日も空は薄く灰色の雲に覆われており、里には寒冷群島から運ばれた寒い風が吹いていた。
その日の正午過ぎ。お昼休みが終わり、皆が仕事に戻りゆく姿が目立つ頃、集会所にてマフラーを巻き羽織りを纏ったミノトだけでなく、ヒノエも書類の処理を行っていた。
2人は完璧なコンビネーションで次々と積まれた書類を片付けていく。大型モンスターの狩猟依頼は結婚式以降は全く届けられておらず、来るのは小型モンスターの討伐、もしくは採取程度である。
そんな中、書類を整理していたミノトはある不信感を抱いていた。
「えぇとこれは…ゴホン…!」
見ればミノトの横で作業を行っていたヒノエの動きが少しながら不自然であったのだ。顔を真っ赤にし、身体を時折ふらつかせており、咳もたまに吐いていた。
それを見たミノトは即座にヒノエに声を掛けた。
「姉様…体調がすぐれない様でしたら無理せず休んでください」
「大丈夫よミノト…ゴホンゴホン!これくらい!」
声を掛けられたヒノエは手を振りながらも更に咳を吐いた。ミノトから注意されようとも、耳に入れないヒノエの様子を集会所の中心で見守っていたゴコクも遂に痺れを切らした。
「これこれヒノエよ。ミノトの言う通りにせんか。お主最近働きすぎでゲコよ?」
「そうです!それに姉様が無理をしてもしも倒れてしまったら、私達だけでなく旦那様も悲しんでしまいます!」
「……」
ゴコクとミノトの注意が響くと、ヒノエはようやく聞き入れたのか、その手を止めた。
「確かに皆に心配を掛けさせてしまっては元も子もありませんね。すいません…では、お言葉に甘えさせていただきます…」
そう言いヒノエは最後の書類を片付けると、カウンターを出た。
すると
「あ…れ…」
ヒノエの身体が再びふらつくと共に前のめりになると、そのままゆっくりと地面に倒れた。
「姉様!」
「ヒノエ!」
◇◇◇◇◇◇
ヒノエが倒れた話は瞬く間に里中に知れ渡った。それは修練場で修行をしていたゲンジ達の方にも届き、彼らはその知らせを聞いた途端、猛スピードで引き返していった。
バタン!
自宅へと戻ったゲンジは扉を乱暴に開くと、飛び込んだ。
「ヒノエ姉さん!?大丈夫か!?」
「しー!!声が大きいですよ…!」
「す…すまん…」
飛び込んだ途端にミノトから注意を受けたゲンジは落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと畳に上がる。
「ゼンチさんによると、仕事のお疲れと風邪との事です…。命に別状はありません」
「そうか…良かった…」
ミノトからヒノエの無事を伝えられたゲンジは安堵の域をつくと、眠る彼女を見つめた。
「ゆっくりと休めば治るとの事なので安心してください。エスラさん達は?」
「あぁ。栄養ドリンクや食材を買ってくるって。それよりも意外だな…ミノト姉さんならもうパニックになってるかと思ってたんだが…」
「倒れた当初はもちろん驚きましたよ。ですが、先程一度目覚められたので安心しました」
「そうか」
ゲンジはミノトの説明に納得すると、立ち上がる。
「じゃあ夕飯でも作ってやるか。ちょっと手伝ってくれ」
「もちろんです!」
それからゲンジはミノトと共に台所に立つと夕飯の支度を始めた。ミノトが食材を次々と鍋で煮ている中、ゲンジは釜に火を灯し、棒で息を吹きかけて火の勢いを上げていた。
「先程の慌てよう…もしかして私の時もあれほど慌てていたのですか?」
「そ…そうだよ…」
ミノトに尋ねられたゲンジは顔を赤くしながらも答えた。その様子を見たミノトは口に手を当て笑みを溢すと、ゲンジの頭を撫でる。
「よしよし。可愛いですね」
「やめろ!それに心配するのは……その…当たり前…だろ…」
「……抱き締めてスリスリしてもいいですか?」
「夕飯作ってるんだよな!?」
そんなやり取りをしながらも、2人は料理を続けた。部屋にはミノトが刻んだ食材が入れられた鍋が熱により沸騰し、釜がコトコトと鳴る音が響く。
そんな時だった。ミノトは何かを思い出す。
「ん?人参とじゃがいもが無いですね。ちょっと買い出しに行ってきます。姉様が起きたら布団から離れないよう見張っておいてくださいね」
「分かった」
ミノトは火を消すと、出掛けて行った。
その様子を見送ったゲンジは火を見る必要がないと見て、ヒノエの眠る布団に腰を下ろし、その寝顔を見つめた。
「はぁ…ミノト姉さんもそうだけど…本当に2人は似てるな…」
前もミノトが風邪を拗らし、寝込んだ時も同じであった。彼女もヒノエと同じく無理をして、結局、オーバーワークで倒れてしまったのだ。
「はぁ…」
なぜ、こうもこの姉妹は無理をするのか。それに対して呆れるように再び溜息をつく。
すると
ガラガラガラ
入り口が開く音が聞こえた。ミノト達が帰ってきたのかと思い、振り向くとそこにはミノトではなく、ガルクに乗ったヨモギとイオリがいた。
「「お邪魔しま〜す」」
「お前らか。どうした?」
「ヒノエさんが倒れたって聞いたからお見舞いに来たんだ。どう?」
ヨモギにヒノエの状態を尋ねられたゲンジは今の状態を伝えた。
「さっき一回起きたらしいから大丈夫だ。今はよく眠ってる」
「よかった〜…あ、そうだ」
ヒノエの無事に安堵の息をつきながら胸を撫で下ろしたヨモギは懐から1人前のウサ団子を取り出した。
「これヒノエさんに渡しておいて。お金はいらないから」
「それと、これはコミツちゃんから」
イオリはガルクが咥えていたバスケットを手渡してきた。その中身は薄々感じていたが、やはりリンゴであった。
「悪いな。わざわざ来てもらって」
「いえいえ。それよりも新婚生活はどうですか?」
「毎日 エッ○してるんだよね!?」
「デケェ声でやめろ!」
イオリとヨモギから尋ねられたゲンジは頬をポリポリと掻く。見れば2人は目をキラキラとさせていた。そこまで興味があると話さないのは悪いと思ってしまい、渋々ながらも話した。
「まぁ…楽しい。賑やかだし寂しくないからな。それとヨモギの質問にはノーコメントだ!」
「えぇ〜」
それからゲンジはここ1ヶ月間の新婚生活の内容を簡潔に2人に話し出した。いずれ通るであろう道に2人はその話を興味津々に聞いていた。
「2人と結ばれて幸せ?」
「あ…当たり前だろ…。退屈しないし…いると癒されるし…飯も美味いし……あと…」
ゲンジがヨモギの質問に対して答えると共に次々とヒノエとミノトを賞賛し始めていった事でヨモギとイオリは驚いてしまった。
「「(すごい褒めてる…)」」
ーーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
そして、話を終えるとイオリとヨモギは手を振りながら帰っていった。
「じゃあね〜!」
「また今度〜!」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
その姿を見送ったゲンジは扉を閉めて、再び居間に上がった。囲炉裏にくめられた火が燃え尽きようとしているためにゲンジは近くに積んである薪を持ってくると、消えかけている炎にくめて再び火をつけた。
すると
「……んん…」
「!?」
火がパチパチと音を立てる音と共に寝ているヒノエが唸り声を上げながらゆっくりと目を覚ました。
「ふわぁ…よく寝ました…。あ、おはようございます。旦那様」
「…」
まるで一眠り終えたかのように軽く済ませるヒノエにゲンジは青筋を浮かべると額に向けてデコピンを放つ。
「ふん」
「あぅ!?」
デコピンを受け、その痛みが広がる額を抑えるヒノエに向けてゲンジは少し声を低くしながら尋ねた。
「おはようじゃねぇよ。なんでそうなるまで我慢してたんだ」
「すいません…。心配をお掛けしてしまったようですね」
そのデコピンを受けたヒノエはゲンジの心情を理解して申し訳なさそうに答えると理由を話し出した。
「里が平和になったからこそ、今までよりももっと頑張らなければいけないと思いまして…つい…」
「はぁ…アンタら姉妹は本当に似てるな…」
ヒノエの無理をした理由を聞いたゲンジは呆れたように溜息を吐くとヒノエの頭にそっと手を置いた。
「でも…頼むから無理はするな…。無理して寝込んだら…俺やミノト姉さんが悲しむから…」
「…!」
すると 頭を撫でられたヒノエは顔を真っ赤に染め上がらせながらも満面の笑みを浮かべながら頷いた。
「はい!」
それはまるで彼が自身とミノトを誰よりも大切に思ってくれているのを感じ取っているかのように。
そしてその笑みを浮かべ頷いたヒノエはゲンジの身体に手を伸ばし自身の身体に抱き寄せた。
「ふぎ!?な…なんだよ急に…!?」
突然と抱き寄せられた事により戸惑うゲンジをヒノエは決して離さず、微笑みながらその頭を撫でると、ある事を尋ねた。
「旦那様…初めて会った日の事…まだ覚えていますか?」
「え……?あ…あぁ…」
唐突にヒノエから尋ねられたゲンジは言葉を詰まらせながらも頷いた。すると、ヒノエは目を閉じ出会った日を思い浮かべる様に話し出した。
「貴方が来る前、私は手当たり次第にハンターさん達に声を掛けていました。頼んでは断られ、頼んでは断られの繰り返しによって、いつしか私もミノトと同じくハンターへの信用を失いかけていました」
「あぁ…確か何度も断られたって言ってたな…。俺に頼んだ時点で何人目だったんだ?」
「15人ぐらいでしょうか…?頼み続けている内に人数を数えるのも忘れてしまいましたからね」
そう言いヒノエはゲンジの頭を撫でながら頬を擦り寄せる。囲炉裏にくめられた火がパチパチと音を強めていき、部屋の中を強く照らしていく中、ヒノエは続けた。
「貴方に頼んだ時にはもう私は半信半疑でした。ですが、貴方は頷き一年も経たない内に私達を…里を救ってくれた。そして…私とミノトを受け入れてくれた…」
「ね…姉さん…!?」
その言葉と共に徐々に抱き締める力が段々と強まりヒノエの身体が着物越しに更に密着してくる。
「ねぇ…旦那様…私は貴方と出会えて凄く幸せです」
思い出と共に今ある生活への思いを告白したヒノエの顔はとても美しく、風邪である事を忘れているかの様であった。
すると
「ゴホン…!」
ヒノエの口からは再び咳が出始めた。それを聞いたゲンジはすぐに背中をさする。
「姉さん…そろそろ寝ろ。またぶり返してきてる」
「そうですね。では、旦那様も一緒に♪」
「うぇ!?」
そう言うとヒノエはゲンジを抱き締めたまま、布団に再び横になった。掛け布団を掛け、一つの布団の上で寄り添いながらヒノエは目の前にあるゲンジの顔を蕩けた瞳で見つめた。
それに対してゲンジも降参したのか、抵抗をやめた。
「お…い…頼むから変な事するなよ…」
「分かってますよ♪それは風邪が治ってから…」
「あぁもぅ全然分かってねぇ!」
ヒノエに忠告したゲンジは警戒心を抱きながらもゆっくりと目を閉じた。
その様子を見ていたヒノエは微笑みながら顔を近づけると、ゲンジの額に口付けをし、胸に抱き締めた。
「旦那様…先程のヨモギちゃん達にしていた話…凄く嬉しかったですよ♪」
それだけ言うと、ヒノエはあの日ゲンジと初めて会い初めて共に眠った日を思い出しながらゆっくりと目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
ガラガラガラ
扉が開く音と共に買い出しに行っていたミノトと食材や薬を調達してきたエスラとシャーラが入ってきた。
「お待たせしました。お二人とも。ご飯にしましょ……う…」
「ヒノエ〜。大丈夫か?良い薬があったから買ってきた……ぞ…」
「ついでにスタミナがつく食材……も…」
帰ってきた3人は固まると共に言葉を詰まらせた。
「すぅ…すぅ…すぅ…」
そこには温かい布団を被りゲンジを抱き締めながら眠るヒノエの姿があった。心地のいい寝息と共にゲンジを胸に抱き締めながら眠るその姿からはもう風邪に掛かっているとは思えなかった。
その様子を見たエスラは血の涙を流し始める。
「うぅ…ヒノエめぇ〜!羨ましい奴めぇ…!!今度は私が風邪に!」
「はいはい。ご飯の準備しましょうね」
シャーラがエスラを引っ張っていく中、ミノトはその光景を見つめるとふと笑みを溢した。
まるで自身が風邪を引いた時と重なるかの様に。
「さぁ、ご飯にしましょうか。シャーラ、2人を起こしてください」
「うん」
その後、ヒノエが完治した代わりにゲンジはまた風邪が移った。本人は気づいていないそうな。