薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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カムラの里のほのぼの日常 新婚旅行よユクモへと

カムラの里の冬は長い。いつものように里の子供達が雪遊びを楽しみ、鍛冶を営む者達は火を起こし、そして里を守る狩人達は訓練に勤しんでいた。

 

そんな寒い日のお昼時であった。

 

「ところでゲンジよ」

 

「ん?」

 

「そろそろ孫の顔を__ぶべらぁ!?」

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ところでゲンジよ…ブフゥ…。そろそろ行ってきたらどうだ?」

 

「え?どこに?」

 

訓練の帰りに里を歩いていた際に偶然出会した鼻から血を出したフゲンから尋ねられたゲンジは首を傾げた。それをフゲンは鼻で笑いながら答えた。

 

「決まっているだろう。『新婚旅行』だ」

 

「は…?」

 

◇◇◇◇◇◇

 

「では、行ってまいります」

 

「ですが、いいのですか?受付を空けてしまっても」

 

「気にするなでゲコ。何十年も里の中におったんじゃ。これを機に他所の地を見て回ってくるのでゲコ」

 

いつもの受付コーデではなく、普段の生活にて着用している赤色の着物とマフラーを着用したヒノエとミノトはゴコクに尋ねるが、ゴコクは陽気に首を振りながら答える。

 

そして その二人の間には…。

 

「なんで俺まで…」

 

同じく和服を着用しているゲンジの姿があった。

 

3人は新婚旅行として『ユクモ村』に行くことを提案されたのだ。百竜夜行が収束を迎えた事でユクモ村を繋ぐ通路も今ではモンスターが1匹も現れないようになっている。故にいつでもユクモ村へと行く事ができるのだ。それに今は寒い冬の真っ只中。寒冷群島以外にに住むモンスター達は殆どが冬眠している時期である。

 

一方でその新婚旅行をヒノエとミノトはすぐに了承。ゲンジは彼女らに詰め寄られ、同行する事となったのだ。

 

 

「では、行ってまいりま〜す!」

 

「お土産を買ってきますので!」

 

皆に見送られながら3人はユクモ村行きのアイルー便へと乗り込むと里を後にした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

ゴロゴロと荷車が山道を進んでいく。荷台で揺られながら辺りの景色へと目を向けていたヒノエとミノトは初めてのユクモ村に心を震わせていた。

 

「随分と楽しそうだな」

 

「勿論ですよ!ユクモ村の温泉の効能はこの大陸では有名ですので!」

 

「それに姉様と私は温泉が好きなので」

 

ミノトの言う通り、彼女達は温泉が大好きなのだ。ゲンジが来る前も里付近にある温泉に何度も脚を運んでいたらしい。

 

「それにユクモ村は里よりも山菜が豊富なんですよ。温泉卵に山菜。は〜!想像しただけで涎が止まりません!」

 

そう言いヒノエはユクモ村の名物を想像しながら頬を紅潮させていく。彼女の食いしん坊ぶりにゲンジは呆れながらも、再び訪れるユクモ村を楽しみにしていた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

それから 数時間後。荷台を引くポポの足が止まると、その背に跨りながら手綱を引くアイルーが声を上げた。

 

「到着ですニャ〜!!」

 

その声を聞いた3人は荷台から降りると、料金をアイルーへと渡した。アイルー荷車が去っていく姿を見送ると3人は目の前に映り込んできた景色を目に焼き付けた。

 

「はわぁ…!ここがユクモ村…!里とは一味違った場所ですね!早速行きましょう!」

 

そう言いヒノエはゲンジとミノトの手を掴むと引っ張りながら階段を登り始めた。

 

「お…はしゃぎすぎだぞ姉さん」

 

「はぅ…!姉様が私の手を…!」

 

◇◇◇◇◇◇

 

それから3人は階段を上がっていった。ゲンジは前にも来た事があった為に慣れているかのようにグングンと階段を上がっていく。

その一方で、ユクモ村へ初めて来たヒノエとミノトは辺りの景色を見渡しながらゆっくりと、雪が両サイドに掻き分けられた階段を登っていった。

 

 

すると

 

「おやおや御三方。お久しぶりですね」

 

階段から自身らを呼ぶ声が聞こえてきた。見るとそこには番傘を差しながら優雅に立つユクモ村の村長『タツミ』の姿があった。

 

「村長か。久しぶりだな」

 

「「タツミ 姉様!」」

 

◇◇◇◇◇◇

 

それから村長と再開したヒノエとミノトは彼女と現在の生活の事などを楽しそうに話していた。

その一方でゲンジは来たついでにトゥークにも挨拶をしようと思い、彼の居場所を尋ねた。

 

「そういえば、トゥークはどこにいるんだ?さっきから姿が見えないんだが」

 

「トゥーク様なら1ヶ月程も前にジリスさんとセルエさんと共に他所の地方を回ってくると言い旅立たれましたわ」

 

「成る程」

 

その話を聞いたゲンジはなぜ村が前よりも静まりかえっていたのか理解できた。話によるとトゥークは数ヶ月間は帰ってこないらしい。ハンターの仲で、一度会って二度と会わない事は珍しくもない。

 

だが、今回は数ヶ月程度で戻るらしいので気にする必要はなさそうであった。

 

「なら、仕方ないか。温泉に入りたいんだが、どこに行けばいいんだ?」

 

そう尋ねると村長は目の前にある石階段の更に上に位置する大きな社へと手を向けた。

 

「この階段を登り集会所へ行けば入れますよ。今は人がいない時間帯なので丁度いいかと」

 

「…!」

それを聞いたヒノエはパァと顔を輝かせるとすぐさま立ち上がり二人の手を引っ張り出した。

 

「では行きましょう二人とも!」

 

「お…おい!?」

 

「タツミ 姉様。また後ほど」

 

タツミ に手を振るミノトと戸惑うゲンジの手を引っ張りながらヒノエは石階段を登っていき、村長はその微笑ましい光景に笑みを溢しながら手を振り見送った。

 

◇◇◇◇◇◇

 

集会所。それは文字通り多くのハンター達が訪れ交流し、強力なクエストへと挑む為の場所だ。

 

中へと入ると、カムラの里とは一味違った内装が施された景色が見えてきた。里に比べると若干狭いが、それでも十分に広い集会所である。見れば受付カウンターの目の前に巨大な露天風呂があり、濃密な湯気を発していた。

 

「あれが温泉か。さっそく入るか」

「「はい!」」

 

温泉を見た途端にヒノエとミノトの目が変わり、声を揃えながら頷いた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

それからゲンジ達は衣服を脱ぎ捨てて腰や胸元にタオルを巻きつけると湯気の沸き立つ上がる温泉へゆっくりと脚をつけた。

 

「「「ふぅ…」」」

 

入ってきたと同時に感じられたのは丁度いい湯加減の温度と身体をほぐすかのような感覚。それを感じた3人はホワホワとしながら肩まで湯船に身を沈ませた。

 

「これがユクモ村の温泉…なんて気持ちいいんでしょう〜♪」

 

長年、待ち望んでいたユクモ村の温泉に浸かったヒノエは顔を蕩けさせながらその湯を堪能していた。それはミノトも同じであり、湯を手で掬いながら肌に掛けていた。

 

「ふぅ…」

ゲンジも湯に浸かり肌から感じる暖かい感覚に身を任せながら空を見上げていた。

 

 

そんな中だった。

 

「ねぇ…旦那様」

「…ん?」

 

空を見上げていると横からヒノエの声が聞こえ、目を向けると何か悩みを抱えていそうな難しい表情を浮かべていた。

その表情に首を傾げながらもゲンジは返す。

 

「どうした?」

 

「前々から考えていたのですが……貴方はもし、前のゲルド村のように貴方個人への依頼が来てしまった場合…里を出ていってしまうのですか?」

 

「え…?」

 

尋ねられたゲンジは驚き、少し口が詰まってしまう。

その一方で尋ねたヒノエの声は少し不安が掛かっていた。

 

「貴方は元々…実力が高い上に百竜夜行の原因を突き止め討伐してくれました。そうなれば多くの場所から貴方に声が掛かる事でしょう…そうなった時を思うと…とても不安になってしまうのです…」

 

「私も…姉様と同じ事を考えていました…」

ミノトもヒノエと同じ疑問を抱いていたのか、ゆっくりと肩を寄せてくる。

 

「……」

確かに実力が認められたハンターは前のように他の村や王国から声を掛けられる事があり、その際は現地へと向かう為に今いる村や里を出て行かなければならない。

特にゲンジは全世界でも数少ないマスターランクへと到達しているハンターだ。百竜夜行を収束へと導いた事でその声掛けは山の様に来るであろう。

 

 

「確かにそうだ。希少種でなくても依頼が来れば俺は必ず向かう。ハンターだからな」

 

「「…」」

 

そう答えると辺りは静まり返る。

 

 

「けど」

 

湯煙が沸き上がり温泉の流れる音が聞こえる中、ゲンジは俯く二人の頭に手を置き撫でた。

 

 

「けど、必ず帰ってくる。どんなに遠い場所でも、過酷な場所でも必ずだ」

 

すると、その言葉に反応するかのように俯いていた二人の顔がゆっくりと上げられた。

 

 

「約束…してくれますか?」

 

身を寄せながら尋ねてくるヒノエにゲンジは嘘偽りのない透き通った水晶のような瞳を向けながら迷わず頷く。

 

「あぁ。約束する。だからそんな事で一々悩むな。俺だって………その……」

 

「「?」」

 

頷きながらも顔を赤く染めながら後から出ようとする言葉を詰まらせるゲンジにヒノエとミノトは首を傾げた。

 

 

「お…俺だって二人と離れるのは……さ…寂しい…」

 

 

柄にもない小さな声は至近距離にいた二人の耳に確かに届いた。

 

すると

 

「んぐ!?」

 

突然とヒノエの手が頭に乗せられると共に胸元に抱き寄せられた。それと共にミノトの手が背中から回され身体を密着させてくる。

 

「な…なんだよ…!?」

 

「いえ。私達だけでなく貴方も寂しがっていると聞くと何故だか安心してしまいまして♪」

 

「貴方がそこまで言ってくれるのならもう不安には思いません。いつでも送り出せます」

 

ヒノエとミノトは先程の表情から一変し再び優しい笑みを浮かべるとゲンジの頭へと手を置いた。

 

「今の言葉、忘れないでくださいね旦那様」

 

「分かってる」

 

ヒノエの言葉にゲンジは頷いた。その後、ゲンジは彼女達と共に温泉を堪能し、日がゆっくりと沈み込み夜を迎えようとしている美しい山々の景色を眺めていた。

 

そんな中、ゲンジは彼女達と旅行に来た事を思い出すと頬を叩き、二人に笑みを向けた。

 

「さて、風呂上がりはもっと楽しむぞ」

 

「「はい!!」」

 

それからゲンジ達は温泉を上がると風呂上がりのドリンクを体験した後にユクモ村を観光した。幻想的な風景やユクモ村の特産品の料理。災害によって触れることのなかった体験をヒノエとミノトは満喫すると共に二人の笑う顔を見ていたゲンジも笑みを浮かべていた。

 

初めての夫婦で行く新婚旅行を3人は大いに楽しんだのであった。

 

因みにその後の宿にてゲンジがいつもよりも気分が昂っていたヒノエとミノトから“いつも以上に襲われた”のは別の話である。

 

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