薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「僕がいない間に随分と調査が進んだようだね…」
突如として失踪したクレトが現れた事でその場は沈黙に包まれていた。
「殿下!いままでどこに……エスラ?」
そんな中、彼の身を案じていたフィオレーネは前に歩き出し、クレトへと駆け寄ろうとすると、それをエスラは止め、代わりに前へと出た。
「えぇ。大変進みましたよ。それよりも殿下の方こそお忙しい様子とお見受けしますが……この数日間、どちらへ行かれていたのですか?」
「…」
エスラは調子を崩す事なく明朗快活に彼へと尋ねていく。それに対してクレトは先程までの怒りが消え、口を開かなくなった。
「まぁ、事情があることはお察し致します。では質問を変えましょう。我々の調査が進んだことに何かご不満でも?」
「いや…」
次々とエスラが彼へとたたみかけていくかのように質問をしていく。その質問自体に答えられる度胸も言い分もないのか、クレトは何も答える事は無かった。
「ないのでしたら、今後はどうかご協力をお願いしますよ。調査が進まなければ被害を被るのは_____其方ですからね?」
「あ…あぁ…」
その言葉が決め手となり、クレトは完全に言い負かされてしまったのか、エスラの言葉に同意した後は何も言うことはなかった。
誰もが、最初はエスラの行動から彼女が過激な行動に出るのではないかと心配していたが、何とか丸く収めたことに皆は安堵の息を吐くのであった。
だが、エスラはそれだけでは終わらせなかった。
「それと、一つ忘れていた事が。貴方は一つ…謝罪する事があるでしょう…?」
「は…?」
エスラは後ろでミノトに抱き締められているゲンジへと指を向けた。
「以前、貴方の身勝手な行動が、メルゼナを刺激しゲンジに傷を負わせた原因となったのですよ?忘れたとは言わせません」
「ま…待てエスラ!」
フィオレーネが制止しようとする声が聞こえてくるものの、それを聞き入れずエスラは続けた。
「当然ながら、相手のモンスターは古龍。下手をすれば命にも関わっていた…一つ一つの行動が命取りである事はご存知なはずです」
淡々と述べていくエスラの目は金色に輝いているものの、その輝かしい光とは裏腹に声色はとても低く完全に怒り心頭に達している事が分かる。
その目にクレトも屈したのか、頭を下げる。
「そ…それは…すまなかった…」
「その言葉をもう少し早く頂きたかったものですね」
それから一同は解散となり、クレト自身も兵舎へと戻って行ったのであった。
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しばらくして、エルガドに夜が来ると、周囲には松明を持った見張りの者が小舟を出し始めていった。恐らく交代制で見張りをするのだろう。
そんな中で、エルガドの茶屋では狩りを終えたヒノエやミノト達が足を運び、近くの長椅子に二人並んで座り団子を頬張っていた。
「う〜ん♡ここのウサ団子は少し硬めで歯応えがありますね!味も里とは一味違うので別の美味しさが…!」
「姉様…少し食べ過ぎでは…いえ何でもありません」
そんな中、ミノトはやや違和感を感じたのか周囲を見渡した。
「…3人とも遅いですね」
周囲の人々が行き交う中、そこにはゲンジとシャーラとエスラの姿がなかったのだ。
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「なぁ。やっぱりおかしくねぇか?」
「ん?」
茶屋から離れたマイハウスにて、和服姿となったエスラとシャーラにゲンジは疑問に抱いていたことを吐露する。
「あのクレト…って奴、どうも臭う。アイツがいなくなってからチッチェ姫を狙う奴が現れてねぇ」
ゲンジの言葉にエスラやシャーラも頷く。数週間も前に、クエストから戻ってきた時、チッチェを手にかけようとしていた者があの日から現れなくなっていたのだ。しかもそれはクレトが不在となった時と同じ日である。
故にゲンジは、初めて会った時とメルゼナへと向かって行った時のクレトの台詞と、彼が不在になった間のチッチェの身の安全からある仮定を導き出した。
「多分だが……」
ゲンジは自身の頭に思い浮かんでいた事を二人へと話した。
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「……お姉ちゃんもそう思っていたところだ」
「私も…」
ゲンジから話を聞いたエスラとシャーラは頷く。どうやら、二人もゲンジと考えていた事は同じであった様だ。
すると
「やぁやぁ3人とも!いくら待っても来ないから呼びにき……ふが!?」
扉を開けてウツシが現れると、ゲンジは素早い動きで彼を部屋の中へと引き入れて扉を閉めた。
「な…何だいいきなり!?」
「…誰にもつけられなかったか…?」
「う…うん…」
「なら…手短に話す…」
慌てふためくウツシにゲンジは先程、エスラとシャーラへ話した事を同じく彼へと話した。
その話を聞いていたウツシは最初は顔を傾げていたが、途中からは目を鋭くさせながら聞いていた。
「…という訳だ。あくまで憶測だがな」
「成る程…」
そして、話し終えるとウツシは静かに頷く。更にそのウツシに対してゲンジは周囲を見渡しながら懐から白い封筒を取り出し彼へと渡す。
「コイツをフゲンさんやガレアスさん“だけ”に見せて欲しい」
「うん…」
「あぁ…。それともう一つ…」
「ん?」
ゲンジはこの場にいる者以外の耳には届かない声で静かに伝えたのであった。