薄明と双子の姉妹 (リメイク中)   作:きょうこつ

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おそろしの夜

「み〜つけた♪」

 

目が合った瞬間 その存在は口角を釣り上げながら自身に向けて満面の笑みを浮かべていた。それは自身の頭の中に根付いたトラウマを再び引き起こさせる起爆剤となった。

 

「ぁあぁあァアァアァアああ!!!!!!」

腹の底から絶叫しマルバの身体は後ろへと下がる。すると、その様子を見ていたゲンジは不気味な笑い声をあげた。

 

「はははは!!!いいね。顔が合っただけでその慌て様!」

すると、ゲンジは懐から何かを取り出す。それは月明かりに照らされて鮮明なものとなってきた。

 

“ナイフ”だ。ハンターが剥ぎ取りによく扱う切れ味が突出している部類のものである。

 

「さぁ〜さぁ〜。昼間の続きをしようか♪」

 

不気味な笑みを浮かべたゲンジはゆっくりと脚を進ませてくる。それに対して死への恐怖感からマルバは行き止まりがあるにも関わらず必死に片脚で後ろへと下がっていった。

 

「いや!!来るな来るなぁ!!!なんでここまでするんだよぉお!!俺から手も脚も奪いやがって!!いい加減にしろよぉお!!!」

自身はもう十分に苦しんだ。手を握りつぶされた上に骨を砕かれ、物を掴む事も持つ事も叶わなくなり、松葉杖を扱わなければ歩くことさえもできない。もう自分は殺されたも同然だ。なのになぜ、コイツはここまでする?なぜここまで自分を追い詰めてくる?

マルバは必死に問う。少しでも生きながらえる為に。

 

 

すると 突然 ゲンジの歩み寄る脚が止まった。

 

 

ピタン

 

 

 

水滴の落ちる音がする。見るとゲンジの目からは大量の涙が流れ出ていた。狂気の笑みを浮かべていながらもその涙は巨大な悲しみを抱いているようだった。

 

「お前がミノト姉さんに手を出す夢を見たんだよ。気持ち悪い笑い顔を浮かべながらミノト姉さんの身体を触りまくっててよ。本当に昼間のお前にそっくりで腹が立っちまった。

そこで俺は考えたのさ。お前を殺せばその夢を見なずに済む。二度とお前は里に現れない。今回のような事は二度と起きない。一石二鳥じゃねぇか♪」

 

いつものような端的な口調ではない。狂気によって口調にさえも影響を及ぼしていた。ゲンジは刃を指でなぞる。

 

「それに…お前だって俺から奪ってるじゃねぇか。大事な物を」

 

「な…何をだよ…!!」

自分はコイツから何も奪ってなどいない。何もだ。だから問う。なぜ、そんな根拠もない理由によって殺されなければならないのか。

 

「何をだって?」

 

____アハハハハハハ!!!!

 

 

ゲンジは身体を後ろに倒すように曲げながら笑い出す。甲高いその笑い声はテントの隙間から夜の里へと響き渡った。

 

「俺から里や皆を奪ったじゃねぇか。昼間、お前らが俺を怒らせた所為で里の皆は俺に嫌悪感を抱いただろ。笑いながら人を痛ぶる奴を家族だなんて迎えるか?迎えねぇよなぁぁ!!!

だから俺は決めたのさ。出て行く代わりに里に二度とお前らが現れないように…同じ悲劇が起こらねぇように苦しめて殺すと…!!!お前らが死んで俺も出ていって一件落着だよ!!最高じゃねぇかぁ!!」

 

涙を垂れ流しながらゲンジは狂気の笑い声を上げていく。即ちゲンジはマルバ達を殺した後にこの里を出て行くつもりでいるのだ。それはつまりヒノエやミノト、エスラやシャーラという自身の心の支えを置いて行くことになる。それを全て承知の上でゲンジはマルバ達を殺そうとしているのだ。

 

ゲンジの高笑いが止まると、顔を俯かせながらゆっくりと近づいてくる。

 

「分かるか?大好きな里を出て行かなきゃならねぇ苦しみが。分かるか?大切な奴がお前のようなゴミ野郎に弄ばれる夢を見るこの痛みが…」

 

その時 ゲンジの唸り出した右手に胸ぐらを掴み上げられ顔の至近距離まで持ち上げられる。

 

「この痛みが分かるのかぁぁぁ!!!!」

 

直面に向けられたその顔は涙でぐしゃぐしゃとなっていた。里の皆から抱かれる嫌悪感への恐れとヒノエやミノト、そしてエスラとシャーラと別れるその寂しさ。その不安を抱きながらもどうしても怒りが抑えられなかった。

巨大な不安と恐れを心の奥底で押し殺した結果、それは自我を蝕む程の凄まじい狂気へと変貌してしまった。

 

「あ…ああ…あ…」

怒りと憎悪。そして狂気の塊と化したゲンジを間近で見てしまった事でマルバの精神も遂に崩壊し始めて行く。

 

すると ゲンジはその恐れる表情を見ると再び悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「あの寝てる二人はどういう反応するのかなぁ〜?ぐっすり寝てるけど目が覚めたらバラバラにされた遺体があってその側で俺がいたとしたらどういう反応するのかなぁ〜?楽しみだなぁ!!」

 

その言葉と共にナイフが振り上げられる。その動作が昼間の惨劇を脳内に鮮明に再生されていき、マルバの精神を食い尽くしていった。

 

「やめて…!お願いだ…!もう来ないから!近づかないから!あの2人に謝るから…!!!もうやめて!!」

 

「いいよその表情♪もっと恐れ慄いてくれよ。その方が気持ちよく殺せる♪」

必死に懇願する。だが、ゲンジは止まる事はなかった。それどころか楽しむように更に笑顔が明るくなっていく。

 

「安心しろよミノト、ヒノエ。もうコイツがお前らに触れる事はなくなるから…」

 

「嫌だ!死ぬのは嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!」

死への恐怖感。そしてゲンジへの恐れ。その二つが掛け合わさりながら次々と迫り、精神を黒く塗り潰すように侵食していった。走馬灯を見る事もできない。目を瞑る事もできない。

マルバのゲンジへの恐れが最高点へと達した瞬間 ゲンジの手に握られたナイフが振り下ろされた。

 

「嫌だァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____ヒノエとの約束ですよゲンジ。

 

 

 

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