薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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己の血の力と希望

 

「…ここは…」

何処までも白くその先も見えぬ程まで真っ白に覆われた空間の中。気が付けばゲンジはその中心に立っていた。なぜ自身がここにいるのか。その理由はすぐに分かった。

 

「そうか…目覚めたのか」

 

ここにいるという事は即ちついに再び目を覚ましてしまったのだ。自身の中に眠るもう一つの人格が。

 

すると目の前に血の様な赤い靄が現れ、地の底から響く様な恐ろしい声が聞こえてきた。

 

『餌…久方振りの餌…!!』

 

まるで飢えた獣の様な声を発しながら目の前の靄は形を変えていき、遂には全身から血飛沫のように龍属性エネルギーを放つ恐暴竜イビルジョーの姿となった。変化し顕現したイビルジョーは涎に塗れた巨大な口を開けると不気味な瞳を向けた。

 

『我に奴を…奴の血肉を喰わせろ…!!依代が喰らわぬのならば我に喰わせろ…!!!』

 

 

その声を聞いたゲンジは目を細めると声を荒げた。

 

「うるせぇ…!!こっちは取り込んでんだよ!!テメェなんかに合わせてたまるか!」

 

暗い暗い空間の中 目の前のイビルジョーを模った龍属性の靄と対峙していたゲンジは鋭い瞳を向け拳を握りしめ強く叫んだ。

 

___大人しく寝てろ…!!! 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「…!!!」

 

夢の中で叫んだ衝撃によって意識が覚醒し目が覚めた。目を覚ますとそこには木製の天井と此方を見つめるミノトの顔があった。

 

彼女と瞳を合わせた瞬間 ミノトは瞳を震わせた。

 

「ゲンジ…!!!」

 

「ミノト姉さ…うぐ!?」

 

するとミノトはそのまま身体を起こしたゲンジを胸元に抱き締めた。

 

「んぐ!?は…離せ…苦し…」

 

「嫌です…!!」

 

胸元に抱き寄せられたゲンジは咄嗟に抵抗するもミノトは更に抱き締める力を強めると今にも震えそうな声をあげた。

 

「心配していたんですよ…!!あの後…突然と倒れてしまったのですから…!」

 

「…」

その言葉にゲンジは昨日の出来事を思い出した。昨晩、メル・ゼナの襲撃を退け何とかエルガドへ帰還するも到着した途端に倒れてしまったのだ。その上、出迎えてくれたヒノエとミノトの前でだ。彼女達が慌てふためく様子が容易に想像できてしまい罪悪感が湧いてくる。

 

「す…すまん…」 

 

「…」

俯きながら謝罪するもミノトは目元に浮かべていた涙を拭くことなく抱き締める力を更に強くさせる。

 

「…お願いですから…少しは自分を大切にしてください…!」

 

その声はとても震えており本当に悲しんでいた。その声を聞いたゲンジは再び謝罪の言葉を口にした。

 

「本当にすまん…」

 

「いえ…私も取り乱してしまい申し訳ありません…」

ようやく落ち着いたのかミノトの抱き締める腕の力が解け、解放された。抱擁をやめたミノトは涙を拭うと再びゲンジを抱き締め頭を撫でた。

 

「目が覚めて…本当に…良かった…!!」

 

「!?」

そしてミノトは抱擁を止めるとゲンジの顔を挟み込み唇を重ねた。

 

「……ん…」

突然と接吻を受けたゲンジは驚きながらもそれを受け入れ彼女と唇を重ね合わせる。それからゆっくりと口を離すとミノトは頬を赤くさせながら笑みを浮かべた。

 

「ふふ…旦那様…顔が赤くなっていますよ?」

 

「うぅ…////」

 

すると

 

ガチャ

 

「ミノト、ウサ団子を買ってきたので一緒に食べまし…」

 

扉が開くとウサ団子が詰められた箱を手に持ちながらヒノエが入ってきた。入ってきたヒノエはゲンジを見た途端に動きを静止させる。

 

「ひ…ヒノエ姉さん…」

 

ゲンジがその姿を見て驚いた直後、

 

「ゲンジ!!!」

 

ヒノエはウサ団子をテーブルに置き、叫びながら彼に駆け寄るとその身体を抱き締めた。彼の目の前にはミノトがいた為に、それによってゲンジの身体が二人の身体に挟まれてしまう形となった。

 

それでもヒノエはゲンジが目覚めた事に安心したのか力強く抱き締めた。

 

「良かった…目が…覚めたんですね…!!!」

 

「んぐぅ…!?」

ヒノエは涙を流しながら抱き締める力を強めていき、更にそれに釣られる様にミノトも再び抱きついていった。それによって二人の間に挟まれたゲンジの顔は彼女達の豊満な胸の谷間に飲み込まれていった。

 

「やめ…苦し…!!つ…ぶれ…」

 

必死に抵抗するが二人の力が出会った当初よりも格段に強くなっている為に離すことが出来ず、ゲンジは涙を流した二人から離れる事ができないまま軽く30分に渡り抱擁された。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「あの…悪かった…心配かけて…」

 

「いえ…私も取り乱してしまい申し訳ありません…」

あの後、何とか解放されたゲンジは二人に心配を掛けてしまった事について詫びた。それに対して未だに涙が止まらず、微量ながらも目から流していたヒノエは首を横に振る。

 

「…」

何とか解放されたゲンジは心配を掛けてしまった事について詫びると、険しい表情を浮かべながら切り出した。

 

「あの…二人に話しておく」

 

それからゲンジは二人に自身のもう一人の人格が目を覚ました事について話した。その話を聞いた二人は難しい表情を浮かべる。

 

「とうとう目覚めてしまったのですね…」

 

「あぁ…」

 

ヒノエの言葉にゲンジは頷く。

 

「いつまた暴走するか分からん…だからその時は…逃げてほしい」

 

そう言いゲンジはあの日、暴走した事を思い出し表情を暗くさせながら自身から遠ざかる事を願った。

 

すると、それを慰めるかの様に彼女達の手が頬に添えられた。

 

「心配ご無用です。今度暴走しようものなら罪を重ねる前に私達が麻酔するなり麻痺させるなりして必ず止めます」

 

「そうです。そしてモンスターになり立ち去ってしまっても必ず見つけ出して連れ戻します。だから安心してください…」

 

そう言い彼女達は彼の身体をさする。

 

「…」

優しい言葉を掛けられながら背中をさすられたゲンジは頬を赤く染めると二人に目を向け背中に手を回すようにして身を寄せた。

 

「あら?どうしたのですか?」

 

「…」

 

珍しくゲンジ自身の方から抱きついてきた事に驚いたヒノエ達は首を傾げながら尋ねると、抱きついたゲンジは頬を赤くさせながら少し縮こまった様な声で答えた。

 

「す…少しだけ…このままでいさせて…欲しい…ヒノエお…お姉ちゃん…ミノトお姉ちゃん…」

 

「「…!」」

 

その言葉を聞いた瞬間 二人はゲンジが久しぶりに自身らに甘えてきたのだと言うことを認識した。それによって二人は顔を真っ赤に染め上げ満面の笑みを浮かべるとゲンジを抱き締めた。

 

「んぐ!?」

 

「よく言えましたね〜!偉い偉いですよ!」

 

「少しだけとは言わず心の底から思う存分に甘えてください…!!」

 

それから二人は先程まで嫌と言うほど抱擁していたにも関わらず自身らの身体に埋もれたゲンジを再びぬいぐるみの様に前後から抱き締めると頭を撫で始めた。

 

 

そんな中であった。

 

 

「……ん?」

頭を撫でるとともに身体を抱き締めていたヒノエはある違和感を感じた。

 

「旦那様…また、“硬くなってますね”」

 

「え…?」

ゲンジの身体に触れながら違和感を感じた箇所を揉んだヒノエはそう言いながら胸の谷間に埋もれているゲンジへ目を向けた。

 

目を向けられたゲンジは驚きの表情を浮かべる。その一方でヒノエは自身と同じくゲンジを抱き締めていたミノトに目を向けた。

 

「ミノト、旦那様にまた“あれ”をしましょう!」

 

「あれ…ですか!?……確かにこの“硬さ”は必要ですね…」

 

「…え…!?」

ヒノエやミノトの言葉にゲンジは一瞬忘れてしまうもの、彼女達の素振りから思い出したのか、冷や汗を流し始めた。

 

「ま…まさか…!?」

 

「えぇ。この硬さですのでいつもよりキツめにいきますからね♪」

ーーーーーーーーー

 

「…」

 

一方で騎士の駐屯所は暗い雰囲気に包まれていた。その理由は簡単だ。メル・ゼナの出現、更にゲンジの負傷である。中でもゲンジの負傷について重く受け止めていたフィオレーネの表情は曇り掛かるどころか暗雲に飲み込まれた程まで暗くなっていた。

 

 

その傍らでガレアス達も表情を曇らせていた。それはゲンジが負傷した事でもあるが、もう一つある。それはゲンジの血の色が人間や竜人族に見られるものでなかった事だ。

ゲンジが倒れた直後に即座に緊急治療が施されたが、体調検査の為に採血されたその血液がドス黒いものであったのだ。それを見た皆がゲンジの正体が何者であるのか分からず混乱してしまっていた。

 

「…直接話を聞かなければ分からんな…皆、今日はこれで解散してくれ。今回の事があったとなるといずれメル・ゼナも再び姿を現す時が近いだろう。その時の為に各々…準備を怠らぬように」

 

その後 不安を抱えたまま解散となりエスラとシャーラは自室へ戻る前に武器の調整のためにミネーレの元へと向かい、フィオレーネは彼女達の自室へと向かっていった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「はぁ…」

 

向かう中 フィオレーネは表情を曇らせながら深い溜息をつく。今回自身は狩猟中に自身の感情を優先させてしまい、大切な助っ人であるゲンジへと傷を負わせてしまった。幸いにも命に別状はない為に大事には至らなかったが、それは彼自身が頑丈な身体と装備があったからである。

 

「…私は…本当に未熟者だ…」

 

あの時の自身に恨みを抱き拳を握り締めるとフィオレーネは大きく息を吐き辿り着いたゲンジの自室の扉に手を掛けた。

 

 

すると

 

___こ…これ以上は…!

 

___まだまだいけます…!!

 

__ぎぃ!?いっ!?

 

「……ん?」

中からドタバタと騒がしい音と共に高い声で悲鳴をあげるゲンジとそれを楽しむかの様に笑うヒノエとミノトの声が聞こえてきた。その声はますます騒がしくなっていき、遂には喘ぎ声さえも聞こえてきた。

 

___やぁ!?ちょ…そこは本当に!!

 

____そんなに可愛い反応をされてしまわれてはもっと強くしたくなってしまうじゃないですか〜♪

 

___いぃつ!?

 

 

「な…ななな//////」

その声を聞いたフィオレーネは顔を真っ赤に染め上がらせるとバンッと扉を開いた。

 

「何を破廉恥な事をやっているのだ貴殿らは!?」

 

 

 

「「「?」」」

 

扉を開け中の光景をみた瞬間 フィオレーネは目を点にした。

 

「何だお前か」

 

「お疲れ様です♪」

 

「どうも…」

 

そこにはベッドの上でうつ伏せになっているゲンジと彼に跨りながら背中を揉んでいるミノトと彼の脚の指や足の裏を揉んでいるヒノエの姿があった。

 

「あの…破廉恥とは…?私と姉様はただ凝り固まった旦那様の身体をほぐしていただけですが…?」

 

「あ…いや…その…」

 

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

それからフィオレーネが部屋へと入るとゲンジはミノトとヒノエに挟まれる様にして彼女と向かい合う様にベッドに座る。ベッドに座ったゲンジは目の前で正座するフィオレーネへと目を向けた。

 

「どうした?いきなり来て」

 

「…」

フィオレーネはゲンジへと目を向けると地面に頭を叩きつける程の勢いでその場に土下座をした。

 

「ゲンジ…貴殿の忠告を無視し…脚を引っ張った上に怪我を負わせてしまった…本当に申し訳ない!!」

 

「…」

その謝罪に対してゲンジは首を横に振ると自身が寝ていた間の事を尋ねた。

 

「別にいいさ。それよりもお前に聞きたい。俺が寝てる間 何があった?」

 

「それは…」

 

ゲンジから尋ねられたフィオレーネは頷き話した。

 

あの後、ゲンジは倒れた後に医務室へ運ばれて緊急治療を受ける事となった。その際にメル・ゼナと共に現れたキュリアの一体を捕獲し、研究していたバハリがキュリアの体内に毒が流れている事を発見し、メル・ゼナとの共生関係から攻撃を受けたゲンジの体内に流れ込んでいる可能性があると踏み血液を採取したらしい。

 

だが、採取された血液がドス黒い色のものであった為に、その場は凍りつきバハリはその血を用いて研究へ没頭しているがガレアスやルーチカ達は説明を求めているとの事だ。

 

 

その話を聞いたゲンジは続きを話そうとするフィオレーネに手を出して止めさせると額に手を当てる。

 

「…そうか。まぁエルガドの連中全員に知れ渡るのは時間の問題だろうな」

 

「……すまない…」

 

フィオレーネは再び謝罪の言葉を口にする。自身がゲンジの指示に従い彼が傷を負わなければもうしばらくは皆に知られる事は無かっただろう。根本的な原因は自身にあると捉えていた。

 

「別にいずれはバレる」

それに対してゲンジは首を横に振りながら答えると立ち上がった。

 

「もう話す事にする。いつまでも隠し通せるとは思ってなかったからな」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

その後、ヒノエとミノトに支えられながらガレアスやルーチカ達が集まっている駐屯所へ向かったゲンジは自身の秘密を全て話した。自身の身体と寿命は竜人族のものでありその体内にはイビルジョー の血が流れ込み古龍の姿を見ると反応して意識を乗っ取ろうとしてくる事に加えてモンスターにも変異してしまう事を。

 

話を聞いていたガレアス達は当初は信じられないような表情を浮かべていたがエスラやシャーラだけでなくヒノエやミノト、フゲンやウツシといったゲンジの変化を目の当たりにした里の皆も話していった事で最終的には納得していた。

 

その一方でゲンジの血の宿主であるイビルジョー の事はこの国にも届いていたのか皆は驚きの表情を浮かべていた。

 

「まさか、あのイビルジョー が本当にいたとはなぁ。俺ぁただのデマかと思ってたぜ」

 

「あぁ…。古龍を獣竜種が喰らう事などまずないからな…」

 

エルガドの教官であるアルローの言葉に同意するかの様に頷いたガレアスはゲンジへと目を向けた。

 

「貴殿はそれ程の事情がありながら我々に手を貸してくれていたという事か…」

 

「別に調査への協力は俺が名乗り出たからアンタらが責任を感じる必要はない。それよりも…」

 

ゲンジは自責の念を抱こうとしていたガレアスに対して鍵を刺すと、ゲンジはある事を尋ねた。

 

「その前に一ついいか?」

 

「む…あぁ」

 

「クレト殿下はどこにいる?」

 

「…」

もう一人の忠告を無視した人物であるクレトについて尋ねるとガレアスは難しい表情を浮かべながらも答えた。

 

「あれから自室に篭ってらっしゃる様だ。チッチェ姫も中には入れてもらえていないらしい…」

 

「…」

 

それを聞いたゲンジは顎に手を当て苦い表情を浮かべる。ゲンジが最も気になっているのはクレトのあの変わり様だ。もともと出会った当初からマークはしていたが今回の件でクレトに何らかの事情と裏がある事が読み取れる。それを解明する事も重要となってくるだろう。

だが、彼が閉じこもっているのならば今は動けない。

 

「ん?クレト坊に何か用事でもあんのか?」

 

「あぁ。少しな。だが出てこないなら無理だ。また今度にする」

 

アルローに答えながらゲンジは話を終えようとした。

 

そんな時であった。

 

「ちょいとゲンジくん」

 

「…ん?」

実験へと没頭していたバハリが現れた。ゲンジが首を傾げると彼は懐からゲンジの血らしきドス黒い血が入れられた小瓶を取り出した。

 

「君の血、もう少し貰えないかい?キュリアから抽出されたメル・ゼナの毒と調合したら凄い事に、一瞬で取り込むかの様に無力化しちゃうのよ」

 

「「「!?」」」

 

その知らせに一同は勿論だが血の持ち主であるゲンジも瞳を震わせながら驚く。

 

「ど…どういう事だ…!?」

 

「つまりだ。君の血…いや、変異したイビルジョーの血は他のモンスターのDNAさえも取り込んじゃうって事よ。しかもこれ、応用して相手に使えば弱体化も期待できるよ」

 

そう言いバハリは小瓶を小刻みに揺らしながら答えた。その言葉にエルガドの皆は驚きの表情を浮かべると共に希望を抱いた。

 

その一方でバハリは表情を変えずにゲンジに目を向けた。

 

「君が良いって言うんなら是非、提供してもらいたい。ただ結構 貰う事になるけどもね。別に拒否してもらったって構わないよ。君の自由さ」

 

「「「「…!」」」」

バハリの言葉に皆の視線がゲンジへと集中する。当の本人は自身の包帯が巻かれた腕を見ていた。

 

 

「……」

 

今まで忌み嫌われていた力と穢れた血。自身にとって忌まわしい記憶しか残っていなかった。

 

だが、その力が遂に人の役に立とうとしていた。それは紛れもなく自身にとっては喜ばしいものであった。初めてこの身に受けた呪いが役に立つ事を知ったゲンジは腕を握り締める。

 

「分かった。だが、その分の食糧を頼む」

 

「了解…!」

 

 

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