藤の花の家紋の家を出た一刀、しのぶ、春蘭、秋蘭の四名は、やっとの思いで蝶屋敷に到着した。蝶屋敷の門にはカナエとアオイ、そして華琳がいた。春蘭は華琳の姿を見つけた瞬間、脱兎のように駆け出し、まるで"迷子になってやっと親に再会した子供"のように華琳にしがみつき泣きじゃくった。
「もぅ…、春蘭ったら…」
華琳は呆れながらも春蘭の頭をゆっくりと撫で続けた。
…
……
………
「少しは落ち着いたかしら?」
「はいぃぃ~」
華琳は未だにしがみついている春蘭を何とか引き剥がし、顔を覗く。春蘭はまだ涙目ではあるが、落ち着きを取り戻していた。
「秋蘭も、久しぶりね」
「…はい、華琳様」
秋蘭も春蘭ほどでは無かったが、声を震わせていた。
「しのぶ、お帰りなさい」
「お疲れ様です、一刀さん」
カナエはしのぶを、アオイは一刀を労った。
「「ただいま、姉さん(カナエさん)、アオイ」」
しのぶと一刀はそれぞれ返事をする。
「さて、それじゃ中に入りましょう。皆首を長くして待っているわよ」
カナエに促され、一刀たちは屋敷へと入った。そして桂花、稟、風。道場で稽古していたカナヲ、凪、沙和、真桜と再会した。その際、桂花が一刀にダイブし唇を奪い一悶着あったが、概ね和やかな再会となった。その数日後、一刀の柱任命の儀が執り行われ、一刀は晴れて柱となった。
…
……
………
一刀はアオイたちから自分が任務に行っていた間のことを自室で茶を飲みながら聞いていた。
何でも、炭華と禰豆子が杏寿郎の実家でもある『炎屋敷』に訪れ、杏寿郎の父である『元炎柱・煉獄槇寿郎』に門前払いを言い渡されるが、炭華の耳飾りを見て『日の呼吸の使い手か!』と言っていきなり殴り掛かった。そして炭華は自分の長所である母親譲りの石頭で頭突きをし、喧嘩沙汰になったとか。
その後杏寿郎と彼の弟でもある『千寿郎』と共に『歴代炎柱の書』を見ると、ズタズタに破かれていた。杏寿郎と千寿郎は炭華と禰豆子に謝ったが、二人は煉獄兄弟を赦したとか。
「そんなことが合ったのか…」ズズッ
一刀は残っていた茶を飲み干しながら呟いた。
「炭華さんは、"杏寿郎"様のお父上に頭突きをしたことをえらく後悔されていました」
アオイは杏寿郎のことを様付けで呼んでいた。アオイは普段はしのぶ以外の柱をそれぞれの柱の名に様を付けて呼んでいるが、柱では無くなった杏寿郎は『これからは名で呼んで欲しい!』と療養中に言われたのでそう呼んでいるのである。
「後で炭華の所に行かなくてはな」
一刀がそう呟くと、アオイは頷いていた。その後一刀は炭華の下を訪れ、『気にすることは無い』と言いながら頭を撫でる。炭華は泣きながら一刀に甘えていた。
…
……
………
それから一週間後、蝶屋敷の近くに一刀の屋敷である『
「そう言えば、凪たちは今後どうするのかしら?」
建設現場を見に行っている一刀に同行している華琳は徐に一刀に聞いた。
「凪、沙和、真桜、春蘭の四人は鬼殺隊に入隊することを決めたよ。特に春蘭が張り切っていたね。『華琳様のために鬼殺隊に入隊し、鬼の頚を献上するのだ!』ってね」
一刀は苦笑いをしながら華琳の質問に答える。
「春蘭らしいわね。あれ?でも、鬼は頚を日輪刀で斬られると、灰になって崩れるんじゃ無かったかしら?」
華琳は素朴な疑問を浮かべた。
「その通り。けど、あの春蘭のことだからきっと忘れているだろうな」
「確かに」
一刀と華琳はお互いの顔を見ながら失笑していた。
そして建設現場から蝶屋敷に戻っていると、何やら門の所が騒がしかった。一刀と華琳はお互いの顔を見て頷き、急いで門まで来ると
「ちょっと、離して下さい!」
「うるせぇな、地味に黙っとけ」
『音柱・宇随天元』がアオイとなほを担いでいる所だった。アオイとなほはカナヲに助けを求めるように手を伸ばす。するとカナヲは"コインを投げず"に二人の手を掴んだ。
「地味に引っ張るんじゃねぇよ。お前は先刻、指令がきてるんだろうがよ」
掴まれたことに気付いた天元がカナヲに離すよう言い放つ。しかしカナヲは離す処か、更に二人の手を引っ張り出した。
「何とか言えよ!!地味な奴だな!!」
「キャーッ!と、突撃ー!」
「とつげきー!」
何も言わないカナヲに天元は怒りだし、カナヲを叱る。その声にびっくりしたすみときよが天元にしがみつく。
「一刀…、私そろそろ限界なんだけど…(怒)」ゴゴゴ
天元の醜態に華琳の怒りが爆発しそうだった。
「天元さ~ん、一体何をしているんですか~?(怒)」ニコニコ
「あれっ!?」
しかし華琳が振り向いた所には一刀は居らず、一刀の声がした方を振り向くと、一刀がなほを奪還しており、天元に声を掛けている所だった。
「んっ?よぅ一刀。どうした?そんな派手な笑顔で」
天元は気さくに声を掛ける。
「いやなに、何か騒がしかったので覗いてみたら、丁度『派手な格好をした人』が"誘拐をしている"現場を目撃しましてね~。それで、一体何をしているんですか?(怒)」
一刀は笑顔のまま殺気を全開し、天元に問い掛ける。
「いや、あの~。これから向かう任務で、女性の隊員が必要なので、継子じゃ無いコイツらなら胡蝶妹の許可を取らなくてもいいかな~、何て…」
天元はしどろもどろになりながら青筋を浮かべている一刀の質問に答える。
「へぇ~そうですか~(怒)でしたら、貴方の目は節穴ですね。まずなほちゃんは隊服を着ていないので隊員ではありません。次にアオイですが、彼女は鬼と戦うことにトラウマを抱えているんですよ?そう言った"事情"を連れて行く"前に"確認とかされないんですか?(怒)」
「アオイはもちろん、なほちゃん、すみちゃん、きよちゃんは蝶屋敷には欠かせない人たちなんですよ?(怒)彼女たちがいなくなれば、蝶屋敷は機能しないんですよ?そんなことも分からないんですか?(怒)」
一刀の怒涛の"言葉攻め"に天元はたじたじになっていた。
「なので、アオイたちは返してもらいます(怒)」
一刀はなほをゆっくりと降ろし、天元からアオイを取り返した。
「一刀さん!」ダキッ
アオイは一刀に思い切り抱き着く。一刀もアオイを抱き締め、頭を撫でる。
「もう大丈夫だから」ナデナデ
頭を撫でられて安心したのか、アオイは一刀の胸の中で泣き出した。一刀はアオイを支えながら蝶屋敷へと入っていった。もちろん、カナヲ、なほ、すみ、きよ、華琳も二人の後を追って中に入っていった。
一人取り残された天元はその場に立ったまま、周辺を木枯らしが吹いていた。
…
……
………
『蝶屋敷誘拐未遂事件』から数日後、一刀たちは縁側でのんびりしていた。あれからアオイは仕事が無い時は一刀に引っ付くようになり、一刀もアオイたちがまた誘拐されないか警戒をしていた。
しのぶたちも最初はアオイに嫉妬をしていたが、なほたち三人娘から事情を聞いてからは嫉妬することも無くなり、当然のように受け入れていた。
「カアァ!北郷一刀、オマエニ手紙ヲ届ケニ来タゾ!」
そこに炭華の
「お前は炭華の鴉の松右衛門じゃねぇか。俺に手紙って、何だ?」
一刀は松右衛門から手紙を受け取り、内容を読む。すると
グシャ
「「「「!?」」」」
突如一刀はその手紙を握り潰した。
「あの…、一刀さん?」
アオイが恐る恐る一刀に質問をしようとする。
「……炭華たちが遊郭に売り飛ばされる(怒)」
「「「「えぇ!?」」」」
一刀の呟きにアオイたちは驚く。
「あんの人拐いめ…。アオイたちを誘拐しようとしていたのはこの為か!?」
手紙には平仮名でこう書かれていた。
…
……
………
『ゆうかく』
『うられる』
『たすけて』
………
……
…
一刀は天元が任務に炭華たちを連れて行ったことをこの手紙に綴られた言葉だけで悟った。
「松右衛門、遊郭までの道のりを教えてくれるか?」
一刀が松右衛門にお願いすると、松右衛門は『マカセロ!』と言って空を飛ぶ。一刀も松右衛門の後を追って屋敷を飛び出した。
…
……
………
此処は吉原遊郭。借金を背負った女性が自らの身体を売り、借金を返すために働いている所。その家屋の屋根の上に鬼殺隊の隊服(アレンジ)を着ている男性がいた。アオイたちを誘拐しようとした張本人、『音柱・宇随天元』である。
「(今日も異常無し。やっぱり尻尾を出さねぇ。この気配の隠し方…地味さ、もしやここに巣食っている鬼は上弦の鬼か?そういや、一刀たちが言ってたな。無限列車に現れたのは"最後の下弦の鬼と上弦の参"って。だとしたら、ド派手な殺り合いになるかもな)」
天元は遊郭の道を見ながら考えていた。そこに
「こ~んに~ちは~」ニコニコ
「!?」ビクッ
突然声を掛けられて思わず条件反射で刀の柄を握る。そして振り向くと、そこにいたのは新しく柱に就任した一刀だった。しかも顔は笑顔なのに、青筋が幾つも浮かんでおり、目が笑っていない状態だった。
「よ、よぅ一刀。どうした?そんなド派手な殺気を出してよぅ…」
天元は刀から手を離し、口元をヒク付かせながら質問をする。
「俺は今、怒っているんですよ?(怒)何故炭華と禰豆子を遊郭に売ったんですか?(怒)」
一刀は天元の質問を無視し、天元に質問をする。
「そ…、そのことか。実はこの遊郭に鬼が潜んでいてな、先に俺の妻たちが潜入して調査をしていたんだが、ここ最近音信不通になっちまってな」
「それで様子見がてら調査しようと女性隊員を探していたら丁度竈門姉妹が来て、途中にある藤の花の家紋の家まで派手に連れて来たのよ。おまけに我妻って奴と嘴平って奴も一緒に来てな、それでそこで事情を説明して潜入してもらったって訳よ」
天元は炭華たちを遊郭に連れて来た理由を述べる。
「そうでしたか。でも、何故藤の花の家紋の家に着く"前に説明をしなかった"んですか?(怒)炭華から手紙が来ましたよ?『ゆうかく』、『うられる』、『たすけて』って(怒)」
一刀は青筋を更に浮かべ、天元の頭を鷲掴みにした。
「な…、なぁ一刀。お前さんは何故俺の頭を掴んでいるんだ?しかもミシミシと派手な音が地味に聞こえてくるんだが…」
「そりゃあ力、込めてますからねぇ。さて天元さん、貴方に二択を差し上げます。一つ目は『今ここで頭を握り潰される』。二つ目は『柱の名前を"幼女趣味の人拐い地味柱"に改名する』。さぁ、どちらをご所望ですか?(怒)」
一刀が上げた二択はどちらも天元にはデメリット"しか"無い物だった。
「どちらもごめん被る!それなら三つ目の『ド派手に謝る』を選択する!」
「三つ目などありません。では、天元さん。逝ってらっしゃい(怒)」ミシミシ
一刀は天元の頭を鷲掴みにしている手に力を込めて頭を握り潰そうとする。
「イデデデデデッ!おい一刀、お前本気で俺の頭をド派手に潰す気か!?」
天元は何とか逃げようともがくが、一刀の力が強すぎるのか、ビクともしなかった。
その後、天元の悲鳴が遊郭中に響き渡り、それを聞いた炭華と禰豆子は密かにハイタッチをしていた。