薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
それは数刻前に遡る。
「グロォオオオオオオオ!!!」
ジンオウガは咆哮を上げながら砦へと向かっていった。里守達はそれを防ぐべく無数のバリスタや大砲の弾を放っていくが、ジンオウガはモノともせず進撃を止めなかった。
「ゼィヤッ!!!」
駆け抜けるジンオウガの横からフゲンは空中へと飛び上がりながら兜割をジンオウガの眉間に目掛けて放つ。
だが、寸前でジンオウガは身体を後退させるとそれを避ける。
「ッ…やはり素早いな。ナルガクルガと同じ此奴も厄介だ…」
ジンオウガの厄介な点はその巨大には似合わない程の運動神経だ。ナルガクルガより速さは劣るものの、それを補正する…いや、補正どころではない。完全に覆すほどの柔軟性を持っている。
片前脚を軸に身体を回転させる他に空中へと飛び出し一回転しながら前脚を振り下ろす。更に、後脚2本だけで数秒立ち上がる。身体を唸らせながら蛇のように後退する。
といった、他の牙竜種では考えられない常識を覆した行動を起こしてくる。これかジンオウガが手強いとされている理由だ。
恐ろしい事にこの動きは通常状態の動作の一環であり、そこから自身と共生関係のある雷光虫を纏い『超帯電状態』となる事でその動きは更に苛烈を増していく。
フゲン達が相手にしているのは正にその状態へと至っている個体である。
「グロォオオオオオオオ!!!」
ジンオウガは巨大な咆哮をあげると、前脚2本を助走としながら跳躍する。
「全員退避!!!」
フゲンの叫びに辺りでジンオウガの応戦にあたっていたハンター達は散らばる。
すると、跳躍したジンオウガは空中で一回転すると自身に纏う雷を右脚に凝縮させていく。更に回転した際の遠心力、更に重力加速度を合成させた脅威的な落下速度で迫ってきた。
「ぐっ!?」
咄嗟に落下地点にいたフゲンは回避する。
すると、その足場にジンオウガの前脚が振り下ろされた。
その瞬間 前脚が地面に叩きつけられると同時に地盤が吹き飛ばされ、辺りに雷撃を四散させていった。
回避したにも関わらず、その際に生じた風圧がフゲンを襲う。
「やはり無双の狩人…そう簡単には倒されてはくれないか」
フゲンは再び太刀を持ち直すと、ジンオウガに目を向ける。対してジンオウガも目をフゲンにだけ向けると更に前脚を振り上げた。
「ふっ。その動作を待っていた…!!」
フゲンは鞘に収めた刀の椿に手を掛け、体制を低くする。すると、身体から歴戦のハンターの証であるオーラが少しずつ滲み出てくる。
“水月の構え”
「グロォオオ!!!」
咆哮と共に振り下ろされた前脚。その瞬間 フゲンの目が光ると刀が抜かれると同時に姿が消え、ジンオウガの横へと現れた。
「ゴルゥ!?」
すると ジンオウガは突然苦痛の声を上げる。見るとジンオウガの振り下ろされた前脚には傷がつけられていた。
そして、ジンオウガが怯んだ事を確信したフゲンは即座にウツシに呼びかける。
「今だウツシ!!!」
「御意!!」
すると、軽快な身のこなしで空中へと飛び上がったウツシは鉄蟲糸をジンオウガの四肢へと放っていく。
すると、ジンオウガの身体が低く倒され、地面へと拘束された。
「拘束完了!!」
拘束されたジンオウガの背中にウツシは着地する。見ると辺りには鉄蟲糸を纏った翔蟲が待っていた。ジンオウガが拘束された事でフゲンは辺りにいるハンターへと指示を出す。
「俺はこれからジンオウガを操りタマミツネの撃退へと向かう!!諸君らは砦に向かったアンジャナフとナルガクルガを頼む!!!」
その指示に数少ない残った武器組であるハンター達は頷く。
その時だ。近くの高台から1人のハンターがライトボウガンを背負いながら飛び降りてくる。
「話している中悪いが、それを譲ってもらえるか?フゲン殿」
「エスラ!?お主らはタマミツネの相手をしていた筈では…」
「あぁ。だが、やはり限界がある。そこでジンオウガを操竜し、足止めをしようと考えているのが聞こえてな。私は操竜に自信がある。横取りしてしまう形になって申し訳ないが…いいだろうか?」
エスラの要求にフゲンは即座に頷く。
「では、お主に任せる。俺達はアンジャナフとナルガクルガの撃退へと向かおう……ん?」
すると 不可解ながらも弱々しい足音が聞こえてくる。
「うぉ!?」
その正体は即座に現れ、皆を驚かせた。そこには全身が傷だらけとなったナルガクルガが苦痛の声を上げながら自身らの横を通り過ぎ、元来た道へと引き返していく姿があった。
「な…もうナルガクルガを!?たった数分しか経ってないぞ!?」
「流石は私の弟と妹だ。さて、フゲン殿。お言葉に甘えさせてもらうよ」
エスラは拘束されているジンオウガに跨ると、括り付けられている鉄蟲を両手に縛りつけた。
「グロォオオオオオオオ!!!!!」
すると、エスラの腕に反応するかのように拘束されていたジンオウガは起き上がり、天に向けて吠える。
「エスラさぁ〜ん!くれぐれも周りには気をつけるんだよぉ!!!」
「勿論さ教官。では出撃!!!」
エスラは糸を操り、ジンオウガを動かしながら砦へと向かっていった。
「よし。俺達も急ぐぞ!」
『『おぅ!!』』
◇◇◇◇◇◇
ジンオウガを操りながら飛来したエスラは笑みを浮かべながらタマミツネに鋭い視線を向ける。
「ゲンジ。ここは私達に任せておけ。ゲンジ達は早くアンジャナフの元に向かうんだ」
「そうですよ旦那様」
その声に頷くように近くの高台にヒノエとミノトも現れた。
「砦を守るのが目的。サッサと終わらせて皆で帰りましょう」
ヒノエと共にミノトは武器を構えながらゲンジへと伝えた。すると、その言葉にゲンジは頷き、シャーラと共に砦へと向かった。
「すまん姉さん達!恩にきる!」
ゲンジ達を見送ると、エスラは気持ち悪い程の満面な笑みを浮かべた。
「礼なんていらないさ…家族じゃないか(里に帰ったらその分たっぷりと可愛がらせてもらうからな…♪)」
完全なるゲスな笑みを浮かべながらエスラはうひひひと不気味な笑い声をあげながらタマミツネへと向き直る。
「見せてやろう…!私の操竜とジンオウガの完全なるシンクロ率をな!!」
「グォァァァアア!!!」
タマミツネは咆哮を上げると同時に泡を噴射する。
「なんのこれしき!!」
対して巨大なモンスターの盾を得たエスラは右手を振り上げる。すると、それに呼応するかのようにジンオウガも右脚を振り上げる。更に腕には雷が纏われていた。
「お手ぇぇえ!!!」
「グロォオオオオオオオ!!!」
エスラの叫びとジンオウガの咆哮が重なり、振り上げられた前脚は雷を纏いながら放たれた泡を掻き消しそのままタマミツネへと振り下ろされる。
「グォァアア…!!」
振り下ろされた前脚はタマミツネの頭部に直撃し、タマミツネに絶大なダメージを与えた。
それだけでは終わらない。
「もう一回ッ!!!!」
今度は左腕の鉄蟲糸を引き上げる。すると先程の動きから繋がるようにジンオウガの左脚が振り上げられた。そして、再び雷を纏った振り下ろしがよろめくタマミツネに炸裂する。
「グォァアア…!!」
2回連続の振り下ろしにタマミツネは苦痛の声を上げると、首を持ち上げながらその場に横転する。
それを狙い、後方からヒノエとミノトも加勢する。
「いくわよミノト!!」
「はい!姉様!!」
ミノトは体勢を低くすると、ランスを構える。そして、その傍らでヒノエも弓を引っ張り、タマミツネの頭部へと狙いを定めた。
「ハッ!!!」
そして、ミノトは溜めていた力を一気に解放するかの如く脚を踏み込み、ランスを前へと突き出した。すると、先端部分から激しい竜巻が発生し、タマミツネの頭部へと直撃する。
「…!!」
その直後にヒノエの目が一瞬 光り、矢を放った。放たれた矢は複数の光の矢となり、全てタマミツネの頭部へと吸い込まれるように打ち込まれていった。
「まだまだいきますよ…!!」
「はい!!」
双子の姉妹はその手を緩める事なく、次々と竜巻、光の矢を放っていく。
「ではこちらも…!!」
それに呼応するかのようにジンオウガを操っているエスラも右腕と左腕を交互に振り上げ、何度も何度もタマミツネの身体へと前脚の振り下ろしを繰り出していった。
「ギャァァァァォオオオオオオオオ!!!」
正に特攻。いや、ゴリ押しである。対抗しようとタマミツネは起き上がるも、ジンオウガの身体の脅威的な攻撃力、そして2人の姉妹の集中砲火になす術がなく、再び横転させられる。
髭も長い耳も、爪も破壊されていき、タマミツネの体力は遂に限界へと達していった。
すると
「…んお!?」
突如 エスラの掴んでいた鉄蟲糸が緩みだした。そうなると、操竜の限界が迫ってきているのだ。
「そろそろだな。ではなジンオウガ」
エスラは鉄蟲糸から手を離し、その場から跳躍すると近くの高台へと着地した。
すると、
「グロォオオオオ!!!」
ジンオウガの四肢を通していた鉄蟲糸が四散し、ジンオウガの拘束が解かれていった。
それと同時に攻撃が止まった事でタマミツネは傷だらけとなった身体をゆっくりと起き上がらせる。
「グォオオオ……」
そして、傷だらけの身体を引きずり、弱々しい声を上げながら元来た道へと引き返していった。
そしてそれを追いかけるようにジンオウガも万全な状態であるにも関わらず、身体を方向転換させると、元来た道へと駆け抜けていった。
「あらあら。ジンオウガも相手をする事を覚悟していましたが」
「幸運というべきですね」
「あぁ。そうだな」
まとめて2体のモンスターの撃退に3人は喜び合う。残るは一体だ。けれども、あれだけの人数がいれば、アンジャナフもすぐに片付くだろう。
「さぁ、ラストスパートと行こうか」
「「はい!」」
ヒノエとミノトは頷き、エスラと共にアンジャナフの元へと向かう。
カンカンカンカンカン
突如、見張り台から事態を知らせる激しい金具の音が聞こえてくる。
「なんでしょうか?」
「まさか…第三波が…!?」
「…いや」
ヒノエとミノトは再び群れが来る事を予想して、警戒する。その一方で、横にいるエスラは顔から冷や汗を流していた。
長年の狩猟経験から、エスラは何か“得体の知れないモノ”の接近を感知したのだ。その接近する者の内容は詳しくは分からない。だが、明らかに今まで以上に危険なモンスターが迫ってきている事だけが分かっていた。
「群れ以上にヤバい奴がくる…!!!」
その時だ。
「ギャォオォオォオォオオォオオッ!!!!」
『…!!』
とてつもなく巨大な叫び声が入り口から聞こえてきた。それは今までのモンスターにない程の“激しい怒り”が混じった咆哮であった。
すると、先程の金具を鳴らした里守が皆へと伝えるべく大きな怒声をあげた。
「来たぞッ!!!
________ヌシだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
入り口の奥地から黒く赤熱した塊が砦へと飛来する。