薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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訪れし現実

朝日が照らす家の中。ヒノエの突然の口付けにゲンジは思考が停止してしまった。今もなお唇には柔らかな感触が残っていた。

 

すると、ヒノエはゲンジを抱き寄せ、彼の耳元で小さく囁いた。

 

「ミノトの事もちゃんと責任取ってくださいね?」

「…は!?」

その言葉にゲンジは理解できず、驚きの声をあげてしまう。

 

「あの子もゲンジの事が大好きなんですから」

そう言いヒノエはすぐさま離れて雑巾を手に持った。

 

「さ。早く片付けてしまいましょう!手伝ってくださいね」

「……」

先程の言葉にゲンジは何も言えず、頷く事も出来なかった。その後、ヒノエと共に部屋に染みた酒類や肉の骨や魚の骨を片付ける。

 

すると

 

「うむ…よく寝たな…」

アイルーを抱き枕にしていたフゲンが欠伸をしながら目を覚ます。それに続いてウツシやロンディーネ。ゴコクやアイルー。更にミノトやアイルー達も目を覚ましていった。

 

「むむ?もう朝か。おぉヒノエにゲンジ。片付けてもらってすまないな」

 

「お気になさらず里長。他の皆さんも起きて来られるのでお早く戻られた方がよろしいかと」

 

「おぉ。そうだな。ではまたなゲンジよ。ほれ、コガラシ。ゆくぞ」

フゲンは立ち上がると、寝ているコガラシを起こして連れて行くとゲンジに手を振りながら出ていった。

 

「ちょっとゴコクさん!寝てる時蹴ったでしょ!?」

 

「お〜すまんすまん…イデデデ!?ちょ!ほっぺはやめて!ほっぺは!」

 

「まぁまぁロンディーネさん!落ち着いて!」

蹴られた事を根に持ったロンディーネはゴコクの頬を引っ張り、ウツシは慌てながら仲裁に入る。

 

「ロンディーネさん。そろそろ交易のお仕事に」

「そうだ!忘れていた。ではなゲンジ。いつでも品を取りにくるといい。というかそろそろ取りに来て」

ヒノエに言われたロンディーネは駆け足で手を振りながら出ていく。

 

「いつつ…最近の若い者は加減を知らないでゲコな…。儂も戻るとしよう。ではなゲンジよ」

 

「また一緒に飲もう!」

二人は手を振りながら集会所へと向かっていった。残ったヒノエとミノトとゲンジは、皆が去ってスペースが空いた場所を掃除していった。

 

「申し訳ありません。寝過ごしてしまい掃除にご協力できずに」

 

「気にしなくていいわミノト。今、とても良い気分なんです♪」

「そうですか。それは何よりです」

ミノトはヒノエのハイテンションな様子を見て頷いた。ミノトにとって、ヒノエが再び笑顔を取り戻したのは本当に喜ばしい事だった。

 

「やりましたねゲンジ」

 

「…あ…あぁ」

ミノトはゲンジの側によると小さく囁くが、何故かゲンジの気力のない返事にミノトは首を傾げていた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

その日 ゲンジは一日中 ヒノエの事で頭がいっぱいであった。

気を紛らわす為に傷口が開かない程度に何度も何度も腕立て伏せや状態起こしを行う。

 

「158…159…160…」

次々と数を数え、汗を流し、頭の中をスッキリさせようとする。

 

『大好きですよ。ゲンジ』

「/////」

その言葉が突然頭の中で再生されてしまい顔が一気に染め上がる。もう忘れる事が出来なかったのだ。

「ぐぅ…!!!161!162!163!」

 

ゲンジは気を紛らわす為に汗を更に流しながら倍の速度で腕立て伏せを行う。

 

「(考えるな…!何も考えるな…!!!)」

『ミノトもゲンジの事が大好きなんですから』

 

「うぉぉ!!!258!259!!……」

それから、腕立て伏せ300回を終えたゲンジは汗ばんだ顔をリフレッシュさせる為に台所へと向かい、水面に溜まった水を顔に掛ける。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…!!」

 

何度も水を顔に掛け、気分を紛らわせる。タオルで顔の水分を拭き取ると

ゲンジは髪を全て後ろに纏め上げた。

 

「…何で嬉しそうな顔なんだよ…」

 

「何がですか?」

 

「!?」

突然と後ろから聞こえたヒノエの声にゲンジは驚き身体を震わせた。

 

「あらあら。そろそろ慣れて欲しいですね」

 

「誰でもビックリするだろ…」

あいもかわらずヒノエは気配を絶つ事に長けている。心が落ち着いている時はすぐさま気づくのだが、今の心理状態では全く気づく事が出来なかった。

 

「何しに来たんだよ…里の受付しなくていいのか?」

「今はお昼休みです。ご飯持ってきましたよ」

そう言いヒノエは持っていた包みを開ける。中には巨大なおにぎりが5つ入っていた。

 

「セイハク君のお店から買ってきました。具材は梅、塩、お肉、お魚、ゆかりです。それとウサ団子」

そう言いヒノエは大好物のウサ団子を取り出す。出来立てなのか、ウサ団子は艶々であった。

 

「さぁ。いただきましょう」

 

「あぁ」

ゲンジは手を合わせると、肉入りのおむすびを口に運ぶ。カムラの里の昼休みに大繁盛するセイハクの店のおにぎりは米も海苔も一級品であり、米はモチモチと、それを包む海苔はパリパリとしていた。中には米の熱でふにゃふにゃとして一体化してしまった海苔もあるが、その食感もまた美味だ。

 

「うまい…」

 

「ふふ。セイハク君のおにぎりはお昼に丁度いいですね」

 

そう言いヒノエは塩むすびを手に取り、口に運んだ。ウサ団子以外を口にする彼女の姿は初めて見る。

 

「あ、お米がついてますよ」

 

「え?」

すると、ヒノエの手が伸びてきて自身の頬に当てられると、頬についていた米粒が指で掬い上げられ、ヒノエは自身の口に運んだ。

 

「…ガキ扱いしやがって…」

 

「あらあら。私から見ればゲンジはまだまだ子供ですよ♪」

 

「年齢的にはだが精神はちゃんとした大人だ!」

今もなお変わらない子供扱いにゲンジは顔を赤くし、やけ食いの如くおにぎりに齧り付き、頬をリスのように膨らませながら頬張る。

その様子にヒノエはクスクスと笑う。

 

その後、おにぎりを食べ終えると、ヒノエはウサ団子を取り出し、ゲンジに差し出した。

 

「はい。あーん」

 

「…おい…」

またもや子供扱いだ。ゲンジは流石に我慢ならないのか、実力行使にでる。

 

「一人で食える!だから…ておい!」

ゲンジは即座にウサ団子に手を伸ばすと、ヒノエはヒョイと取り上げてしまう。

 

「ちゃんとお口を開けられない悪い子にはウサ団子はお預けです」

 

「ぐ…」

明らかにヒノエは自身を赤ん坊か何かと見ている。いつまでこんな幼稚な扱いを受けなければならないんだ。

けれども、もしここで拒否してしまえば、折角の栄養素が受け取れない。

 

「あ…あぁ…」

ゲンジは顔を赤く染めながら口を開けた。すると、ヒノエは取り上げたウサ団子をゲンジの口へと入れ、ゲンジが口を閉じるとゆっくりと引き抜いた。

 

「はい。偉い偉い〜♪」

「ぐぅ…」

団子を咀嚼するゲンジをヒノエは子供をあやすかのように撫でる。その後も、団子は全てヒノエに食べさせられた。

 

全て食べ終え、息をつくと、ヒノエはお茶を差し出した。

 

「…流石にこれは飲ませろよ…?」

 

「それはもちろんです。どうぞ」

 

ヒノエから差し出された茶をゲンジは啜る。こんな熱いお茶をもし先程のような形で飲まされれば確実に火傷するだろう。

ウサ団子の後のこの質素な味を漂わせるお茶は気分を落ち着かせる。

 

「…今日の客足はどうだった…?俺が昨日暴れた所為で少し減らしちまったかもしれん…」

 

ゲンジは昨日の行動を少し後悔していた。大勢が見ている前であれ程の騒動を起こしてしまえば、気まずくなったハンター達が何人か去ってしまう。そう考えていたのだ。

 

すると、ヒノエは首を横に振る。

 

「減ってなどいませんよ。先程、依頼を対応したハンターさん達から称賛の声をいただきました」

 

「っ…称賛されるべきなのか…?まぁ何の影響もなければいいが…」

ゲンジにとって、自身はどうでも良い。里への影響をずっと気にしていた。勢いが増している中で、減少してしまえば、里の人の士気が下がってしまう。

いずれ起こる百竜夜行に対してそれは致命的だ。

 

「ふふ。ゲンジは本当に里が好きなのですね」

 

「当たり前だろ。俺を受け入れてくれたんだからな」

その後 茶を飲み干すと、ヒノエは里の受付の仕事へと戻るために立ち上がる。

 

「では、夜はミノトと来ますので」

それだけ言い残して出ていった。

 

「…」

ヒノエが出ていった後の部屋の中はとても静かであった。外からは人の会話等が聞こえてくる。

座布団に寝転がり、そのまま天井を見上げた。

不思議な感覚だった。ヒノエといる時間がまるで至福の時であるかのようにとても有意義に感じてしまった。

 

「…」

すると、何故かウトウトとして、眠気が出てしまった。

 

「少し寝るか……」

目をゆっくりと閉じ、ゲンジは眠りについた。

 

別に自身はヒノエに…ミノトに好意を抱いている訳ではない。ただ…二人といると嫌な感じがしない。決して好意という訳ではない。

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

どれくらい寝ただろうか。そろそろ夕方になる頃だろう。あまりの長時間睡眠は夜に寝られなくなる。

 

「__ジ」

 

「___ゲンジ」

 

「…ん?」

暗闇から突然聞こえた自身を呼ぶ声。それはヒノエでもミノトの声でも無かった。

 

アイルーか?いや、里の奴か?

 

ガタンガタン 

 

次第に聞こえてくる物音に加えて何故か身体がゆらりゆらりと揺れる。

 

目をゆっくりと開けると、目の前に映ってきたのは緑色のインナーだった。

 

「やぁゲンジ。良い朝だね」

「え…?」

頬に伝わる柔らかい感触に加えて自身を抱き枕であるかのように抱き締める白い腕。更に聴き慣れた声にゲンジは思考が停止し、ゆっくりと見上げた。

 

「…!!」

その顔を見て驚きのあまり固まってしまった。

 

「エスラ…姉さん…?」

 

すると

 

「やっと起きたね」

また違う方向から声が聞こえてきた。それは背後からだ。首を後ろに向けるとまたもやゲンジは固まってしまった。

 

「シャーラ姉さん…!?」

ゲンジは即座に起き上がり、周囲を見渡す。自身を間に挟み、横になっていたのは里に来る前にはぐれてしまった二人の姉『エスラ』と『シャーラ』であった。

 

そして、目の前に映る風景は里に来る前の船の中だった。

 

「どうなってるんだ…!?」

 

 

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