薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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目覚め

痛い…身体が痛い…。

 

ゲンジは闇の中で折れた足や手を引き摺りながらも遠くに待つエスラとシャーラを追いかけていた。

 

「こっちだ!ゲンジ!」

「早く!」

 

二人が声を掛けると、ゲンジは更に速度をあげる。だが、歩いても歩いても追いつく事は叶わず、それどころか二人の姿はみるみる遠のいていった。

ゲンジは手を伸ばし、二人の元に急ぐ。

 

「待って…待ってよ姉さん!!!!」

 

 

姉さん!!!!!

ーーーーーーーーーー

 

「…!」

目を覚ますと、ゲンジの視界の前に見慣れない景色が広がっていた。木造の天井に窓から差し込む夕陽の光。

見れば自身の身体には布団が被せられていた。

 

「なんだ……ここ…」

 

「目が覚めたみたいですね」

「…!」

辺りを見回そうとした時、女性の声が耳に入る。声が聞こえた方向に目を向けると、そこには一人の女性が座りながら自身を見つめていた。

見慣れない形状の巫女服に、4本の指。更に耳は自身と同じく尖っていた。自身を見下ろす琥珀色の瞳はとても美しく、まるで宝石の様に輝いていた。

間違いない。『竜人族』だ。しかも,自身とは違い純粋な部類の者だ。

 

「アンタは…誰だ?ここは一体…」

ゲンジは彼女に名前とここの場所を問う。

 

「私はヒノエと申します。そしてここは『カムラの里』です」

「カムラの里…!?」

その里は微かだが聞き覚えがあった。街からは遠く山に囲まれた中に位置し、壁を走る技術や蟲を操り軽業師の如く空中を移動するという独特な技術を持つ人々が住んでいるとされ、年に多くのハンター達が訪れる里であった。

 

「ここがそうなのか…」

だが、聞いていたよりも静かすぎておりゲンジは情報と違う事に疑問に思ってしまう。それよりも今は身体に痛みが残っているために喜ぶ事は出来なかった。

 

「森の中で倒れている貴方を見つけてここまで運んできました」

 

「森の中……そうか……」

 

あの後、自身は気を失って気づかなかったが、この里の付近にある森に落下したようだ。

 

「して、あなたのお名前は?」

 

「俺はゲンジだ。ハンターをやってる…そうだ!!」

ゲンジはようやく理解した。現在 なぜか着物を着ており、装備がない事を。

 

「俺の装備を知らないか!?…いつつ」

咄嗟に飛び起きようとすると、身体の内部から痛みが現れ身体を駆け巡った。

 

「あらあら、落ち着いてください」

 

ヒノエの手が肩に置かれ起きあがろうとした身体を抑えてくる。

 

「装備なら表に掛けてあります。ご心配なさらず」

 

「そうか……ならよかった」

装備の無事にゲンジは一安心すると、息をつきながら包帯が巻かれている箇所をぽんぽんと叩く。

 

「…」

まだまだ痛むものの、決して動けないというわけではなかった。

 

「世話になったな。すぐに出て行く」

そう言い脚を持ち上げてゆっくりと立ち上がる。痛みは感じるものの慎重に動けばそれ程でもない。

 

 

すると

 

「…うわぁ!?」

突然 脚の力が抜けてその場に倒れてしまう。ただ脚を滑らせたという訳ではない。歩いた瞬間に物理的に力が完全に抜けてしまったのだ。

 

「あらあら…無理はなさらないでください。貴方の身体にカムラの里でも重宝されている傷薬を塗ったのですから」

 

そう言いヒノエは丸い壺を取り出す。その壺には赤い円の中にカムラと表記されていた。

 

「これは骨折等によく効くのですが、その分 丸一日歩けなくなるという副作用があるのです」

そう言いヒノエの手が伸びてくると脇に通され布団に戻される。

 

「もう1日は寝ていないとダメですよ。これを飲んでください」

 

ヒノエは湯気の沸き立つ湯呑みを渡して来た。それを受け取ると中には緑色の液体が入っていた。

 

「これは…」

 

「緑茶です。少々苦みがありますが疲れた身体に効きますよ」

 

「…」

ゲンジは手渡された緑茶をゆっくりと口の中に流し込む。熱いは熱いがそれ程でもないために一瞬で飲み干してしまった。

 

すると

 

「…あ…れ…」

 

温かいお茶が身体を温め心地よい感覚に見舞われ布団に倒れ込む。それと共に布団の柔らかさによって更に眠気が掻き立てられていった。

 

「(いや…寝ちゃダメだ…姉さん達を探さねぇと…でも…)」

心の中で即座に飛び起きエスラ達を探そうと思ったとしても身体は正直だった。

ゲンジはただ姉に会いたいと心に願いながら眠りについた。

 

ーーーーーーーーー

 

それからどれくらい眠っただろうか。

 

「…ん?」

全てが黒い視界に突然 明るい光が差し込む。

 

「朝…なのか…?」

ゲンジはそっと目を開けた。見ると部屋の中を朝日が差し込み照らし出していた。だが、身体に何か違和感があった。何故か重いのだ。まるで何かに乗られているかのように。

 

「なんだ…んん!?」

ゲンジは横に顔を向けた瞬間 固まってしまう。そこには自身を抱き締めながら寝息をつくヒノエの顔があったのだ。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

咄嗟に飛び起き、すぐさまその抱擁から脱出する。すると、その拍子にヒノエも目覚める。

 

「ふわぁ…あら、おはようございます。よく眠れましたか?」

まるで自分が何もしていないかのようにヒノエはマッタリとした笑顔をゲンジに向ける。一方で、いきなり横で寝ていた事にゲンジは驚きを隠さなかった。

 

「な…ななんで横で寝てるんだよ!?」

 

「あらあら、一緒に寝たいとこちらに抱きついてきたではありませんか。覚えてませんか?」

「はぁ!?」

 

ヒノエは昨日の夜に起こった出来事を話す。

 

ーーーーーーー

 

ヒノエはタオルを取り替えるためにもう一度 ゲンジが眠る場所に戻る。すると、ゲンジは魘されていた。

まるで何かを追いかける様に手を伸ばすかの様に。そして、次々と名前を呼ぶ。

 

「エスラ姉さん…!シャーラ姉さん…!!」

家族の名前を彼は次々と呼んでいた。ヒノエがタオルを取り替えようとすると、取り替えたその腕をゲンジは掴む。

 

「あら?」

その手にこもる力はとても強かった。まるで、ずっと追い求めていた物を離さないかの様に。

 

「姉さん…」

すると、先程よりもゲンジの声が安定して、呼吸も大人しくなった。

 

「…家族と逸れてしまったのですね」

ヒノエはゲンジの辛さが染みるように分かる。自身にも妹がいる。一度離れ離れになった時は毎晩悲しんだ。今のゲンジは自身と同じ状況だと感じ、少しでも落ち着かせる為にゆっくりと頭を撫でる、すると、スッカリとゲンジの姉を求める声が途絶え、静かな寝息を立てる様になった。

 

「ふわぁ…(私も…眠くなってきたわ…)」

そんな中でヒノエも眠気に誘われてしまう。すると、ゆっくりとヒノエは布団の中に入り込む。できるだけゲンジの手を離さない様に。ヒノエは慎重に布団の中に入り込むと、ゲンジの身体を包み込んだ。

 

「姉さん…」

「安心してください。ちゃんとここにいますよ」

 

ーーーーーー

 

「…という訳です」

 

「わぁぁあああ//////」

あまりにもの年不相応の寝ぼけ姿にゲンジは顔を真っ赤に染め上がらせ顔を両手で覆う。

 

「それで、つい、妹と思ってしまい一緒に寝てしまいました」

 

「俺は男だ!!!」

すると、ヒノエの目がゲンジの足元に移る。

 

「…!」

ゲンジは理解した。治療はしてはもらったが、その代わり、脚を見られた事を。

 

「その…俺の足袋はあるか?あまり見られたくないんだ…」

 

「どうしてですか?確かに竜人族のハンターは珍しいですが、そこまで隠すものでは…」

 

「いいから!」

ヒノエの言葉をゲンジは叫んで遮る。彼にとって、この脚はたとえ竜人族だろうと見られたくないのだ。

ヒノエは頷くと、乾かしてあるゲンジの足袋を渡した。渡された足袋をゲンジはすぐさま履く。

 

「あの…何かございましたら私でよければご相談に乗りますよ?」

 

「余計なお世話だ」

ゲンジは立ち上がると、腰や手を回す。一日経ったのか、身体の調子は元に戻っていた。

 

「よし。手当をしてくれて感謝する。それとだが、何か俺にできる事はあるか?」

 

「え?」

ゲンジはある事を問う。ハンターとしてではなく、一人の人間として一泊に加えて怪我の治療をしてくれたこの女性に何か一つだけ恩返しをする事をゲンジは決めたのだ。

これは彼の癖、いや、礼儀とも言うべきだろう。助けられたらそれ相応の御礼をする。

俗に言う『恩返し』というものだ。

 

すると、ヒノエは深刻な表情を浮かべた。まるで何か大きな悩みを抱えているかの様に。ゲンジは確実に何かある事を読み取ると詳しく聞く。

 

「何かあるようだな」

 

「はい。この里には…時より大いなる災いが起こります…数多のモンスターが里へと押し入る『百竜夜行』というものです。それは数百年前から起こり始めました。

何十頭ものモンスターが里に襲いかかり…里は壊滅寸前まで追い込まれました。当時はこの里の長である『フゲン』様とギルドマネージャーである『ゴコク』様そして加工屋のハモンさんによって被害は最小限に抑えられましたが、今の御三方は歳をとられ、全盛期からかけ離れてしまっていて…故に、私達は訪れるハンター達に助力を願いました。ですが、ハンター達は断り里を立ち去るばかりでした」

 

そう言いヒノエは手を床に置き、頭を下げる。

「お願いします。里を救うために…この災害の根絶に力を貸していただけませんか…?」

 

その姿勢は今まで何度もしてきた事が読み取れる。それでも声を掛けられたハンター達は皆 逃げていったのだ。

そして、ヒノエの目にも若干ながらも涙が浮かんでいた。何度も何度も声を掛けて、苦労をしてきたのだろう。

 

「…」

 

『百竜夜行』

その単語にゲンジは興味が湧く。姉達も大事ではあるものの、彼女達ならハンターとしての力はつけているために何処かへと避難または、村に入っている頃だろう。それに、命を助けてもらった故にこれくらいする事は当然だとゲンジは思い、頷き承諾した。

 

「いいぞ。命を救ってくれた礼だ。根絶するまで協力する」

 

「…!!」

すると、ヒノエは下げていた頭を突然上げるとパァと顔を輝かせ、それと同時に身体を飛び上がらせると抱きついてきた。

 

「ありがとうございます!」

 

「ぎゃぁぁぁ!!!!抱き着くなぁぁぁ!!!」

ゲンジは姉達と会う前に里へ住み、災害の謎を追う事に決めた。

 

 

 

 

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