薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
あの後、ヒノエ達はいつもの持ち場に着いていた。
「はぁ…」
退屈なのは無理もない。依頼を受けに来るのはゲンジただ一人なのだから。百竜夜行が去ってから、再び鉱石やキノコの採取の依頼が来るようななるも、ゲンジが回復しなければどうしようもない。
すると、
「あの、すいません。依頼ってありますか?」
「え?」
突然と目の前から声が聞こえ、目を向けると、3人のハンターらしき青年と女性が立っていた。3人ともまだ駆け出しに見える。
「採取依頼ならご案内できますよ」
「それで頼む!」
ヒノエは手続きをして、契約印を押す。すると、その書類を持って3人組のハンターは大社跡へと向かっていった。
それからしばらく経つと、また数人のハンターが現れた。装備は見る限り上位に達しているだろう。
「依頼あるか?大型モンスターで」
「あちらに行っていただくと集会所がございます。そこでのクエストならご紹介できますよ」
「助かる」
そのハンター達は強力な武器を背負いながら、集会所へと向かっていった。
突然のハンターの来訪にヒノエは驚いていた
道が開通した事によって、近くの村との流通が再開し、交通便も通れるようになったが、こんなにも早くハンター達が訪れるとは思ってもいなかった。
「…よし!」
景気つけに頬を叩くとヒノエは気合を入れた。
そして同時刻。ヒノエと同じ反応をしていたミノト。
「依頼あるか?」
「はい。現在届いている狩猟依頼はこちらに。どうぞご確認を」
ミノトは最初は驚いたものの、即座に気持ちを切り替えて、スムーズに手際良く、ハンター達に依頼書一覧を差し出す。
「じゃあこれで!メンバーは俺たち3人で頼む!」
「はい。お気をつけて」
クエストへと向かう3人をミノトは手を振りながら見送った。
ただ、ミノトにとって、その景色が少し複雑だった。
「(なぜ…今更…)」
来るのが遅すぎる。いや、それもそうか。彼らは百竜夜行によってこの里に来れなかった者達だ。何も悪くない。
そんな中でふと、ゲンジから教えられた事を思い出した。
それは ゲンジが去り際に残していた言葉だ。
『ハンターは嫌いにはならないで欲しい。世の中には、身を削ってモンスターと戦ってる奴らがいる。だから頼む』
その言葉を思い出したミノトは再び、ハンターを信じてみようと考え頬をパンパンと叩くと気合を入れて仕事に打ち込んだ。
ーーーーーーーー
カムラの里における大災害『百竜夜行』が撃退された事は瞬く間にこの周囲全体に知れ渡った。
一時的とはいえ、長年封鎖されており、限られた経路でしか辿り着く事が出来なかったカムラの里への交通の便が再び開通し、止められていた多くの流通が再開された。
カムラの里の鉱石は性質、純度共に高品質な為に、交易や流通で重宝されており、カムラの里へと次々と物資や人員が運ばれてくる。
カムラの里に憧れていた者も、興味を持つハンター達も更に元々この里で生まれた者達も次々と里へと向かってきているらしい。
「成る程な」
フゲンの家にて出された茶を啜りながら、今の話の内容にゲンジは頷く。目の前には着物を着用したフゲンもあぐらをかきながら茶を啜っていた。
「これから賑やかになるだろう。50年前の景色が思い浮かぶ」
そう言いフゲンは一番カムラの里が賑わっていた頃を頭に思い浮かべる。
「それはそうと…、なぜ、俺をここに呼んだ?」
「ふむ。そうだそうだ」
フゲンは状態を正すと真剣な眼差しをゲンジに向けた。
__________里に住む気はないか?
「え?」
突然の質問にゲンジは唖然としてしまい、二人の間に窓からの風が吹く。
「ここならば、主が望む希少種も偶にだが、他の地域よりも目撃例が多い。ヒノエやミノトも喜ぶ」
「なんで二人が出てくんだよ…」
「フッ。二人と仲良くやっていると聞いているぞ。それに、朝の景色を見れば誰でもわかる。
それに、皆の目が変わってな。何事にも希望を持ち始め、活発となってきた。俺たちに希望を与えてくれた主を是非、この里に迎え入れたいと考えているのだ」
「…」
その問いにゲンジは茶を啜る。
「どうだ?」
フゲンの問いにゲンジは湯呑みを置く。まだ、心の準備ができていなかったのだ。
「…俺はまだ決められない。返事は保留にしておいてほしい」
「むむ?そうか」
そういいゲンジは席を立つと、フゲンの横を通り過ぎ、家を出た。
ーーーーーー
フゲンの家を出たゲンジは歩く中で先程の言葉を頭の中で思い返す。
「……(里に住む……か…)」
当初は百竜夜行の原因を突き止めたらすぐに出て行くつもりでいた。
だが、今となってはそれは変わっていた。本当の自身を受け入れてくれたこの里はとても居心地が良い。それに、本心を言える者もいる。
その本心を言える者。ふと、ヒノエとミノトの顔を鮮明に頭に思い浮かべてしまう。
「…!何を考えてるんだ俺は!!!」
咄嗟にその考えを無くすように首を横に振るった。
「おい。この道のど真ん中でどうした?」
「…ハモンさんか」
そこに立っていたのは武器職人であるハモンだった。
「フゲンと何か話していたのか?」
「まあな…。そうだ。そろそ____
「断る」
「まだ何も言ってねぇだろ!?」
「双剣の事だろう。断固拒否する。ヒノエから少なくとも2週間は預かっていろと言われている。それに、ブラキディオス の装備の新調は中々面白いからな」
「依頼と同時に興味示してんじゃねぇぞクソジジイ…」
ゲンジは咳払いをすると、話を戻す。
その後、ハモンがよく休憩の為に扱う椅子に向かい合いながら座ると、先程のフゲンとの話の内容を話した。里に骨を埋める事を。だが、それを果たして皆は喜んでくれるのだろうか。快く思わない者もいるのではないかと。
すると、ハモンは首を横にも縦にも振らなかった。
「儂は別にどちらでも良い。お前が決めればいい」
そう言いハモンは水を飲み干す。
「確かに儂らもミノトと同じ、前のハンターの奴らの所為で信用を無くしていた。だが、お前はそんな儂らを見捨てずに導いてくれた。ここまでしてくれた奴に『里に住むな』という奴はいないだろ」
「そうか」
ゲンジは立ち上がると、手をあげて、ハモンと別れる。
「話を聞いてくれて感謝する。それと言い忘れたが、イオリはもう軟弱者じゃねぇぞ。アイツも武器を手に取って百竜夜行の防衛に参加したんだからな」
「それぐらい分かっておるわ」
それだけ言うとゲンジはその場を去る。当初、イオリとハモンはあまり、仲が良いとはいえなかった。だが、ハモンは百竜夜行でイオリが武器を構えて出撃した事から、自身の考えを改めたらしい。
それから歩いていると、里の広間で遊んでいた小さな少年と少女が走り寄ってきた。
「お〜いゲンジさ〜ん!!」
それはヨモギであり、もう一人の少女の方は『コミツ』少年の方は『セイハク』と言う名前で、コミツはりんご飴を売っており、セイハクはおにぎり屋を営んでいた。
「里に住むんだって!」
「は!?」
まさかの先程話されたばかりの話がなぜか関係のないヨモギ達にまで広まっていることにゲンジは驚く。
「何故それを!?」
すると、セイハクが答える。
「フカシギが皆に触れ回ってた」
「あのクソ猫…」
フカシギとは、時々、ゲンジの家の掛け軸の裏側から現れるアイルーであり、里の個人情報などをよく盗んでくる情報屋である。
その情報量は計り知れず、ミノトが絵がド下手であり、その絵を習っている事や、ゲンジ自身が背丈を気にして毎日伸ばそうと背伸びをしている事、はたまたフゲンがフクズクを大量に飼っているなど、仕事中だけでなく、プライベートも覗かれている。
「やったぁ!!ゲンジさんが里に住むんだぁ〜!!」
「コミツ!?ちょ!」
すると、嬉しさのあまり、コミツは近くにいるセイハクに抱きつきピョンピョンと跳ね上がる。
実はセイハクはコミツに好意を抱いており、抱きつかれたセイハクは顔を真っ赤に染めていた。
「嬉しいのか?」
「勿論!何てったってゲンジさんは私達のヒーローなんだから!ねぇ!」
「うん!」
ヨモギの言葉にコミツは頷く。
「ヒーロー…か」
ヨモギ達が戯れる様子を見ながら、ゲンジは改めて考える。
「コミツ。りんご飴3つくれるか?」
「はぁい!」
久し振りにリンゴ飴を購入すると、ゲンジは一本を取り出して舐めながら、その場を去る。
里は歩けば歩く程、多くの者に出会う。そして、その度に笑顔を向けられる。
それが、とても心地良かった。
そして、それこそ自身が今まで探し求めていた“居場所”だった。
「フフ」
いつのまにかまた、笑みを溢していた。この里に来てから、自然と笑うようになった。
「そうか…俺はここに住みたいのか」
ようやく、自身の気持ちを理解したゲンジは自宅へと向かう。
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その後、昼休みとなり、里の皆が昼食を取る仲、ヒノエもミノトとゲンジの3人で食事をしようかと考え、ミノトを誘うとゲンジの家へと向かっていた。
「ゲンジ〜。お昼一緒に食べましょ〜」
ヒノエはミノトと共に玄関の入り口を通る。すると、奥からゲンジの声が聞こえてきた。
「あぁ。今行く」
ダンダンと板の上を歩く音が聞こえ、ゲンジが姿を見せる。
そこには 今までよりも明るい雰囲気を漂わせるゲンジの姿があった。
「ゲンジ…その頭は…」
ミノトは驚いていた。だが、ヒノエはその姿を見て微笑んでいた。
「別に…ただ縛り上げただけだよ」
背中まで伸びた長い髪を側頭部からまとめて半ばの位置で束ねた事で長い髪による顔を覆う影が大幅に減り、いつもよりもスッキリとした雰囲気を漂わせていた。ヒノエ達と同じ先端が尖った耳が曝け出されるも、ゲンジはもう気には止めなかった。
「更に可愛くなってしまいましたね!」
「ただの気分転換だ。撫でるな」
ヒノエの撫でようとした腕を受け止めると、外に出る。
「そういえば、フカシギちゃんから聞きました。ゲンジが…その…里に住まうと………本当なんでしょうか…!?」
「あ?」
ミノトはモジモジとしながらも聞いてくる。その表情からは里に住む事が嬉しいのか嬉しくないのか判断がつかない。
すると、ヒノエが笑いながら捕捉する。
「この子ったらさっきからそれしか話さないのですよ。ゲンジが里に住むって決まった瞬間からピョンピョンとウサギのように飛び跳ね___
「姉様ぁぁ!!」
ミノトは顔を真っ赤に染めると、咄嗟にヒノエの言葉を途切らせようとする。
「フフ」
その光景にゲンジは笑みを溢すと、答えた。
「本当だよ。俺はここに住む事に決めた」
「…!」
すると、ミノトは駆け寄り、ゲンジを抱き締めた。
「うぉ!?ちょ…」
「まぁ!」
ミノトは何も発せず、ただ、無言のまま、気持ちを身体で表した。即ち、ミノトは喜んでいたのだ。感情を表現する事が苦手で、周囲から偶に誤解されてしまう彼女だが、この動作なら、誰しも彼女が大喜びしている事が丸分かりであろう。
その後、ゲンジとヒノエとミノトは共に昼食を共にすべく、おにぎり屋へと向かった。
「せめて歩くときは離れろ!!」