ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
運命の出会い(前編)
2022年、人類は遂に仮想世界を作り上げた。それを可能にした民生用フルダイブ型VRマシン――ナーヴギアには多くの関心が寄せられていた。
しかし、やがてその期待は悲劇へと変わることになる。
ソードアート・オンライン。通称、SAOと呼ばれる史上初のフルダイブ型VRMMORPGとして注目を集めていたこのゲームは、サービス初日にナーヴギアの開発者――茅場晶彦の手によってデスゲームへと変えられた。よって、一万人ものプレイヤーがゲーム世界の虜囚となってしまう。
ゲーム内でHPがゼロになることでナーヴギアに脳を焼かれ、現実の肉体も死へと繋がるこのゲームは三五〇〇人近くの死者を出し、後にSAO事件として語り継がれることとなる。
2025年5月4日
「うーん、着くのが早かったかな」
大勢の人々が行き来する駅の入り口で、スマホの画面を見ながら立っている少女は呟いた。
セミロングの黒髪で清楚さを感じさせるそのルックスは、道行く人々の視線をちらつかせる。
少女の名は本多小春。かつてデスゲームと化したSAOに捕らわれていたプレイヤーであり、その世界から脱出したSAO
そんな彼女は今日、向こうの世界で出会った恋人と初めて、帰ってきた現実でデートするのだ。
今いる上野駅は待ち合わせ場所であり、遅れないようにと余裕を持って来たはいいが、彼氏が指定した時間より二〇分早い。遅れて相手に迷惑をかけるよりはいいのだが、待っている間は暇である。
SAOがクリアされてから、二年四ヶ月の間に落ちてしまった筋力を日常生活ができるほどのレベルにまで戻すために、帰還者達は二ヶ月近くに渡って過酷なリハビリをしてきたのだ。
小春は何度か音を上げそうになったが、恋人を始めとするSAOで出会った仲間達とLINEで励まし合い、無事に退院することができた。仲間達と連絡先を交換することができたのは、SAO事件対策チームの中心人物を通じてのことだが、コハルはそれに関しては感謝していた。
早く到着したのは、向こうで愛を誓いあった人と離れ離れになっていたのが恋しかったのもあるだろう。現実での再開を待ちきれない小春はスマホを操作する。慣れた手付きでタップ、スワイプを行い、目的のメールを見つけて中身を確認した。
今日、ついに退院だ。コハルも頑張れよ。
だだそれだけのシンプルな文章。さらにその下には、病院の前で左拳を握りしめ、満面の笑顔で自撮りしている彼氏の写真が添付してある。
(この笑顔、初めて見たときと変わらないな)
昔のことを思い出し、小春の顔からは自然と笑みが溢れた。
* * *
2022年10月1日
ソードアート・オンラインという仮想世界に小春が入ったのは八月に入ってすぐのことだった。ただし、プレイしていたのは正規のものではない。
フルダイブマシン初のVRMMORPGという謳い文句に惹かれてちょっとした好奇心で応募し、見事にベータテストの権利を得たのだ。
そして開始日、プレイヤー名を自身と同じ名前である《コハル》にして、SAOの舞台――浮遊城アインクラッドへ降り立った……まではよかった。
SAOは自らの体(正確には仮想世界で活動する
しかし実際にはなかなかうまくはいかなかった。mobと戦っても攻撃は思うように当たらず、HPが危なくなったら逃げる。最悪、逃げ切れなかったり、逃げた先に新たな敵と遭遇して殺られる。そんなことを繰り返しているうちに、他のプレイヤーと差がついてしまったのだ。
それでもなんとか頑張ってきたが、ついにベータテストは最終日を迎えてしまった。
この日コハルは森の中にいた。そこはSAOのスタート地点である『はじまりの街』から少し離れた所にあり、今まで戦っていた場所よりも少し強いモンスターが生息しているのだが、未だにmobを倒せないド素人が行ったとしても太刀打ちできないのは目に見えている。
それでも、ほとんど何もできずに終わりたくなかったコハルは思い切って森の中に入ることにしたのだが、結局現れたmobに対応できずに逃げ回ってしまう。
やがて森の中を彷徨っている内に開けた場所にたどり着き、コハルは「……はあ」とため息をつきながら、真ん中にあった大きな岩にへたり込んでしまう。
そして右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて掲げ、真下に振る。効果音とともに紫色に発光する半透明の矩形――ウインドウを出現させると、タップ、スワイプして操作。やがて1つの項目を指でタッチすると、右手に液体の入ったガラス瓶――回復ポーションが出現。蓋を開けて一気に飲み干した。
過去に何度か飲んだが、やっぱりマズイ。それが今の気分を表しているみたいで、さらにコハルを憂鬱にさせた。
自身を追い詰めれば少しはまともになるかと思っていたが、対して変わらない。勇気を出したと思ったら、ただ意地を張っただけ。コハルは自分が情けなかった。
(せめて戦い方のコツが分かればいいんだけど)
が、そんなことを思っていても仕方がない。だが行動を起こさなければ何も変わらない。どうしようか迷っていると……
「大丈夫か?」
「ひゃぁぁぁぁぁ!」
いきなり声をかけられ、顔を上げた。少し距離はあったが、目の前に人が立っていたので、つい悲鳴を上げてしまった。
頭の上に緑色のカーソルが浮いているので、プレイヤーで間違いない。相手の外見はエッジの効いた茶髪で、凛とした表情に端正な顔立ちである。性別は体格と低い声からして男性だろう。
「ああ、悪い。脅かすつもりはなかった。見かけた以上は無視するのもどうかと思ったし、元気そうに見えなかったから」
男性プレイヤーは申し訳無さそうに言った。どうやらこっちの気分が沈んでいるのを心配していたようだ。
「あ、いえ、こっちが勝手に驚いただけだし、大丈夫ですから」
コハルは優しく返すと、相手は「そうか」といって距離を取り、同じ岩に背中を預けて座り込むとメニューウインドウを出現させて操作し始める。
数秒間、コハルは彼を横目に見ながら思った。
(この人に戦い方、教えてもらおうかな?)
もっと早く誰かに教わっていればよかったが、自分が教わったとおりにできず、相手に嫌な顔をされるのが怖かったのだ。
でもこのままじゃダメだと自分を奮い立たせ、勇気を出して声をかけた。
「あ、あの……」
「うん?」
反応した。重要なのはこの先だ。
「迷惑でなければ、戦い方を教えていただけませんか?」
「……え?」
相手はキョトンとしたが、コハルは続ける。
「こ、こんなこと言うのは恥ずかしいんですが、実は私ゲームが下手なんです。それもものすごく駄目なんです」
そこから先はベータテスト初日から今に至るまでのことを大まかに話した。最後まで話を聞き終えた男は「おいおい」と少々呆れ気味だったが、後に微笑んで付け加えた。
「でも、お前はお前なりに頑張ったんだな」
「未だにmobは倒せていませんけどね」
男に嫌味は感じられなかったコハルだが、自虐的な発言をした。
「今日で最後だけど、このまま終わりたくないの。ダメですか?」
僅か数秒の沈黙の後、男の答えは、
「分かった。俺でよければ」
笑顔でのOKだった。
「ありがとう。よろしくおねがいします」
「ところで、自己紹介がまだだったな」
「あ、そうでしたね」
緊張してすっかり忘れてしまっていた。たとえ今日一日だけの出会いであっても、ちゃんと教えてもらう以上は相手の名前はちゃんと知っておかなければならない。
「俺はリク。よろしくな」
男性プレイヤーはそう名乗ると、右手を差し出す。
「コハルです」
こちらも名乗って相手の手を取り、握手を交わす。そして共に行動するためということでリクはパーティー申請を行い、コハルはそれを承諾したのだった。
初めまして。今回、初めて二次創作の小説を書きました。
まだ稚拙な部分はあるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
IFでは、コハルはダンジョンみたいな所にいましたが、この作品では素人でも何とか行けるような場所に変えました。
このように、あとがきではIFとの変更点についても書いていきたいと思います。
どうか、宜しくお願いします。