薄明と双子の姉妹 (リメイク中) 作:きょうこつ
ヒノエとミノトに連れられたゲンジは集会所の医務室へと連れられた。特にヒノエは自身を引くその力は強く、止まろうとすれば無理にでも進まされる。木造の床をヒノエの力強い足音が響き渡った。
「着きましたよ」
「あぁ…ん!?」
扉を開け集会所の医務室へと着く。その瞬間ヒノエはゲンジの身体をベッドの上に無理やり座らせた。
「姉様!あまり乱暴は!」
「黙りなさいミノト」
咄嗟にミノトはヒノエを止めようとするが、ヒノエは止まる様子を見せず、鋭い目を向ける。いつもの笑顔が顔から消え失せ、怒りを表面へと現していた。
「ミノトを助けてくれた事…本当に感謝しております。ですが…!!」
その瞬間
__!!
何かを叩く音がその場に響き渡る。
見るとゲンジの頬がヒノエの手に叩かれていた。その力は強く、叩かれたゲンジの頬は衝撃と共に赤く腫れ上がってしまった。
「私はすごく悲しいです…」
そんな中 ヒノエは鋭い目を向けながらも震える声でゲンジに問う。
「…約束しましたよね?一人で背負いこまず私達を頼ってください…と」
その声は普段のヒノエから想像が付かないほど低いものだった。
ヒノエとの約束は数日前にしたばかりであった。ゲンジはその事を思い出し先程はナイフを振り下ろす手が止まってしまったのだ。
「…」
何も言い返す事が出来なかった。ただ無言を貫き、ヒノエからの報いを受けようとしていた。だが、ヒノエは手を上げることはなかった。
「なぜ約束を破ってまで一人で背負おうとするのですか?」
ヒノエの手がゲンジの肩を掴む。その力は凄まじく腕が食い込んでいった。ヒノエは琥珀色に輝く怒りの目を向けながら次々と問い詰めていった。
「先程の話をしているのですよ…?彼を殺めた後に里を出て行く…何故そのような事を思いついたのですか?」
「……」
ゲンジはただ無言を貫いていた。何も話さないその様子にヒノエの堪忍袋の尾がついに断ち切れた。
「____ゲンジッ!!!」
「!?」
部屋を揺るがす程の一喝。その怒声は鋭く響き渡り、ミノトは驚きのあまり身を震わせた。そして、その怒声に揺さぶられたゲンジは手を握り締めながらようやく口を開き話し始めた。
「…里の皆はあんな俺を見たら嫌いになるだろ…。アイツらが来たのは俺が原因だ…。だから決めた。アイツらが二度と姉さん達に…里に手出しできないようにするために殺して…里を出て行こうって…」
人を殺そうとした自身が里へ残った時の皆から向けられる目線を恐れ、ゲンジは全てを自身で背負い込もうとしたのだ。
里から出て行こうとした理由を聞いたヒノエは静かに問う。
「里を出てその後はどうするつもりだったのですか…?」
「近くの村で暮らしながら百竜夜行が起こった時は向かおうと考えていた。人を笑いながら痛ぶる奴を里の皆は家族だと思いたくねぇだろ…」
何度も何度も痛ぶり尽くし、そして脚を切断した上に骨を粉々に砕いてくる。それ程の所業を笑いながら行う人物に対して良い感情は浮かばないだろう。
ヒノエ自身も分からなくはない。だが、ヒノエはその行為ではなく、誰にも相談する事なく里を出て行く選択を取ってしまったことに対して激怒していた。
「そこまで思い立ってしまうほど…居心地が悪かったのですか?」
「違う!!」
ヒノエの問いにゲンジは即座に首を振り否定した。
「大好きだよ…だから許せなかったんだ…!里を…姉さん達を傷つけたあの3人が…!!」
ゲンジにとって里は第二の故郷である。自身を暖かく迎えてくれた里が心の底から大好きであった。居心地が悪いという事は決してない。
「…」
ゲンジの訴えを聞いたヒノエは身を乗り出しゲンジの両手を掴みだす。そしてそのままベッドへと押さえつけた。
「ぐぅ…!?」
その力はいつもよりも強い。傷を負った自身が跳ね除ける事ができるものではなかった。そんな中、ヒノエの顔がゆっくりと近づき悲しみに満ちた目が自身の目を覗き込み問いかけてきた。
「辛くは……なかったのですか?」
「…!!」
琥珀色の瞳と共に向けられたその言葉にゲンジは目を大きく開くと今まで腹の底に溜め込んでいた感情が少しずつ溢れ始めた。
覚悟はあった。だが、再び思い返すと自身にはとても耐え難い苦痛ばかりであった。里を出て行く事は即ち、故郷を捨てると共に自身の心の支えであるヒノエ達とも別れなければならない。そうなれば残されるのは長い長い孤独だけである。
「ぐ…ぐぅ…!!」
待ち受ける孤独感に恐れを抱き始め、目から涙が溢れ出てくる。涙腺から零れ落ちた涙は頬を伝いながらベッドの上へと落ちて行く。
「…」
その様子を見たヒノエはゲンジを押さえつけていた腕を離し、肩に手を掛けるとゆっくりと起き上がらせる。
「貴方は本当はどうしたかったのですか?彼らを殺め里を出ていきたかったのですか?」
「違う…俺は……俺は…!!」
ヒノエが見つめる中 涙を流しながらゲンジは自身の心の奥底に隠していた本心を吐き出した。
「俺は…ずっとここにいたい…出ていきたくない…!!」
溢れ出てくる涙は次第に増していく。その涙が流れ出る顔を覆うようにゲンジは右手で顔を覆った。
「けど…どうする事も出来なかった…ミノト姉さんが汚されて…アイツらを殺したい気持ちがどうしても抑え切れなかったんだよ…ッ!!」
「ゲンジ…」
その言葉を聞いたミノトは涙を流すゲンジを見つめた。
「…そうだったのですね。だからあれ程の酷な選択を…」
大切な人だからこそ、傷つけられた為に暴走を、殺意を抑える事ができなかった。全てを吐き出したゲンジに対してヒノエは頷く。
その時 ヒノエの目がゲンジを鋭く見据えた。それはまるでゲンジの答えを斬り捨てるかのように。
「ですが、貴方のその自己犠牲となる選択は無責任かつ無意味です。何一つ正しい事などありません」