薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
あの後 ゲンジは自宅へと戻ると、ミノトに手の治療を受けていた。
「…ヒノエ姉さんは…?」
ゲンジは自身の手に包帯を巻くミノトにヒノエの容態について聞く。すると、ミノトは今現在の状況を話した。
「何とか落ち着き、今はヨモギちゃんについてもらいながら眠っておられます」
「そうか」
ゲンジは昼の空を見上げる。しばらくは狩りが出来ない上に外出もままならない。何もする事ができない。
「取り敢えずそれなら安心だな。問題はどうやっていつものように戻ってもらうかだ」
「そうですね。私もあのようなお姿のヒノエ姉様は…とても見てはいられません」
ミノトもゲンジと同じ意見だった。ミノトにとって、ヒノエの笑顔が自身の原動力であり、彼女の優しい微笑みが養分ともいえる。それか断たれてしまった今この時が彼女にとっても耐え難い苦痛となっていた。
「終わりましたよ」
「ありがとな」
腕からの出血が止まり、無事に包帯を巻き終える。
「…待てよ?」
そんな中 ゲンジはある提案を思い浮かべ、ミノトに顔を向ける。
「ミノト姉さん。少し頼みがある」
「はい?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「…!」
目を覚ますと目の前には家の中の風景が広がっていた。外は夕日が輝いており、部屋の中には照らされる夕日と物が遮る事で生まれる影との境がクッキリとしていた。
「(眠ってしまいましたか…)」
状態を起こしたヒノエは自身の胸に手を置く。眠った後でも、自身の後悔の念は消え去る事はなかった。
見ると傍にはウサ団子が置かれており、ヨモギが書き記した手紙も添えられていた。
『仕込みのためにちょいと出かけます!すぐ戻りますので起きたら是非食べてください!!』
その手紙をヒノエは黙読すると、ヨモギに心から感謝して、置かれたウサ団子を手に取り、口に運んだ。
「…」
いつも50本は食べていると言うのに今日はこの一本だけ。自身にとって数刻ぶりに食べるウサ団子はとても美味であった。
ウサ団子を食べ終えると、ヒノエは先程の事を思い浮かべてしまう。
「…」
どうすれば良いのだろうか。この苦しみはどうすれば無くなるのか。
いや、その前に里の仕事がある。途中で抜け出してきてしまった。
ヒノエは受付場に赴く為に白装束からコーデへと着替えると外へ出ようと玄関に差し掛かる。
すると二人の職人が喋りながら歩いてくる音が聞こえてきた。
「なぁ、ゲンジさんしばらく謹慎らしいぞ?」
「___え?」
ヒノエの思考が停止する。
「(どう言う事…?ゲンジが…謹慎…?)」
ヒノエは信じられず、玄関に立ち尽くしてしまった。その間にも二人の職人の話が耳へと入ってくる。
「あぁ聞いた。なんでも俺達を騙したハンター3人をボコボコにしたらしいぜ」
「…!」
それは先程 自身に言い寄ってきたハンター達だ。
「まぁいいんじゃねぇか?あの人最近動き過ぎだろ?少しくらい休ませた方がいいし、それまでは俺達が頑張ろうぜ。何てったって里を救ってくれたんだからよ」
「そうだな。それにオレ、あの人がアイツら殴ってくれてスッキリしちまったし。今度メシ持ってってやろうかなって思ってよ」
「おぉ!オレもだ!自慢の美酒を持っていってやろうとしてたんだ!」
そう言い二人の職人は談笑し合いながら去って行った。
「ゲンジが……謹慎…」
自身の所為だ。あの時 自身がすぐさま手を振り払い 強く…拒否をしていればゲンジが巻き込まれる事はなかった。
即座にヒノエは駆け出し、ゲンジの家へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
夕方となり、皆が明日の仕込みや仕上げのために動きが収束していく中、ゲンジは夕日の指す部屋の中で座布団の上に寝転び、ただ空を見上げていた。鈴虫が泣き始め、鳥の囀りが聞こえる中、ただ暇を持て余す事もできず、ゲンジは横になっていた。
「はぁ…」
その時だ。
夕方となり、カラスや鈴虫が鳴く中ふと、玄関から足音が聞こえた。
「……ん?」
自宅に誰かが入ってきた。起き上がると、玄関に1人の影があった。それはヒノエだった。
「姉さん、ようやく起きたか。大丈夫か?」
ゲンジは立ち上がり、玄関にいるヒノエに向けて歩く。近くまで来ると、差し込む夕日の影で見えなかったヒノエの顔が鮮明と映ってきたが、見えたヒノエの目には涙が溜まっていた。
「ゲンジ………」
ヒノエは顔を手で塞ぐとその場に泣き崩れてしまう。
「ごめんなさい…!!私のせいで…貴方が謹慎処分に…本当にごめんなさい…!!!」
「…はあ?」
ゲンジは泣き崩れるヒノエの肩に手を置くと、否定した。
「何謝ってんだよ。今回は俺が独断でやったことだ。姉さんが気にする事じゃねぇ」
何度もゲンジはヒノエが原因である事を否定するも、彼女の涙は止まらなかった。
「でも…私があの時…すぐに自分で判断すればゲンジが…」
「ッ…もぅめんどくせぇから上がれ」
ゲンジは舌打ちしながら強引にヒノエの手を引き家に上がらせる。
◇◇◇◇◇◇◇
家へと上がらせると、ゲンジは囲炉裏の手前の座布団にヒノエを座らせる。
「何弁も言わせんなよ。いいか?今回は俺の独断だ。俺が決めた事だ。アイツらを殴ったのも謹慎を受けたのも」
ゲンジは何度も何度もヒノエにそう言った。今回もヌシの時も全部自身が選択した事であってヒノエの気にする事ではないと。
それでも、ヒノエの涙は止まる事はなかった。ヒノエにとって、自身を庇い傷を負った事と、自身を庇い謹慎となってしまった事がヒノエの頭の中から離れないのだ。あの時の行動ばかり後悔し、全て自身の所為にしてしまう。
「…」
今も尚涙を流すヒノエを見るゲンジはヒノエが自身を最初に慰めてくれた
時の事を思い出す。
「(仕方ねぇ……)」
そして、すぐさま行動に移した。
「…え?」
その行動はヒノエの涙を止まらせ、目を大きく見開かせる。ゲンジはヒノエの背中に手を回し、落ち着かせるように抱き締めていたのだ。
「そこまで自身の所為にするならお互いさまだろ。俺が何度 ヒノエ姉さんに助けられたと思ってんだよ。崖から落ちたこの俺を助けて里に運んでくれたのも過去を受け止めてくれたのも皆へと話してくれたのも全部ヒノエ姉さんじゃねぇか」
「ゲンジ…」
その言葉にヒノエは思い出した。初めて会った時の事も。自身を姉と間違いながらも涙を流しながら手を握った事も。そして、自身を信じて過去を話してくれた事を。
「狩りの傷も謹慎も…姉さんが俺にしてくれた事に比べれば軽いもんなんだよ。俺はまだ姉さんには返せない程の恩が残ってる」
その言葉と共にゲンジの温もりが段々とヒノエの心を暖めていき、頭の中に根付いたマルバの言葉と自己嫌悪の念を次々と崩していった。
「だからさっさといつもの姉さんに戻ってくれよ。ミノト姉さんだって心配してるんだぞ」
「ミノト…」
ヒノエは唯一の自身の肉親を思い浮かべる。そうだ。彼女は自身が守らなければならない。自身がずっとこのままでは妹に負荷を掛けてしまう。
すると、少しずつだが、その顔からは悲しみが消え始め、次第にいつものヒノエの笑顔が戻ってきた。
「そうですね。いつまでも凹んでばかりでいてはいけませんね」
ようやく笑顔を取り戻したヒノエは自身を抱き締めるゲンジの首に手を回すと身を寄せた。
「しばらく…このままでいさせて欲しいです」
「…分かったよ」
その抱擁をゲンジは受け入れ、ヒノエが満足するまで離れなかった。
ーーーーーーー
その後 ヒノエはゲンジから手を離し、顔を見せる。その目から涙が、顔からは悲しみが完全に消え去り、以前の様に暗闇の世界を照らす太陽のような笑みを浮かべていた。
「ゲンジ…また貴方に助けられてしまいましたね」
「別に…この程度の事だったらいつでも助けてやるよ…」
ゲンジは目を逸らす。見ると頬が赤く染まっており、やはり間近で見るヒノエの笑顔はゲンジにとって今も尚慣れないものだった。
その様子を見ながらゲンジの言葉にヒノエも頬を染め、クスクスと笑みを浮かべると立ち上がる。
「本当にありがとうございました。ミノトやヨモギちゃんにも御礼を言わなければいけませんね」
「あぁ。ならさっさと行ってこい。日が暮れるぞ」
「えぇ」
そして、ヒノエは笑顔のまま、ゲンジの家を出て行った。
その後ろ姿を見送るとゲンジは家の中で再び横になる。
「(この後のあれは……まぁ別にいいか)」