ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
リクの視界は一瞬ホワイトアウトしたが、数秒経って元に戻った。
だが、周りの風景に何か違和感を感じた。コハルは近くにいるのだが、クラインとキリトがいなくなっている。二人がいた場所に立っていたのは、彼らと同じ格好をした人物だった。赤いバンダナを巻いた男は野武士面であり、もう片方はリクより背が低くて中性的な顔立ちである。
「あ、あなたたち、誰ですか?」
コハルに困惑した表情で尋ねられ、リクと見知らぬ姿の二人は唖然とした。他の二人はともかく、なぜ自分にまでそんな事を言うのか、すぐに理解できなかった。
「おいおい、冗談きついぜ、コハル。クラインに決まってんだろ」
「「「えっ⁉」」」
野武士面の男が仲良くなったばかりの友達を名乗り、三人は驚いた。
(まさかっ!)
リクは再び手鏡を覗き込んだが、映っていた顔がさっきと違う。髪型はエッジがなくなり、顔も端正さと凛とした感じが失われている。
紛れもなく、現実の自分の顔だった。
「そんなあっ! 一時間も掛けて作った私のボン・キュッ・ボンなスタイルがあああっ!」
「ああ、俺の長身イケメンの姿が、リアルのむさ苦しい姿に……」
「あんた、男だったの?」
「十七ってウソかよっ」
リク達は周りを見渡すが、聞こえてくる内容からして、みんな現実と同じ姿にされたことが推測できる。中には性別、年齢を偽っていた者もいたようだ。
「そ、それじゃあ……」
「ああ、俺はリクだ」
「キリトだ」
「さっきも言ったけど、俺ぁクラインだ」
格好からして予測はできるが、リク、中性的な少年、野武士面の男は、それぞれ確認のために名乗った。
「ところで、何でコハルは殆ど変わってないんだ?」
「何でって、これが私の顔だから」
リクは思っていたことを口にすると、本人は当たり前のように答えた。
「私、普段ゲームやらないから、ナーヴギアはVRショップモールのために買ったの」
「ど、どういうこった?」
クラインが尋ねる。
「自分の顔じゃなきゃ、似合う服を選べないでしょ? もともとは、VR試着用のアバターなんです。ベータ時のゲームを始めようとしたら、コンバートしますかって聞かれて、よくわからないままOKしたらこの姿で……」
「だけど、そんなに簡単に自分を再現できるのか?」
リクの疑問はもっともだ。体を立体スキャン装置にでもかけない限り、それは不可能に近い。
「えっと、高密度の信号素子? っていうのでギアの内側をスキャンして、自分そっくりのアバターが作れるんです」
コハルの言う通り、頭部はそれで再現できたとしても、体格はどうだろうか? 先ほど見渡したところ、プレイヤーの身長にはバラつきがあった。
「あ、ああ、そういうことか……」
だがキリトはスキャンという単語を聞いて、既に理解していた。
「身長も体格も、初回セットアップの時に計測されてる」
「そうか、キャリブレーションか!」
「そりゃ、自分の体をあちこち自分で触らされたアレか?」
リクとクラインの確認にキリトは「ああ」と肯定した。
キャリブレーションとは本来、較正、校正、調整などの意味を持つ英単語だが、ナーヴギアのセットアップでは、《手をどれだけ動かしたら自分の体に触れるか》の基準値を測る作業である。ナビゲーションの指示どおりに体に触れたことで、自身の現実の体格はナーヴギア内にデータ化されていたのだ。
「だからこれは、数値化されていても本物の体であり命なんだと強制的に認識させるために、俺達の現実の体を再現したんだ」
それがキリトの推測だった。しかし、そうであったとしても、なぜテロリスト紛いの行いをするのか? そんなことをしてもメリットなど全く無いはず。
その理由は、事件を起こした本人の口から語られた。
「この世界を作り出し、鑑賞するためにのみ、私はナーヴギアを作り出し、SAOを作った。そして今、全ては達成せしめられた」
つまり、自分の自己満足のためだと言うことだ。
「以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の……健闘を祈る」
言い終えると、真紅のローブ姿のアバターは上昇し、空のメッセージに溶け込むように消え、それらもまたすぐに消滅した。
プレイヤーたちが呆然とする中、市街地のBGMが空気を読むことなく流れ始める。やがて……
「ふざけんな‼」
「出せよ‼ 出してくれよ‼」
「この後約束があるんだ‼ 出してくれよ!」
「嘘だ……嘘だと言えよ‼」
「いや……いやぁああああああああっ!」
「お母ちゃ――――ん‼」
「なんですとぉ――――‼」
「ウソダドンドコドーン‼」
「おのれ、茅場ぁ――――‼」
悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。咆哮。様々な負の感情が広場を飛び交った。今の状況を言い表すなら混沌だ。
「クライン、リク、コハル、ちょっと来い」
そんな中、三人はキリトに呼びかけられた。クラインはキリトに腕を掴まれ、そのまま共に人垣を縫いながら広場の外へと早足で向かい、リクも泣きそうなコハルの手を引っ張って後を追う。彼らのいた場所は集団の外側付近であったため、すぐに人の輪を抜けることができた。
その後、街の街路の一本へと入り、キリトは他のプレイヤーがいないことを確認して立ち止まって振り返る。そして、真剣な面持ちで言った。
「いいか、よく聞け。俺はすぐにこの街を出て、次の街に向かう。お前たちも一緒に来い」
「「「――――っ!」」」
三人は突然の発言に目を見開いた。先程、茅場がデスゲームの開始を宣言したばかりだというのに、今の事態を受け入れているのだ。
キリトは茅場の言葉が全部本当だと仮定した上で、これからSAOで生き延びていくためには、ひたすら自分を強化しなければならないと説明した。
MMORPGは結局のところ、プレイヤー間のリソースの奪い合いであり、システムが供給する限られた金とアイテムと経験値をより多く獲得したプレイヤーだけが強くなれるとのこと。いずれ《はじまりの街》のフィールドは、同じことを考える連中に狩りつくされてすぐに枯渇し、モンスターのリポップをひたすら探し回ることになってしまうそうだ。
「だから、今のうちに次の村を拠点にしたほうがいい。俺は、道も危険なポイントも全部知ってるから、レベル1の今でも安全に辿り着ける」
その提案は、SAO以前からMMORPGをプレイしているベテラン故の経験とベータテスト時代の知識から来ているのだろう。合理的に考えれば、キリトに付いていったほうが他のプレイヤーより有利である。しかし……
「ごめんなさい、キリトさん。私、まだ今の状況を受け入れきれなくて……」
コハルは力なく、申し訳無さそうに言った。そんな彼女を横目で見ていたリクの返事は、
「悪いキリト。俺もまだ、覚悟を決められない」
同じく断った。
だが本心では、半分はウソである。リクは百層突破を目指すにせよ、いずれ外部から助けがくるにせよ、今できることを精一杯やるつもりだ。
だがキリトの提案を受け入れなかったのは、コハルを放って置けなかったからだ。彼女に自分のせいでやりたいことができない、お荷物だと思わせたくなかったのだ。
「おりゃ、他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでソフト買ったんだ。そいつらも、もうログインしてさっきの広場にいるはずだ。置いて……いけねえ」
クラインは、できれば仲間と一緒に行きたいという意思表示を示した。
三人の返事を聞いたキリトは、気付かれないように唇を噛みしめる。
リソースについてわざわざ話したのも、次の村へ一緒に行こうと提案したのも、三人とは友達になったからというシンプルな理由だ。それに、才能のあるリクはもう青イノシシに余裕で勝てるし、彼と強力すればコハルとクラインは守り切れると思っていた。
だが、リクとコハルは街に残る。この場合クラインだけならなんとかなるが、彼は他に仲間を連れていくことを望んでいる。キリトはその気持ちに答えたい気持ちはあるものの、ためらってしまう。
素人が一人増えただけでも、背負う命を守る責任は重くなる。そんな逡巡を悟ったのか、野武士面の男は言った。
「いや……、おめぇにこれ以上世話んなるわけにゃいかねえよな。オレだって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。大丈夫、今まで教わったテクで何とかしてみせら」
「……そっか。なら、ここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。……じゃあ、リク、コハル、クライン、またな」
キリトは掠れた声で出来たばかりの友達に別れを告げると、振り向いて背を向け、そのまま走り去ろうとした。
「キリト!」
そんな彼を、リクは呼び止めた。
外には死の危険が付きまとう。もしかすると、もう二度と会えなくなるかもしれない。だから、正直で大切な思いを大声で伝えた。
「死ぬなよ! また生きて会おう‼」
キリトは足を止める。数秒の間を置いた後、精一杯の笑顔で振り向いて叫び返した。
「ああ、また会おう‼」
そして、リクとコハルにとってのヒーローは再び前を向き、走っていく。リクはその背中がどこか寂しそうに感じた。
やがて姿が見えなくなると、コハルはポツリと言った。
「行っちゃったね」
「……ああ」
このまま行かせて良かったのか? キリトはせっかくできた友達を置いてでも、最善の道を選んだが、説得して思いとどまらせることもできたのではないのか? 力を合わせて、乗り越えるという選択肢もあったかもしれない。今更思ったところで仕方のないことだが。
「オレもそろそろ、ダチの所に行くぜ。広場で待ってるだろうからな」
クラインともここでお別れだ。こんな状況でも友達のことを心配している。本当に気のいい人間である。
「そう……ですよね……」
「ンな心細そうな顔すんなって、コハル。なんかあったらオレを呼べよ。すぐ駆けつけてやるからよ。いつでも頼りにしていいぜ!」
「ああ、いろいろとありがとな」
「んじゃあ、またな!」
リクがお礼を言うと、クラインは笑顔で別れを告げ、広場へと戻っていった。
あそこはまだ混乱が収まっていない。中にはヤケになって八つ当たりしてくる者もいるだろう。クラインが無事に仲間たちと再開できることを祈るばかりだ。
「――っ!」
コハルはガクリと膝を床についた。突然の事態にリクはすぐに片膝を床につけ、彼女と同じ目線になるよう顔を覗き込む。
「大丈夫か――っ!」
リクが見たのは、涙が頬をつたっている少女の顔だった。
「私たち、帰れないんだ……閉じ込められちゃったんだ……」
「…………」
コハルの悲痛な声に、リクはなんて返せばいいのか分からなかった。
唯一分かっているのは、コハルは普通の女の子だということだ。そんな子がSAOという名の牢獄に囚われ、当たり前のように共に生きてきた家族・友人から引き離された挙げ句、生きて帰れるかどうかも分からないデスゲームに巻き込まれてしまった。
そんな彼女のために何ができるのか? 考えるよりも先に――
「……え?」
リクはコハルの頭を胸に抱えるように、抱きしめていた。
「辛いよな、コハル。なのに、今まで泣かないで、耐えてきたんだな。よく頑張った。でも今は誰もいない。だから好きなだけ泣いていい。弱さを見せたっていいんだ」
優しい言葉も、自然と出てきた。
コハルは彼の胸に温もりを感じた。それに甘えるかのように、胸の奥から我慢していた気持ちがどっ、と押し寄せてきた。
「うっ……うっ……うあぁぁぁぁぁ‼」
子供が母に縋るかのように、コハルはリクの胸の中で泣きじゃくった。それは日が沈むまで続いたのだった。
補足すると、リクのリアルの姿は、IFのタイトル画面やプロローグコミックと同じ姿です。文章で書いてあるように端正さと凛とした感じが失われても、リクはイケメンの部類だと思います。僕としては、こちらのほうが親しみやすい感じだと思います。
タグをオリ主にするか否かで迷いましたが、性格がIFやコミックと違うので、オリ主にしました。