薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
あとは風神編以降も改変していきます。
ユクモ村へと到着したゲンジは軽くトゥークの見舞いを済ませ薬を渡すと一泊した。流石に夜の山越えは危険な為に泊まる事となったのだ。別にゲンジにとっては問題はないのだが、送迎してくれる荷車のアイルー達に迷惑をかける訳にはいかない。
そして次の日。目を覚ましトゥークと村長と軽く話をするとユクモ村を発ちアイルー荷車へと身を乗せた。
「カムラの里まで頼む」
「アイアイサだニャ〜!」
◇◇◇◇◇◇
荷車に揺られている中、ゲンジは鞄から携帯食料を取り出すと口に含む。カムラの里まで時間が掛かるために栄養補給をしておかなければならないのだ。
「お客さん。最近若いハンターさん達からよく聞くんですがどうやら各地で暴風が起きているらしいですニャ」
「暴風?」
手綱を引くアイルーから不意に聞かされた話にゲンジは首を傾げる。
「えぇ。アッシが聞いた話ではね。アマツマガツチが撃退されたにも関わらず砂漠や寒冷群島で突然と風が吹き荒れ始めてクエストを断念っていう事態が多々ある様ですニャ」
「…そうか…」
アイルーの話にゲンジは不審に思い顎に手を当てながら考え始めた。アマツマガツチが撃退されてもなお暴風が各地で発生するなど、確実に古龍の仕業でしかない。
それもカムラの里のクエストの守備範囲である寒冷群島や砂漠でも起こっているとなるとどうにも怪しく思えてきた。
「(粗方…古龍の仕業ってとこか…)」
そう心の中で呟くとゲンジは空へと目を向けた。
「__?」
そんな時だった。ふと目を向けた先にある雲の中に“唸る長い何か”が見えた。
「何だ…?あれ…」
ゲンジは目を凝らしもう一度見てみる。だが、その直後に雲の中へと消えていき見えなくなってしまった。
その直前に見えたのはまるで海竜種のように身体をくねらせている影であった。しかも距離とその影の大きさから一般のモンスターよりも遥かに巨大である事が分かる。
「(新手の古龍…?いや…飛竜種か…?まぁいい…後でギルドから情報が来るだろう…)」
影を見たゲンジは軽く片付けると、その身を荷車に倒して目を閉じた。
____我が依代よ_
その時。突然と頭の中に響いたその声と共にゲンジの意識は別の世界へと引き込まれていった。
◇◇◇◇◇◇
「…」
目を閉じたゲンジは先程の声を耳にするとその目を開ける。
「また呼び出しやがって…」
そう言いゲンジは舌打ちをする。目を覚ました先にあったのはこの世のモノとは思えない場所であった。
辺りはドス黒い血の池に囲まれておりその色が反射しているかの様に空も血の色へと染まっていた。
誰もが見れば悲鳴を上げる程の不気味な風景だが、ゲンジは驚く素振りを見せなかった。それはまるで何度も見てきたかのように。
自身が横になる場所は広さが自身の身長の倍程度の広さのある小さな足場だった。
そんな中 ゲンジはふと辺りを見回した。
見ると辺りには多くの食い散らかされたモンスターの死体が浮かんでいた。『テオテスカトル』『クシャルダオラ』『オオナズチ』自然そのものとされる古龍達の死体だけが何体も浮かんでいた。そしてその中にはなんと名前さえも口にする事が不吉とされている禁忌のモンスター『アルバトリオン』の死体さえも漂っていた。王の象徴である角がまるで噛み砕かれたかのように欠けており、その神に等しい威厳が失われていた。
この海の色は赤。それはただの色ではなかった。モンスターが漂っている。即ち、モンスターの血液によって染め上げられた海だったのだ。
青く美しい場所などどこにもない。全てが赤く血で染まっていた。
「いつ見てもクソみてぇな所だな…」
その時だった。
____我が依代よ。
目の前の血の海の中から突然 先程と同じ声が聞こえた。その声は地の底から響くような恐ろしい声であり、聞いた者を畏怖させる程のものだった。
それと共にゆっくりと血の海が1箇所だけ盛り上がると血飛沫を上げながら一体のモンスターが現れた。
「……」
小さな頭部の顎に夥しいほど生え揃った牙。さらに巨大な体躯と共にその胴体とほぼ同じ太さの尻尾。目は正気を失ったかのように真っ赤に染まっていた。
『イビルジョー』
それがこのモンスターの名前だ。だが、一度、交えた相手とは全く雰囲気が違っていた。全身の皮膚が黒く染まり、口内からはまるで血飛沫のように龍属性エネルギーが漏れ出していた。
その口に咥えているのはテオテスカトルの角である。
イビルジョー は真っ赤に染まった双眼を自身に向ける。
すると
______喰らえ喰らえ。
_全てを屠り喰らえ。
先程の声が再びその場に響き渡る。
それと共にイビルジョーの頭部が横になる自身の目の前まで接近してきた。
__身を委ねよ。餌が近い__貴様が喰らわねば我に喰わせろ__!!!!
その瞬間 イビルジョーの口が開かれ酸性の涎が次々と滴り落ちてくる。その涎は地面に落ちると次々と湯気を立てながら消えていった。まるで何年も食事をとっていない飢餓のようにイビルジョー は目を血走らせていた。
だが、ゲンジは臆する事なく、目を鋭くさせた。
「俺はテメェの言いなりになんざならねぇ。いちいち古龍見る度に呼びやがって……大人しくしてろ…!!!」
ゲンジは威圧を込めながら言い渡す。すると、イビルジョー は頭部を持ち上げるとそのまま深い深い血の海の底へと沈んでいき、自身の景色も暗くなっていった。
◇◇◇◇◇◇
「…!!!!」
目を覚ました時。目の前に広がっていたのは生い茂る木々の葉の景色だった。太陽の光が隙間から差し込み、自身を照らしていた。
「お?お目覚めですかニャ?」
声がする方向へと目を向けると、手綱を引くアイルーがこちらに目を向けていた。
景色を見る限りまだ、カムラの里には着いていないようだ。
「あと1時間もすれば着きますニャ!もう少し寝てても大丈夫ですニャ!」
「いや、いい」
ゲンジは起き上がると、首を曲げて骨を鳴らし、先程の夢を忘れる為に辺りの景色を目に焼き付けた。