薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
「すまないな皆。遅くなってしまった」
「義姉さん!?」
ゲンジへと麻酔弾を放ち眠らせたのはエスラだったのだ。それに続きシャーラも現れるとゲンジに駆け寄った。
「一体なぜここに!?」
ヒノエはどうしてここにいるのか尋ねた。
「修練場で訓練をしていたら叫び声が聞こえてね。訓練を中止して急いで戻ってきたのだよ」
「そうだったのですね…よかったです…」
エスラはマルバの非常に巨大な叫び声が聞こえた故に走って向かってきたのだ。もしも、あと一歩 遅ければゲンジは殺人者となっていただろう。
一方で、麻酔が打たれた事によってゲンジからは先程の狂気が消え失せ、いつものように穏やかな雰囲気を取り戻しながら眠っていた。だが、それでもデンのアイスピックによって大量の穴が開けられており出血が止まらなかった。
だが、エスラは辺りに広がる血液の量に驚いてしまう。
「何だこの血の量は…!?医療班!誰が頼む!このままではゲンジが出血死してしまう!」
エスラの呼びかけに辺りにいる人達はすぐに正気に戻ると担架を持ち駆け寄るとゲンジの腕や背中に包帯を巻き付け担架へと乗せた。
「コイツらはどうする…?」
1人の里の男がエスラや皆へと問う。目の前には顔から血を垂れ流し肋を粉砕されたレビ。顎を砕かれた上にアキレス腱を切られ、言語機能と歩行機能を失ったデン。両手が肉塊となり、右脚が切断されたマルバ。彼らはゲンジに対して逆恨みで何度も激しい暴行を加えた上にミノトに接触、そして更にヒノエに恥辱を味合わせようとしていたのだ。彼らが助ける事を躊躇うのは無理もない。
それに対して医療専門であるアイルーのゼンチが前に出た。
「勿論コイツらも治療するニャ…。気が引けるが、それでも医者として怪我人は見過ごせないニャ」
本来ならば皆は異議の声を上げようとするが、ゼンチの言葉も納得できる。もしもここで見捨ててしまえばゼンチのプライドが許さない上に里も変なレッテルを貼り付けられてしまうだろう。
「頼むニャ。くれぐれも怪我は与えないでほしいニャ!」
ゼンチの言葉に頷いた里の者達はマルバ達も同じく担架へと乗せた。だが、命は繋ぎ止められたとしてももう普通の人としての生活は無理であろう。
4人が医務室へと運ばれていく中、フゲンとゴコクはエスラに対して頭を下げる。
「エスラ…すまない。もう少しでゲンジを罪人にしてしまうところだった…」
「気にしなくて良い。それよりも一体何があった?ゲンジがあんな状態になってしまったのは初めてだぞ?しかもあの男を殺そうとしていたな?」
「落ち着いてくれ。話は俺とゴコク殿が全て話す」
エスラは目を鋭くさせるとフゲンに事の経緯を尋ねる。すると、フゲンはゴコクと共に全てを話す。
あの3人がカムラの里で何をしでかしたのか、そして、ゲンジがなぜ、あれ程の勢いで3人を殺そうとしたのか。
そして…ゲンジの身に何があったのか。
全てを事細かく聞いたエスラの表情は次第に怒りに包まれていった。大事な弟を何度も何度も痛ぶった挙げ句の果てに自身の義理ながらも妹と呼べる存在である『ミノト』や『ヒノエ』に恥辱を味あわせようしていた。それがエスラの腑を煮えくり返していった。
「そうか。里で狼藉を働いただけでなくゲンジとミノトとヒノエにそんな事を……!!」
ライトボウガンを握る手の握力が高まり、エスラの額からは筋が湧き立つ。
「ゲンジが運ばれた場所は?」
「集会所の医務室だ。一応 あの3人からは距離を置いてある」
「その方がいいだろう」
エスラは頷く。仮にゲンジがもし目覚めた時に同じ空間内にマルバがいた事を視認すれば間違いなく先程の事がフラッシュバックし、殺しに掛かるだろう。
フゲンの判断は適切と言える。
その後、エスラはゲンジの容態をシャーラと共に確認しに共に集会所へと向かった。
ヒノエはミノトを落ち着かせるために自宅へと戻っていった。
◇◇◇◇◇◇
数刻後、
エスラとシャーラはゲンジの命に別状がない事を確認し、自宅へと戻る。自宅にはすでにヒノエとミノトがいた。だが、ミノトの身体は震えており、ヒノエは震えるその身体を抱き締めていた。
「ミノトは大丈夫なのか?あのハンターから正確には何をされたのだ?」
「…実は」
ヒノエはエスラへとミノトがマルバに拘束されて、胸を揉まれ汚された事も話す。女性にとって好きでもない上に憎悪を向ける相手から身体を触られる事は精神が大きく傷付く行為であった。
故にミノトは少し、マルバに対してトラウマを持ってしまった。
「本当に下衆な者だ…反吐が出るよ。大丈夫かいミノト?安心しろ。今夜は私達が見張っていてやる」
エスラはミノトへと声を掛ける。だが、ミノトが身体を震わせている理由は他にもあった。
「ゲンジは…ゲンジは無事なんですか!?彼は…私の所為で…!!」
「…」
ミノトはずっと目の前でゲンジが暴行を加えられている光景を目に焼き付けられていた。それが今もなお脳内に深く根付いてしまっており、心を深く傷つけていた。
「大丈夫よ。ミノトの所為なんかじゃない。泣かないで」
涙を流すミノトをヒノエは優しく抱き締めた。それについてエスラはミノトへと現在のゲンジの容態を伝えた。
「今は眠っている。ゼンチによると命に別状はないから安心して良い。明日、私達と見舞いに行こう」
「…はい!」
ゲンジは治療中のために、ずっと側にはいられない。4人はゲンジが不在のままではあるが、そのまま就寝へと入った。エスラとシャーラはあの3人が抜け出して来ても対応できるように警戒しながら玄関に座り込んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
やめろ…やめてくれ…!!
「ほらほらどうだ?気持ちいいだろ?」
「やめて…もうやめてください…!」
目の前に映るのはマルバによって胸を揉まれ、更に髪を嗅ぐわれているミノトの姿だった。ゲンジは眉間に皺を寄せると助けるべく駆け出す。だが、いくら向かっても距離を詰める事は叶わなかった。
マルバは焦る自身の様子を嘲笑いながら次々とミノトの身体に触れていく。
「ほぉら頑張れ頑張れ〜♪」
「ミノト姉さん!!クソ…なんで近づけねぇんだ!?」
その時、ミノトの涙が流れ悲しみに満ちた瞳が自身に向けられた。
「ゲンジ………
____“助けて”
その言葉と共に景色が暗闇に包まれていった。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
「……」
目をゆっくりと開けると辺りは暗くなっていた。時刻は深夜であろう。外は暗闇に包まれており、いつも活気立つ里の民の声も鉄を打つ音もハンター達の賑わう声も聞こえない。
自身の手を見ると両手が包帯によってぐるぐる巻きにされていた。それは身体も同じだ。
何故か左目の景色だけが見えない。触ってみると包帯が巻かれていた。
だが、ゲンジにとってそんな事はどうでもよかった。脳内に浮かび上がるのは夢で見たマルバの醜悪に満ちた表情。マルバを確実に壊せと頭の中で声が響いてくる。
「スンスン…」
鼻で何かの臭いを嗅ぐ。血の匂いが何度も通った事のある鼻の中に微かに入って来たのは自身を激怒させたあの男の汚れた血と体臭の匂い。
それと同時に耳を研ぎ澄ませた。音という空気の振動を正確に感じ取るために。
そんな中 ゲンジは何者かの声を感じ取ると目を血走らせ、口を三日月のように吊りあがらせた。そしてその表情は昼間、マルバ達へと向けていたものと同一であった。それと同時に身体中から昼間の狂気に満ちたオーラが溢れ出た。
「マールーバー。ど〜こかな〜♪」
細いながらも筋肉が発達した腕が唸り出す。理性を失った悪魔による惨劇が再び起ころうとしていた。