薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
_____いつからだろう。彼に対する想いが恋心に変化したのは。
初めて彼を発見した時は、期待と不安を抱いていた。この地域では滅多に見かける事のない希少種の装備とG級武器を纏っている彼は里長を凌ぐ程のツワモノだろうと確信した。
だが、それでも百竜夜行は恐ろしい災害。彼も話を聞けば協力を断ってしまうだろうと心に思っていた。
けれど、それは違っていた。私が断られるのを覚悟の上で協力を申し出た時、彼は何の迷いもなく頷いてくれた。
里を守る希望が再び芽生えたことが本当に嬉しかった。
ただ、私や里長にヨモギちゃん達などの一部の人以外の里の皆はゲンジを信用できなかった。共に歩いていた私でも彼に向けられる冷たい視線を感じていた。
だから彼もこの視線に耐えきれずに出て行ってしまうのではないか。そう危惧していた。けれども、それも間違っていた。
皆から冷たい目線を送られながらも彼は私達を見捨てず次々と依頼をこなしていってくれた。いつも狩りに向かうその姿が本当に頼もしい限りであり、次々と里の皆から信用を得て行った。
そして、彼は私を一番信用してくれていた。誰にも打ち明ける事ができなかった過去を私やミケちゃんに涙を浮かべながらも話してくれた。最初は彼の足を見て自身と同じ竜人族だと思っていた。けれどもそれは全く違う。彼は薬によって無理やり寿命を伸ばされ身体が変化した元は何の変わらない人の子だった。
全てを打ち明けてくれた後に、彼から姉として見られるようになったが、それが何故か嬉しく思い、私も彼を本当の家族のように思ってしまうようになった。それから私は彼に時折 ちょっかいを掛けてしまうようになる。その反応自体がミノトと似て、本当に弟が出来たかのように嬉しくなってしまった。
彼には本当に欠点という物が存在しなかった。だが、あるとするならば、自身の身を顧みず他人の為に身体を犠牲にする事だ。
ミノトと私が一緒にいられる様に無茶をしていた時は驚いてしまった。彼が一番お姉さんに会いたいと思っているのにその念を押し殺し、私達を一緒にいさせようとしてくれていたのは感謝しかなかった。
この時から、私とミノトのゲンジに対する想いが少しずつ変わっていった。
ミノトだけでなく、里の皆もゲンジによって、ハンターを再び信じようとしていた。ゲンジは私達だけでなく、里そのものを変わらせてくれたのだ。
そして
彼は里を変えるだけでなく百竜夜行を無事に撃退し、里を救ってくれた。
私達はどれ程彼に助けられたのだろうか。今まで退ける事ができなかった百竜夜行を退けた事はまさに快挙だった。ゲンジは最後まで私達を見捨てずに闘ってくれた。
百竜夜行の直後に襲ってきたマガイマガドからミノトを守ろうとした時も彼は疲労しきっているにも関わらず身を呈して私達を逃してくれた。
その日を境に、ゲンジを思うたびに私達姉妹の心の中が炎のように熱くなってしまうようになった。彼を思い、彼の側にいると、その熱い心は暖かくなり、自身を落ち着かせてくれる。
ミノトと共にゲンジの布団に忍び込んだ時は正しくそうだった。二人でゲンジを挟み込みながら寝ていると、心がほんのりと暖かくなった。
そもそも、私はその時は熱く燃える理由が何なのかさっぱりであった。ただの家族愛なのではないかとずっと思っていた。けれども、それは全く違っていた。もしも家族愛ならば、ミノトといる時も熱くなる筈だ。なら、この熱い理由はなんなのだろうか。
その理由はようやく理解できた。
私が自己嫌悪に陥り、精神を壊してしまいそうになった時、彼は私を安心させるように抱き締めてくれた。それは暖かく少しずつだが私の精神を回復させてくれた。
私は分かった。なぜ、ゲンジを見るとあそこまで身体が熱くなるのか。なぜ、彼を想うたびに心が熱くなるのか。
理由は簡単だ。私は…ゲンジを……異性として好いていた。
その証拠に私はゲンジを見ると彼と共にいたい。もっと…ずっと一緒にいたいと思うようになる。
私はゲンジが好きだ。
◇◇◇◇◇◇◇
日が沈み、夜になったカムラの里の風景を見ながらヒノエは書類の整理をしていた。風が吹き後ろにまとめた髪が揺れる。
あの後 心配していた皆へと頭を下げて、もう異常はない事を伝えたのだ。中でもミノトはヒノエが元に戻ったことに歓喜のあまり抱きついたらしい。
皆からはもう一日休んだらどうだと提案されたが、自身だけ休むのは気が引けない。
そして、人が寝静まった夜にて、ヒノエが夜の里の風景を見渡していると、集会所からミノトが現れた。
「姉様」
「あら、ミノト」
今までミノトはクエストから帰ってきたハンター達の対応をしていたのだ。すると、ミノトはヒノエの手を両手で掴む。
「少し来ていただきたい場所がございます」
「え?随分と突然ね」
ミノトに連れられ、案内されるがまま後を着いていく。
「こちらです」
「ここってゲンジの家じゃ…ん?」
案内されたのはゲンジの家だった。寝ていると思っていたが、何故か家には灯りがつき、騒ぎ声が聞こえてきた。
ーーーーーーーー
「ダーハッハッハッ!!飲め飲めぇぇ!!しばらくはゲンジが休暇だぁぁ!!」
「ほれジジイ!!はい献杯〜!!!」
「阿呆!俺はまだ死んどらんわ!」
ゲンジの冗談まじりの音頭にフゲンは突っ込む。
ゲンジの自宅にはフゲンに加えてゴコクやテッカちゃん。更には交易場のロンディーネも来ていた。いや、人だけではない。フゲンのオトモであったコガラシもゲンジのお供であるミケも一緒におり、肩を組みながら歌っていた。
「うぅ…ようやく出番が回ってきた…」
「久しぶりに皆とこうして酒が飲めるとは…生きてた甲斐があったなぁ…!!」
手にジョッキを持ちながら酔ったウツシやロンディーネは二人揃って血の涙を流しながらオイオイと泣く。
「なぁに泣いてんだよウツシにロンディーネ!ほら!酒おかわり〜!!!」
ウツシに肩を組むのは何と酔っ払ったゲンジだった。酒が弱い上に里でも強い酒を飲んでいるために既にベロンベロンであった。それはいつも冷静である性格が完全に消え去っており、里の者に積極的に絡んでいた。
「…こ…これは…」
「ゲンジが提案したのです。謹慎と聞いて姉様が気分を落としてしまわれると思い、それを解消させる為に宴会を開こうと」
すると、ヒノエに気づいたのか、ウツシと肩を組んでいたゲンジがこちらに走ってくる。
「よぅヒノエ姉ちゃん!遅いじゃねぇか!」
「姉ちゃん!?」
ゲンジはヒノエの両手を掴むと上下に揺する。そのあまりにもの酔いっぷりにヒノエは驚いてしまう。
すると、フゲンも二人に気付くと手をあげた。
「おぉ!ミノトもご苦労!!よし酒追加だぁ!!」
『ダーハッハッハッ!!!』
その円満で団欒とした風景は自身を責めていた心を次々と浄化していった。
「姉様。私達も楽しみましょう」
「えぇ!」
団欒とした賑やかな風景にヒノエは笑顔になると、ミノトと共にその輪に混ざった。
皆が大笑いする中 ヒノエ自身も気付けば皆と同じくその雰囲気に染まり、大笑いしていた。それはまるで数時間前までの悲しみと後悔の念が全て跡形も無く消し去っていくかのように。
「よぉし!!俺が出会った希少種の話を聞かせてやる!!耳の穴かっぽじってよぉく聞いとけよぉ!!」
完全に酔っ払ったゲンジの一声に皆は手を叩きながら答える。
「おぉ聞かせろ聞かせろ!!」
「なんと希少種!?」
「希少種モンスターか!興味深いわい!」
「是非聞いてみたいわ!」
「私も!!」
そして、その宴は勢いが収まる事はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…ん?」
それからどれくらい経っただろうか。記憶が曖昧なまま、ヒノエは気付けば床に寝ていた。
空はもう明け方となっており、日が顔を出そうとしていた。辺りを見回すとアイルー数匹を枕がわりに抱きながら眠るフゲンに口元が露わとなっているウツシ。更にゴコクに顔を蹴られているロンディーネ。
そして、自身の左右にはグッスリと眠るミノトにガルクであるハチを抱きしめながら眠るゲンジの姿があった。
ヒノエはガルクを抱きながら眠るゲンジと寝息を立てるミノトの頬を撫でると立ち上がる。
「(随分と散らかってしまいましたね)」
見渡せば酒の瓶が転がっており、中には中身が床に溢れてしまっているものもある。
「よし…!」
ヒノエは腕を捲ると次々と手慣れた手つきで瓶を纏めていった。
すると
「ふわぁ…。なんだ。もう起きてたのか」
欠伸が聞こえると共にミノトの隣で寝ていたゲンジが目を覚ました。
「あら、ゲンジも目を覚ましたみたいですね」
その時には既に散らかっていた瓶は全てまとめていた。後は掃除だけだ。そんな中、ヒノエは誰も起きていない事を確認すると、ゲンジに歩み寄り、膝を曲げると、まだ完全に目が開いていないゲンジに向けて御礼を言った。
「本当にありがとうございます。私を笑わせるために…皆を集めてくれたんですよね?」
「ギク!?」
御礼を言われた上に理由まで問われたゲンジは身体を震わせ咄嗟に目を逸らす。
「何のことだ…?俺は知らねぇぞ…」
「ミノトから全部聞きましたよ〜」
「ぐぅ…」
誤魔化そうとしていたが、ミノトがウッカリと喋ってしまった為にそれはもう叶わず、ゲンジの顔は赤く染まっていた。もう完全に図星である。その反応にヒノエは微笑むと、改めて理解した。
ゲンジのここまで他人を思いやる心に加えて…すぐに顔を赤くする初心で可愛らしい面にも惹かれていた事を。
「ゲンジ」
「なんだよ…?」
ヒノエはゲンジの両頬を手で挟み込み自身へと向かい合わせる。
そして___
______ゆっくりと自身の唇をゲンジの唇へと重ねた。
それと同時に山から陽光が立ち上り、美しい朝の光が二人を照らした。
「むぐ!?」
口から伝わる謎の感覚にゲンジの半開きだった目が一瞬で全開し、顔も真っ赤に染め上がる。改めて認識してしまう程 ヒノエは唇を長くゲンジに押し付けていた。
そして、ゆっくりと唇が離されるとそこには満面の笑みを浮かべているヒノエの姿があった。
「い…いいい…いま…いま!!ななな…なにを____」
「しぃ〜…」
驚きのあまり大声をあげそうになったゲンジの口にヒノエは人差し指を添える。
すると、完全に立ち上った朝の光が太陽のような笑みを浮かべるヒノエの顔を重ね合わせるように美しく照らした。
「大好きですよゲンジ!」