薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「ゲンジ!」
ヒノエは即座にゲンジに駆け寄った。ミノトも後に続く。
ゲンジの身体をゆっくりと起こし、顔を見てみると、目に大きな隈ができていた。
「これは…何があったんですか?」
ミノトはヨモギに事情を聞くとヨモギは話し出した。
ーーーーーーー
ヨモギが明日の準備を終えて、もう眠ろうとしていた時だった。
ガタン
近くに立つヒノエの依頼受付場から物音が聞こえた。ヨモギはまだ作業しているヒノエの身を案じると差し入れとして団子とお茶を持ち脚を運んだ。
だが、そこにいたのはヒノエではなかった。
「これが今来てる依頼か…」
そこには明かりが灯されるヒノエの机の上に置かれている依頼書を次々と拝見するゲンジの姿があったのだ。
「ゲゲ…ゲンジさん!?」
「ん?あぁヨモギか」
自身に気付き振り向いたゲンジの顔には直視できるほどの疲れが現れていた。
「どうした?こんな夜更けに」
「それはこっちのセリフ!なんでヒノエさんの机を漁ってるの!?」
「漁ってねぇよ。溜まってる依頼を探してたんだよ。最近 集会所のクエストばっか行ってるからな」
「だったらヒノエさん呼んでこようか?」
そう言い集会所へと向かおうとすると、それをゲンジは止める。
「それだけはやめろ」
「うぇ!?どうして!?」
訳が分からず、事情をゲンジに尋ねると、ゲンジは小さな声で話した。
どうやら、ミノトが“姉と一緒にいたい”と言っていたらしく、ヒノエといる時間を増やすためにヒノエの仕事を肩代わりする事にしたらしい。それは、ヒノエ自身には内緒であり、ただ『ミノトが書類の整理が多くて困っている』とだけ伝えて集会所へと向かわせたらしい。
「そうだったんだね…」
「だから話すなよ」
「任せて!こう見えて私 口は固い方だから大丈夫!絶対ミノトさんやヒノエさんには話さないから!」
「デケェ声で言ってる時点で固くねぇだろ」
けれども、ゲンジの顔からは疲れが出てきており、今の体力は疲労により、底を突こうとしていた。
「けど大丈夫なの!?ゲンジさん昼間ずっと狩りにいってたんでしょ!?」
「別に……平気だよ」
ゲンジはそのまま印鑑をつき、契約金をまとめて置くと、ポーチに生肉と焼肉セット、そして、ピッケルだけを放り込み夜中の大社跡へと向かって行った。
☆☆☆☆☆
それから、数時間。夜がもうすぐ明けようとした。
目を覚まし、朝の体操をするために外へと出ると、そこにはフラフラになりながらも自宅の方へと向かうゲンジの姿があった。
「ゲンジさん!?」
「ん?よぅ…」
その顔の目元には大きな隈ができていた。そして、装備にも泥が付着していることから、夜通し大社跡にいた事が分かる。脚も千鳥足の如くぶらついており、少しでもつつけば倒れてしまう程だった。
「ようやく…おわ…た…」
ドサッ
そして、遂にゲンジの身体がモンスターの如く力尽きるように地面に倒れてしまった。
ーーーーーーーーー
「あらあら。だからあの時 強引に集会所に向かわせたんですね」
ヒノエはあの時、ゲンジが自身を強引に集会所に向かわせた理由をようやく理解した。ゲンジの小さい身体を抱き抱えると、自宅へと向かう。
「私達に任せてください。ただの寝不足だと思うのでグッスリ寝かせれば起きるはずですよ」
「分かりました…」
ヨモギはゲンジの自宅へと向かう二人に手を振り見送る。
ーーーーーー
ミノトは何も言葉を発する事ができなかった。
自宅へと着き、布団を敷いて彼をゆっくりと寝かしつける。装備を外すと、狩りでの傷が何箇所もついていた。
「ミノト、あまり自分を責めてはダメよ」
「…」
ヒノエはそう何度も慰めてくれるが、ミノト自身は自己嫌悪に陥っていた。
彼を信じなかった上に行き場のない恨みをぶつけるような対応をしてしまった自身がどうしても許す事が出来なかった。
「起きたらちゃんと謝りましょう。ね?」
「はい…」
そんな中、ヒノエは立ち上がる。
「里の受付を整理してくるからゲンジのことお願いするわね」
そう言いヒノエはゲンジの自宅から出て行く。ミノトは頷くと、今もなお眠るゲンジの顔を見る。
グッスリと眠り、寝息を立てる彼の顔はとても美しかった。
その時だった。
「……ん?」
閉じていた目がゆっくりと開かれ、青い瞳が自身に向けられた。
「ここは…家か…」
目を覚ましたゲンジは自身に瞳を向けずに、辺りを見回すとゆっくりと状態を起こす。
すると、ようやく自身に気が付き、こちらに目を向けた。
「何だお前か。おい、俺の装備知らねぇか?」
自身がいる事になんの興味も示さず、装備のありかを聞いてくる。
「あちらに掛けてあります」
「そうか」
すると、ゲンジは立ち上がり、その装備が立てかけてある入り口へと向かおうとしていた。
「何をしているのですか!?」
「え?確かまだ依頼が残ってた筈だから受けに___おわ!?」
突然 ミノトの身体が動き出し、装備に手を掛けようとしたゲンジの身体を抱き上げる。
「安静にしていてください!!」
「ごはぁ!?」
そしてそのままゲンジの身体を抱き上げたまま、布団へと叩きつけた。
「ちょ…なにすんだ!?」
「それはこちらのセリフです!」
ミノトは抵抗しようとするゲンジの身体を押さえつけるように肩を両手で掴む。
「貴方は丸一日狩場にいたのですよ!?それに休憩も睡眠もなしと聞きました。なぜあんな無茶をしたのですか!?私は…貴方に対して…酷い対応を取ったというのに…なぜあそこまで…!」
ただ知りたかった。なぜ、何の得にもならないのに自身のために身を削ったのか。
「あぁ…?あのことか」
問い詰めると、ゲンジは思い出すかのような素振りを見せ、話し出した。
「姉と一緒にいたいって言ってただろ…?俺も姉がいるから分かるんだよ…お前の気持ちが…。ここに来てから俺は偶に姉に会いたいって思う事がある。お前らは距離が近いが、ギルドの仕事が多いからあまり一緒にいられないと聞いた…。俺としては、自分と同じ奴を見てるのが癪なんだよ…。
それで出来るだけお前と一緒にいさせるために…アイツの仕事を受注手続きから達成手続きまでマニュアル見ながら代わりにやったのさ」
「そうだったんですか…」
ゲンジも自身と同じ気持ちだった。彼の事を今まで姉を奪った者としてしか見てきていなかった。だが、それは違っていた。
ただでさえ、彼は会いたくても会えない状況にも関わらず、自身らを一緒に過ごさせる時間をその思いを抑え込むと同時に身を削ってまで作り出してくれていたのだ。
ミノトは手を離すと、ゲンジの印象を改めると同時に謝罪のために深々と頭を下げた。
「今まで本当に申し訳ありませんでした…自身の勝手な思い込みで貴方に不快な思いをさせてしまったことをお詫びします…」
その謝罪をゲンジは見届けずに、斬り捨てる。
「別にいい。俺だって姉が他の男と狩りに行った時はムカついた時があったからな。それに、謝る必要ねぇよ。前のハンターの件があったからお前の対応は普通に正しい」
そう言いゲンジは布団を被り、自身に背を向けてしまう。
「もうお前に任せるよ。信じて不安が増えるならもう信じなくていい。あの対応がしやすいならもうずっとあの対応でいい」
それだけ言うとゲンジは自身に顔を向けずに寝息を立て始める。
それから、ミノトはずっとゲンジの背を見つめていた。
ーーーーーーーー
眠りについたとみせて、ゲンジは眠らず、ただ目を閉じており、ミノトが出ていくのを待っていた。謝られたのは意外だった。だが、謝られても別にどうでもよかった。ただ、信用されるかされないのか。その2択だ。
「(…足音が聞こえねぇ…いつまでいるんだ…?)」
かれこれ5分は経つ。
時の流れに身を任せながらずっと待っていた。すると、
「!?」
突然背中が冷たく感じる。それと同時に誰かが布団の中へと入ってくる音が聞こえると同時に柔らかい物が背中に当たる。
「うわぁ!!」
咄嗟に布団を放り投げて脱出し、すぐさまその場から離れる。
「な…なにやってんだよお前!」
「え?」
そこにはなんと、ミノトが寄り添うように横になっていた。布団に入ってきたのはミノトだったのだ。
「弟と寝て…何か変なことでも?」
「はぁ!?」
突然のミノトの言葉に理解が追いつかなかった。どう言う意味だ!?なぜいきなり弟として見られているんだ!?
「私は貴方を信じる事に決めました。これから、何か困ったことがあれば私でよければ全力でサポートします。
そのサポートの一環として最初に何か出来ることはないかと考えていました。そして、いい方法を考えたのです!私が貴方の姉となり、貴方に寄り添えばいいのだと!」
「どういう思考回路してんだよ!?」
完全なるぶっ飛んだ考えにゲンジは大声で異議を立てる。
「ヒノエ姉様からいつも姉に会いたい故に魘されていると聞いております。すなわち、家族の温もりが感じる事ができず寂しい思いをしているという事ですよね?」
そう言いミノトは誘うように両手を広げる。
「そう言う事ならば、しばらくは私が貴方の姉となります!さぁ日頃の疲れを癒すために思う存分甘えてください!」
「ふざけんなぁ!俺はそんなガキじゃねぇ!もう21の大人なんだよ!」
「ですが、男の人はどの歳になっても甘える時には甘えると聞きますが」
「それが全員な訳ねぇだろ!?俺は別にそんな…わ!?」
その時だった。立ち上がった拍子に疲労の溜まったゲンジの身体が崩れ落ちる。
そして、それをミノトは抱き止めた。その拍子にゲンジの小さな顔がミノトの豊満な胸にダイブしてしまう。
「むぐ!?」
「身体は正直ですね」
そう言いミノトは抱き止めたゲンジの身体を抱き締める。その拍子にゲンジの顔が更に胸に押しつけられ、身体も自由に動かせなくなってしまう。
「ちょ!?離せ…!」
「ダメです」
抵抗しようとするゲンジをミノトは離さず、力を入れて抱き締めると、頭を撫でる。ミノトの竜人族特有の4本の指が髪と髪の間をすり抜けながらも、優しい感触が伝わってくる。
「…!」
その感触がとても懐かしく感じた。それは、自身の身体が変化して間もない頃、石を投げられた最初の日だった。
『痛いよぉ…』
『大丈夫だよ。泣かないで』
石を額にぶつけられ、泣いていた自身をシャーラは優しく撫でてくれていた。
懐かしい思いに駆られたゲンジは抵抗せずに、ゆっくりとミノトに身を預けた。
「よしよし。いい子いい子です」
その言葉が発せられた瞬間 鮮明に昔の記憶が込み上げてくる。
『よしよし…いい子いい子』
そう言いいつもシャーラは自身を抱きしめながら慰めてくれていた。
「(なんで…この姉妹は…ここまで姉さん達に似てるんだよ…)」
懐かしい思い出が頭に思い浮かんでしまい、それが懐かしく、涙が出てきてしまう。
「姉さん…」
不意にそう呼んでしまう。それほど、ミノトの温もりと撫で方がシャーラと酷似していたからだ。そして、その言葉を受け取っていたミノトは微笑みながら、再び頭を撫でる。
ミノトもゲンジの意外な一面を見た瞬間に、彼がずっと家族に会えない寂しさを耐えてきていた事を感じた。
「(本当にお辛かったのですね…)」
信頼できる家族と会えない苦しみは自身も知っていた。彼はずっとその悩みを抱えていながらも、他者のために身体を駆使して里のために動いていてくれていた。
それほど、彼は優しいのだ。
すると、ゲンジの目がゆっくりと閉じられ、眠りについた。
ミノトはゲンジを一人にさせないために、孤独にさせないために、目を覚ますまでずっと側にいた。