ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
2022年11月7日 はじまりの街
「確か、掲示板の前だったよな」
翌日、リクとコハルはコルを稼ぐべく、アルゴから渡されたメモに書かれた通りにクエストの受注場所に向かっていた。
昨晩はメモに書かれていた格安の宿で食事を取り(腹が減るという生理現象には抗えなかった)、二人部屋を借りて過ごした。
就寝前にはお互いにステータスを確認したが、問題はコハルのスキルであった。彼女は片手直剣と短剣で既にスロット2つを埋めていた。今のところ、武器スキルについては使い慣れている武器一つに絞り込んだほうがいいとリクは考えたのだ。
攻撃を当てる上で大切なのは、武器の特徴を理解して力加減をコントロールすること。武器を使い分けるということは、攻撃による力加減を変えるというこということでもある。今のコハルにそれができるとは思えなかったのだ。
仮にできたとしても、二種類の武器を強いものに更新していかなければならないため、金銭面で問題が出てしまう。それならどちらかを消去して、生き延びるために戦闘補助か探索補助のスキルを入れたほうがいいと話し、コハルも納得した。
どちらの武器を使うのかに関しては、短剣に決まった。使い慣れればそっちの方が自分に合っている気がしたらしく、さらに言えば、互いに別の武器を使ったほうが様々な敵に対応できるとのことだ。
それを聞いたリクは少し関心した。夕方には自分の胸の中で泣きじゃくっていた少女が、今後のことを考えた上で選択したのだ。彼女は思った以上に芯の強い女の子なのかもしれない。
やがて二人は街の南端へと到着した。デスゲーム開始宣言から半日以上は経過しているため、流石に昨日のような混沌とした空気は落ち着いている。
その代わりに、普通ではない違和感を感じていた。
「ねえ、リク。あそこ、人が均一して立ってない?」
「ああ、そうだな」
コハルが指をさしたのは、アインクラッドそのものの最外周を構成する展望テラスの高い柵であった。彼女の言う通り、その前には人が一定の間隔を開けて存在している。
リクは自身の記憶を遡ってみたが、ベータテスト時もアインクラッドに降り立った直後もこのような光景はなかった。だとすれば、彼らはプレイヤーということになる。
ならば、一体何をしているのか? 彼らの表情を見る限り、リクは何か強いプレッシャーみたいなものを感じていた。
「あの、すみません」
コハルはたまたま近くを通りかかったプレイヤーに声を掛けた。
「はい、何でしょう?」
声に反応して振り向いたのは、ツンツン頭の金髪ロングを三編みにしている、青い服を着た少年だった。
「あそこにいる人たちは、何をしているんですか?」
展望テラスを指差しながらコハルは訪ねた。
「あの人達は、見張りをしているんです」
「見張りって、どういうことだ?」
意味を理解できなかったリクは更に尋ねる。二人が何も知らないことを察した少年は真剣な面持ちで答えた。
「……実は、あのテラスから飛び降りて、自殺を図ったプレイヤー達がいたんです」
「「――――‼」」
あまりの衝撃的な発言に、二人は驚愕した。
少年の話によると、それはデスゲーム開始から三時間後に起こった。ある一人の男性プレイヤーがこんな持論を展開したそうだ。
ナーヴギアの構造上、ゲームシステムから切り離された者は自動的に意識を回復するはずだ、と。
男は柵を超えようとした際、一部のプレイヤー達にバカな真似はよせ、死んだらどうするんだと説得されたが聞く耳を持たず、その身を空という名の奈落へと投げ出した。男は絶叫を上げながら、吸い込まれるかのように姿を小さくしていき、やがて消えた。
HPが0にならなければシステムの穴を突けると思ったのかもしれない。だが、それはあまりにも強引な推測である。そんな簡単な方法で脱出できるのなら、すぐに全員が外部から回線切断・救出されてもいいはずなのだ。第一、天才である茅場晶彦がそれを許すはずがない。
だが、男の悲惨な最後を見たにも関わらず、同じように飛び降りようとしたプレイヤーが散発的に現れ初めたのだ。一部の善良なプレイヤーは必死で説得、阻止したが、それでも全ての人を止めることはできなかった。追い詰められた人ほど都合のいい方向に考えてしまうものだが、そうなってしまったもう一つの原因は、HPが0になる=死という実感を持てなかったことだろう。
なぜなら、実際のRPGではHPが無くなってもゲームオーバーであり、本当に死ぬわけではないのだから。
その後は一旦は落ち着いたものの、また飛び降りる人達が現れる可能性はゼロではない。善良なプレイヤー達は話し合った結果、交代で見張りをすることにしたということだ。
「そう、だったのか……」
「知らなかった。私たち、すぐに広場を出たから……」
リクとコハルは愕然とした。自分達のことで必死になっている間にそんなことが起きていたとは思わなかったのだ。特にコハルは、自分がもっとしっかりしていれば、自殺したプレイヤーを一人でも多く助けられたのではないかと、やりきれない気持ちになってしまう。そんなコハルの思いを察したのか、少年は言った。
「僕もあの場にはいなかったので、今日の朝の食事中に他のプレイヤーの話を偶然聞いたときは、あまりの衝撃に言葉が出ませんでした。でも起きてしまった事実は変わりませんし、失った命も戻っては来ません。生きている僕達にできるのは、自分と誰かのために何をすべきか考えることだと思います」
「……そう、ですね」
コハルは弱々しい声で納得した。
果たして何ができるのか? 自分のことで精一杯で、リクに甘えていた自分が誰かのためにできることなんてあるのか? そんな不安は消えなかった。
「話してくれてありがとな。それで、お前はこれからどうするんだ?」
リクはお礼を言うとともに、少年の先の行動を訪ねた。
「僕ですか? とりあえず狩りに行くつもりですけど」
「一人でですか? できるなら、誰かと一緒に行ったほうがいいんじゃ」
コハルの心配は最もであった。命が掛かっている以上、一人でも信頼できるプレイヤーと共に行動したほうがいい。キリトは一人で旅立ってしまったが。
「僕はベータテスターですから戦闘経験はありますし、街の周りにいるイノシシなら簡単に倒せますよ」
少年は微笑みながら言ったが、万が一ということもある。だからリクは更に訪ねる。
「ベータテスト時代に知り合った人はいないのか?」
「いるにはいますけど、みんな現実の姿に変わっている上に、《はじまりの街》の広さもあって探すのは難しいかと」
「そうか……なら、俺達と一緒にクエストをやらないか?」
「……え?」
リクの急な提案に、少年は固まった。
「お前の実力を疑ってるわけじゃないけど、安全を考えるなら人数は多いほうがいい。報酬はコルだけだから、山分けできるしな」
「いいんですか?」
入手するはずだったコルの三分の一が減ってしまうことになるが、安全を考えれば腹に背は変えられない。少年もそれを分かっていたから訪ねた。
「私はいいよ。こういう時に助け合うのはいいことだと思うから」
「それに、俺達もベータテスターだからな。こうして会えたのも何かの縁だと思うんだ。どうする?」
コハルの了承も得た上で、リクは再び少年に尋ねる。
「分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」
返事はOKであった。
「よし、それじゃあ自己紹介だ。俺はリク、よろしくな」
「私はコハル、よろしくね」
「僕はガンヴォルトです」
「がん……」
「ゔぉると……?」
少年のアバター名を聞き、今度はリクとコハルが固まった。
ガンは拳銃、ヴォルトは電圧のボルトを二人はイメージした。アバター名をどうするかは人の勝手だが、後者はともかく前者は重火器が存在しないSAOにはどうも不釣り合いである。
「まあ、銃のない世界だと違和感ありますよね。ベータテスト時代はGVと呼ばれてましたので、そちらで呼んで頂いても構いません」
どうやら本人も自覚していたようだ。彼にもきっとこだわりというものがあるのだろうと、二人は思うことにした。
「それなら、GVって呼ばせてもらうか。それと、俺達に敬語は使わなくていい。堅苦しいのは無しにしようぜ」
「分かった。リク、コハル、よろしく」
こうしてGVはリクとコハル、それぞれと握手を交わし、パーティー申請を受け入れたのだった。