ソードアート・オンライン インテグラルファクターX ーアインクラッド・メモリーズー   作:No 77777

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更なる一歩

 2022年11月8日 はじまりの街

 

 朝、リク達は予定通り武具店へと立ち寄った。ベータテスターである三人は中に入ったことがあるが、初めてのシアンは実際に武器と防具が並んでいるのを見て驚き半分、好奇心半分といったところだ。

 まずは防具である鉄の胸当てを四人分購入し、その場で装備。当然、革製より重みがあるが、生き延びるためにも慣れるしか無い。

 武器の購入に関しては、今回は見送ることにした。元ベータテスター三人は、街の近くにいるmob相手ならまだ今の武器でいいと判断した。シアンはまだどの武器を使うのか決めていないため、まずは初期装備の片手直剣――《スモール・ソード》を使わせることにしたのだ。

 その後、GVはまずシアンに戦い方の基本とソードスキルをレクチャーすべく、一旦パーティーを解消して中央広場へと向かった。リクとコハルは二人を見送った後、次のクエストを決めるためにとりあえず近くにあったベンチに座り、アルゴから貰ったメモを眺めた。

 

「次は、このクエストなんてどうだ?」

 

 リクは気になったクエストの情報が書かれた場所を指差すと、コハルは不安そうな顔をした。

 

「うーん、でも他のモンスターと戦わなきゃいけないんだよね?」

 

「まあ……そうだな……」

 

 リクは口ごもった。メモにはクリアするために倒すべきモンスターの出現場所が書かれており、場所は《原初の草原》とは違う所である。

 コハルの気持ちは理解できる。彼女はまだ《フレンジー・ボア》しか倒したことがない。最初のクエストで臆することがなかったのは、ある程度戦い慣れていたからだ。それ以外の敵と戦うとなると、コハルにとっては情報が少ないため、怖くもなる。

 

「でも、防具を鉄製に変えて防御力は上がっただろ」

 

「パラメータは上がったみたいだけど、数字だけじゃ強く慣れた実感がなくて……思ったより心細いな」

 

「うーん、それはモンスターと戦ってみなきゃ、確かめようがないからな」

 

「そう……だよね……」

 

 コハルは今にも消え入りそうな声を出して俯いた。どれだけ装備を強化しても、死という恐怖をゼロにすることはできないのだ。

 一部の例外を除けば、一度クリアしたクエストを再び受けることもできるため、安全を優先するなら、昨日と同じクエストを受けるという手もある。だが同様のことを考えている人達はきっといるし、これから行動を起こすプレイヤーは時間が経てば増えていく。《原初の草原》の青イノシシは彼らによって借りつくされるため、装備やアイテムの購入は疎か、生活するためのコルを稼げるかも怪しくなる。

 キリトのように次の街を拠点にするというほどではないが、リスクを侵さなければサバイバルを生き延びることはできない。コハルもそれは分かっているが、今いる場所から更なる一歩を踏み出せずにいる。リクはそんな彼女に、優しくも心強い言葉をかけた。

 

「大丈夫だ。いざという時は、俺がコハルを守るよ」

 

 シンプルで言うのは簡単だが、重い一言。だがコハルは、自然と信じることができた。

 

「ありがと……リクが言ってくれると、防具よりも頼もしいよ」

 

「ははっ、それほどでも」

 

 安心したのか、コハルの表情が穏やかになる。笑顔で返したリクだが、言った以上は責任重大である。

 

「立ち止まってても、なにも変わらないもんね。戦い方はわかってきたし、ちょっとだけ遠くに行ってみてもいいかも」

 

「それじゃ、決まりってことでいいよな?」

 

 リクは確認すると、コハルは「うん」と頷いた。

 

「よし、行くか!」

 

 二人は立ち上がり、メモに書かれた依頼人のいる場所へ向かおうとしたが……

 

「あいや待たれよ! そこのご両人、装備を見るにかなりのつわものと見た!」

 

 歌舞伎の様なノリで声を掛けられた。視線を向けると、男が二人立っている。

 

「「…………」」

 

 一人は小太りの青年だったが、もう一人の男の姿を見た二人はあまりの衝撃に固まってしまった。何故か? それはスカートを履いていたからだ。しかも顔はただの冴えない青年で、男の娘と言われるような可愛さなど全く無い。

 リクとコハルは少し思考を働かせた結果、その理由に行き着いた。この女装男は性別を女性に設定してゲームを始めたのだ。予習のためにMMORPGのことをネットで調べていた二人は、ネカマと言うのはこの人のようなプレイヤーを言うのだろうと思った。まさか性別を偽ったツケがこんなところで来るなど、昨日のチュートリアルまで思いもしなかったはずだ。

 

「えっと……なにかご用ですか?」

 

 ようやくコハルが口を開いた。

 

「あたし……じゃなくて、オレはみゆりん。見ての通りの一般市民よ」

 

「俺はウルリック。みっちゃんの相棒ってとこかな。よろしくね」

 

 二人組はまずは無難に自己紹介から入った。ネカマの方がみゆりんで、小太りの相棒がウルリックである。

 

「私はコハルです。隣の彼はリクといいます」

 

「どうも。それで、何で俺達に声を掛けたんですか?」

 

 リクは明らかに自分達より年上の二人に丁寧語で訪ねた。

 

「実はちょっとしたお願いがあるんだ。俺らが挑戦中のクエストをほんの少し手伝ってほしいんだよね」

 

 ウルリックがそう言って頼むと、リクは「うーん」と唸った。内容によっては、コハルを危険に晒すことになる。自分達が受けようとしていたクエストも、今の彼女の実力を考えて選んだのだ。

 

「コハル、どうする?」

 

「まあ、話ぐらいは聞いてもいいんじゃないかな?」

 

「分かった。まずは話を聞こう」

 

 ネカマとその相方は、まずクエストの内容について説明した。

 クリアする方法は、NPCから預かった手紙を届けるだけというものだ。だがこのクエスト、内容だけ聞くと簡単ではあるが、この広い《はじまりの街》の中をあっちこっちたらい回しにされるため、だいぶ面倒くさい。しかもその割には報酬がしょぼく、ほとんどのプレイヤーがスルーするらしい。

 だが一定の条件下で配達を成功させるとさらにクエストが進行し、ちょっといい報酬を受け取ることができるそうだ。クリアするための追加条件はドロップ品を集めるだけ。それを聞いたリクとコハルは、なぜ二人が自分達に声を掛けたのかを察した。さらに話を聞くと、問題は目的のアイテムをドロップするモンスターの場所とのこと。必要なアイテムは二種類で、片方は《原初の草原》で手に入る《猪突の牙》だが、もう片方のドロップ品――《豺狼の爪》はその先の《探求の草原》に生息する《ダイアー・ウルフ》からしか手に入らないのだ。思ったとおりであった。

 

「つまり、自分達の装備と実力じゃ危険だから、俺達ににヘルプを求めたということですか」

 

「あっちは無理! オレ達の紙装甲じゃあ死んじゃう」

 

 みゆりんは女々しく言った。確かに、二人が身につけているのは革の胸当て。鉄製を身に着けているリクとコハルの装備と比べても、心もとない。

 

「他のプレイヤーにも手当り次第声を掛けてたんだけど、断られ続けてさ。モンスターを倒せば強くなる! って、普通のゲームなら当たり前すぎる話だけどさ、ここじゃそれが命がけなんだもんな……」

 

「こんなゲームに閉じ込められて、オレ達この先どうなっちゃうんだろう。いつまで生きられるんだろ……あ、ご、ごめんね、暗い話しちゃって」

 

「どうにもならないことなんだから、くよくよ考えるのはやめだ! 俺らは今まで通り、明るくやろう! そう決めたんだけどね……なかなか切り替えられないや」

 

 表情に不安が滲み出ているウルリックとみゆりんに、コハルは同情した。

 

「その気持ち、わかります。私もまだ……助けが来るんじゃないかって、心のどこかで期待してるから。でも、だからって怖がって立ち止まってたら、何も始まらないし、終わらないんですよね」

 

「そうよ。どんなにどん底の状況でも、せいいっぱい頑張って生きなきゃね!」

 

 コハルの言葉でみゆりんは明るくなった。

 

「お互い助け合ってやっていこう! というわけで、改めてクエストの協力のこと、考えてもらえるかな? 報酬は山分けでいいからさ」

 

 ウルリックは二人に訪ねた。偶然にも、受けようとしていたクエストのターゲットも《ダイアー・ウルフ》である。SAOのキング・オブ・ザコ《フレンジー・ボア》の次に弱く、ベータテスターであるリクは攻撃パターンも熟知しているので、コハルへの危険も低い。

 

「俺はいいけど、コハルはどうする?」

 

「うん。私もいいよ」

 

「よかったぁ。それじゃあ行こう! 途中で別れるけど、お互い数が集まったら転移門広場に集合ってことで」

 

「分かった」「うん」

 

 ウルリックは今後の方針を簡単に説明し、リクとコハルも納得して二人と共にフィールドへと向かい、更なる一歩を踏み出したのであった。

 

 

 

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