薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
人が心を壊す時 最も多い原因は自身が大切にしている人を傷つけられた時である。生涯を共に生きると決めた者同士は互いに堅固な信頼関係を築き愛を育む。
だが、片方が誰かに壊された時 残された片方は愛を断ち切られた怒りによって我を忘れると同時に理性を捨て原因を完全に滅するまで追い詰める狂人へと成り果てていく。
◇◇◇◇◇◇
「ひ…ヒィ!?」
マルバ達の前に立ったゲンジの顔は狂気に満ちていた。恐ろしく血走った目が自身らへと向けられた事により、マルバはあの日の恐怖を思い出して腰を抜かす。
だが、そのマルバをデンとレビは叱責した。
「おいマルバ!怖気付いてんじゃねぇ!俺達は鬼人薬を大量に飲んだんだ!3人いればこんなチビ楽勝だよ!!」
「それにこっちには武器で向かうは丸腰だ!」
その言葉に多少の安心感を得たマルバは頷くとゆっくりと立ち上がった。だが、今もなお右手から伝わってくる異様な痛覚によって身体が疲労していた。
対する不気味な笑みを浮かべているゲンジは首を左右に曲げ、骨を鳴らすと人差し指で誘う。
「来いよ。お望み通り勝負してやる…!!」
その声からはもう優しさや冷静さは失われていた。あるのはただ自身の大切な物を壊された事による『怒り』今まで蓄積された『憎悪』のみ。
「クソが…!!調子こいてんじゃねぇぞ!!!」
ゲンジの挑発に乗ったデンはナイフとアイスピックを手に掴み出すとゲンジに向けて駆け出す。
「死んじまえやチビ野郎ッ!!!」
鬼人薬によって強化された腕の筋肉を活用し、ナイフを振り回した。そのナイフは剥ぎ取りように扱われるものよりも多少は小型で殺傷能力も低いが、それでも十分凶器となり得る武器である。
そのナイフの振り回しをゲンジは避ける事はなかった。
___ゴルル…!!!
喉元から獣のような唸り声を上げると振り回されたナイフへと自ら駆け出す。
そして、自身へと迫ってくるナイフに向けて口を開けると、驚異的な顎の筋力によって刃を噛む形で止めた。
「う…うそ…だろ…?」
先程まで勢いによって何の不安も現れていなかったデンの顔は絶望に染まっていった。
鬼人薬を数本飲み干し、ドーピングを重ねた筋力による全力の振り回しが身体のたった一部である口によってアッサリと受け止められてしまったのだ。それと同時にゲンジの刃を噛み締める鋭い歯はそのまま刃を離すことなく、首を振り回しナイフを付け根からへし折った。
自身の獲物がまだあるにも関わらず、ナイフを折られた事によってデンは完全に闘争心を失い、その場に崩れ落ちた。
「何だ?もう終わりなのか?」
「ひ…ヒヒ…ヒィェ!?」
ゲンジは加えた刃を吐き捨てるとデンに向けて次々と歩いていく。その一歩一歩は正にモンスターと呼ぶにふさわしい程の威圧感を放っていき、それに腰を抜かしたデンは威勢を喪失し汗を流しながらゆっくりと下がっていった。
「もっと楽しませてくれよ?」
その時だ。
「コッチを忘れたんじゃねぇぞクソがぁぁぁ!!!」
背後からレビが現れ雄叫びを上げながら棒を振り回してきた。その棒は先程からゲンジを痛めつけていた物とは別のものであり、鋼鉄を素材に作られていた。
もしもこれが頭蓋骨に当たれば流石のG級ハンターであるゲンジも致命傷になりかねない。
風を切りながら振り回された鋼鉄の棒がゲンジの側頭部へと迫る。
そんな死とせめぎ合いの瞬間 ゲンジは笑みを止めるどころか更に口角を釣り上げた。
「遅い…!!」
その一言が聞こえた直後、側頭部へと接近していた棒の直前に手の平が現れ向かってくる鋼鉄の棒を掴み止めた。
そして掴んだ棒を自身の方へと引いた。するとその棒を掴んでいたレビの身体が引き寄せられる。
「うわぁ!?」
ようやくレビは理解した。自身が“的”にみなされている事に。
そして理解した時にはもう遅かった。
「ゴフゥ…ッ!!!」
腹に丸太が抉り込むかのような感覚が広がると共に骨が壊れる音がする。
ゲンジの蹴り上げられた脚がレビの腹へと突き刺さり、肋を粉々に砕いたのだ。砕かれた骨が内臓へと突き刺さり、レビの口からは大量の血が噴き出された。
「いい音がなったなぁ〜!!アハハハハ!!」
血が滴る中、不気味な笑い声を腹の底から響かせるとゲンジはレビの身体を持ち上げると右拳を構えて、次々と顔面へと拳を打ち込んでいった。
「ハハハハ!!どうだ?おい!何とか答えろよ!なぁ!!」
狂気に満ちた笑みを浮かべながらゲンジの拳がレビの顔面へと突き刺さっていった。再び鼻の骨が折れ、口だけでなく鼻からも大量の血が流れ落ちてきた。
すると、ゲンジは拳を止めて顔を見る。
「……」
目からは光が消え去っており、力が抜けたかのように口内からは舌が垂れ下がっていた。
「なんだ?お〜い。もうお終いか〜?」
ゲンジは耳元に顔を近づけると呼び掛けるように次々と声を上げる。だが、レビが応える様子は無かった。
「何だ。つまんねぇな」
ゲンジは完全に意識を失ったレビの身体を地面へと叩きつけると蹴り飛ばした。
「な…なんて事すんだよお前……アイツがもし今ので死んだら…!!」
後方で見ていたマルバの溢した言葉にゲンジは振り向くと答えた。
「何を言ってるんだ?死んだら死んだらでいいじゃねぇか。どうせお前らも跡を追うんだし寂しくねぇだろ?」
『『『…!!』』』
その言葉に辺りにいる全員の背筋が氷の柱が立てられたかのように凍りつく。今の言葉の口調から完全に脅し……いや、脅しでは無い。完全なる宣言だ。ゲンジは確実に3人を殺そうとしていた。
極限まで恐怖を与えて。
「さてと…」
レビを戦闘不能へと追いやったゲンジの首が背後に尻餅をついたデンへと向けられる。
「まだ残ってたな。どうした?さっきはあんなに生き生きしてたじゃねぇか。もっと楽しもうや…!!」
再び笑みを浮かべながらゲンジは次々と後ろに下がっていくデンへ脚を進めていく。
「ヒィ!?く…来るなぁ!!!」
その歩みが一歩一歩と踏み進められる度にデンの顔は絶望に染まっていった。戦意を喪失してしまってはたとえ鬼人薬を大量に摂取したとしても使い物にならない。
そして 自身を恐れながら腰を抜かし恐怖に怯えるその様をゲンジは “楽しんでいた”
「ハハ…ハハハハ!!さっきまで調子付いてたっつぅのにその慌て様は面白ぇな!!」
そして、ゲンジの追い詰める脚が止まると、突然駆け出した。
「オラァッ!!!」
駆け出したゲンジは一瞬で尻餅をついたデンに追いつくと、脚を顎に目掛けて振り回した。
「ガァッ!!??」
振り回された脚は先程の鉄の棒よりも速い速度で顎に撃ち込まれ、デンの身体を吹き飛ばした。その際に再び骨が砕かれる音が響く。
そして、蹴り飛ばされたデンは先程のゲンジと同じように地面を転がりながらうつ伏せに倒れた。
「あ…あぅ…!!あぅあぅ…!!!」
言葉が上手く発することができない。いや、喋る事ができない。
即ち
_____顎の骨が粉々に粉砕されてしまったのだ。
もう彼は言葉を紡ぐ事が生涯不可能となってしまった。この先、一生彼が言葉を通じてコミュニケーションを取る事はないだろう。
「お前らがもうここに手を出せないようにするためにいいアイデアを思いついたんだよ。ま、殺すから意味ねぇけどな」
今も尚顎を抑えるデンの背後からゲンジは近寄るとアイスピックを拾い上げ、デンのアキレス腱へと切先を向けた。
「あ…あぁああ!!あぅああゔあ!!!!」
何をする気なのか。咄嗟に理解したデンは涙を垂れ流しながら懇願する。だが、顎の骨を砕かれているためか、必死に訴えても言葉にはならなかった。
「何言ってるんだ?全然分からねぇ…よッ!!!」
その言葉と共に右脚のアキレス腱へとアイスピックが突き刺さり、ゲンジはその突き刺したピックを右へと強引に動かした。
「ヴァアァアアアァアア!!!!」
デンの叫び声が響き渡る。アキレス腱からは大量の血が流れると同時に筋が少し漏れ出そうとしていた。
これでデンは一生 片脚としての生活を余儀なくされるだろう。
______生きていればの話だが。
そしてゲンジの目が遂に今まで恐怖に縛られて動けなくなっていたマルバに向けられた。
「取り敢えずこれで逃げられねぇだろ。さて、最後はお前だぞ?折角メインディッシュにしてやったんだ。キッチリと抵抗してくれよ」
「あ…ああ…あ…!!!」
だが、もう見るに耐えない程までマルバの身体は震え上がっていた。持っていたハンターナイフも切先まで震えていた。
ゲンジの脚がゆっくりと近づいてくる度にマルバは震えながら一歩一歩と後ずさろうとする。
いや、震える理由はそれだけではない。ゲンジからの『怒り』『恐怖』を感じる事に加えてゲンジの右眼が次々と血の色へと変色していったのだ。
ゲンジが歩み寄る度にその侵食は進んでいった。
「どうしたマルバ?もっと顔を見せてくれよ。ハハハハ!余裕から絶望のドン底に突き落とされたその表情……
____最高に良い気分だぁ…!!!」
その言葉と同時に辺りにいる皆は絶句してしまった。ゲンジの左目がドス黒い血の色へと染め上がっていたのだ。
その瞬間 ゲンジの身体が消える。
「ウギァァァァァァア!!!」
その直後 マルバの悲鳴と共に骨が砕け散る音が響き渡った。一瞬でマルバの背後へと移動したゲンジが手刀をマルバの左の腕と肩の付け根へと振り下ろしたのだ。
振り下ろされたれたゲンジの手刀はマルバの肩の骨を破壊し、そこから更に抉り込み、結果として打ち込まれた肩に巨大な溝を形成してしまったのだ。
「ぁあああああ!!!痛い!!いたぁいよぉぉおおお!!!!」
襲いかかってくる感じた事もない痛みにマルバは絶叫し、地面を這いずり回る。
だが、それでもゲンジは笑顔を絶やす事なく楽しむかのように見つめると脚を振り上げ、のたうち回るマルバの背中へと振り下ろす。
「ガァ!!」
背中へと振り下ろされた脚は釘のようにマルバの身体をその地点に固定して、逃げる術を無くした。
そんな中 マルバを押さえたゲンジは踏みしめる右足とは別に左足をマルバの左肩へと乗せた。
「確かこっちだよな?ミノト姉さんに触った手は」
ゲンジは確かめるかのようにつま先で肩を突つくそこは先程、手刀を入れた事によって歪んだ肩であった。
ようやく気づいたマルバはうつ伏せに倒れながら恐怖に震える瞳をゲンジへと向けて懇願した。
「や…やめろ!!そこだけはやめてください!!!お願いです…!!お願いします!!!」
だが、その震えながらの懇願が憎しみと狂気に支配されたゲンジを紅潮させる。
「そうか。なら…良かったよ」
ゲンジの狂気に満ちた笑みに見下ろされると同時に肩へと置かれた脚がゆっくりと振り上げられた。
そして
「ヴァアァアアアァアアアァアァアァア!!!!!」
マルバの絶叫が辺りへと響き渡ると同時に肩と腕を繋ぐ骨が粉々に砕け散った。
右手は指だけが肉塊にされ、左は肩から骨を粉々に砕かれた。これで彼はもう仰向けに倒れた時 起き上がる事はできないだろう。
「痛い!!痛いよぉ!!おとうさぁぁぁん!!!助けてぇ!!殺される!!たずげ!!たずけでよぉおおお!!!」
「ハハハハ!!良い声で鳴くじゃねぇか!!」
遂にマルバは涙を流しながらハンターである父親の名前を叫び始める。生きる事への執着のあまり、精神が逆行してしまったのだ。届くことのない叫びを次々と上げていく中、ゲンジは今度は手へと目を向ける。
「肩だけじゃ何だか物足りねぇ。やっぱり手も砕くか」
「…は!?」
ゲンジは肩から今度は手に脚を乗せた。マルバは必死に起きあがろうとするが、肩を砕かれた事で動く度に激痛が走る。
「やめろ!!お願いダァ!手を砕かれたらどうやって俺は___ゔぁぁぁぁぉあ!!!!!!」
ゲンジはマルバの声に耳を傾ける事なく、手の甲へと脚を振り下ろし、手の骨を粉砕した。再び骨が破壊される音が響き渡ると同時にマルバの悲鳴が響き渡った。
左右の指の骨が粉々に砕け散った事でもう、マルバの手は機能としては役に立たず、物を掴む事も持つ事もできない。
「いいねぇ。まだそんなに元気があるとは感心感心」
ゲンジはその様子を楽しんでいるかのように絶やさず笑みを浮かべながらマルバが落としたナイフを拾う。
「前にお前が聞いてたな。何でこんな事をされなきゃならないのか。今回は簡単に三つに分けてお前に教えてやるよ」
ナイフの刃を指でなぞり取るとゲンジは持ち手を変え刃を向けた。
「一つ。俺の忠告を聞かずにまた現れた事」
「ゔぁあぁ!!!」
その言葉と共にマルバの右足の膝から下が切断された。切断面からは大量の血が流れ落ち、次々と辺りを浸していった。
「二つ。調子に乗りすぎた事」
「ギャァァァァ!!!」
その言葉と共にマルバの脚の切断面を踏み潰した。傷口が踏み潰された事で更に感覚神経が痛みを感知し、身体へと苦痛を与えていった。
「そして三つ…!!」
ゲンジの片方の手がマルバの髪の毛を鷲掴みすると、無理やり頭頂部を自身の黒色に染まった右眼へと寄せた。
「ヒぃ…!!」
マルバの目の前に広がるのは底なしの黒。その目からは自身への怨念が精密に感じ取られ、心臓を掴まれる感覚に陥っていく。
次々と精神が蝕まれていく中 ゲンジは怒りと狂気が混じった笑みを向けながら三つ目を口にした。
「俺の大事なヒノエとミノトに手を出した事だ…ッ!!!!!」
その言葉共にゲンジのナイフを持つ手が振り上げられた。その一連の動作には迷いが何一つ感じられる事は無かった。
「安心しろ。お前が死んだ後。倒れてる奴らにも跡を追わせるからよ…!!!」
それを見ていた里の皆はざわめき出す。
「お…おい不味いぞ!!!」
「ゲンさん完全に殺すつもりだ…!!!」
この世界では殺人はとても罪が重い。最低でも禁錮刑に処される程の重罪だ。最悪の場合、ハンターの資格を剥奪される。それを知っていた里の皆はゲンジへと止まるように叫んだ。
「ゲンジやめろぉぉぉ!!!」
「殺すのはやりすぎじゃ!!!!」
フゲンとゴコクも叫び、ゲンジへと呼び掛ける。だが、もうゲンジの耳には誰の声も届く事はなかった。理性は一欠片も存在しない。あるのはただ一つ。
“大切な妻を傷つけたこの3人を恐怖で支配し苦しみを与えながら殺す事”
もうハンターなどどうでも良かった。
そして 振り上げられたナイフの刃が首へと向けられ、太陽の光が付け根から切先へと反射した。
「やめてぇぇええええ!!!!」
ヒノエの叫び声が響き渡るも、ゲンジの手は止まらない。
その時だ。
________「……ぅ!?」
突然 マルバの首へと刃を斬り込もうとするゲンジの動作が静止した。まるで一時的に時が止まったかのように。
「な…何が起こったんだ…?」
「さ…さぁ…」
辺りでざわめいていた里の皆は一瞬にして静かになっていく。すると、ゲンジの手からナイフが地面へと零れ落ちると同時にマルバの髪の毛を掴んでいた手が離されその身体がゆっくりと横に倒れた。
「倒れた……?」
「いや、見ろ。眠ってるぞ」
そんな中
フゲンはゲンジの背中にあるものが見えた。目を凝らしながらよく見るとゲンジの背中には一本の桜色の注射器のような弾丸が刺さっていた。
「あれは…麻酔弾!?まさかハモンか!?」
「いや…儂ではない。別のやつだろう」
ゲンジの身体に刺さっていたのは体力が限界まで減ったモンスターを捕らえる時の為に扱われる麻酔弾だ。全身の感覚を麻痺させると同時に一時的に眠らせるアイテムである。
ハモンでなければ一体誰が撃ち込んだのだろうか。
すると
「ふぅ…何とか間に合ったか」
人混みを掻き分け、1人の女ハンターがゲンジ達の倒れている場所へと出てきた。
「な…!エスラ!?」
「すまないフゲン殿に皆。遅くなってしまった」
そこに立っていたのは煙が吹き出すライトボウガンを背負うエスラだった。