ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー   作:No 77777

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最初のクエスト

 GVをパーティーに加えたリクとコハルは、クエストを受注するために掲示板の前までやってきた。三人はそこにいるフードを被った男性のNPCに近づく。

 

「ああ、どうしようか」

 

 男が弱々しげに呟く声が聞こえた。それから数秒経つと、金色のクエスチョンマークがそのNPCの頭上に出現。クエストが発生した証だ。

 クエスト発生のヒントの一つは、いかにも困ったようなセリフなのだが、最初の街で発生するだけあって簡単にわかる。早速、リクは声を掛けた。

 

「何かお困りですか?」

 

 このセリフはNPCクエスト受諾フレーズの一つである。反応したNPCの男性は三人に顔を向けた。その頭上には《?》マークがピコピコと点滅している。他にもパターンは幾つか存在するのだが、だいたいはこれでいいことをベータテスターであるリクとGVは知っていた。コハルはmobを倒すのに必死だったため、知らなかったが。

 

「旅の人ですか? 実はですね……」

 

 話によると、男性は装飾品店を営んでおり、自らが生産したものを販売しているとのこと。原材料は商人から購入したり、他の人を雇ってモンスターを狩ってもらうようだが、今回は贔屓にしていた戦士が怪我で来れなくなってしまい、必要な猪の牙が手に入らなくなってしまったらしい。このままでは商品が作れず、どうしようか悩んでいたということだ。

 内容を聞いた三人は、リクが代表して返事をした。

 

「分かりました。任せてください」

 

「ありがとうございます!」

 

 引き受けると、NPCの男性は感謝した。

 別に最初の一言だけでよいのだが、これは気分の問題である。ベータテスト時代には、試しに変顔をしたり妙なポーズを取ったりと、ふざけた対応をしたプレイヤーがいたらしい。しかし所詮はプログラム。怒ったり困惑したりもせず、決められた言葉を返すだけだ。

 そんなことはともかく、これでクエストの受注は完了した。三人はメニューを開いてクエストのログを確認すると、細かい内容とクリア条件を確かめた。条件は《猪突の牙》というアイテムを三つ、依頼主に渡すことである。話の内容から予測すると、恐らく《フレンジー・ボア》がドロップするアイテムだろう。

 

「いよいよフィールドに出るんだね」

 

 コハルの表情は真剣だが、手が少し震えているのをリクは見逃さなかった。無理もない、楽しむはずだったゲームは今や命を懸けた戦いとなったのだ。不安に決まっている。彼女は死という恐怖を、元からある芯の強さで押し付けているのだ。

 

「練習の時だって、ちゃんと戦えたんだ。きっと大丈夫だ。それに、いざという時は俺がコハルを守るから」

 

「それに、僕もいるからね。死なせはしないよ」

 

「……うん。二人とも、ありがとう」

 

 リクとGVの温かい言葉を掛けられ、コハルは少し安心した。

 

「よし、行くか‼」

 

 こうしてデスゲームと化したアインクラッドで、リクとコハル、そしてGVの最初のクエストが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、あまり狩れてないな」

 

「うん、サービス開始時刻はけっこういたのに……」

 

「思ったよりガラガラだったね」

 

 リク、コハル、GVは草原に腰掛け、憂鬱そうな声で話していた。

 現在、《フレンジー・ボア》を思ったよりも倒せず、クエストをクリアするためのドロップ品はまだ手に入っていない。

 原因は他のプレイヤーがmobを狩りまくっているからだろう。昨日と比べると、目当ての青イノシシは明らかに少なかった。すぐさま街を出ていったキリトの言葉が現実のものとなりつつあるのだ。

 リクはそのプレイヤーの大半が自分達と同じベータテスターだと予想していた。彼らは戦闘、知識が他の九千人よりも優位に立っている。特にキリトのような攻略の最前線に立っていたプレイヤーは尚更である。

 リク達もそれは予想していたが、みんな昨日のデスゲーム化宣言でショックを受けているため、動き出すのはまだ時間が掛かるだろうと思っていたのだ。しかし既に現状を受け入れ、行動を起こしているプレイヤー達が少なくなかったことを、mobの少ないフィールドを見て思い知らされた。

 生き残るためのサバイバルは既に始まっているのだ、と。

 

「……なんか、腹減ったな」

 

「……そうだね」

 

 リクの気の抜けた発言に、コハルは同意した。

 

「じゃあ、一旦街に戻って食事にしよう。その時に、現状をどうするのかも話し合おう」

 

「そうするか。腹が減っては戦はできぬ、って言うからな」

 

「それに、もうすぐ正午だしね」

 

 GVの提案をリクとコハルは受け入れ、帰還することにした。リポップしたmobとの遭遇も期待半分、不安半分といった感じだったが、結局現れることなく街に到着した。

 その後、どこで食べようかという話になり、GVは「せっかくだし、紹介したい人がいるから、僕が泊まった宿で食べよう」と言ったので二人は同意。向かう途中、リクは「その人はGVの恋人だったりするのか?」と誂ったが、コハルから「もう、茶化さないの!」と窘められたりと、愉快な会話であった。ちなみにGVの答えは、「いや、ここで初めて会った人だけど」だった。

 更に詳しく話を聞くと、茅場のチュートリアルが終わった後にすぐその女の子が目に入ったようで、辛く泣きそうな顔で広場から逃げるように走り去っていくその姿が気になり、追いかけたらしい。最悪の場合、街を出てフィールドに飛び出してしまうかもしれないと思ったらしく、探し回って何とか見つけることができた。その時には街路の壁にもたれて座り、泣いていたそうだ。その後は共に近くの安い宿屋で一泊したとのこと。

 

「はははっ、お前もキリト並のお人好しだな」

 

「キリト?」

 

 またしても誂うリクの言葉に、GVは初めて聞く名前に反応した。

 

「キリトさんは、私たちの恩人なんです」

 

 コハルはキリトについて話し始めた。ベータテスト最終日に強ザコから助けてくれたこと、昨日のデスゲーム開始前に再開したことや一緒にいたクラインと共に友達になったこと、そしてそれぞれの目的をもって別れたことを。

 

「そうか、その二人はやるべきことを見つけているんだね」

 

「……まあな」

 

「…………」

 

 リクの返事はどこかぎこちなく、コハルは少し罪悪感を感じていた。

 キリトは攻略のために早くもアクションを起こした。朝クラインから送られてきたメールによると、仲間達と無事に合流し、とりあえずみんなで特訓を始めているそうだ。

 だが、自分達はどうだろうとリクとコハルは思った。

 リクはコハル一人のためだけに街に残ることを選んだ。コハルは自分がリクを縛り付けている気がした。

 二人は同じことを考えている。自分はこのままでいいのか? 誰かのために、他にできることがあるのではないか、と。

 

「あそこが、昨日泊まった宿屋だ」

 

 GVが目的地を指差しながら言うと、リクとコハルは我に返った。

 二人は宿屋の看板を見ると、あまりのボロさに表情が固まってしまう。GVには悪いが、昨日泊まった場所と対して変わらない気がした。宿泊料が安いと聞いているので贅沢を言うつもりは無い。しかし、せめて料理は昨日と違うものであってほしいと願ってしまう。

 

「まあ、料理の味は悪くないから。それじゃ、中に入ろう」

 

 二人の表情を見て内心を悟ったのか、GVは弁明しながら促してドアを開けた。入って見渡すと、やはりボロかった。フローリングの床に壁、天井の至る所が煤けている。特に壁には少しヒビが入っている。これがリアルなら、建物の耐久性に不安を感じるところだ。

 

(まあ、値段と質は比例するってことか)

 

(安いのがウリだから、仕方ないよね)

 

 リクとコハルは内心、そう割り切ることにした。昨日の宿屋と同じくらいのボロさなので、安ければこうなのだろう。コルを節約するなら、これからも覚悟しなければならない。

 ちょうどその時、受付の右側にある階段から人が降りてきた。体つきが華奢な女の子である。向こうもこちらに気づくと、パッと表情が明るくなる。

 

「GV、おかえり」

 

 少女は早足で階段を降りて、金髪の少年の前までやって来る。GVも「ただいま、シアン」と笑顔で返した。

 これがリクとコハルの、シアンとの出会いであった。

 

 

 

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