薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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近づく恐怖

集会所の裏に位置するハンターの治療所兼寝室。一つのテントの中に最低でも一つのパーティである4人が寝かせる事が可能であり、テントの中にベッドが四つ用意されていた。前まではこんな治療場は無かったが、ヒノエやミノトへと告白したその数週間後にゲンジの指示の元、用意されたのだ。現在はそれが約3セット用意されていた。

作りもまた頑丈であり、嵐の中でも吹き飛ばされる事はなかった。

 

 

ゲンジが眠る集会所の治療所から少し距離のあるその治療場にて、全身に包帯を巻かれていたマルバは目を震わせていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

荒い呼吸をしながらただ願っていた。早くこの里から出たい。家に帰りたい。頭の中に浮かび上がるのは『恐怖』『恐怖』『恐怖』

 

「(怖い…!怖いよ父さん…!!助けて…!助けて…!!)」

脳内にはゲンジの不気味な笑みが焼き付けられ、頭から離れる事がなかった。それによって元から持ち合わせていた喜怒哀楽という感情は全て『恐れ』に置き換えられていた。

自身以外の2人は話し相手にもなれない程まで追い詰められており、見るだけでも恐怖心が溢れ出て来てしまう。デンは顎を砕かれ先程から泣き喚いており、レビは何とか一命を取り留めたものの、ショックのあまり声が出なくなっていた。

 

精神を少しでも安定させる方法が自身を勘当した父親を頭に思い浮かべながら懇願する事。または目を瞑り睡眠を取る事のこの二つだけであった。

 

故に

ただ願った。父親が早く自身を受け取りに来る事を。

 

「食事だニャ〜」

 

「ヒィ!?」

突然と聞こえた声に身を強張らせてしまう。だが、入って来たのはゲンジの腹部までの大きさのアイルーであった。

 

「何怖がってるニャ?ほら、口開けろニャ。毒は入ってないから安心しろニャ」

名医アイルー『ゼンチ』。カムラの里だけでなく、この地域の中でも名を馳せる名医であり、アイルーという三本指であるにも関わらずその手先は器用で内科だけでなく外科も務める。だが、外科は自身の手でやるのは危険と判断しており、弟子の医者に指示を出す形で行なっている。

 

ゼンチはフゲンから3人の治療を任されていたのだ。手には栄養バランスが考えられた具が入っているおにぎりが3つ置かれていた。

 

「ほら、さっさと食べろニャ。食べニャいと助かりたくても助からないニャ!」

ゼンチはすぐ側までよるとおにぎりを差し出す。マルバは両手がもう使えないために必然的に食べさせられる形となった。

 

「は…はい…」

もう高圧な口も叩けない。素直に従うほどまで萎縮してしまったマルバは口を開けながら食事を取った。

 

柔らかく、美味であったが、それでも心が癒される事は無かった。

 

因みに同室内で顎を砕かれたデンは固形食が食べられなくなってしまった事でお粥を食しており、レビは辛うじて自身と同じ食事を手を使いながら食べていた。

 

その光景を見て、食べさせられる事が恥ずかしく見えると共に自分で食べられる様子が羨ましく思えてしまった。

 

「お終いニャ。とっとと寝ろニャ。明日、お前の父親が来ると連絡が来たからニャ」

食事を終えた事を確認したゼンチは食器を全て片付けていき、包帯を再び巻き直した。

 

もう自身で食事を取ることもできない。歩く事もできない。無闇に遠くに一人で行く事もできない。

ゲンジの妻であるミノトに手を出した事で自身の自由が一瞬にして奪われてしまったのだ。

 

 

「(明日…早く明日になってくれ…!!)」

 

少しでも早く。1秒でも早く夜明けが訪れる事を心に願いながらマルバは眠りについた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

その晩

 

 

「……んん」

 

突然と寝苦しくなり目が覚めてしまった。辺りはまだ暗く、物音一つ聞こえない。時刻は深夜といったところだろうか。辺りを見るとデンとレビはぐっすりと眠りについていた。

 

なぜ、こんな時間帯に起きてしまったのか分からない。だが、寝返りをうっても眠くなる事はなかった。

 

「(ちくしょう…なんでこんな時に起きちまうんだよ…!!)」

物音一つ立つ事がないその沈黙した雰囲気は自身にとっては少し不気味であった。

 

何度も何度も寝返りを打ち、夜が明る事を待つ。

 

 

 

その時だ。

 

 

 

ザッザッザッ

 

何か物音が聞こえた。カムラの里の地面と草履の擦れる音が聞こえてくる。

 

「(なんだ?包帯の取り替えか?)」

 

このテントに来てからここに来るのはアイルーのゼンチのみ。故にアイルーのゼンチが再び包帯を取り替えるために来ていると思いながら眠りについた。

 

 

「マ〜ル〜バ〜。ど〜こかな〜♪」

 

 

 

 

 

「…!!!!」

 

聞こえた軽快な少年のような声。愉快な口調。それが聞こえた瞬間に頭の中が恐怖で埋め尽くされた。

全身という全身から冷たい汗が流れ始め、震え始める。

 

 

「(あ…アイツだ…!!)」

聞こえた声は正しく、自身の恐怖そのものである『ゲンジ』だった。足音が近づく度にその声は段々と近づいてくる。

 

布団を全身に被り、辛うじて動く膝で布団の裾を押さえながら蹲る。

 

「ど〜こな〜んだ〜い?さっきからミノトに手を出すのはやめてくれよ〜」

 

その声は遂にテントの入り口まで聞こえて来た。

 

「…!」

来ないで。来ないで。頼むから通り過ぎて。どうかこのテントだけは見逃してください。

 

恐怖によって身が震え上がり、涙が溢れ出てくる。ドアもない作りなのでテントに向かってくる音が繊細に伝わってくる。

 

「昼間の続きしようよ〜♪」

 

確実に自身を殺そうとしている。確信はないが、ゲンジは明らかに凶器を手に持ち迫って来ている。

 

 

「(怖い!!怖いよ!!誰か助けて…!お願いします!!誰でもいいから…!!神様頼む!!もういい子になるから!ちゃんと里の皆にも謝るから!!)」

存在しない神にただ願うことしかできなかった。自身の望みを受け入れてくれるのか。

 

だが、そんな奇跡は起きる事はない。

 

 

「う〜ん。人の寝息が聞こえるな〜♪」

 

「…!!」

 

気づかれた。いや、自身の声ではない。デンとレビの寝息によって場所を感知されたのだ。すると、足音が更に近づき、遂にはテントの目の前まで聞こえて来た。

 

 

「こ〜こかな〜?」

 

 

その声は入り口から聞こえると同時に中へと入ってくる。声を押し殺し、必死に願った。

早く出ていってくれ。頼む。お願いだ。

 

マルバの頭の中からはデンとレビの存在は消え去り、自身だけでも助けろという生への欲求で埋め尽くされていた。

遂にその足音が自身の眠るベッドの側まで聞こえてくる。

 

「(すぐそこにいる…!?)」

少しでも物音を立てれば確実に気づかれる。故に息を最小限に止め、身体を硬直させた。

 

 

「う〜ん。変だな。音がしたと思ったら聞こえなくなった。別のテントなのかな〜」

 

すぐ側から辺りを見回している。もしも布団の中を確認されるような事があればもうお終いだ。マルバの汗は次第に量が増していった。

 

 

すると

 

「はぁ…。いないならしょうがない。戻って寝るか」

 

ザッザッザッザッ…

 

 

段々と消えていく足音。その足音が自身を不安から解き放ち、安堵の息を吐かせてくれた。

 

「は…ハハ…」

笑みが溢れてしまう。ここまで緊張した自身が馬鹿らしく思えてしまった。

 

ようやく安心して寝られる。そう思いながら汗と緊張感で充満した空間を換気するべく布団から顔を外に出す。

 

 

 

そこには満面な笑みを浮かべながら自身を見つめるゲンジの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____み〜つけた♪

 

 

 

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