薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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明かされるゲンジの秘密

拠点へと戻ってきた皆は里守達と合流する。その後、撃退を祝い、参加したハンターや里守達は宴を始める。時刻は夕方。夜に活動するのは危険なために、万が一ということも考え、もう一日だけこの砦で過ごす事となった。

 

そんな中で、先程のゲンジの変容を見た者達はその輪には入らず、寝場所へと向かった。

 

◇◇◇◇◇

 

宴会の声が聞こえる中、エスラは皆を集めて用意されたベッドへとゲンジを横にさせる。先程まで息一つ起こしていなかったが、今は安定しているのか、静かな寝息を立てていた。

 

「皆には話しておかなければならないな。ゲンジの体内に流れる“もう一つの血”について…」

 

「ゲンジの……もう一つの血…ですか?」

「あぁ。先程の続きを話そう」

 

ヒノエの問いにエスラは頷き鋭い眼差しを皆へと向けながら話し出した。

 

「ゲンジの体内に流れる一つ目の血は竜人族だ。だが、これとは別にもう一つ…体内に流れる血がある…それはあるモンスターの血だ」

 

通常 モンスターの血液を注入しても、人間の身体には多少は体調不良が見られるも、それ程の変化はない。

 

だが、ある種の強力なモンスターの血を取り込めば人間の身体はその血に耐えられず、死に至らしめてしまうのだ。

ゲンジの体内に流れる血は後者であった。

 

「そのモンスターの名は『イビルジョー 』この辺りではあまり聞いた事はないだろう」

 

「まぁそうだな。報告が届いた事はない」

フゲンは頷く。イビルジョー はカムラの里のある地方では目撃例が報告されていなかったのだ。

確かにイビルジョー は強力なモンスターである。けれども、ゴコクは少し疑問に思っていた。

 

「いくらイビルジョー でも古龍に躊躇なく襲い掛かる事例は現段階で新大陸以外では聞いた事がないでゲコ……だが、先程の奴は現れたモンスターに向けて『餌』と呟いておったな」

その言葉にフゲンも頷く。現大陸に生息するイビルジョー が古龍を捕食したという報告は存在していなかった。

 

そんな中、エスラは50年以上生きるヒノエ、ミノト、ゴコク、フゲンへと目を向けた。

 

「ゴコク殿はもちろん、フゲン殿もヒノエもミノトも50年は生きているだろ。50年前にある一つの知らせがギルドから届かなかったか?」

 

「知らせ…ですか?」

「50年前はまだ受付の仕事についていませんでしたからね…」

ヒノエとミノトは当時、まだギルドの役職にはついてはいなかった。その一方で、フゲンとゴコクは腕を組みながらあの日を思い出す。

 

「…まさか…!!」

咄嗟にゴコクの閉じられていた目が開かれる。その鋭い目はあの日を思い出し、何かを恐れているかのようだった。

 

「ようやく思い出したでゲコ……ゲンジの体内に奴が眠っておったとはな…!!」

 

「ゴコク様……そのモンスターは一体…?」

ミノトの問いにゴコクは当時を思い出しながら答えた。

 

 

 

50年前。ある一つの知らせが現大陸全土のハンターズギルドを震え上がらせた。

 

『神を喰らう龍現る』と

 

その詳細は明確に記されていた。

当時、火の国の火山の最奥にて現れた禁忌のモンスター『煌黒龍アルバトリオン』古龍の中でも『神』と記される程の別格な力を持つモンスターである。

 

その強大なモンスターが突如として現れた一体のイビルジョー によって完膚無きまでに叩き潰され、捕食されたのだ。

 

全身に生えそろった逆鱗が更に成長した天鱗、そしてその天鱗がまとまってできた天殻。更に羽ばたくだけで生き物を吹き飛ばす邪翼に加えてまるで生きているかのように唸る妖尾。そして、天を統べるとされている巨大な2本の角。

全てが無惨に噛み砕かれ、骨一つ残さず食い尽くされてしまったのだ。

 

その知らせが届いた途端に次々と悍ましい知らせが届いてきた。クシャルダオラの嵐をものともせず捕食。姿を消していたオオナズチを嗅覚で捉えて捕食。幻獣キリンの雷を纏った身体をアッサリと噛み砕き、更にテオテスカトルとナナテスカトリを同時に相手取るどころか圧倒し爆破の鱗粉をものともせず捕食。

 

次々と各地の古龍がイビルジョー によって捕食されていく情報が入ってきたのだ。それと同時に生態系も破壊されていき、本来のテリトリーの王者も即座にテリトリーを切り捨て、遂にはその地方から姿を消してしまう。

 

「獣竜種が古龍種を…!?」

本来、獣竜種が自然そのものとされている古龍種を喰らう事例はまず存在しなかった。新大陸なら新たな環境ということもあり、あり得るが、開拓し尽くされた現大陸ではそれはあり得なかった。

 

だが、現にそれは起こっていたのだ。

 

「だから調査も兼ねて討伐隊が結成されたでゲコ…。それもかなりの実力者であり、古龍撃退経験のあるG級ハンター6人でな。だが、帰ってきたのはたった一人…。しかも精神が崩壊しておってな。帰ってきて詳細を伝えた翌日に自害したらしい」

 

そして、ゴコクは話を続ける。

G級ハンターでさえも手も足も出ないと判断したギルドはクエストを出す事はなく、調査にだけ力を注いだ。それにより、姿形が判明し、精密に描かれた図画が調査結果と共に再び全ハンターズギルドへと届けられたのだ。

 

一般的に知られているイビルジョーは緑色の肌をしているが、現れたイビルジョー は全身がドス黒い血の色に染まっており、常に口内からは龍属性エネルギーが漏れ出していた。更に激昂した状態は頭から尻尾に掛けて溢れ出た龍属性エネルギーに覆い尽くされ鬣のようになっていたらしい。尻尾に至っては完全に龍属性エネルギーに覆われていたようだ。

吹き出した龍属性エネルギーの中から此方を見るその目は正に悪魔の目と呼ぶに相応しいほど赤く染まっていた。その目を直視した調査隊はその日から恐暴竜に見つめられる夢を見るようになり、自ら除隊を志願したらしい。

 

自然災害を引き起こす力を持つ古龍を積極的に狙い捕食する事から、このイビルジョーは後にこう名付けられた。

 

 

 

古龍を全て屠り喰らう現大陸の悪魔。

 

 

 

 

____『古を壊し喰らい尽くすイビルジョー』

 

 

_____と。

その話を聞いたヒノエとミノトは背筋が凍りつき震えていた。話を聞くだけでも恐ろしいものであった。ハンターの血が騒ぎ出すはずのフゲンも一滴の冷や汗を流していた。

そのモンスターの血が今もなお枯れる事なくゲンジの中に流れていたのだ。

「名前の通り奴は特殊個体の中でも更に特殊な個体…。古龍を見つけたら積極的に喰らいつく…。今となってはアルバトリオンと同じく…名前を出すことさえ不吉とされる禁忌のモンスターに数えられておるでゲコ」

 

「そうだ。当時、私の祖父が偶然にも力尽きる現場を目撃してな。死後直後の血を大量に採取し、ギルドに預けると共に私用で保管していた。そして、私の父親は祖父が亡くなるとその血を利用し実験としてゲンジに注入したのだ。竜人族の血にも適応したゲンジの身体はイビルジョーの血にも適合し、今のようになってしまったのさ」

 

エスラは眠るゲンジの頬を撫でる。ただ純粋なる人間であるにも関わらず、体内に流れるは古龍を喰らう竜の血。信じられないだろう。

 

「昔…移動している最中に遠くで空を飛ぶ古龍を見た時があってな。その時も先程と同じように唸り出すと奴が出てきたんだ。まぁ、幸いにも一瞬だったから人目にはつかなかったがな。奴の意識は今も尚 生きている。古龍を見れば喰らうためにゲンジの意識を無理やり乗っ取ろうとしてくるらしい」

 

「そうだったのか。ならば…先程の状態は其奴に意識を一時的に乗っ取られていたという訳か」

フゲンの見解にエスラは頷く。

 

「今のところ…治療法は存在しない。ゲンジ自身が精神を統一し自我を保ってなければならないのだ」

 

「……」

そんな中 黙って聞いていたヒノエはある事を思い出す。それは自身と現れたモンスターと目が合った瞬間 自我の中に謎の声が入ってきた時だった。

 

『対は何処 対は何処』

 

焦りながら何かを探し求めているかのように。悲しみと焦燥感が混じった声が感じ取れていた。それ故に胸が締め付けられるような感覚に陥っていた。だが、その直後に締め付けが嘘のようになくなり、ただゲンジを恐れる声だけが響いていたのだ。

 

『何と恐ろしき者か__対よ対よ。疾く巡り会わん』

それはゲンジの意識が乗っ取られた時と同じだった。

 

「少し…私から話してもよろしいでしょうか…?」

 

「え?あぁ。そうだったな。ヒノエにも聞きたい事があったんだ」

皆はヒノエに目を向ける。先程、彼女は古龍と目が合った瞬間に目が黒色に染まってしまったのだ。その直後に次々と言葉を溢していた。

 

 

それについてヒノエはエスラ達に話し出した。

 

自身は幼い頃からどんなに離れていてもミノトの感情を読み取れる『共鳴』という感知能力があり、それがモンスターとの間で起こってしまったのだ。その際にモンスターと精神が同調し、頭の中にその意思が流れ込み、言葉が聞こえた。それが自身が溢していた言葉だった。

それと同時に胸が痛めつけられる感覚に見舞われた事に加えてゲンジが目覚めた直後にその痛みが即座に引いた事も話した。

 

「成る程。『共鳴』か…。竜人族は竜と心を通わせると聞いた事はあるが…やはり本当だったのか。それにゲンジがモンスターに言葉を掛けた途端に現れた胸の痛みが引いたと…。うむ。さっぱり分からないな」

 

エスラはヒノエの共鳴とゲンジの暴走に共通点はないかと頭を振り絞るも、一向に答えは出てくる事はなかった。

 

「酷かもしれぬが…話は本人が目覚めた時に聞いた方がいいでゲコな…」

 

「そのようですな」

ゴコクの見解にフゲンに続き皆は頷いた。その後、フゲンとゴコクは宴を取りやめるために皆の元へと戻っていった。残った4人は女子陣のベッドで眠るゲンジの左右に横になり、疲れを癒すために目を閉じた。

 

 




古を壊し喰らい尽くす(コをカイしクらいツくす)イビルジョー

怒り喰らうイビルジョーの更なる上の段階へと達した個体の呼び方。怒り喰らうイビルジョー は頭部だけが龍属性エネルギーに覆われていたが、この状態となってしまったイビルジョー は頭部だけでなく脊髄から龍属性エネルギーが漏れだし、鬣のように尻尾の先端部分まで覆ってしまっている。
一応読み方だけ書いておきます。
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