VALKYRIE PROFILE ZERO   作:鶴の翁

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第1話

 それは日の暖かさを感じるものの吹く風に冷ややかさを感じる春先のことであった。

 人間界ミッドガルド、その大陸の北部に位置し、多年草である鈴蘭が群生する渓谷に一人の女性が立っていた。

 彼女の名前はレナス・ヴァルキュリア。日に当たり宝石のような輝きを持つ白金の長髪を後ろで一つに纏め、金の装飾を施した純白のドレスに蒼穹の鎧と羽飾りがついた銀の兜を身につけており、腰には優美な剣を携えている。その姿は人にはないような神秘的は雰囲気を醸し出していた。

 

「……何故だろうか、ここに来ると落ち着くな」

 

 見る者を魅了する程のその整った顔立ちをした女性が呟く。

 それに反応し歓迎するかのようにこの渓谷に風が吹き込み、鈴蘭の花弁を巻き上げながら彼女の頬や髪を撫でるように吹き抜けていった。

 

「ここに来るのも久しぶりね」

 

 彼女はラグナロクの前、英雄達の魂(エインフェリア)達を選定している際に一度ここを訪れ、封印されていた己の記憶を呼び覚ました場所でもあり、生前のプラチナとしての少女が息絶えた場所でもある。

 彼女にとって良き思い出とは言えない場所であるにも関わらず、彼女はこの場所に確かな安らぎを感じていた。

 ラグナロクが終わり、神界アスガルドではアース神族の再建と敵対していたヴァン神族を含む各神族との会合を経て和平への道を歩んでいた。そして方今一息付ける時間を見つけた彼女は単身アスガルドを離れ、この場所へと降りて来ていたのだった。

 何故彼女が共に戦ったエインフェリア達を連れていないかと言うと、共に戦ったからこその信頼から彼らを直属の臣下にしたのだが、そんな彼らの親切心からか、『たまには息抜きに行ってきたらどうか』と提案されたからである。無論、主神としてそう簡単にアスガルドを離れるわけにはいかなかったのだが、その際に想い人である彼からも『主神と云えど偶には休まないと』と言う後押しもあり、そんな彼等の好意を素直に受けたレナスは休暇として一人で人間界ミッドガルドを訪れていた。

 余談だが、後押ししてくれた彼が少々残念そうな顔をしているのを私は見過ごさなかった。恐らく、最初は付いて来るつもりだったのだろうが、他の仲間に丸め込まれたのだろう。

 神界での問題は滞り無く進んではいるものの、レナス自身の問題は片付いていないものが幾つもあった。

 三女であるシルメリアの奪還、それに伴うであろう不死者王ブラムスとの決着。そして姿を晦ましたあの屍霊術師の事などと細かなことも数えると問題は山積みである。

 が、今はそのようなことを考えるのは止めておこう、せっかく一息付ける時間を設けたのだ。

 今暫らくはこれらの問題から思考を外し、彼女はその白い絨毯の様な鈴蘭の草原の中で腰を降ろし目を閉じた。

 先程からこの渓谷を吹き抜けている風を全身で感じ心を落ち着かせる。

 風は柔らかな布のように彼女を包み込んではその都度吹き抜けていった。

 神の身である私ですらこの場所で感じる風は微睡みを感じてしまうほど優しいものだった。

 

「――名は――――――――――――五つ――――――いし――――せよ」

 

 その微睡みの中

 声が……聞こえた……。

 

「っ!」

 

 レナスはその声に反応し微睡みを感じていた体を一気に覚醒させると立ち上がりながら腰に吊り下げている剣を抜刀した。

 

「誰かいるのか!」

 

 声を張り上げ周囲へと呼びかけるが反応はない。張り上げた声が渓谷を吹き抜ける風と共に流れ、虚しく木霊するだけであった。

 

「気のせいか?」

 

 無意識のうちに精神集中を行なってしまったかと少々自身を疑う。

 念の為に目を閉じ精神を集中させ、周囲の気配を探るが人は疎か声を発することの出来る生物の気配など微塵も感じられなかった。

 しかし、生物の気配ではない別の気配をレナスはある場所から感じ取ることが出来た。

 その場所は、あの墓石のある辺りからであった。

 ゆっくりと瞼を上げ視線をその場所へと向ける。

 するとそこには光り輝く楕円状の姿鏡を模したものが宙に浮かんでいた。

 

「これは……」

 

 レナスはその鏡のようなものに近づきこそするものの触れようとはしなかった。

 セラフィックゲートと言う夢の中で体験したような記憶でこれに似たようなものを見ているからである。

 しかし、そこで見たものは完全な球体型で磁場を帯びており、これのように綺麗な形をしてはいなかったと記憶している。

 だが、これもあの球体と同じで、触れるか飛び込むかで接触すれば、違う場所へと転移することが出来るゲートのようなものだろうとレナスは考えたからだ。

 ならば、接触を避けるのが一番なのだろうが、どうもそういう訳にはいかないようだ。

 

「この気配は、不死者か?」

 

 不鮮明ではあるがそのような気配をこのゲートから感じた。

 確実に不死者であるとは断定できないものの、そのような気配を発しているこのゲートを見過ごすわけにはいかなかった。

 すぐにでもエインフェリア達を呼んできて、調査したいところなのだがその時間すら無いことにレナスは気がついた。

 

「消えかかってきている」

 

 先ほどまで鮮明にその姿を現していたゲートが、霞がかかったかのように薄れており、下方部からゆっくりと消えていっていた。

 このままでは彼等を呼びに行っている間にこのゲートは完全に消滅してしまうだろう。もしこのゲートが何者かの密謀であるのならば、早急に阻止しておかねばならない。例えこれが私を陥れるための罠だとしても今の私にはそのような状況でもそれを打破出来る力がある。

 ならば……。

 レナスは覚悟を決め、消え行くそのゲートにその身を通していった。

 彼女がゲートに入りその身を消すと、それに呼応するかのようにゲートもまたその姿を消してしまった。

 後に残ったのは、まるで最初からここには誰もいなかったとでも言うような静けさと、絶えずこの渓谷に吹き込む風を受けてその身を揺らしている鈴蘭達だけであった。

 この日、世界を救い崩壊した世界を再度創り上げた創造神が消息を絶った。

 

 ――ハルケギニア大陸――

 彼女が姿を消す少し前の時間のことであった。 

 大陸北部に位置する小国、トリステイン王国。現在、国の名を冠する魔法学院では、ある催事が執り行われていた。

 学生達による二年進級の為の召喚の儀である。

 もうすでにほぼ全ての生徒が自分の使い魔を召喚し終えているのだが、まだ約一名の少女が召喚を終えていなかった。

 綺麗な桃色のブロンドの髪にシルクのように滑らかな白い肌、他の女の子と比べれば少々小柄かもしれない体躯を持ち合わせた彼女こそがこの召喚の儀の最後の一人であった。

 彼女の名前は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、なんとも噛んでしまいそうなほど長い名を持ち、トリステイン屈指と呼ばれる名門貴族であるヴァリエール公爵家の三女である。

 緊張からなのか、汗ばむ手に持つ杖を強く握ると天を指すように上に上げて、ぽつりぽつりと彼女の口からその呪文を紡ぐ声が聞こえる。

 呪文を唱え終わると上げていた杖を力強く振り下ろす。本来ならここで光る鏡のようなものが現れ、その中から自身の使い魔が姿を現すのだが、彼女の結果は、大きな爆発とそれによって巻き上げられた土埃だけであった。

 もう何度見たか分からないこの結果に彼女は血が出そうなほど下唇を強く噛み締めた。

 周りから野次が聞こえてくるが、彼女の耳には届いていない。それほどまでに彼女の精神は自身への焦燥と疑問の思考で追い込まれていた。

 

『なんで! なんでなのよ!?』

 

 声には出さないものの心の中でそう怒鳴り目を伏せて、溢れ出そうになる涙を必死で堪える。

 そして、次こそは! と構える杖を後ろから来た人物に左手で方を叩かれ、右手で杖を降ろされてしまった。

 振り返るとそこには中年の男性が立っていた。

 長身ではあるものの歳によるものなのか頭部は禿げ上がっており、眼鏡をかけたその顔は申し訳なさそうな表情をしていた。この男性はジャン・コルベールといい、学園の教師であり、今回の召喚の儀の監修を任されている人である。

 

「ミスタ・コルベール! 何を――」

 

 するのですか!? と言う次の句を言う前にその男性が言葉を発した。

 

「ミス・ヴァリエール、気持ちは分かるのですが、もうこれ以上は……」

 

 そう言うと彼は残念そうに目をつぶり頭を横に振った。

 この男性、ミスタ・コルベールの言う通りかもしれない。

 もうすでに次の授業の時間を削っているかもしれないほど時間も立っており、私自身ももうこれ以上はの結果は見込めないかもしれないと考えてきてしまっている。

 だけど、それでもまだ踏ん切りが付かないし、何よりも自分が納得出来ていない! 諦めきれない!

 

「ミスタ・コルベール! もう一度だけ! もう一度だけやらせてください!」

 

 監修であるコルベール先生に頭を下げお願いする。この行為も召喚と同じ数ほどやった。

 

「しかしだね、ミス・ヴァリエール……」

 

「お願いします!!」

 

 このお願いに困り渋い顔をされたが、それでも執拗にもう一度とお願いすると、コルベール先生は苦笑いにも似た笑みを浮かべて言った。

 

「分かりました、そこまで言うのでしたらもう一度だけ許しましょう。ですが、いいですか? 次で絶対に最後ですからね……」

 

 そうコルベール先生が言い残すと生徒たちの居る後方へと下がっていった。

 やっぱりあの先生はとても優しい人だ。授業では少々変なところもあるが生徒達の気持ちを汲み取り理解してくれる。

 もし、あの先生以外の教師が今回の監修をしていたら、私の召喚の儀式はとっくに打ち切られていただろう。

 後方へと下がっていく先生に聞こえないにしろ、ありがとうございますと小さく零すと、先生に背を向け手にした杖をしっかりと握りこみ深呼吸をする。

 

『これが本当に最後なのだ……』

 

 今度こそと、成功を信じ、失敗を恐れずに杖を天に掲げ召喚の呪文を紡ぎ始める。

 

「我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 五つの力を司るペンタゴン。 我が運命に従いし”使い魔”を召喚せよ!」

 

 呪文を唱え終えると同時に杖を振り下ろす。

 

『今度こそ! お願い!』

 

 強い願いと共に振り下ろされた杖の先で起こったものは、先程とは比べ物にならないほどの大きな爆発であった。辺り一面がその爆発によって巻き上げられた土煙で覆い尽くされ、周りが見えなくなってしまった。

 

『あぁ、やっぱり駄目なのかな……』

 

 目の前で起こった爆発を見て諦めからか、立っていることも億劫になったルイズは膝から崩れ落ちるかのようにその場に座り込んだ。そして今まで押し殺してきた感情からか、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 ゴホゴホと周りから咳き込み声に加え、もういい加減聞き飽きた罵詈雑言が彼女に向けられる。

 いっそこのまま涙を流し続けたらどんなに楽だろうかと思ったその時、罵詈雑言に紛れ聞き流せない言葉が耳に入ってきた。

 

「おい、何かいるみたいだぞ!」

 

「まじかよ! まさか成功したのか!?」

 

「あの『ゼロのルイズ』が!?」

 

 その言葉にはっとなり、顔を上げて目を凝らしてよく見てみる。

 まだ土煙ではっきりとは見えないが、確かにその土煙の中にぼんやりと影が見えたのだ。

 

『成功した……!?』

 

 そう思うといてもたってもいられなくなりすぐさま立ち上がると、涙を流していたことを悟られぬよう袖で顔を拭うと影が見える方へ走りだした。

 

『成功したんだ! 私の使い魔がすぐそこに!』

 

 大きな期待を胸に一体何が召喚されたのだろうとワクワクしながら近づくも、土煙が晴れその姿を目にした時、彼女の大きな期待は落胆へと変わった。

 

『人間……? それも平民?』

 

 彼女が目にしたのは平民の町娘が着けるような白や青、茶色を模した服を着た女性がいた。

 この辺りでは見ないような服装なのだが、それよりも目を引くのは輝かんばかりに美しい白金ブロンドの髪であった。

 駆けていた足を遅めゆっくりと彼女に近づく、彼女もルイズを認識したようで、ルイズに視線を向ける。

 髪もそうだけど顔も一般の貴族よりも整っているのではと軽く感じたルイズは、手を伸ばせば触れられるほどまでに近づき、息を整えてから彼女に問いかけた。

 

「あんた誰?」

 

この日、これより未来に虚無の再来と歌われる少女と、別世界の創造神である女性が初めて顔を合わせた瞬間であった。




 前回書いた時のものよりかなりの改変を入れました。
 混乱したら申し訳ありません。 
 神様を数えるとき、人ではなく柱と数えるのが正しいそうですが、ここでは人で数えさせてください。言い難いのです。
 指摘感想を書いてくださった◯◯様、あなたの言う通りに書けばいいものを私はひねくれ者なのでどうしても丸々同じように書きたくないと言う馬鹿みたいな意地で変なふうに仕上がったかも知れません。変えようの無い所は申し訳ありませんがそのまま引用させていただきました。
 本当にすみません。
 またご指摘頂けたら幸いです。

 心が折れない程度にお願いします。(泣
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