薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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ゲンジの涙

目をゆっくりと開けると、目の前には自身の自宅の天井が映り込んできた。辺りは暗く、月明かりが差し込み、部屋の中を照らす。

 

「……あれ…俺の装備がねぇ…」

見ると自身はインナー姿となっていた。しかも、包帯も巻かれている。顔にも上半身にも。

 

というか、なぜ、砦にいた自身が里にいるのか理解できなかった。

 

「(俺は確か…マガイマガドを討伐した後…気を失ったのか…)」

 

その時だった。後ろから視線を感じる。

 

「ん?」

振り向くと、そこには玄関から自身を見つめるミノトとヒノエの姿があった。

 

「なんだ、二人とも…どうし…ふぎ!?」

突然 ミノトの身が自身に迫り、大きな身体に抱き締められた。

ミノトの腕が背中に回され、身体に抱き寄せられる。

 

「ゲンジ…!!」

その声は震えており、とても悲しみに満ちていた。すると、ミノトの涙が次々と自身に付着してきた。

 

「よかった…本当に…よかったです…!!」

いつも冷静であるミノトがどこかへと行ってしまったかのように、まるで別人であるかのようにミノトは顔をぐしゃぐしゃにさせながら泣いていた。

「お…おい…どういうことだよ…」

状況を問うために引き剥がそうとするも、まるで石のようにミノトは離れなかった。

 

…うん。完全に石である。

 

「ぐぎぎ…くく…苦しい…締まる……」

ミノトの腕が次々とゲンジに巻き付き、その抱擁が遂には凶器となり始める。

 

「うぐぅ…ゲンジぃ……」

「泣く…の…は…いい…か…ら早く離れ…」

 

「ミノト、ゲンジが苦しそうよ」

「え…?わぁ!ごご…ごめんなさい!!」

ようやく気づいたミノトはゲンジを締め殺そうとしている事に気づき、離れた。

 

「ゲホッゲホッ…。それより…何で俺はここにいるんだ…?」

ゲンジはあの後の事について聞く。

 

「覚えてないのですか?」

「あ…あぁ」

ヒノエが横に腰を掛けながら聞いてくる。ゲンジが頷くと、ヒノエは説明した。自身がマガイマガドを倒した瞬間に大量に出血しながら倒れた事を。

 

そして、いち早くミノトがキャンプに送り届け、治療を受けたのだ。

 

「そうだったのか…。ありがとうな。ミノト姉さん」

ゲンジは即座に運んでくれたミノトに感謝すると、ミノトは涙を拭いながら頷いた。

 

「いいえ…本当に無事でなによりです…」

その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 

「ただ、ゲンジがあれ程辛い過去を過ごしてきた事は知りませんでした…」

「え…」

ミノトの言葉にゲンジの目が大きく開く。

 

「どういう…ことだよ…なんで知ってるんだ…?」

 

ヒノエとミケとハチにしか話していない。他言しない事を約束したはずなのに何故だ。

 

すると、肩にヒノエの手が置かれた。

 

「ゲンジ、それはね…」

ヒノエは、自身の判断で、あの場にいた皆にゲンジから聞いた過去を全て話した。

そして、その際に装備を外し、秘密にしていた脚を皆に見られてしまった事も。

 

「……」

その話を聞いたゲンジは俯く。それもそうだろう。治療とはいえ、皆の前に見られたくもない脚を見られたのだ。ヒノエは、約束を破った罰として、殴られる覚悟を持っていた。

 

「ごめんなさい。治療のためとはいえ…貴方のとの約束を破ってしまって…。私を殴ってもらっても構わないわ…」

そう言いヒノエは身を差し出そうとするも、ゲンジは拒否する。

 

「別に…んな事しねぇよ」

脚を見ると、三叉に分かれた脚に包帯が巻かれていた。本当に見られていたのだ。

 

「里の皆は…どうだった…?」

ゲンジは恐れながらも皆の反応を聞く。だが、結果は分かっていた。

皆はこの人間でも竜人族でもない身体を見て不快に思ってしまっただろう。

 

「やっぱり…気持ち悪いと思っただろ…」

そう答えを溢す。こんな脚を見れば、不快にならない筈がない。

 

だが、

「いいえ」

ヒノエはそれを首を横に振り否定した。

 

「たとえどんな姿でも、私達の大切な家族だと言っていましたよ」

 

「…え…?」

その言葉を聞いた瞬間 驚くと共に俯いていた顔を見上げる。それと共に今まで閉ざされてきた心の中の鎖が溶かされていくかのように心が軽くなった。

 

すると、布団の上に次々と水滴が滴り落ちていった。

 

「そう……なの…か?」

 

「「はい!」」

それが空耳でない事を確かめるかのように再び尋ねると二人は笑みを浮かべながら頷いた。すると更に涙が溢れ出てくる。今まで行く先々で気味悪がられ忌み嫌われていた自身の身体を皆は受け入れてくれた。

 

「そう…か…」

涙が流れて来るたびに心が軽くなると共に“何か”に満たされていった。それは“嬉しい”という感情であった。狩猟の達成感の時の感情よりもこの感情はとても心地が良く心が軽くなっていく。

 

気がつけば 自身は自然と笑みを浮かべていた。涙を拭き取ると目の前の二人に目を向けて心の底からお礼を言った。

 

「その…話してくれてありがとな…俺だとずっと話せなかった…」

 

礼を言われたはヒノエは笑みを浮かべると、ゲンジの頭に手を置く。

 

「そう言う時は『ありがとうお姉ちゃん』と言って欲しいものですね〜♪」

「そこまでは嫌だ…」

いつもの調子に戻ったヒノエは笑みを浮かべながらゲンジの頭を撫でる。

 

「ミノト姉さんも助けてくれてありがとな。ビシュテンゴの時も、あの後も…」

 

「『ありがとうミノトお姉ちゃん』という言葉を要求します」

 

「お前もか!?」

 

その後、ヒノエから現状を聞いた。百竜夜行と同時に討伐したマガイマガドは無事にギルドへと送られて、現在は原因を究明中とのことだ。

そして、その日から大社跡での大型モンスターの目撃例が届く事がなくなったという。

 

「そうか…なら、しばらくは採取クエストだな」

そう言いゲンジは落胆する。すると

 

「何を言っているんですか?」

「…え?」

 

ガシッ

突然ヒノエの手が肩に置かれる。

それに釣られてミノトの手も肩に置かれる。いや、置くというより掴んでいる。

 

「貴方をしばらくクエストには行かせませんよ」

「完璧に治るまでは絶対にです」

自身の怪我が完治するまで、二人はゲンジを狩りに行かせないようだ。

医者の診断の結果、これまで少量の休憩だけで体力の使い過ぎを重ねてきてしまっているので、しばらくは絶対に安静にしなければならないらしい。

 

「だからって何でそんな強く掴むんだよ!?」

 

「目を離した隙に行ってしまいそうだと思うので。因みに武器もしばらくハモンさんに預かってもらってます」

 

「ぐぅ…」

手は打たれていた。どうにも先程から防具は見当たるも武器が見当たらないと思っていたらヒノエ達がハモンに預けてしまったらしい。

因みにハモンとは、カムラの里の武器の加工屋の名前である。イオリの祖父でもあるらしい。

ゲンジの事を最初は皆と同様に快く思ってはいなかったが、ゲンジが6頭連続狩猟を終えた事を聞いた日から、信じるようになったらしい。

厳格な雰囲気を漂わせており、ゲンジが苦手とする人物である。

 

「さて、もう夜なので寝ましょうね♪」

そう言いヒノエはゲンジの身体を布団に押さえつける。

 

「絶対寝かしつける威力じゃねぇよな…なに?心配してるの気づかずにクエスト行こうとしてたのがそんなに気に入らなかったのか!?」

 

ゲンジの言葉にガン無視すると、ヒノエは布団をめくる。

 

「さて、ミノト。私達も布団に入りましょう〜。できるだけゲンジを逃がさ……ゲフンゲフン。冷やさないように隙間なくですよ♪」

「もちろん」

ヒノエとミノトは両サイドから同じ布団に入り込もうとしてくる。

「待て待て待て!分かった!いかないから!ちゃんと休むから入ってくるな!!」

 

「「よろしい」」

その言葉を受け取り、安心したのか、姉妹はゲンジの布団に入る事を止める。

その後、ヒノエとミノトは自身らの自宅へと戻っていき、ゲンジは布団に横になる。

 

「……」

窓の月明かりに照らされる中、ゲンジはエスラの言葉を思い出した。それは幼い頃、自身をハンターへと駆り立てた言葉。

 

『たとえ、その身体でも、ハンターとなり、人々の為に依頼をこなせば必ず皆は受け入れてくれるよ』

 

自身を立ち直らせてくれた言葉。その言葉を信じ、ハンター生活を続ける中で、ゲンジはようやく見つける事ができた。

 

“自身の居場所”を

 

ーーーーーーーーー

 

「姉様…あの時本気で布団に入り込もうとしていませんでしたか…?」

ミノトからの質問にヒノエは笑いながら答える。

 

「勿論よ。それはミノトもでしょ?」

 

「は…はい…」

そう言いミノトは赤くなった顔を隠すかのように布団を被る。ミノトと同じく、ヒノエも顔が赤く染まっていた。そして、姉妹は添い寝を激しく拒否された事を残念がりながらも同じ時刻に眠りについた。

 

 

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