薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
マガイマガドをゲンジから引き離すため、皆はこやし玉を取りに行くべくキャンプに向かっていた。
キャンプに着くと、そこには防衛に参加していた里の皆が待っていた。
「里長!…あれ?ゲンジさんは!?」
里の者の一人はゲンジについて聞いてくる。すると、フゲンは皆に話した。
突如としてマガイマガドが現れ、自身らの撤退のためにゲンジが残ったのだと。
「誰かこやし玉を持っていないか!?」
「それならいざと言う時のために用意してあります!!」
「助かる!俺が行ってくる間、皆はここで待っていろ!」
そう言いフゲンはこやし玉が入った麻袋を受け取ると、先程の砦に向けて走り出すが、ミノトとヒノエも共に来る。
「私も行きます」
「私も…。元々…私が不覚を取った事が原因ですから…」
「…分かった」
フゲンは頷くと、同行を許可する。すると、出口が見え、先程の砦の景色が鮮明となってくる。
「ゲンジ!加勢にきた……ぞ…?」
フゲンは言葉を失ってしまった。
そこには
横たわるマガイマガドの姿があった。50年前 里を襲い甚大なる被害を出したモンスターが倒されていたのだ。辺りには夥しい量の血が滴り落ちており、血の海となっていた。
その血の海の中に佇む影を見つけた。それは全身に血を浴びたゲンジだった。
「「ゲンジ!」」
すぐさまヒノエとミノトは飛び降り、駆け寄った。
血の海の中で直立していたゲンジは突然聞こえた声に振り向いた。
「ヒノエ姉さん…ミノト姉さん…」
その声は聞き取れない程…細々としており枯れていた。それと同時にゲンジの身体がゆっくりと地面に向かってうつ伏せに倒れた。
「!?」
即座にミノトは倒れる身体を支える。触った瞬間 手にまだ生暖かい血が付着する。
「…!」
その血から、ミノトは自身らが来る直前にマガイマガドを討伐したと推測した。
更に、その血はマガイマガドから出た物だけではない。ゲンジの額からも血が流れ落ちていた。
ゲンジも無償ではなかった。マガイマガドに叩きつけられた際に、頭の皮膚や額の皮膚が切れ、大量に出血。それと同時に鼻からも大量の血が出ていた。
ミノトはゲンジを抱き抱える。
「里長!姉様!ゲンジの出血が酷いです!急ぎキャンプに戻りましょう!!」
「えぇ!」
「分かった!」
医療班を呼ぶと言う案もあるが、来るまでに時間が掛かる。ならば、脚力が常人より高い自身らが戻った方が良いと考え、ミノトは戻ることに決める。
翔蟲を取り出し、ゲンジに衝撃を与えないようにミノトは避難口に着地した。
「(絶対に助けます…!だからまだ諦めないでください…!!)」
そう心の中で訴えながら、ミノトは避難経路を走り抜ける。
ーーーーーーー
その後、キャンプへと帰還したミノトは即座に医療班を呼ぶ。駆けつけた医療班はゲンジを寝台に乗せて、装備を外すと血が出ている箇所にカムラの里に伝わる傷薬を塗り、包帯を巻きつけた。装備を外すと、身体からも出血しており、重傷に近い状態であった。
「上半身はこれでよし…脚の装備も外してください」
医師に指示されたヒノエは頷き、装着している装備を外そうとする。だが、手が止まってしまった。
「…!」
ゲンジは自身とミケとハチにしか脚の事を話していない。もし、ここで外せばゲンジの人外となる脚が晒されてしまう。それは良いのか…。
「……」
「どうしました?」
不審に思った医者はヒノエが動作を止めた事に疑問に思う。一方で、葛藤するヒノエは命を救うために、決断する。
「(ごめんね…ゲンジ…!!)」
装備を外す事を選んだ。結ばれた紐を解き、装備を脚から離す。すると、皆の前にゲンジの人間でもなく、竜人族でもない異形の形をした脚が曝け出された。
「な…ゲンジさんの脚…!!」
ヨモギの言葉と共に皆は驚きのあまり硬直してしまった。
「これは…」
フゲンも不思議に思う中、これ以上話さないでいれば、不信感が募るばかりだと考えたヒノエは皆に話す事を決心した。
「皆さん。聞いてください。実は…」
それからヒノエは皆へとゲンジの過去を全て話した。元は人間であったが、父親が独自に開発した薬の影響によって、竜人族でも人間でもない姿へと変えられてしまった事。いく先々の村々で蔑まれ、追い出され、心に傷を負い続けている事を。
その話を聞いた里の一人が問う。
「なんでそれを俺たちに話してくれなかったんだよ…」
その言葉にヒノエは答えた。
「また、同じ目に遭う事を恐れていたからだそうです。これまで何度も、ゲンジは行く先々で脚を見られては…軽蔑の目を向けられていたらしく…それ故に私が皆へ伝えようと提案したときも、激しく拒否をしていました」
話すヒノエも涙が流れていた。何度聞いても酷く残酷な話だった。
そんな中
フゲンが前に出て、膝をつくと、ゲンジの脚に手を置く。
「ゲンジの身体が竜人族に似通っている構造とは俺も知らなかった。皆が驚くのも無理はないだろう」
フゲンの言葉はごもっともだった。すると、フゲンは立ち上がり、何の軽蔑する目を向ける事なく、皆へと言い放つ。
「だが、我ら里を救ってくれた英雄に変わりはない!そうだろ皆の衆!!!」
そう言いフゲンは周りに目を向ける。すると、
「そうだそうだ!!」
一人の里の者が答える。それに呼応するかのように次々とゲンジに賛同する声があがる。
「俺たちを助けてくれた大恩人に変わりねぇ!!」
「どんな姿でも俺達の家族だぁ!!」
次々と湧き上がるゲンジに賛同する声。激しく暖かいその声にヒノエは歓喜の涙を流した。
「ヒノエよ。ゲンジが起きたら伝えてくれ。お主が人間であろうとなかろうと、俺たちカムラの民の大切な家族だと」
そう言いフゲンは次の指令を皆に言い渡す。
「皆の衆。突然だが、体力の残っている者は共に来てくれ。マガイマガドとリオレイアの死体を回収する。特にマガイマガドはギルドに送る事になる」
「「「おぅ!」」」
フゲンの言葉に皆は頷く。ゲンジの安否が気になるが、マガイマガドとリオレイアの遺体が長時間の放置で腐敗すれば、腐臭を発してしまい、その腐臭によって他のモンスターが寄ってくる可能性がある。二次災害は防がなければならないだろう。
ヒノエやミノト、ヨモギとイオリそして医療班以外の皆は全て死体を回収するために向かっていった。
ゲンジの身体に関してはもう問題がない。これで、彼が軽蔑の目を向けられ心を壊す心配はないだろう。
だが、目を覚まさない事が気がかりだ。
「ゲンジさん…大丈夫かな…」
「わかりません。ただ目覚めてくれるのを待ちましょ」
心配するヨモギをヒノエは抱き締める。ミノトは涙を流しながら今もなお目を覚まさないゲンジの手を握っていた。
そして、ヒノエもゲンジの胸に手を当てる。
「(早く…目を覚まして)」
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
「…!!」
目を開けると見慣れた景色が目の前に広がっていた。
辺りには桜が咲き誇り、鳥の囀りが聞こえてくる。ここは、どうやらカムラの里の入り口のようだ。
歩いていてもモンスターが1匹も見当たらない。
「俺の装備がない…」
見るとシルバーソル装備が外されており、インナー姿となっていた。自身の人間ではない脚が露出しているが、今はそれどころではなかった。
ただ、心地良かった。
息を吸う度に心が安らいでいった。
_____ゲンジ。
声が聞こえる。誰かが自身を呼んでいる。
_____ゲンジ。
今度は違う声が聞こえてくる。
その声は後ろから聞こえてきた。振り向くと、霧の向こうにそびえるカムラの里の入り口である鳥居の下に二人の影があった。
それはよく知る人物の影だった。
「ヒノエ姉さん…ミノト姉さん…」
それと同時に人影は次々と増えていく。
「ゲンジさ〜ん!」
「ゲンジさん!」
ヨモギ……イオリ……
「ゲンジよ!」
「ゲンジ!」
「ゲンジや!」
フゲンさん…ウツシさん…ゴコク殿……
そして、自身に接してきてくれた里の皆も現れた。
『ゲンジ!』
『ゲンさん!』
そして、皆の声が一つに重なった。
『おかえり』
「…!!」
その声はとても暖かかった。ただの声であるのに、とても、心が軽くなる。
すると、辺りの景色が突然と暗くなり、意識が途絶えた。