薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
不穏の幕開け
カムラの里
それは数百年前から発生している大災害【百竜夜行】に悩まされている集落である。
災害が起きる度に皆は共に力を合わせ恐れる事なく総動員で群れを撃退していった。
行く度も続けられてきたモンスターの群れと小さな集落の人々との戦い。時にはモンスターの侵入を許し壊滅に追い込まれてしまう事もあった。
それでも人々は諦めなかった。何度追い込まれようとも立ち上がり何度も災害へと立ち向かった。
そして
里に流れ着いた一人の青年ハンターとそれに続く多くのハンター達によって“淵源”が討ち取られ遂に数百年間続いていた災いは収束へと向かい始めたのだった。
だが
これで終わりでは無かった。カムラの里から遠く離れたとある王国にて…多くのモンスター達が不可解な動きをしていた。
◇◇◇◇◇◇
空に輝く太陽。眩しく放つその輝かしい光は暖かい風と共に山紫水明の里を照らしていた。
そんな里の中にある一軒の茶屋では二人の女性が一人の男性を挟み込むようにして腰を下ろしていた。
「はい。あーん」
三人のうち、男性に向けて団子を差し出している女性は髪飾りをつけるとともに耳は大きく尖り目は美しい琥珀色に輝いており、足も人間とは言い難い形状をしていた。
「あ…あ…ん」
「はい。偉い偉いですよ♪」
その女性は美しい笑みを浮かべると団子を口に入れた男性の頭を撫でた。そしてそのもう片方からもウサ団子を差し出す女性の姿があった。
「旦那様。こちらも」
その女性は先程の女性とまったく瓜二つの姿をしていた。髪の色も長さも身長も。そして目の色や顔の作りもだ。違う点ならば纏う衣服の形状と髪飾りの数。そして目の形くらいだろう。
「そ…そろそろ一人で食わせろよ…ヒノエ姉さん…ミノト姉さん…」
「「絶対にダメです」」
笑顔で断った女性二人の名前は『ヒノエ』と『ミノト』彼女達は里に住む竜人族の女性であり双子の姉妹なのだ。髪飾りを片方につけ男性を撫でている女性が『ヒノエ』。髪飾りを二つつけウサ団子を差し出しているツり目の女性が『ミノト』である。
「うぅ…」
そしてこの二人に挟まれながらウサ団子を食べさせられている男性。肩に付く程までに均一に伸びた青い髪に透き通るような水晶の様な蒼い目。更に二人よりも小柄で背の低い身体。
一見すれば少年の様に見えてしまうだろう。だが、この青年の衣服の隙間からは強靭な筋肉が見えていた。
彼の名は『ゲンジ』 【薄明】という異名を持つマスターランクのハンターである。
因みに言うと、彼と彼女達は夫婦なのだ。共に闘い交流を深めている内に恋心が互いに目覚め、“淵源”を討伐したその1ヶ月後に式を上げ晴れて夫婦となったのだ。
「旦那様がウサ団子をモキュモキュと食べる姿…はぁ…何と可愛らしいんでしょうか♪」
両頬を膨らませながらウサ団子を頬ばるゲンジの様子を見ながらヒノエとミノトは頬を赤らめていた。
「もう我慢なりません…!スリスリさせてもらいます!」
「あ!ミノトだけずるいですよ!」
「んぐ!?お…おい!まだ口の中に入ってんだぞ!?」
それからゲンジは二人にもみくちゃにされた。その様子を見ていた茶屋のヨモギは大爆笑していた。
里から百竜夜行が去り数百年振りの平和が訪れると共に3人が結ばれた日から一年。
里はもう百竜夜行の恐怖に怯える事なく毎日活気立つ鉄の音が鳴り響いていた。それと共に3人の仲は良好であり喧嘩もなく平穏な毎日を過ごしていた。だが、相変わらず姉妹二人のいじり癖は治らず、それどころか更に悪化の一方を辿っていた。
「ほぉら…ぎゅう〜ですよ♪」
「私も…!」
「は!な!れ!ろ!」
◇◇◇◇◇◇
「そういえば、今日ですよね?受注許可が降りるのは」
「確かそうだな」
ヒノエと別れ集会所にてミノトのいるカウンターの近くで座っていたゲンジはモンスター図鑑を見ながら頷く。
ゲンジはとある理由でギルドから1年間クエストの受注を禁止されていたのだ。その理由とは約1年半前に里に訪れた3人のハンターを殺害寸前まで追い詰めたからである。彼らに非はあったものの殺人未遂になったのは変わりない為にその罰が下されたのだ。
その刑罰が今日 解除されるのだ。
「取り敢えず1年振りに大社跡以外のクエストに行って来るか」
「えぇ。ご紹介しますよ」
ゲンジの言葉にミノトはにっこりと笑みを浮かべ頷いた。
その時だった。
「ゲンジく〜ん!!」
集会所の屋根から軽装備を纏ったウツシが現れ、バルコニーに着地すると、こちらに向けて走ってきた。
「ん?ウツシか。どうした?」
「緊急事態だ!大社跡に謎のモンスターが…!」
「は!?」
◇◇◇◇◇◇
時は遡ること数週間前。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!」
カムラの里から遥か遠く離れた人気のない道を一人の男が走っていた。その男の身に纏うは『ハンター装備』駆け出しのハンターがよく身につける防具であり、カムラの里ではもちろん、モガの森やかつて大陸で最も巨大なギルドで栄えていたメゼポルタ、そしてドンドルマといった世界中で親しまれている防具である。
その男の表情は汗で塗れながらも怒りに溢れていた。
「(くぅ…!あの野郎…!!よくも俺様の顔に恥をかかせやがったな…!
)」
彼の名は『レビ』かつて他の二人と共に徒党を組みカムラの里にて横暴を働き里の皆からハンターの信用を奪い去った者である。彼らは怒ったゲンジによって重傷を負わされていたがレビだけは何とか完治したのである。
「(あの二人はダメだ…!もう俺一人であいつを殺してやる…!!)」
目の奥に潜むのは自身に恥をかかせたゲンジへの復讐。自業自得な上に3度目というその執着心は他者が見れば呆れ果ててしまうだろう。
だが、そんな罪悪感は彼にはない。あるのはただ強いプライドのみ。
その時だった。
「グルォオオオ!!!」
「___え…?」
どこからともなく巨大な咆哮が響き渡った。その身体の隅々にまでこだます咆哮を耳にしたレビは身を屈める。
「な…なんでだよ!?ここいらにモンスターはしばらく現れない筈じゃ…!!」
その咆哮によって取り乱したレビはゲンジに対する恨みを忘れてすぐに辺りを見回す。
__ザッ__ザッ__ザッ
その咆哮の正体は足音をたてながらゆっくりと姿を現す。
すると
「ひゃい!?」
何故か身体を凍る様な冷たい風が通り抜けていった。冷たい手で直接触られたかのようなヒンヤリとした感触に驚いたレビはその場から飛び退いてしまう。
「なんなんだよ…!?今は冬じゃねぇだろ!?」
その時だった。
巨大な影がレビを覆った。
「……!?」
自身を覆う影に気づいたレビは同時に感じた気配と更に一層強くなった寒気を辿りながら恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには_
「なに……コイツ…」
____グルル…
_鋭い牙と蒼い甲殻を持つモンスターが立っていた。そのモンスターの姿はいわば獣竜種のような前のめりで尾骶骨辺りが少し盛り上がっており四足歩行をしていた。
「あ…あ…!!」
巨大な身体と発達した四肢。更に鋭い牙と眼光を向けられた事によってレビは身動きが取れなくなると共に頭の中が恐怖に侵食され始めれていった。
そして そのモンスターが口をゆっくりと開き涎の絡まった口内を見せたその瞬間にレビの脳内は恐怖によって支配された。
「ゔわぁあァアァアァア!!!!!!」
___グロォオオオオオオオ!!!!!
その直後 辺りに人の悲鳴とモンスターの咆哮が鳴り響いた。そして肉を噛み砕く音と共にその悲鳴は一瞬にして途絶えたのだった。