薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「ヴォラァァァァァッ!!!!」
全速力で走るハチから飛び上がったゲンジの蹴りがヒノエを葬ろうとしたヌシへと直撃する。
その威力はヌシを転倒させる程の威力であった。
「ゲンジ…!」
現れたゲンジにヒノエは涙を流した。対するゲンジはすぐさまヒノエに手を差し出す。
「立てるか?」
「えぇ…」
その手を取るとヒノエは立ち上がる。目の前の蹴り飛ばされたアオアシラは横転し、亀の如く身体が仰向けに倒れ、起きるべくもがいていた。
「俺が奴を引きつけるからその内に逃げろ」
その姿を見据えながらゲンジは武器を取り出し、撤退を指示する。
だが、
「ぐ…」
それと同時に頭痛や疲労感。更に脚からも痛みが伝わってくる。百竜夜行での激戦から、まだ数日も経っていないのだ。
「貴方まだ百竜夜行での傷が…!」
ヒノエの言葉にゲンジは苦い表情を浮かべる。そうだ。ゲンジの傷はまだ完全に癒えた訳では無い。もし、今の状態であの日のような激しい動作をすれば確実に傷口が開くだろう。
「私も戦います…!!」
そう言いヒノエは弓を取り出し、起き上がるアオアシラに向ける。
ゲンジはため息をつきながらも、ヒノエに甘える事にした。確かに今の状態で得体の知れないヌシと一対一で対峙するのは危険だ。ここはヒノエの手を借り、大きな隙を作り逃げるのが得策であろう。
「なら、撤退しながら援護を頼む」
そう言いゲンジは武器を構え、駆け出す。
「グルル…!!」
既に体勢を立て直していたヌシ・アオアシラは再び方向を放つべく首を上げるが、ゲンジはそれを防ぐべく、顔に向けて飛び上がると、アオアシラの顔面に目掛けて双剣を振るう。
「オラァッ!!」
振われた双剣の刃がアオアシラの顔面の甲殻を削り取り、痛みを与える。すると、
「グルゥ…!!」
やはり、顔へダメージが入った事でアオアシラはその部分を抑えるように怯む。
怯んだ隙にゲンジは更に剣を振るう。
一方で、ヒノエはその場から離れながらアオアシラへ向けて矢を放った。
「姉様!はやくこちらへ!」
「えぇ!(少しでもダメージを…!!)」
ゲンジの負担を減らすべく、次々と矢を放つ。距離が離れていながらも、その矢は攻撃するゲンジに当たる事なく、全てアオアシラに命中していた。
だが、放ち過ぎたその矢がアオアシラの目を引いてしまう。
「…!!」
アオアシラを斬り刻んでいたゲンジは即座に狙いをヒノエに変更した事を察知すると、ヒノエに向けて叫んだ。
「逃げろぉッ!!!!」
だが、ヒノエは矢を放つ事を止めなかった。ここまで離れていればすぐには接近できないはずだ。長年の経験が、そう掻き立てる。モンスターが自暴自棄になり、届くこともない攻撃をする事は稀にある。ならば、あのモンスターも今、その動作へと移行しようとしているのだろう。アオアシラからは大分距離が離れている。多少長い距離だとしても、流石にここまで跳躍する程の脚力はない。
ならば、ヌシは更に高く跳躍する事だろう。その事も予測済みだ。だからここまで離れた。
故に ヒノエはゲンジの忠告を耳に入れる事なく、ただ、ゲンジの負担を減らす為に矢を射る手を止めなかった。
その時だ。
アオアシラは状態を低くすると、脚を曲げる。
「(ここまで届かないはず…)」
そう確信していた。だが、現実は軽く自身の予想を裏切った。
アオアシラの巨体が高く飛び上がると、その身体が自身の目の前に落下してきたのだ。
「…(な…この距離を!?)」
驚きながらも、即座に武器を納めようとする。だが、その動作をしている合間にもアオアシラの巨体は着地した体勢を立て直すと、自身に向けて爪を振るう。
原種よりも更に発達したあの腕に殴り飛ばされれば、命の保証はないだろう。
その時だ。
「ヴォォァアアアッ!!!!!」
叫びながら走ってきたゲンジが即座にヒノエをヌシとは逆方向のキャンプへと続く道へと突き飛ばした。
「ゲンジ…!!」
吹き飛ばされたヒノエが名前を叫んだ瞬間 自身が立っていた場所にいたゲンジの身体がヌシ・アオアシラの発達した剛腕によって叩き飛ばされた。
「がぁぁ…!!!」
吹き飛ばされたゲンジは近くの岩に身体を打ち付けられ、口から肺の空気を吐き出す。
全身という全身に巨大な拳で殴られたかのような痛みが走る。
アオアシラの数百キロの体重かつ、発達した剛腕から繰り出される薙ぎ払いはシルバーソル装備を纏っていたとしても、そのダメージが精密に伝わってきた。
「グルル…!!」
即座にアオアシラは外したと理解し、ヒノエに向けて四つん這いになり、向かおうとする。
「待て…!!!」
ゲンジは圧倒的な生命力と筋力をフルに稼働させると、即座に立ち上がり、手に筋力を集中させると、アオアシラの後脚に目掛けてアルコバレノをねじ込ませるかのように振り回した。
「グゥォオオオオアアアッ!!!」
「グロォォオオ!?」
獣の叫び声と共に振われたアルコバレノは分厚い毛皮を通り抜け、身体の内部をも切り裂いた。突如として後脚に襲ってきた痛みにアオアシラは苦痛の声を漏らし、横に横転した。
「まだ俺の相手が済んでねぇぞ…!!!」
そして、ゲンジは痛みでのたうち回るアオアシラへと怒りの目を向けると、双剣を持つ。
「ヌシ……今度はこっちの番だ…ッ!!!!」
悲鳴をあげる身体を引きずりながらも、ゲンジは両手を持ち上げると、全力で振り回した。
「ヴォォォオオラァァッ!!!!」
そして、全てを塵にするかの如く、ゲンジの脅威的な速度で乱舞が放たれた。
その刃は新調された故に生半可では落ちない切れ味とゲンジの腕力によって、通常種よりも遥かに硬いヌシであるアオアシラの毛皮や甲殻を次々と引き裂き、剥がれ飛ばして行った。そして、剥がれ落ちる甲殻が無くなれば、遂にはその下にある肉を削いでいく。
「グロォオオ…!!」
肉が次々と血に纏われながら辺りへと飛び散り、その苦痛にヌシは悲鳴をあげる。
必死に起きあがろうとするも、背中から次々と襲い来る斬撃に加えて先程、ゲンジに斬られた脚の傷が深すぎる故に立つ事が出来なかった。
そして、それが狙いであるゲンジは動作を停止する動きを見せず、次々とヌシの血肉と顔の甲殻を斬りつけていった。
そして、ゲンジは乱舞を止めると、双剣を重ね合わせ、構える。
「終わりだ…!!!!」
一閃____。
アオアシラの脳を両断するかの如く、頭にゲンジの双剣が振り下ろされ、その直後にアオアシラのもがいていた四肢がゆっくりと地面の下に崩れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…終わった…か…」
その様子を見届けたゲンジはその場に膝をつく。
「ぐ…!!(頭が痛ぇし身体も痛ぇ…やっぱり無理して闘うんじゃなかった…)」
ゲンジ自身でも自覚してしまう程、身体は限界であった。たった数日程度の休みで完全に癒す事など不可能なのだ。
「ゲンジ!大丈夫ですか!?」
即座にヒノエが駆け寄り、頭を自身と同じ高さまで膝をつきながら下げてくる。
「あぁ…悪いがハチを連れてきて欲しい…」
「…わかりました…」
ヒノエは即座にハチを呼ぶ。
その後、ゲンジはハチの背に乗り、ヒノエ達と共にキャンプへと生還すると、力が抜けたかのようにベッドの上で横になると目を閉じた。