ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
「GV、その子がお前の紹介したかった人か?」
「ああ、そうだよ」
リクが金髪の少年に尋ねると、正解であった。そして少女もリクとコハルに気づいた。
「この人たちは?」
「ああ、僕と一緒に狩りを手伝ってくれた友達だよ。二人とも、この子が話していたシアンだ」
「俺はリクだ」
「私はコハル。よろしくね」
「シ、シアンです。よろしくおねがいします」
二人は元気よく自己紹介したのに対し、他者との会話に慣れていないのか、どこかぎこちない。だがGVとは普通に話せていた。だとしたら、彼はよほどコミュ力が高いのだろうか?
「シアン、せっかくだから、これからみんなで食事をしようと思うんだ。いいかな?」
「う、うん」
シアンはやや固くなりながらも頷いた。
こうして四人は食堂へと移動。中は昼食を取る時間帯にも関わらず、ガラガラであった。プレイヤーが指で数えられるほどの人数である。GVを疑っているわけではないが、食事がマズイのかと不安になってしまう。
とりあえず適当な席を選び、長方形の木製テーブルにリクがGV、コハルがシアンと向き合う形で座った。テーブルの真ん中に立て掛けられたメニューをGVが開いて、何にしようかと迷った挙げ句に全員オムライスを頼んだ。一口食べてみると、味は至って普通。GVの言う通り、不味くはない。少なくとも、ボロいから不味いというのはただの偏見のようだ。
食べ物の味が悪いとプレイヤーのモチベーションが下がるというスタッフの配慮かもしれないが、それならポーションの味も何とかならなかったのか。良薬口に苦し、ということわざがあるが、仮想世界にまでそんな理屈を持ち込まないでほしい。
「それで、狩りはどうだったの?」
食事を進める中、シアンに尋ねられたGVはやや重々しくも素直に答えた。
「そうだね……正直いいとは言えないかな」
「うん、他の人たちにモンスターをほとんど狩られちゃったから」
「動いているプレイヤーはまだ少ないと思うけど、それでこの状況だからな。クエストが今日中に終わるのかどうかも怪しい」
コハルとリクが食べながら状況を説明すると、シアンがキョトンとした感じで尋ねる。
「ねえ、クエストって何?」
「あ、そうか。シアンはSAOが初めてのMMORPGだったね」
昨日の夜、GVはどういった経緯でシアンがSAOを始めたのかを聞いていた。今の会話に専門用語が入っていたがために、彼女にとってはよく分からないだろう。
「クエストっていうのは、NPC――ゲームの中のキャラクターがプレイヤーである自分達に頼む依頼のことだよ。目的を達成して依頼主に報告すれば、クリアと見なされて報酬が貰えるんだ」
「俺達が今やってるのは《フレンジー・ボア》がドロップする《猪突の牙》を三つ集めて持ってくる簡単なクエストだけど」
「え、どろっぷ?」
今度はリクの説明に聞き慣れない単語が出てきてしまったので、コハルが補足する。
「ドロップっていうのは、モンスターを倒してアイテムを入手することを言うの。でも基本は一定確率だから、まだ目的のものは手に入ってなくて」
「せめて、敵を探しやすくするスキルでもあれば……あれ?」
「そういえば……」
つい口から出た言葉にリクはふと何かに気づき、GVも彼のセリフから自身の記憶を遡った。
かつてベータテスト時代、ソロプレイが中心だった二人は戦闘こそ慣れてきたものの、狩りに関しては効率が悪かった。原因は、リクもGVもMMORPGに関しては素人だったことである。その世界がリソースの奪い合いであることを知らなかったため、他のベテランプレイヤーにモンスターを狩られてしまったのだ。攻略の最前線に立っていたプレイヤーとそうでない中層プレイヤーを分けた理由の一つはそこにある。
そんな中、二人はとあるプレイヤーに出会い、教えてもらったのだ。ソロプレイで狩りの効率を上げるための、スキルの存在を。
それを思い出した二人は互いに顔を見合わせ、笑った。
「そうだ、あったな!」
「確かにあった。
「え、なにそれ?」
「…………?」
リクとGVだけで突破口を見出した気になっているため、コハルとシアンは置いてけぼりだ。
「《索敵》スキルは、モンスターへの反応距離を増加させる効果がある。これがあれば、より遠くにいるmobを見つけられて、狩りの効率を上げるられる」
「しかもその特性上、戦闘中にいち早く他のmobを察知できるから、ソロプレイ時の生存率も上がるんだ」
「ベータテストの頃、なかなかモンスターが見つからなくて困ってな。そんな時に、親切なソロプレイヤーがこのスキルを教えてくれたんだよ」
「奇遇だね。僕も他のプレイヤーに教えてもらったんだ」
「何だ、GVもそうだったのか。すっかり忘れてた。ははは」
「いや、そんなこと、どうして今まで忘れてたの⁉」
コハルは二人を叱咤(特に呑気に笑っていたリクは、プレッシャーを強く感じている)した。無理もない、情報はこの浮遊城で生きるための生命線の内の一本なのだ。
「悪い。昨日の衝撃でつい」
「同じく、僕も」
「あ、そうだよね」
二人は申し訳無さそうに謝り、コハルはあっさり納得した。
デスゲーム開始宣言をされ、誰もがショックを受けているのだ。そういう見落としもあるだろう。この早いタイミングで思い出すことができただけ、まだいい方である。
「…………」
三人だけで会話が進む中、コハルはシアンが黙ったまま俯いていることに気づき、声を掛ける。
「シアン、どうかしたの?」
華奢な少女は慌てた感じで「え?」と反応した。
「いや、その……みんな話し合って、真剣に考えてるし、フィールドに出てるから、ベータテスターってすごいなって思って」
「ううん、そんなことないよ」
あたふたしながらも褒めるシアンに対し、コハルはやや自虐的に返した。
「私はベータテスターだったけど、ものすごく下手だったの。最終日にリクとキリトさんに出会って、その日と昨日、戦い方を教えてもらわなかったら、フィールドに出ようなんて思わなかったと思う」
「きりと?」
「あ、シアンにはまだ話してなかったな。簡単に言えば、俺とコハルの恩人だ。最終日のピンチの時に、ヒーローのように助けてくれたんだ。昨日再開してな、そいつなんかデスゲームが始まってすぐに街を出たんだぜ。俺達よりもよっぽどすごいぞ」
「……そう、なんだ」
「シアン?」
華奢な少女は平常に見えるが、GVにはどこか苦しそうに見えた。
「あ、早く食べないとごはんが冷めちゃうよ」
「はっ、しまった!」
シアンは思い出したかのように言うと、リクも慌てだした。話に夢中になっていたせいで、途中からすっかり食事が止まってしまっていたのだ。
「え、でもここは仮想世界だから、料理が冷えることなんて」
「コハル、冷えるとかそういう問題じゃない。SAOは料理にも耐久値があってな、ゼロになったら消滅するんだぞ!」
「ええっ、それを先に言ってよ!」
「いや、ベータテスターだから知ってると思って」
「私、モンスターと戦うのに必死だったから!」
「そうだったのか。とにかく早く食うぞ!」
「うん、そうだね!」
そんな必死な二人のやり取りを見て、シアンは微笑ましい表情になった。
「…………」
たがGVは、さっきの彼女の儚い感じが、どうにも忘れられなかった。きっとSAOがデスゲームになって不安なのだろうと、この時はそう思っていた。