薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
翌日。
自身の通り名と同じ薄明の空。湿った風が吹く中。目を覚ましたゲンジは洗面台へと赴くと、鏡に映る自身の前にて、前髪もろとも全て後ろに流し一纏めにした。これから来る闘いに向けて気を引き締める為に少し散髪する事に決めたのだ。
その姿を直後に起床したエスラとシャーラは見つめていた。
「珍しいな。ゲンジが髪を切るとは」
「あぁ。そろそろ伸びてきたからな。大体シャーラ姉さんと同じぐらいまで切ろうと思う」
「なら私がやってあげるよ?」
「いや、別にいい」
シャーラは指をハサミに見立てながら首を傾げてくるが、それを拒否し、ゲンジはハンターナイフを取り出すと、少し高めの位置に一纏めにした髪を結んだ箇所から若干離れた部分から刃を通らせた。
切られた髪は数本の短い毛が床に落ちる。だが、それ以外の大多数の髪はそのまま手にまとめられた形で残った。それと共に切られた箇所に巻きつけられていたゴムは締め付ける力が弱まり、重力に従いながら一気に解かれ床に落ちる。
「気分転換には丁度いい」
鏡に映っていたのはほぼ、シャーラと瓜二つとなった自身の姿だった。今まで目を隠すほどまで長くなっていた前髪は眉毛を出すほどまで切り落とされ、背中まで伸び顔の影を増加させていた髪も頸までの長さで取り除かれた事で明るい雰囲気を感じさせていた。皆とは違うヒノエ、ミノトと同じ形の耳が出てしまうが、もう気にしてなどいなかった。
切り取った髪をまとめ上げて捨てると髪の長さを確認するように二度三度頭を振り、髪を揺らすとゲンジは2人に向き直る。
「さて、行くか」
「あぁ!」
「うん」
防具を纏い、武器を背負った金銀姉弟は悠々とした歩みで家を出る。
そして、集合場所である集会所の前の広間に3人は到着すると、辺りを見回す。
まだ明朝なために来ているのは自身らだけ。いささか早すぎたのか?いや、早くなどない。寧ろ、ちょうど良いくらいだろう。
「あ。来たよ」
シャーラが遠くから誰かが歩いてくる姿を見つける。エスラとゲンジもその方向へと顔を向けると、そこにはガトリング銃とチャージアックスを背負いこちらへと歩いてくる勇敢な少年少女のイオリとヨモギの姿があった。
「お〜い!おはよう〜!」
相変わらずヨモギは天真爛漫である。そして、その横ではイオリも手を振っていた。シャーラも手を振り返す。
「あ!ゲンジさん髪切ったんだ!」
「あぁ」
ヨモギはシャーラと同じくらいまで切り落とされたゲンジの髪に注目すると、ひと回りしながら見る。
「そっちもそっちで女の子みたいで可愛いよ!」
「…そうか…」
ヨモギの反応に気まずい反応をするゲンジ。自身としては男前になったと言われたかったのだ。そんな時にふとゲンジは反対方向を見る。
「…あっちも来たようだな」
そこには受付嬢のコーデを纏いながらヨモギ達と同じくこちらへ手を振りながら歩いてくる弓を背負ったヒノエとランスを背負ったミノトの姿があった。
「おはようございます!皆さんお早いですね」
「イオリくんとヨモギちゃんに負けてしまうとは…不覚でした」
ヒノエは相変わらず太陽のような笑みを浮かべていた。そして、ミノトは月の如く冷静かつ物静かでだった。
そして、やはり嫁である2人も夫であるゲンジの髪型を見て固まってしまった。
「ゲンジ…その髪型…!」
「まぁ…!」
2人はいつも、髪を下ろしている姿を見ているために、急に髪を切りそろえたゲンジを見て驚きの表情を浮かべていた。
当の本人はやっと男らしくみていてくれたのかと期待を寄せていた。
だが、ヒノエの心の中にはゲンジが男らしくなったという感情は一片も存在していなかった。あるのはただの夫への愛情に加えて、湧き出た母性本能だけである。
「可愛い〜!!!」
「え…ふぎ!?」
ヒノエは顔を真っ赤に好調させると共に髪を切りそろえたゲンジを抱き寄せた。
「前まで大人びていたけど切り落とすとこんなに幼く見えるなんて!本当にこれが私たちの旦那様なんですね〜!!」
「うぅ…」
ヒノエは次々とゲンジに頬を擦り寄せていく。すると、慣れてはいるものの、ゲンジの顔が段々と赤く染まっていく。それと同時に男らしく見られていなかった事に血の涙を流していた。
一方でその光景を見ていたエスラはやはり嫉妬。そしてまさかのシャーラも少し眉間に皺を寄せていた。
そんな中でミノトは場の雰囲気を読み、暴走するヒノエを止めに入る。
「姉様!流石にそこまでするとゲンジが!」
「はいミノト♪」
ミノトかゲンジに近づいた瞬間 ヒノエはぬいぐるみのようにゲンジをミノトの前に出す。すると、ミノトの動きが止まり、髪を切り揃えたゲンジの顔をしばらく見つめる。髪がショートカットになった為に以前よりも幼さが増していた。すると、ヒノエと同じく心の底から保護欲と母性本能が湧き上がってきてしまった。
「………」
「んぐ!?」
すると、ミノトの顔も赤く染まり、無言で差し出されたゲンジを抱き締めた。
「可愛いです…旦那様…!!」
そして、何度も何度も頬擦りする。誰も抱き締めている時の顔が見れないが、声の口調からして完全に喜んでいるだろう。
その光景を見ていたヨモギはテンションがあがり、イオリも手をパチパチと叩いていた。
「ゲンジさん朝からラブラブだね〜♪」
「結婚式は盛大にお祝いしますよ!」
「何だか全然分かってくれねぇなコイツら…」
すると集会所から4人の足音が聞こえてくる。
「ハッハッハッ。朝から盛んだな3人とも。それに散髪とは気合が入っているじゃないかゲンジよ!」
「フゲンさん。ようやく来たか…」
高笑いの声と共に集会所からゴコクとウツシ。そしてハモンを連れたフゲンが現れた。
ヒノエはハモンも出撃することに驚いていた。
「おやおや今回はハモンさんもいくのですね」
「ふん。孫が出てジジィが出ぬ訳なかろう」
前回の百竜夜行ではハモンは里に残り警備を任されていたらしい。本人は不服だったらしく、今回は出撃する様だ。
すると、ハモンは自身に目を向けるイオリを見つめた。
「…イオリよ」
「爺ちゃん……」
ハモンの厳格な目がイオリを見つめる。元々、ハモンはイオリとはあまり仲がよろしくはなかったのだ。
だが、この日は…いや、この日からハモンのイオリを見る目が変わっていた。今まで軟弱者だと罵っていたイオリを初めて一人前の里守として認めているかの様な目であった。
「…死ぬんじゃないぞ」
里に残ったただ1人の家族としてイオリにエールを送った。すると、イオリの顔が笑顔に包まれた。
「うん!」
頷くイオリ。ふると、フゲンは高笑いをした。
「ハモンもようやく孫思いの良いジジィになったな!ガッハッハッハッ!」
「フン…孫を心配しておかしな点でもあるのかフゲン」
ゲンジ、ヒノエ、ミノトはハモンのデレ様に驚いていた。やはり、イオリが出撃した時は本当に自身の考えを根から改めたようだ。
そんな中で、ゲンジはフゲンの足元にいるゴコクに目を向けた。
「ところでゴコク殿はどうするんだ?ウツシは双剣、ハモンさんはボウガン、フゲンさんは太刀。アンタは見る限り得物が見当たらねぇぞ?」
それについてはエスラとシャーラも頷いた。すると、ゴコクは鼻を鳴らしながら杖を天に掲げた。
「フッ。よくぞ聞いてくれたでゲコ。儂はなぁ…まずはこの杖!そしてこのスリムな体型を生かした格闘術でゲコぉ〜!!」
「「「「「…………」」」」」
辺りがシーンと静まり返る。
すると、ヒノエはふと宿がある方向へと目を向けた。そこには昨夜、自身から手を挙げて援護を請け負ったハンター達が歩いてきていた。
「あ。昨日手を上げたハンターさん達が来てくれましたよ!」
「よし」
ゲンジは戦力が増えた事に頷き、フゲンも更なる希望を抱く。
「おぉ!何と頼もしい!おおぃ!こっちだ!」
「よくぞ来てくれた!!協力ありがとう!!」
「ふん」
ゲンジに続く様にフゲン、ウツシ。そして、ハモンも歩いてくるハンターを迎えるべく歩いていった。
「ちょ…ちょっと待つでゲコ!分かった!ちゃんと言うから!ねぇお願いだから聞いて!?500Zあげるから!」
ゴコクも焦る様に後ろをついていった。
◇◇◇◇◇◇
その後、フゲンとゲンジ。そしてヒノエ、ミノト、エスラ、シャーラは階段を上り、下の段にて集まっているハンター達を見る。
集まったハンターは30名の内の15名。その内、補給担当に回ったのは5名程らしい。
15名のハンターの中には昨夜 ゲンジに不平不満を言った者達も含まれていた。その他の15名は宿を引き払い、昨夜の内に里を出て行ってしまったらしい。
集まったハンターは『上位6名』『下位9名』であった。昨日のウチに里から出ていったハンター達は全員とも下位のハンターであり、残ってくれたこの下位のハンター達は伸び代と共に勇気があると見ていいだろう。
「よぅ。来るつもりはなかったんじゃねぇのか?」
ゲンジは昨夜の集会で『そんなつもりではなかった』と声を荒げた上位ハンターを見つけると声を掛ける。当のハンターは目線を向けられた瞬間 逸らし弱々しく言葉を返す。
「来て悪いかよ…」
その声にゲンジは表情を一変させ、首を横に振り、来てくれた事への感謝を込めた目を向けた。
「いや助かる。よく来てくれた」
「…!」
その言葉を聞いたハンターは再び目を向け驚きの表情を浮かべた。それと共にゲンジも他のハンターに向けて敬意を抱く。
「他の奴らもそうだ。逃げずによく来てくれた。感謝する」
そして、
フゲンは目の前に立ち、集まったハンター達に向けて声を掛ける。
「皆よ。よくぞ集まってくれた。里を代表して礼を言わせてくれ!」
そう言いフゲンは文句を言いながらも集まって来てくれたハンター達に対して礼を述べた。そして、その後について説明する。
「諸君らにはまず来たるべき百竜夜行に備えて数日間を砦で過ごしてもらう。寝床のスペースもある。武器を試したいのならばその場所も用意してある。食事も里の者に頼み回路を確保して補給できるようにしてあるから安心してくれ。兵器を扱う者はその準備を頼みたい。扱い方については着いてから説明しよう!では、砦へと向かうハンター達は荷車に乗ってくれ」
頷いたハンター達は里の皆が用意したガーグァやポポの荷車へと乗り、砦へと向かう。
「うむ。何と頼もしい…!ゲンジ、エスラ、シャーラ。お主らにも感謝するぞ」
フゲンは感謝の目をハンター達が参加するきっかけを作った3人に向ける。
「礼を言われる程ではない。私達はただ意見を述べたまでさ」
「それに、百竜夜行が終わった訳じゃない。お礼はその時までとっといて」
「その通りだ。それに目的は根絶だ。俺にとってはまだ恩返しになってねぇよ」
エスラ、シャーラ、ゲンジの3人はそれぞれフゲンに言葉を返すと、横を通り過ぎ、ヒノエ達と共に荷車に乗り込んだ。
大勢のハンター達が荷車に乗り、共に砦に向かっていく。フゲンはその光景を見つめていた。
ゲンジが運ばれてくる前までは、自身達はただ頭を下げる事しか出来ずにいた上に、協力も得られなかった。
だが、ゲンジやエスラ、シャーラが来てからは里は変わった。里の皆から再びハンターへの信頼を取り戻し、かつ、ハンター達を説得してくれた。あの姉弟には感謝以外の言葉が出なかった。中でもゲンジは400年間続く歴史の中で初めて里に被害を出さずに百竜夜行を退けた上にその群れを喰らうと共に里に甚大な被害をもたらしたマガイマガドを討伐してくれた。
もぅ、自身はここで里長としては引き時なのかもしれない。
「(ゲンジよ…そなたなら…里長の役目を引き継ぐに相応しいのやもしれぬな…)」
フゲンは悠々とした背中を向けながら前へ前へと歩いていくゲンジの姿を見つめると、自身も砦に向かうべく、後方の荷台に乗った。