ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー 作:No 77777
昼食を終えたリク、コハル、GVの三人は、食後はドリンクを飲みつつ、誰が《索敵》を使うのかを話し合った。その間、シアンは殆ど喋らなかったが。
《索敵》は安全かつ便利なスキルだが、安全性の高いパーティープレイでは必要性が薄い。戦闘中に他のmobを察知しても、仲間がいれば対処できる上、モンスターを探すにしても、多人数では目での索敵範囲が広いからである。これも親切なプレイヤーが教えてくれたことだ。
それを考えれば、今後ソロプレイをする可能性の高いプレイヤーが習得すべきなのだが、リクにはコハルを守りたいという気持ちがあり、コハルの方もリクと共に行動したいと思っている。つまり二人は共に行動することを考えていたため、自分達の都合をGVに押し付けていいのか迷ったのだ。
必要が無いと分かった時に消せばいいじゃないかという人もいそうだが、そんな簡単な話ではない。どんなスキルを習得するかによって自分のプレイスタイルが決まってくる上に、スキルの熟練度を上げるのも時間をかなり費やす。よほどのことがない限り、鍛えたスキルを捨てるのは覚悟が必要なのだ。HPが0になったら死ぬこの世界なら尚更である。
思いついておきながら情けなく思ったリクであったが、GVは自分が習得すると言った。コハルは「本当にいいの?」と不安ながらも確認したが、彼は「僕なら大丈夫だよ」と強い意思で返したため、甘えることにした。
こうして《索敵》スキルはGVが習得することに決まり、作戦を立てた三人はシアンを宿に残し、狩りを再開すべく《原初の草原》へと向かったのだった。
「よし、作戦開始だ」
フィールドに出ると、リクは気を引き締めて言った。コハルとGVも頷く。
立てた作戦はこうだ。まず、モンスターを探す際はリクとコハルの二人組、GV一人の二手に別れることにした。これなら前者は目での索敵範囲の広さを、後者は増加した反応距離を活かすことができる。
ただし戦力を分散させるため、死亡するリスクも上がってしまう。パーティを解消しなければ右上にメンバーの名前とHPが表示されるため、仲間が大丈夫か否かが分かるものの、すぐに駆けつけられるとは限らない。その対策として、互いに定期的にメッセージを飛ばし、現在地を報告することにした。これなら目印になりそうなものを伝えれば、ピンチになった時に見つけやすくなる。面倒だが、身の安全を考えれば仕方がない。
「それじゃあ二人とも、気をつけて」
「ああ、GVもな」
「うん、また後で」
それぞれ無事を祈った後、リクとコハルはGVと別れて行動を開始。それから十五分後、
「コハル、いたぞ! 準備はいいな?」
「うん、大丈夫!」
リクとコハルは獲物を見つけるとダッシュで向かった。モタモタしていると他のプレイヤーに狩られてしまうため、早いもの勝ちである。リクはヘイトを自分に向けた後、相手に突進させた後に回避し、弱点の首の後ろを《スラント》で斬り裂く。僅かにHPが残ったため、再び行った突進を今度は片手直剣でガード。抑えている間にコハルが《サイドバイト》で斬りつけて仕留めた。時間は一分も掛からなかった。
倒すだけならリクの通常攻撃で十分だが、あえてコハルにトドメを刺させたのは、彼女に経験値ボーナスを与えるためだ。パーティーを組んでいる場合、コルと経験値は自動的に分配されるが、後者はラストアタックを決めたプレイヤーに多く入るのだ。
しかし、この方法だとコハルの短剣スキルの数値が上がりにくい。武器スキルの熟練度は敵に武器でどれだけのダメージを与えたかで上昇する。先程は僅かなHPを削っただけなので、期待はできない。今は安全と目的を優先しているので仕方がないが、近いうちに効率よく上げられるようにしなければならない。
早速、二人はウインドウを開いてアイテム欄を確認する。SAOでは、ドロップしたアイテムは誰かのストレージに入っているのだ。
「俺のところにはないな。そっちはどうだ?」
「ううん、ダメ」
リクが尋ねると、コハルは首を横に振って答えた。残念ながら、午後の最初の戦闘では《猪突の牙》は手に入らなかった。
落胆するコハルに、リクは励ましの声を掛ける。
「まだ再開したばかりだ。これからだよ。あ、ちょっと待て」
丁度その時、リクにメッセージが届いた。GVからである。周りにモンスターがいないことを確認し、メニューウインドウを出現させて内容を確認すると、リクの表情が明るくなる。
「いいニュースだ。GVが《猪突の牙》を一つ手に入れたそうだ」
「ホント? やった!」
コハルの表情が明るくなった。早速、習得した《索敵》スキルが生かされたようだ。
「俺達も負けてられないな!」
「うん!」
リクはウインドウを閉じ、再びコハルと共に次の獲物を探しに走り出した。
それから休憩を挟んで四時間、作戦が功を奏して、必要なアイテムは集まった。リクとコハルは待ち合わせしていた街の中央広場でGVと合流。依頼主にアイテムを渡し、最初のクエストを達成したのであった。
「うーん、仮想世界でも疲れを感じるのは不便だね」
「確かにな」
シアンの待つ宿へ向かう途中、コハルが気だるい感じで言うと、リクも同じ気持ちで返した。
プレイヤーの今の体は、生身の代わりとなるアバターであり、肉体的な疲労はない。ただ、精神的な疲労はどうしても出てしまう。アバターを動かすのも、結局は現実にある生身の脳から送られてくる信号なのだ。
「今日は早く寝よう。疲れを取るなら、それが一番だよ」
「そうだな。明日の朝は、装備を新調しに武具店に寄ることだし」
GVの最もな意見に、リクはついでに予定を確認するように答えた。
生き延びるためにも、装備は更新する必要がある。リクとコハルがログイン時に購入したのは、コハルの革の胸当てだけである。クエスト達成の報酬で手に入れたコルなら、最低でも鉄製の胸当てぐらいは買っておいたほうがいいだろう。武器はあまり経験値と熟練度を稼いでいないコハルのために買ってあげようとリクは決めていた。
やがて昨日泊まった宿に到着。中に入ると、それぞれの部屋へと向かうべく二階へと続く階段を登った。
「あれ、シアン?」
先頭にいたGVが彼女に気づいて立ち止まると、後ろの二人も足を止めた。
てっきりGVと同じ部屋で待っていたと思っていた少女は、壁に背中を預けて立っていた。
「あ、三人とも、おかえり」
シアンもGV達に気づき、こちらに向かって早足で歩いてきた。
「どうかしたのかい?」
「うん、GVにお願いがあるの」
「お願い?」
いったい何なのだろうか? 何か欲しい物でもあるのか? それとも今の宿が不満だから、別の宿にしてほしいということか? だが、シアンはそんな我儘な女の子に見えないというのは、三人の共通の印象だった。
「……あのね……私にも戦い方を教えて!」
「「「…………え?」」」
GVだけでなく、リクとコハルも突然の発言に目を見開いた。華奢でひ弱そうな女の子がそんなことを言うなど、思いもしなかったのだ。
「……理由を聞かせてくれるか?」
真っ先に冷静になったリクが訪ねた。
「……GVもリクもコハルも、今できることをがんばってる。でも、私は何もできてなくて、GVに世話になりっぱなしで、宿のお金も払ってなくて。だから私も力になりたくて」
(……そういうことだったのか)
GVはシアンの気持ちを理解した。昼食の時に彼女から感じたのは、自分がお荷物になっていることによる無力さだったのだ。
「シアン、気持ちは分かるけど、今のSAOはHPが0になったら、本当に死ぬかもしれないんだよ。私もベータテスト時代はモンスター相手に何度も殺られて、短剣でまともに戦えるようになったのは、昨日のデスゲームが始まる前の時間なの。素人じゃ危険すぎるよ」
コハルは落ち着いて説得した。同じ素人でも、彼女はまだ運がいい方だ。リクとキリトと出会い、戦い方をレクチャーしてもらい、他のプレイヤーと比べても恵まれている。
「わかってる。でも、自分だけ何もできないなんてイヤなの。この世界で自分にできることを見つけたい」
「「「…………」」」
今のシアンからは強い意志を感じる。そんな彼女の瞳を見ていると、三人は反論できなかった。
「……分かった。できる限り教えるよ。ただ、第一層も危険な所は少なくない。この街から遠くへは行かないって、約束してほしい」
「うん、約束する!」
「…………」
GVは条件を出した上でレクチャーすることにし、シアンも笑顔で承諾した。
しかしコハルは内心、不安を拭いきれない。GVがついているとはいえ、シアンが上手く戦えるようになるという保証はないのだ。そんなコハルの気持ちを察したのか、リクは言った。
「シアンがそうしたいって言ってるんだ。今はできる限りのことをしよう」
「……うん、そうだね」
コハルは、とりあえずシアンの意思を受け入れることにした。
アインクラッドに閉じ込められたプレイヤー達の未来はまだ不透明であるが、リク、コハル、GVの三人には一つだけ分かることがある。
一人の少女が今、小さな一歩を踏み出したということだ。