薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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薄明激怒

部屋の中で、ヒノエは頭を押さえながら先程のマルバから言い放たれた言葉によって、自身の過ちでゲンジがヌシから攻撃を受け、傷を増やしてしまった事を思い出してしまった。そして、それが頭の中に根付き、次々とヒノエを蝕んでいく。

 

「私の所為でゲンジが…里の…皆の家族が……」

 

「姉様!お気を確かに!!」

 

「私は…なにも出来なかった…」

いつも沈着冷静であったヒノエの心が次々と壊れていく。そして、遂には大粒の涙が溢れ出てしまった。

 

「姉様…」

悲しみの声を上げながら涙を流し泣くヒノエをミノトは落ち着かせるように抱き締めた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

血走った目を向けたゲンジはヒノエを追いかけようとしたマルバの長い後ろ髪を掴んでいた。

 

「おい。さっさと手を離せよ?」

 

「離す必要ねぇよ」

 

「は?」

 

マルバが首を傾ける中、ゲンジは握り締めていた手に力を込めると、まるで根こそぎ引き抜き出すかの様に一気に後ろへと引っ張った。

 

「ヴォァアッ!!!!」

 

「!?」

叫び声と共に引っ張られた髪はブチブチと音を立てながら頭から根こそぎ引き抜かれいった。

 

「うぎゃぁぁぁ!!!」

ただ一度に大量に引き抜かれた事により、その部分へ大量の痛みが襲いかかってくる。

 

痛みでのたうち回るマルバを見据えたゲンジは待っていた髪をゴミの如く地面に放り捨てる。

 

「き…貴様!!僕の髪になんてことを…!!!」

 

「うるせぇ。大人しくしてろよ。じゃねぇと綺麗にお前の髪の毛が引き抜けねぇじゃねぇか。もうあと2回くらい引っ張れば全部取れそうだな」

 

そう言いゲンジは更にマルバの髪の毛をむしり取ろうと、頭へと手を伸ばす。

 

その時だ。

 

「てめぇ!調子こいてんじゃねえぞ…!!!」

デンが駆け出し、小柄なゲンジの身体を後ろから脇へと腕を通す形で拘束する。

そして、起き上がったレビは装備を纏っているにも関わらずゲンジの顔に向けて拳を振るった。

 

「さっきはよくも殴りやがったな…!!!この!この!!」

 

殴りつけられる度にレイアs装備の腕の部分の装飾品が顔を擦り、ゲンジの頬から血が滲み出る。

その拳は10回程打ち付けられると勢いが収まる。

 

「はぁ…はぁ…どうだ?」

レビはたった10回のパンチで肩で息をする中、ゲンジを見る。

 

立て続けに放たれた拳。一般人ならば、装備を纏った拳を直に喰らえば装備の装飾品により、口内が切れるに加えて歯も折れてしまうだろう。

 

だが、ゲンジにとっては全く応えてなどいなかった。

 

「……なんだ?そのパンチは?」

「え…?」

口や鼻から血を流すだけで全く痛がる素振りを見せなかった。口内に溜まった血を吐き出すと、身体を曲げ、骨を鳴らす。

 

「がぁ!?」

骨を鳴らした直後、目の前にいるレビの顔に目掛けて蹴りを放ち、転倒させた。

 

 

「テメェも邪魔だ。さっさと…離れろ…!!」

 

その瞬間 ゲンジの身体が自身を拘束していたデン諸共 飛び上がり、ゲンジは全体重を後ろへ掛けた。

 

「ちょ!?ごはぁ!」

その拍子にデンはゲンジの重さも加わり地面に打ち付けられ、肺から息を吐き出す。そして、拘束が解かれたゲンジは倒れたデンの髪の毛を無理矢理掴み、自身と同じ目線まで持ち上げる。

 

「ぐぅ…!?離しやがれ…!!」

髪が力強く引っ張られ、頭に痛みが集中する中、苦痛の声をあげながらデンはゲンジを睨む。

 

だが、もうゲンジは誰にも止められなかった。

 

「ガバェ!?」

何の装備も待っていないゲンジの拳が掴み上げられたデンの顔に次々と放たれる。

 

何度も何度も。歯が折れ、口内が切れ、鼻血が噴き出し、鈍い音がその場に響き渡る。

 

その殴打が5回打ち終えた頃にはデンの意識はもう無かった。先程まで美丈夫であった顔は白目を剥き、所々が腫れ、歯が折れ、そして鼻から血が流れており、一瞬にして醜悪な姿へと変貌した。

 

「なんだ気絶したのか。弱いな」

 

髪を掴んでいた手を離すと、力無くゆっくりとデンの身体は地面に沈んだ。

 

「次はお前だ…!」

そして、ゲンジの目が驚いたまま立ち尽くしているレビへと向けられる。一度殴られたからにはやり返さなければ気が済まない。

 

「ひぃ!?」

レビはその顔から恐怖心を抱きすぐさま里から逃走を図ろうとする。だがその意図はすで予測されていた。

 

「逃げるなよ」

ゲンジは逃がさないためにレビの髪を無理矢理掴むと、その顔に向けて何の装備も纏っていない膝を叩き込む。

 

「ガバァ…!!」

脆い音と共にゲンジの発達した膝蹴りは深く突き刺さり、レビの歯を折るだけでなく、鼻の骨も折った。

 

「おいおい。装備纏ってる奴がなんで何の装備も纏ってねぇ奴に負けてんだ?あぁ…!?」

ゲンジは次々と恨言を吐くかのようにレビの頭へと膝を打ちつけた。

そして、その膝蹴りが数回に渡り叩き込まれた結果、先程の美形な顔はもうどこにも残ってなどいなかった。

歯は全てボロボロに折れ、目も白く、顔も腫れ、デンと同じく醜い姿へと変わっていた。

 

「気持ち悪ぃ顔だな。さて__

「うぁあぁああ!!!!」

 

「ん?」

ゲンジがレビの身体を投げ捨てた時、残ったマルバが叫び声を上げながら剥ぎ取り用のナイフを振り回してきた。

 

「死ねぇええ!!!」

だが、その動きは上位ハンターでは見られない程 遅い速度であった。

 

「フン」

斜め上から振り下ろされたナイフをゲンジは掴み止める。

 

「危ねぇじゃねぇか…!!」

「う…嘘…」

マルバの目が絶望に染まる。ハンターナイフを取り返そうと動かすも、全くナイフが動かなかったのだ。

刃を受け止めた事でゲンジの手の平が切られ、刃を伝い次々と血が滴り落ちる。

 

それでもゲンジは苦痛を感じる素振りを見せる事なく、マルバへと怒りの目を向けた。

 

「ヴォラァッ!!!」

 

「ごふぅ!?」

そして、ゲンジはもう一方の拳をマルバの顔面へとランスの如く放つ。放たれた拳は深く抉り込み、手からナイフを離しながら数メートルの距離を吹き飛んだ。

 

「人に向けてナイフ振りやがって。まぁいい。それより…」

ゲンジは掴んだナイフを放り捨てると、吹き飛んだマルバの胸ぐらを掴みあげる。

 

「ヒィ!?」

マルバを見つめるその目は更に血走っており、確実に見た者を生かしては返さない獰猛な大型モンスターを彷彿とさせる。

その目が超至近距離で向けられ、マルバは次々と恐怖に染まる。

 

「さっきの言葉を今すぐ取り消せ…!!!ヒノエ姉さんが役に立たねぇだと!?姉さんや他の奴らが援護したお陰で俺は百竜夜行を退けたんだ。何も見てねぇテメェが偉そうな口ぶっ叩いてんじゃねぇぞ!!!」

 

その目と共に放たれるゲンジの怒りの声にマルバは遂に涙を流し始めた。次々と脳内が恐怖に染まり、手足が痙攣し始める。

 

それによって先ほどまで顔に表れていた怒りと反抗心がアッサリと消え失せた。

 

「ごごごごめんなさい!!本当にすいません!!調子に乗ってすいませんでじだぁ!!」

正に恥。ゲンジへの恐怖心から今までの態度や口調が全て嘘のように消え失せ、今では恐れる小心者へと成り下がっていた。

 

 

だが、今更謝罪してももう遅い。

 

「ガハァ!」

ゲンジの拳がマルバの顔へと叩きこまれた。それも1発だけではなかった。

 

「お願いしま…す…もう…やめ…」

次々と、デンに放った時よりも速く、そして重い拳が放たれていく。今までの恨みを全てぶつけるかの如く。

 

辺りには次々と拳が突き刺さる鈍い音が響き渡り、それと同時に鼻や口から流れ出た血が飛び散って行った。

ハンター達は止めようとするが、今止めれば、明らかに自身らも巻き添えを喰らうと思い、止めに入る事が出来なかった。

 

すると、ゲンジは拳を収め、白目を剥くマルバを掴みあげる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

まだ意識があるのか、生にすがりつくかのように呼吸をしていた。

だが、その顔は他の二人と同様に先程の美しい素顔は影もなく消え失せていた。歯は折れ、鼻も折れ、そして鼻血や口内から血が垂れ、顔全体が腫れ、その上髪も引き抜かれた事でもう原型が見当たらない程までに醜悪に満ちた顔となった。

 

「さっき自分を美しいとか言ってたが、汚ねぇしブサイクじゃねぇか」

 

そう言いゲンジはマルバの顔を地面へと叩きつける。

 

「ぐぅぅ…!!ちくしょぉぉ!!なんで俺がこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよぉぉ!!」

 

叩きつけられた拍子にマルバは涙を流しながら叫び始める。正に逆恨みだ。自身が撒いた種であるにも関わらず、報復を受ければ被害者の如く泣き叫ぶ。

殴られても尚 変わらない横暴な態度に遂にゲンジの怒りは臨界点を超えた。

 

「だったら最初から頷かなけりゃいい話だろッ…!」

怒声と共にゲンジはマルバの胸ぐらを掴みあげる。ゲンジよりも体格が良いマルバの身体が易々と持ち上げられた。

 

「頷けば希望を持たれるほどハンターは信用されてんだよ!!もちろん拒否する権利は誰だってある!!だが…お前がやった事は信用を利用して欲望を満たすっつぅクソ野郎がする事なんだよッ!!!」

そして、ゲンジは拳を構える。

 

「もうお前の顔は見たくねぇ…ここで死ね」

マルバを葬るべく ゲンジは拳を握り締めると固定されたマルバの顔面に向けて放った。

 

「うぁああああああ!!!!!」

 

拳が寸前に迫り、マルバの悲鳴が響き渡った。

 

 

その時

 

「やめろゲンジ!!!」

 

ハンターの間から騒ぎを聞き、駆けつけたフゲンが飛び出し、拳を放とうとしたゲンジの身体を拘束する。

 

「ぐぅ…!?」

ゲンジどころか一般的なハンターよりも更に体格があるフゲンの腕がゲンジの脇から通され、腕を押さえる。

 

その拍子にマルバも解放され、地面へと落とされ尻餅をついた。

 

そんな中でフゲンに拘束されながらもゲンジの動きは完全に止まる事はなかった。

 

「離せッ…!コイツを殺さなきゃ気が済まねぇ…!!」

 

そう言うと同時にゲンジの鋭い目はマルバを逃す事なく視界に捕らえると次々と迫る。

 

 

「ぐぅ!(なんだこの力は…!?)」

ゲンジよりも倍の体格はあるフゲンの身体が少しずつだが引きずられていった。その力は正に怪力と呼ぶに相応しい程とてつもない強さだった。

 

「お主の気持ちは分かる!!だが堪えてくれ!!主は里を救ってくれた。だから俺達はお前が罪を被る姿は見たくないんだ!ここで此奴を殺せば里の皆だけではない!お主の家族も…ヒノエもミノトも悲しんでしまうぞッ!!」

 

 

 

 

____「…!!!」

フゲンの言葉にゲンジの目が大きく開かれ、失っていた瞳が再び戻る。正常を取り戻すと同時に暴れる身体の動きが止まった。

 

 

動きが止まると同時にミノトも遅れるように現れる。フゲンを呼びに行ったのは彼女のようだ。ゲンジの動きが完全に静止した事をフゲンは確認すると息をつく。

 

「ふぅ…落ち着いたか?」

 

「あぁ…」

フゲンは腕を離し、ゲンジを拘束から解いた。拘束から解かれてもマルバに向かう動きがないため、嘘ではないだろう。

 

だが、完全には収まっていない。拳を握り締め、血が更に滲み出ながらもゲンジの鋭い目が再びマルバへと向けられた。

 

「あの野郎…ヒノエ姉さんを役立たずだとほざきやがった…何も知らねぇ上に里を荒らしたあの野郎が…!!!」

 

「ヒィ!?」

その視線を向けられたマルバはもう立ち上がる事が出来ない程まで恐怖に呑まれ精神が限界に来ていた。

 

再びゲンジが怒りに支配されかけようとする中、咄嗟にミノトはゲンジの両肩を強く掴み寄せた。

 

「ですが…殺してしまわれてはヒノエ姉様がさらに悲しんでしまいます!姉様だけではありません。私も……貴方が罪を被ってしまったら…!!」

 

「…」

ミノトの目には涙が浮かんでいた。彼女にとって、ヒノエが更に悲しみに飲まれることに加えてゲンジが罪を被る事は本当に耐え難いのだろう。そして、ようやく気付かされたゲンジは怒りと共に殺気を収めた。

 

 

「おぉい!何の騒ぎでゲコかぁ!」

騒ぎを聞きつけたゴコクもテッカちゃんに乗りながら現場へと現れた。

 

「これは…!!」

その光景に驚いていると、フゲンとミノトが前に出る。

 

「ゴコク殿…説明は俺とミノトが」

ミノトはフゲンが来る前の事を。フゲンは自身が来た時の事を鮮明に嘘偽りなく全て話した。

 

「なんじゃとぉ!?」

 

ゴコクは辺りを見回す。顔が腫れ、倒れている二人のハンターに加えて髪の毛を引き抜かれ顔がボロボロで涙を流しているハンター。辺りには血が飛び散っており、悲惨な光景だった。

それは全てゲンジの仕業だったのだ。

 

咄嗟にゴコクはゲンジの肩を掴む。

 

「ゲンジよ!!お主が一番分かっておるだろぉ!?ハンター同士の争い事はご法度であると!!」

「…あぁ」

ゴコクの言葉にゲンジは頷く。それでも、ゲンジは許す事が出来なかったのだ。自身をサポートしてくれたヒノエを責めたあのマルバという男に加えて二人のハンターを。

 

「だからどんな処罰も受ける覚悟だよ」

 

「……」

ゴコクは沈黙すると、歯を食いしばりながらもゲンジに対し、苦渋の末に処分を下した。

 

「ゲンジ……しばらく…自宅謹慎を言い渡す……」

「あぁ…」

ゴコク自身もこの判断には迷いがあった。今回は間違いなくあちら側の3人が悪い。だが、ゲンジが法を犯してしまった事に変わりはない。ギルドマスターもといマネージャーであるゴコクはギルドとして、公正な判断を下さなければならなかった。それはあの3人も対象である。

 

「すまぬ…」

 

「別にいい」

下された処置にゲンジは頷くと、拳を見る。ハンターナイフを掴んだ際の切傷が開いており、大量に血液が流れていた。

それを握り締めると、ゲンジは辺りにいる者達へと頭を下げた。

 

「騒ぎを起こして悪かった」

 

そして、ゲンジは最後に鋭い目をマルバへと向けた。

 

「二度とヒノエ姉さんとミノト姉さんに近づくんじゃねぇぞゴミ野郎ッ…!!!!!」

 

「…!!」

向けられたその視線から逃げるかの如く、マルバは尻餅をつきながらも必死に頷いた。もしここで口を開けば、確実にマルバは命は無かっただろう。

 

その後、ゲンジはミノトに連れられながら自宅へと戻って行った。

 

「ハンターの皆よ。悪いが今日の里と集会所のクエストの受付はここまでにしてくれ」

その言葉に辺りにいるハンター達は頷き、簡易的に用意されている宿へと歩いて行った。

そして、倒れている3人を見たゴコクは里の者へと声をかける。

 

「皆の衆よ。此奴らを治療してやれ…」

 

「え?」

「いいんですか…?コイツらは我々に…」

頼まれた里の者は疑問の声をあげるも、ゴコクは頷く。

 

「もうよい。ゲンジがあれだけブチのめしたんじゃからスッキリしたでゲコ。それにずっと放ったらかしにしておく訳にはいかん。見よこの様を…もはや可哀想に見えてしまうわい」

 

里の者達は自身達からハンターへの信用を奪い去った3人の顔を見る。

3人のうち 二人は顔面を何発も殴打された跡があり、歯が何本も、鼻も折れており重傷。更にもう一人の男は髪を引き抜かれており、一部分だけ頭皮が丸出しになっていた。

 

その現状を見て里の皆は恨みが一瞬で薄れてしまった。

 

「分かりました…」

その後、マルバに加えてゲンジに暴行を加えられたレビとデンは医者であるゼンチの元へと担架で運ばれて行った。

 

「ゴコク殿もお辛そうですな」

 

「当たり前でゲコ……ゲンジはあそこまで儂らを…里を思ってくれておるんじゃからのぅ…」

 

ゴコクは先程の判断に心を痛みながらも、フゲンと共に里を見つめた。

 

 

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