薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「フッ!!!」
ゲンジは現在、カムラの里に設置してある修練場にて、汗を流しながら次々と空を駆けていた。
事の始まりは今朝だ。
ーーーーーーーー
目を覚ましたゲンジはクエストへと向かう為にヒノエの場所を訪ねる。ヒノエのいるクエスト受付場は本人の意向もあってなのか、集会所に近い場所にあった。向かうとヒノエは椅子に座りながら次々と書類をまとめていた。
彼女に近づくとその音に気づいたのか此方に笑みを向けながら頭を下げた。
「あ、おはようございます」
「あぁ。依頼はあるか?」
それに対して頷くと依頼の有無を確認する。
もしなければ、適当な小型モンスターの依頼を受けて新しい狩場に慣れようと考えていたのだ。
けれども、ヒノエは首を横に振る。
「残念ながらまだ依頼はありませんね」
「…分かった」
依頼がない事を知るとその場から引き返し自宅へと戻る。何も無ければ受ける気はない。
すると彼女が自身を呼び止めた。
「では今日はクエストではなく翔蟲の練習をしてみては如何でしょう?」
「翔蟲?」
初めて聞く単語に首を傾げる。すると、ヒノエは空に向けて呼びかけた。
「お願いしま〜す!」
ヒノエの声に呼応するかの様に屋根から黒い影が目の前に降り立つ。
「お呼びですか〜?」
現れたのは忍者の様な軽装備で、手拭いで口元を隠している青年だった。そして、その青年はゲンジを見るととてつもなく軽く明るい口調で喋り出した。
「やぁ初めましてベテランハンター君!ここの里の教官『ウツシ』だ!今日はよろしく頼むよ!」
「え?」
いきなり手を取られ上下左右に揺らされる。ゲンジはこの男の素性をヒノエに尋ねる。
「彼はハンター教官の『ウツシ』さんです。主に翔蟲の使用方法や、その応用を伝授しています。里付近の狩場は常に高低差のある厳しい場所なので、彼からいろはを学んだ方がよろしいかと」
「そ……そうか」
ヒノエの説明にゲンジは納得するも、明らかに今まで会ってきた教官とはテンションが全く違う事に驚いていた。
「では、早速訓練といこう!修練場へと案内するから着いてきたまえ!」
そう言いウツシの後をゲンジはついて行った。
だが、向かう中、ゲンジは里の人々からの妙な目線を不思議に思っていた。
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連れてこられた場所は滝が流れ落ちる巨大な訓練場だった。
ここには武器を試すための多くの設備が設置されている。たとえば、太刀や大剣といった切れ味を試すために、モンスターの肉質が再現された木。そして弓やボウガンの射撃力を試すための的。
更に真ん中には巨大なモンスターを模したカラクリが設置されていた。
「ここは…?」
「見ての通り修練場さ。翔蟲を試すための段差に壁走りの為の壁。そして武器を試すには不可欠なモンスターのカラクリ。しかもこのカラクリは技も出してくるからカウンターの試しもできるんだ!」
そう言いウツシが指示を出すと、カラクリが動き出し、口らしき部分が開くと、巨大な水鉄砲を向こう側に放つ。
完璧な設備を見た事でゲンジは驚きの表情を浮かべた。
「すげぇな…こんな設備は見た事がねぇ。これまで多くの村を見てきたが、演習場がある村は初めてだ」
「そうだろそうだろ♪さて、まず翔蟲というのは簡単に言えば蟲の事さ。糸を絡ませて空へと放てば。しばらくその場で止まっていてくれる。そして、それをロープのようにして、ぶら下がりながら遠くへと飛ぶ。これが基本的な扱い方だ」
そう言いウツシは2匹の翔蟲をゲンジに渡す。
「狩りにおいて、里の決まりでは2匹を持ち歩く事が決められている。早速実践といってみよう!」
ウツシの指導の元、ゲンジは翔蟲を使用する。
「ふぅ…!!」
ナイフを投げるが如く、空に向けて翔蟲を飛ばす。すると、身体が引きつけられ、ゴムの様に弾性力の力で宙へと放り投げられる。
昔、上位のリオレウスに尻尾を振り回され、吹き飛ばされた感覚と似ていた。
放り投げられたゲンジはそのまま着地する。
「おぉ!お見事!まさか初めてで上手くいくとは思わなかったよ!」
ゲンジが地面へと着地するとその動きが正に手本そのものなのか、ウツシがパチパチと手を叩く。
「多くのハンターを見てきたけど皆最初は宙を舞う感覚が初めてだから殆どのハンターが最初は失敗していくんだ。さぁ、次は空中で止まる事だ。翔蟲に捕まったまま、手を離さないそれだけだ」
「…」
言われた通りにゲンジはもう一度 翔蟲を取り出し、空中へと放つ。最初は引き寄せられるもののウツシに言われた通り、手を離さずにしていると、自身は宙に浮かんでいた。成功したのだ。
「うんうん!これまたお見事!因みにだが、翔蟲は一度使って懐に戻すと、数秒間だけ休ませないといけないから注意が必要だよ!」
「あぁ。確か、これを応用して武器を使うっていうのを聞いた事があるんだが?」
「あ〜!鉄蟲糸技の事を知っているとは流石だね!そうさ。この翔蟲を使って普段の体勢からできない武器の振り方をする事が可能なのさ!難しいとは思うが、次はそれにチャレンジしてみよう!」
今度は流石に難しい為なのか、ウツシが手本を見せる事となった。背中に備えてある双剣を取り出すと彼は早速その動きを見せる。
「双剣の場合はこうするよ!」
まずは相手に翔蟲を付着させ、その弾性力を利用しながら斬り刻む『朧掛け』
そして、同じく相手に翔蟲と同時にクナイを付着させ、弾性力を利用した際に、回転斬りを放ちながらクナイを爆発させる『鉄蟲斬糸』
中でも、朧掛けをした時は、受け身としての態勢を取る事が重要であり、活用できればカウンターを喰らわせる事が可能らしい。
「こんなところかな。さぁ!やってみよう!」
ゲンジは言われるがまま、武器を手に取る。
「…!!」
先程見せた技を頭に思い浮かべながら、ゲンジは目の前に翔蟲を飛ばす。すると、身体が引っ張られる。その拍子にゲンジは双剣を取り出すと、次々と乱舞を放つ。
「ふぅ…!!!」
そして、乱舞が終わるとゲンジは双剣をゆっくりと背中に収めた。
「おぉ!」
見様見真似で困難と言われている鉄蟲糸技を習得し完璧な動きを見せた事でウツシは驚くと共にゲンジに大きな拍手を送った。
「凄いじゃないか!!動きも完璧。まさか初日でここまで成し遂げるなんて思いもしなかったよ!」
「…」
ウツシから褒められるその一方で、ゲンジは双剣をみつめていた。何かが物足りなかったのだ。
そして、本日最後の基礎訓練となる。
「最後は難しいが崖上りだ!あの垂直な岩場を登るから見ていてくれ!」
そう言いウツシは筋肉を脚に集中させると、一気に壁に向けて走りだす。すると、目の前に聳える巨大な壁をまるで地面を走るかの様に駆け上っていた。
正に『忍』だ。あんな技は一般のハンターでは到底不可能だろう。
そして、頂上へと着く前にウツシは何度も、スタミナを回復させる為に、走りを中断して翔蟲を取り出すと空中で停止する。
頂上へと着いたウツシはそのまま飛び降りた。
「よっと…ではやってみよう!だが、これは危険だから初心者の君は5メートル程度の岩から挑戦した方がいいだろう!」
そう言いウツシは近くにある小さな岩を指さす。だが、ゲンジはそれを聞き入れる事はなかった。
「ふぅ…」
息をはき、ゆっくりと構える。自身と同じ岩へと挑戦するつもりだ。
「ちょ!?流石にあれは初心者の君では無茶だ!」
ウツシが止めようとした瞬間
「フゥッ!!!!」
ゲンジの身体が砂埃をあげて走り出した。その速度は完全にウツシを上回っており、一瞬で岩の真下に着く。
そして
その身体は次々と上へと登っていった。
「うそ…」
ウツシは今度は驚きではなく不意に言葉を漏らしながら唖然とし始めた。今までの技を初回で成功させたハンターは少数ながらも見てきてはいた。だが、この壁走りだけは誰もが最初は失敗していた。
最初から成功する者は完全にゲンジが初めてだった。
しかも、彼が脚をついた箇所が何故か深く凹んでいた。まるで、脚を突き刺したかの様に。
「君は一体…何者なんだ…!?」
彼は才能があったのか?はたまたマグレなのか?疑問だけが生まれてくる。
すると、
「これでおしまいか?」
アッサリと頂上についたゲンジが飛び降りてきた。
「あ…うん!そうだね!では、次は実践訓練といこう」
◇◇◇◇◇
ヨツミワドウを模したカラクリの前にきたゲンジとウツシ。ウツシはアイルー達に操作を頼んだ。
「さぁ!早速 先程の鉄蟲糸技を練習してみようか!その前に調整を…て!?」
ウツシに言われた通り、ゲンジは翔蟲を取り出すと、空高く飛び上がる。
「え!?ちょ…まだ起動してないよ!?」
ウツシの静止も耳に受け止めずゲンジは高い位置に到達すると、その真下にあるカラクリに目を向ける。
それと同時に自身の頭の中に空中での動き方のイメージが湧き上がった。
「フフ…!」
不敵な笑みが溢れると共にゲンジは宙を舞う中、双剣を取り出す。
ゆっくりと引き抜き、それと同時に逆手持ちへと変える。今までに無かった彼本人のオリジナルの狩猟スタイル。
「ヴゥッ!!!」
その場に鳴り響く木を削る音。それは次々と辺りに鳴り響く。
目の前にあるカラクリに向けてゲンジは双剣を突き刺すと同時に身体を回転させ、次々とそのカラクリの線にそうかのように双剣を突き刺した。
そして、その最後の双剣を突き刺した直後に、ゲンジは体勢を即座に立て直し、カラクリを踏み台にすると空高く飛び上がる。
空中で身体を高速回転させ、滞空時間を長くすると同時にゲンジはそのカラクリに向けて翔蟲を飛ばし、接近すると再び身体の線をなぞる回転乱舞を放つ。
ーーーーーーーーー
「…!!」
ウツシは言葉を失ってしまった。ゲンジが突然 空へと飛んだと思いきや、教えてもいないのに双剣の回転乱舞をし始めていたのだ。双剣の回転乱舞は空気中の体勢の変化が激しい為に、何度も何度も練習して慣れなければベテランハンターでさえも上手くはいかない。だが、それをゲンジは全く初めてだというのに、自在に動き、更にそこから次の動作を繋ぎ出していた。
「あの動き…完璧とは言えないな…まるで自分で思い描いたような感じだ…しかも…」
ウツシが更に注目しているのはその双剣の持ち方だ。右手に持つ剣の持ち方がまるでナイフを掴んでいるかのようだった。
「なんなんだ?あの持ち方は…」
すると、修練場の入り口からフゲンが歩いてきた。
「訓練の方はどうだ?」
「里長…それが…」
様子を見にきたフゲンにウツシは漏れなく今までの結果を伝える。すると、やはりフゲンも驚きの表情を浮かべる。
「なに…!?既にそこまで到達しただと!?」
フゲンもフゲンで現役時は相当な腕前ではあったが、それでも壁走りや鉄蟲糸技は何度も失敗していた。最初はフゲンもいくらゲンジでも壁走り又は鉄蟲糸技で挫折する可能性があると予想はしていたのだ。
「その上、彼は教えてもいないのに空中での双剣の戦法を身につけています。見る限り本来の動きよりもスムーズな上に他の技へとすぐに繋げられるような動きを…」
「ふむ…」
フゲンは顎に手を当てて考える。里に協力してくれる事はありがたいが、果たして彼は何者なのか。里長は気になって仕方がない。
その上、ヒノエから妙な報告も聞いていた。
それはゲンジの脚や耳が竜人族に酷似している形に加えて、竜人族である認識をしていなかった。
本当に彼は何者なのだろうか。
「…考えていても仕方ない。まずはゲンジに里の技術に慣れてもらおう。素性はあまり聞くな」
「御意」
「…にしても本当に凄いな」
「まぁ確かに」
二人はゲンジの次々とカラクリに繰り出す回転乱舞に見惚れてしまい、眺めていた。
すると、
ようやくその乱舞の終わりが見えた。カラクリに最後の一撃を与えたゲンジは跳躍すると、ウツシ達の前に飛び降りてくる。
「ふぅ…」
消費したスタミナを回復するようにゲンジは深呼吸する。すると、フゲンが来ていた事に気が付いたのか、目がこちらに向けられた。
「なんだ。来ていたのか」
「あ…あぁ」
やはり聞くべきなのか。いや、今は聞くべきではないだろう。フゲンはゲンジに問おうと考えていた事を胸の奥にそっとしまう。