薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
ゆっくりと視界を鮮明にさせると、最初に映り込んできたのはヒノエの顔だった。
「あ!目を覚ましたのですね」
「心配したぞ。突然倒れたのだから」
すると、その視界の中にエスラも映り込んでくる。景色から察するに自信の頭は今はヒノエの膝の上にあった。
「ここは…」
「居間ですよ」
「そうか…」
目が覚めると同時に身体に疲れや倦怠感が襲ってくる。ゲンジは思考を再起動させると、気絶前の事を思い出す。すると、頭の中に思い浮かんだのは自身の目の前にあった2人の顔だった。
「…///」
その瞬間 顔を真っ赤に染めて、即座に状態を起こし、手足をばたつかせながら2人から離れる。
「あら?」
そして、即座にゲンジは側にシャーラと共に並んで正座していたミノトの背中に隠れ身を潜めた。
「…本当に何があったのですか?」
「き…聞くな…」
そんな中、ゲンジはまた何か違和感を感じた。それは自身の服装だった。
「!?」
見に纏っていたのはイオリやヨモギよりも少し大きめの和服である。
「……まさか…?」
流石にヒノエに見られたと思ったゲンジは恐る恐る自身の服装から2人に目を向ける。
すると、その意図を呼んだのか、ヒノエは苦笑しながらも答えた。
「すいません…見ちゃいました」
「ぐぅ…」
自身の股を見られたことにゲンジは更に真っ赤に染まり上がる。
今もなお、ゲンジは2人に対して最大級の警戒心を抱いていた。次は何をされるか分かったものではない。
すると、その怯え様にエスラとヒノエは気まずそうにしながらも頭を下げた。
「あ…その…タオルを脱がそうとしたのは悪かった…」
「私もごめんなさい…。少し自分を見失っていました…」
「…タオルだけじゃねぇだろ…」
謝罪の言葉を受け取ろうとも、ゲンジの2人に対する警戒は解ける事はなかった。
「さっきもごめんな。その…突然だったからビックリしただろ?」
「…////」
その話を聞いた瞬間にまたもや顔が真っ赤に染まった。
エスラの謝罪にゲンジは再びその場面を思い出してしまい、遂には顔から湯気が湧き上がってしまう。
ゲンジにとって先程の出来事はもはやトラウマの一種にさえもなりうるものだった。
また、シャーラとミノトは本当に何があったんだ!?という表情を浮かべていた。
「あ…安心してくれ!もう何もしないから!」
「……」
その言葉を少しだけは信用し、警戒を解いたのか、ゲンジはミノトの背中の影から出てくる。
「えぇと…夕飯なんだが、味はどうだったかな?そっちの感想も聞きたいんだ」
夕食の感想を要求されたゲンジは言うかどうか迷いながらも正直に話す事に決める。
「エスラ姉さんの料理は風味は良かったが、全体的に具に火が通ってねぇ…ジャガイモも肉もガチガチのままだったから普通の人が食ったら腹壊すよ」
「正直に言われると結構グサりとくるな…」
自身の料理の出来の悪さにエスラは苦笑する。そしてゲンジはヒノエの料理についても感想を言った。
「ヒノエ姉さんのは辛すぎて味が台無しだ。良かったのは食感だけ…」
「あらあら…だからあそこまで叫んでいたのですね。申し訳ありません」
「け…けど…」
ヒノエもヒノエで素直に受け入れる。けれども、ゲンジは2人の料理は未完成ながらも、満更では無かった。
災難な目に遭いながらも出された味や食感は気に入っていたからだ。
ゲンジは顔を赤くし目を泳がせる。
「その…直したらまた…食わして欲しい…」
「「…!!」」
ゲンジの恥ずかしがりながらも気に入ったという意思表示に2人は顔を輝かせる。
「あらあら…そこまで言ってくださるなんて…嬉しい限りです…!」
ヒノエは頬に手を当てながら満面の笑みを浮かべていた。
その一方で、エスラは嬉しさのあまり感情が昂りゲンジに向けて飛び掛かった。
「ゲンジぃぃ!!」
「わぁ!?」
飛びつくエスラ。すると、危険を察知したのか、シャーラがゲンジを抱き寄せる。
「危ない」
「ぎゃふん!?」
すると、標的がなくなった事でエスラの飛び上がった身体は宙を舞いながら床へと叩きつけられた。
○○◇◇◇
その後、ゲンジはようやく完全に警戒を解いた。夜はもう遅く、エスラ達はゲンジの家に宿泊する事となった。
「今夜は家族水入らずでお休みください」
そう言いヒノエはミノトと共に一緒に寝たいという欲求を抑えながら自身の自宅へと戻っていった。
ゲンジは3人分の布団を敷く。
「久しぶりだな。3人で並んで寝るのは」
「そうだな…」
エスラの言葉にゲンジは頷きながら布団に横になる。自身を挟んで左右にエスラとシャーラも共に寝転がった。
「消すぞ」
灯りを消すと、窓から差し込む月明かりが3人を照らした。外から聞こえてくる鈴虫の声が季節を感じさせた。
エスラは誰よりも早く眠りにつき、既に寝息を立て始めていた。
だが、シャーラとゲンジは寝つかず、窓の外にある月を見上げていた。
そんな中で、シャーラはある事を話した。
「良かったねゲン。居場所が見つかって」
その言葉にゲンジは驚きながらシャーラに目を向けた。シャーラはあの後、家を出た時にミノトから全て聞いたようだ。
「…聞いたのか?」
「うん。全部聞いたよ。私も嬉しい。居場所だけじゃなくてゲンとずっと一緒にいられる人が見つかって本当に良かった」
そう言いシャーラは左手を布団から出すとゲンジの頬に当てる。
「もぅ寂しくないね」
「……」
シャーラの透き通った目を見つめるとゲンジは俯きながらシャーラの手を掴む。
「寂しいに決まってるだろ……どの道…シャーラ姉さんやエスラ姉さんは…俺よりも早く逝っちまうんだからよ…」
掴んだ手をゲンジは温もりを確かめるかのように頬に押さえつけた。そうだ。エスラとシャーラは同じ人間であり、寿命は精々あと80または70年程度。対してゲンジはまだ数百年も残っている。
天と地程もある寿命の差はゲンジを孤独感にさせるには十分だった。
すると、その顔を見たシャーラは頷きながらゲンジを抱き寄せた。
「うん。私達だって寂しいよ。ゲンともっと生きたい。もっといろんな所に行きたい。ずっと一緒にいたい……。確かに私達はゲンより早く死んじゃう。だからさ。これからも今までと同じでずっと一緒にいよう。私達は絶対にゲンから離れないから、ゲンも私達から離れないで」
「…当たり前だろ」
シャーラの言葉にゲンジは頷くと、握った手を離さなかった。その手の温もりを深く感じ取ったシャーラは笑みを浮かべた。
すると、
「ふふ。お姉ちゃんを抜きにするとは酷いぞ?」
小さな二人を包み込むかのようにエスラは手を回し二人まとめて抱き寄せた。その姿は夜に眠れない二人の幼児をあやす一人の母のようなものであった。
「ゲンジ。シャーラ。たとえ血が繋がっていなくても、私達は家族だ。ずっと一緒だぞ」
「あぁ」
「うん」
そして、再び顔を合わせた姉弟は月明かりの中でずっと3人と共にいる事を誓い合い、昔のように寄り添いながら眠りについた。